第2話 私が姫女子になった理由


「そう、あれはまだ私が幼い小学五年生の夏の事…」


 なんか唐突に始まっちゃったよ…


「私には三つ年上の兄がいるんだ……兄はその当時絶賛中二病を拗らせているアニオタだった、そして夏の暑い日だった、兄が突然美少女がわちゃわちゃするいわゆる『萌えアニメ』をレンタルビデオ店で借りて来て居間で堂々とDVDを見ていた。その流れで私も一緒にそのアニメを見ていた」


「別にここまではオタクになった理由としては、まぁ普通なんじゃないですか…?私も親が恋愛小説好きでしたし、家族の影響でドラマとかも好きですよ?」


「いや、ここからが問題なんだ…」

「ここから…?」


「それから二週間ほどで私の好みは今までとは真逆になった。少年漫画原作のダークファンタジーの作品ではなくこの世の美少女アニメを新旧問わず片っ端から見漁っていたんだ。でもある日偶然BOOK BUYのあるコーナーに好きだったキャラの姿を見つけたのだが…!その中身を見た瞬間私の性癖がしっかり歪む音が聞こえた…」


「…えっと……つまりどういうことですか…?」


「ちなみにこれがさっきの話に出てきた推しの同人誌」


 そう言いながら薄本さんは通学リュックの中をガサゴソと漁り、一冊の薄めの本を徐に取り出して机の上に置いた。


「これって普通の本とは違うんですか?」


本の表紙はみる限り女の子のキャラが二人仲良く寄り添ってる絵で特に変な要素はない。あとだいぶ古い本だからページのところが若干黄ばんでいるくらいかな?


「純夏さん、気になるなら読みなさい……それが第一歩だから」


 なんかカッコいい感じに薄本さんは諭しているけど、表情がニヤニヤしてるし、これってもしかして…私は適当にページをパラパラとめくってみる。


「ひゃあ…!」


 びっくりした拍子に本を床に落としてしまった。

床に落ちた本が開いたページは二人のキャラの吐息が交わる濃厚なキスの場面で

なぜか見てると変に胸がドキドキしてそんな自分が逆に怖い。


「わぁ〜百合キス見ただけでそんなピュアな反応する子初めて見た〜…」

 

 薄本さんはなぜか拍手を送る、一体何に向かっての拍手なんだろう。

私は変にドキドキする胸を抑えながら、床に落ちた本を拾って薄本さんに渡す。


「…………まぁ…私もそこからズブズブと百合にハマって言ってしまったんけどで、どうだった?初めての百合作品」


薄本さんはものすごい満足したような笑顔で私に問いかける。


「ま、まぁ…思ったより悪くはないと思います…でも流石に関係性が発展するのが早すぎます!もっと時間をかけて育むのが真の愛です!純愛です!」


「ふーん、純夏さんはそういうタイプの百合が好みなのか…メモっておこう…」


「私今まで一度も百合の好みなんて言ってませんが…!?」

「でも普通の男女の恋愛の好みとも言ってなかったよね?」


「うぐぐ……」


「あ!じゃあ、私今度純愛もの書く予定なんだけど、よければ純夏さんに添削してもらえないかな?」

「まさかそれって…百合作品ですか…?」


「もちろん!」


彼女は元気よくそう答えた。


 窓の外は春の嵐が桜の枝を大きく揺さぶって桜の花弁を巻き込む小さな竜巻を

校庭に作っている。今の薄本さんは私にとってそんな春の嵐のような存在だ。



—————————————次回「黙っていれば綺麗なのに」


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