☆第7話 死なせてはやらない
――一閃の後、エドワード殿はばっさりと背中を深く斜めに切られて倒れました。
「やったぞ!弱虫を退治してやった!こんなことならあの動物共で練習しなくっても――」
まさか。
私は血の気が引きました。
まさか。
……いつもは行政府の片隅にある共同執務室にいるエドワード殿が、どうして第三騎士団のこの訓練場にいるのか。この訓練場にはいつもステファンがいるのに。それを知らないはずはないのに。
「痛かったね」
エドワード殿は地べたに倒れながら泣いていました。その手の中に血まみれのハンカチを握りしめていました。そのハンカチは生乾きでした。
「辛かったね、怖かったね」
「僕がほんの少し外出した間に、あんなことをするなんて……」
「間に合わなかった」
「もうお前達の体は冷たくなってしまっていた」
「許してくれとは言わない」
「仇は取る」
エドワード殿が立ち上がりました。
既に傷は治っています。
ぎょっとした顔でステファンが後ずさり、剣を構えました。
「練習したのに……どうして!」
「あれを貴様は【練習】と言うのか」
ならば、僕のこれも【練習】に過ぎない。
エドワード殿は指を鳴らしました。
ステファンがいきなり卒倒しました。地面の上でのたうち回ります。
「いだいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!いだいいだいいだいいだいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!ぎゃああああああああああああああああああ!!!があああああああああああああああああああ!!!」
剣が手から落ちて、体中を引きつらせて狂ったような絶叫を上げています。
昼時で、一棟離れた兵卒向けの食堂で休んでいた騎士達が顔色を変えて集まってきたほどの声でした。
ステファンは医療室に運ばれて、そこで絶え間ない絶叫の理由が判明しました。
過剰な回復魔法の暴走による体中の激痛。回復魔法の暴走によるものですので治療法はありません、と治癒魔道士達が顔を青くして答えます。
「もし彼が首だけになっても、すぐに体が再生してこの苦痛は続くでしょう」
「いえ、彼が死ねることがあるのかさえ……」
「発狂したくても脳や神経が再生し続けますので……」
こんな症例は初めてでどうしたら良いのか……と戸惑う彼らにエドワード殿は告げました。
「ステファンは僕が引き取り、しかるべき施設にて『少しでも長生きできるように』療養させましょう」
「エドワード殿は甘すぎますわ」
あの子達がよく木漏れ日の中で遊んでいた庭の片隅に、私達は小さなお墓を作って弔いました。邪魔をする召使いもステファンの母親もおりません。すぐさまステファンの異変を知って駆けつけた親族一同の前で、召使いとステファンの母親にも仲良くステファンと同じ苦しみを味わって頂くようにしました。
無論、その光景を見た親族一同はエドワード殿を正統なるヴァレンティノ家の当主と認めたのです。
「エドワード殿を虐げたのみならず、あの子達を面白半分に殺したり、その亡骸を生ゴミに捨てるように命じてそれに文句もなく従った人でなし共をどうしてまだ生かしておくのですか」
「だって……殺したらあの子達のいる場所に行ってしまうから。あの子達がこれ以上苦しむなんて……。ああいうのは反省もしないし悔い改めることもない、死の安らぎを与えるなんて嫌だ。【扉のない地下室】に閉じ込めたのだから、あそこで苦しむことだけ永遠に続けばいい」
ピイ!と小さな泣き声がして、あの惨劇を生き残った一羽が彼の頭に乗りました。
おや、お友達を連れてきたようです。
ピイピイ!と彼の頭に仲良く並んでさえずっています。
彼も私も、顔をほころばせました。
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