第3話 伴侶は三人
私の父はかつて勇者でした。邪神を討伐した時に隻眼となり、勇者を辞して男爵の位をいただいたのです。
ウェストリア帝国は女系継承です。基本的に男が皇帝となることは許されず、もしなれたとしても幼い女帝候補のための『中継ぎ』としてのみ許されます。
初代女帝からの習わしで、女帝の伴侶は三人と決められております。一人は皇族もしくは王族から、一人は貴族から、一人は平民から。
父は平民出身の伴侶です。権力欲とは無縁の人で、剣の鍛錬と魔法の修練のみに執着しています。
私は一度、どうして女帝陛下の伴侶となろうとしたのか聞いてみたことがあります。
「ああ、マティ(女帝陛下の愛称です)は一緒に邪神を退治した仲間だったから。酷いんだぜ、邪神を倒すまで身分を隠してて、俺がベタ惚れで結婚してくれって言ったらやっと白状するんだもん」
「父さんは女帝陛下を愛していたのね」
「今でもだよ、俺はな」
そう言った父の目が、決して手の届かない月に恋い焦がれている者の、愚かだけれども純真な光を宿していたのは、今でも忘れられません。
エドワード殿は私と共に【地獄の門】まで赴いて下さるとおっしゃいました。
それを伝え聞いてか、彼の異母弟ステファンが私の前に現れたのです。
「ユリア様、あんな弱虫と共にいても儚くなるだけです。勇敢な俺とぜひ……」
「(私より)貧弱なのに?」
言葉を理解した途端にステファンの顔色がどす黒く変わりました。
「……今、何と?」
「耳も貧弱ですのね」と言ってやろうとしたが関わるのも鬱陶しいので私は自慢の健脚でさっさと立ち去りました。
あれだけ己の武勇を誇っておきながら私の早足にさえ追いつけないなんて……。
『ステファンはヴァレンティノ家の血を引いていない』という噂話は事実だったのですね。
エドワード殿は汗一つかかずに私の早足にも付いてこられていましたから。
私は呼ばれていた謁見の間に入り、サティーナやキーラ共々、ひれ伏して女帝陛下のお出ましを待ちました。
「ユリア様ってば本当にエドワード殿と参りますの?」
嘲るようなキーラの声に私は応えます。
「はい。キーラはユーゴ様とご一緒するのですね」
「ふふ、どうせ女帝は三人娶る必要がありますから」
なるほど、やはりキーラには別にお慕いする方がいるようです。キーラは腹黒いですが頭も良く、すぐに合理的で現実的な実現方法をたたき出すのです。己が女帝に即位さえすれば、なんてサティーナのように頭の悪いことを考えてはおらず、即位するためには、即位に当たっては、即位した後には……事細かく思慮を巡らせていることでしょう。
「あら、私はギベルト殿やイオス殿や、そうね、後はウィリドが良いわ」
……サティーナの浅はかさに私も呆れました。ウィリドとは美しい見た目で有名な兵士です。平民出身ですが、その見た目で帝国城に仕えることを許されたと評判なのです。イオス殿は辛うじて皇族である青年です。私達からすれば遠い姻戚にあたりますが、血のつながりはありません。先の女帝陛下の伴侶の一人であらせられた皇族の孫なのです。
二人とも見た目しか良いところがないのに……。
その時、お出ましを告げる鐘が鳴り響き、私達は身を固くしました。
女帝陛下が玉座にお座りになり、私達に顔を上げるように命じます。
「さて……おのおのに問う。試練に、誰を随行させるのじゃ?」
私達はそれぞれ答えました。
「ギベルト殿を」
「ユーゴ殿を」
「エドワード殿を」
軽く喉を鳴らして、女帝陛下は頷かれました。
「では次の満月の夜を試練の始まりの時としよう」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます