第4話 勇気と無謀の違い

 帝国城に呼び出されたエドワード殿がステファンに詰め寄られていると知らせてくれたのは、エドワード殿の領民で帝国城の下級官吏として働いている青年ローディでした。

「ご無礼を承知でお願い致します!領主様をどうかお助け下さい!」

いきなり平伏されて懇願された時は私も慌てました。

てっきり『エドワード殿を【地獄の門】に連れていかないで欲しい』と直訴された……と勘違いしたのです。

「……なるほど、分かりましたわ。それで、どちらですの?」

「第三騎士団の訓練場の一つです、お供いたします」

私は早歩きで進みながら、後ろでひいひいと息を切らしながら付いてくる彼に訊ねました。

「【地獄の門】にあなた方の領主を連れて行くというのに、何も不満は無いのかしら?」

「……ゼェ、ゼェ、ご、ございません!」

彼は切れ切れに説明してくれました。

領主様と私のお互いへの思いは領民の誰もが知るところである。

その領主様はステファンらには弱虫と嘲られているが、領民は誰もが信じている。

無謀なことは絶対にやらない、しかし着実に実を結ぶことをやってきて下さったと。

であるならば【地獄の門】に私と共に赴くとあっても必ず帰ってきて下さる。

帰る目当てがないのに、無駄に死にに行く方ではない。

「あら。あなた方は分かっているのね」

「……ヒィ、ヒィ、ヒィ……」

とうとう彼は息切れでうずくまってしまいました。窓から私が見下ろした先の訓練場で、鉄の剣を手にしたステファンが徒手のエドワード殿にその切っ先を突きつけていました。

「貴方、ここまで案内ありがとう。後は私に任せて戻りなさい」

私は窓を開けるなり訓練場へと飛び降りました。

「お止めなさい」

「ど、どこから」

ステファンが驚いているのに呆れてしまいました。この有様でヴァレンティノ家の跡取りを気取っているのです。何て……何て無様なのでしょうか。

父は言っていました、先のヴァレンティノ家の当主は『普通の時に』俺と対等に戦った、と。もしも彼の怒りを買っていれば、二度と自力で歩くことは出来ない体にされていただろうと。

私は仕込まれていると言っても父よりは弱いですし、魔法だって皇族の血のみに伝わる【記録魔法】しか扱えないのですけれどね。

「ユリア様に不敬な態度を取ってはいけないよ、ステファン」

エドワード殿はいつもの穏やかな態度で私の前でかしずきながらステファンに言いました。

どうしてでしょう……エドワード殿は顔色が悪いようです。

その、諭すような口調が、良くなかったのでしょうか。

「黙れ!俺より弱い癖に!みなしごの癖に!」

ステファンは激高しました。

「書類整理しか役に立たない癖に。弱虫め!」

私の目の前で止める間もなくステファンは剣を振り下ろしたのです。

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