第3話 黙っていれば綺麗なのに

 お昼休みの一年二組の教室は喧騒に包まれている。私はいつもの二人とお弁当を囲む。


「ねぇ、真穂と凛花は先輩とかってどんな感じ?」


二人にざっくりと聞いてみることにした。


「純夏……大人になったねぇ…わしゃ嬉しいよ…」


真穂がわざと涙ぐむ仕草をする。


「アンタは私のおばあちゃんか!っていうかそういうことじゃなくて…」


「純夏の文芸部の先輩って言えば確か…薄本さんっていう二年生だった気が…その先輩のこと?」


凛花は流石生徒会役員だ。生徒の情報網がちゃんと頭に入っている。


「凛花は話が早い!薄本さんについてなんか知ってる?」

「……あぁ、確かこの前先輩が話していたのは薄本さんっていう可愛い女子と一緒のクラスになったけど高嶺の花すぎて上手く近づけないっていう話ですかね」


「なんで高嶺の花なの?」

「そこまでは流石にわからないですね…昼休みはまだ長いので二年生の教室まで行ってみては?」


「ごちそうさまでした!行ってきます!」


私は空のお弁当を全速力で畳んで、席を立つ。

 二年生の教室は三階なので食べたばかりだけど階段を登る、そういえば薄本さんのクラス聞くの忘れたから一教室ずつ探さなきゃ。

 っていうか、一年生が二年生の教室に用事もなくわざわざ行くなんて少女漫画で見た展開と同じような……いけないいけない。私は首をブンブン振って私らしくない考えを振り払う。


 と…とりあえず…薄本さんには気づかれないようにしよう!

 二年一組の教室を素通りする形でチラッと眺める。この教室にはいないかな?


「あ、純夏さん、どうしたの?」

「うえ!?薄本さん!?」


 突然後ろから薄本さんの声がして振り返った。驚いた拍子に声が裏返る。


「あ、私の小説のプロットもう読んでくれたの?」

「あ、メモ用紙でもらったやつですよね…?まだ読んでないですけど…」

「うん、大丈夫だよ、また部活でゆっくり話そうか」


薄本さんがそう微笑むと昼休みの終わりのチャイムが鳴る。


「あ…はい!じゃあ昼休み終わっちゃうので、また部活で!」


 薄本さんはひらひらと手を振って私を見送る。

なんだか昨日の部活の時の薄本さんの印象とは随分違った気がした。

私は不覚にも綺麗だな、可愛いな人だなって思ってしまった。

いけない、いけない。


◇ ◇ ◇


———友峰高校三階女子トイレの不良たちの会話


「さっきあの薄本さんが笑顔で話してたってさ」

「え?逆に気になるわ、どんな男よ」

「上履きの色からして一年生らしいよ〜しかも女子」

「マジか、天変地異が起こるよ」

「あの子、なんであんなに表情筋死んでるのに誰彼構わずモテるんだろうね」

「宇宙のハテを知らねーようにそんなこと知らねー」

「あー!それジョ…」

「お前らぁ!化粧直しは休み時間にやれぇ!!!」

「「サーセンした〜…」」


—————————————次回「小説に足りないモノ」


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