第81話 合宿五日目。わたくしとユキナの修行


「はい!みんな〜五日目だよ!」


 ・

『5回くらい見た顔』

『この入り気に入ってるのか?』

『あと二日か……』

『早いね〜』

『みんな昨日は大丈夫だった?』

『他の子たちの結果も知りたいんですが……』

 ・


 なんだかんだ恒例となってきた翔の挨拶から画面は開けた。

 視聴者は、昨日一昨日の辺りから急に増え始めたね。今日は初日よりも多いし。


 ちなみに私は昨日の筋肉痛からなんとか回復。

 今は動けるまでになった。


「筋肉痛で激しい運動はできないけど、特訓は普通にできるからね!」

「そうですね?」


 ツンッ


「ぷぎゅっっ」


 後ろから静かに見つめてたクスリが近づいてきてホントに軽く私の背中を突いてきた。

 それだけなのに!全身に、痛みがぁぁぁっ!


「まだ無理はしないでくださいね?」

「はい。大人しくしてます」


 じゃあ、私、一度家の中に戻ろうかな。


「じゃあ、配信はクスリに任せて、寝ます」

「任せなさい。ゆっくり寝ていなさい」


 ・

『これは、てぇてぇ、のか?』

『まぁ、てぇてぇなんじゃないか?』

『それは良いけど、筋肉痛酷かったんか』

『そもそも筋肉痛だったのかよ……』

『まぁ、あんだけ殴り合いすればなぁ』

『まぁ、大人しく寝ててもろて』

『無理はよくねぇぞ。歳を取ってからだと、なおさら』

 ・


「誰が歳じゃ!まだ社長と同じくらいやぞ!」

「17歳?」

「そうそう。ピチピチで若々しい女子高校生〜って!ちゃうわ!そこまで若くないわ!」

「まぁ、そうですね、貴女がサバ読むと私の年齢まで誤解されそうですし、やめてもらえます?」

「私が言ったわけじゃない!」


 ・

『草』

『ww』

『社長と同じくらいというワード』

『十分若いんよ』

『社長が超若く見られてる象徴だから、同じ?!と驚いたものです』

『同じく』

『同じだけに?』

『ちゃうわ。かかっとらんやろ』

『そうやね〜』

 ・


 はぁ。なんかどっと疲れたなぁ。もう一回刺激されたら自分の足で歩けなくなると思うよ。


「じゃ、今度こそ家の中に戻るからね」

「また夕飯で」

「はいよー。配信は見てるからね」


 私はまだ自分の足で動けるうちに配信画面から出て、家の中に戻るのだった。



 ・・・


 翔から配信のバトンをもらったわけですが、正直何をやるか決めてません。

 奴ちゃんは危険だからと九重ちゃんだけ連れて魔法の練習中だし、紺金ちゃんやユッケちゃんたちはユウナがしごいてて、今のところ暇なのはシマミと光子さん、あと昨日から知らないうちにいた九重ちゃんの後輩と、ユキナちゃん。


「えっと、クスリ先輩、私たち、何しましょうか?」

「ん?ん〜そうね、とりあえず近接戦の手解きでもしましょうか」


 ユキナちゃんは魔法を覚えたが、メインスタイルはアサシン。

 ソロのことも考えて、近接戦を強化してあげましょう。


「ねぇねぇ、私は〜」

「光子さんは……後輩さんと戯れていただければ」

「え、いやだ」


 なぜっ!?

 暇なんでしょう!?


 ・

『そも、誰』

『後輩さん?』

『新メンバーというわけではなさそうだし』

『九重ちゃん枠ってことかな?』

『だから後輩さん、ね』

『また可愛い子が……』

『社長〜この子誰ぇ〜』

 ・


「む?私のことです?」


 そこまで話して、ハッと自分のことかと気付いた後輩さんが声を上げる。


「はい、そうなんですが……一応お名前というか自己紹介をお願いいたします」

「そういえば、していなかった。私はアテナ。九重先輩の後輩にあたる……宵闇さんのところの社員予定、です」


 なぜ社長のところで遠い目に?何かあったのかな?ねぇ、大丈夫?話聞こか?

 初対面だから流石に聞かないけど。


 ・

『後輩!』

『ホントに社員か!』

『九重ちゃんと同じ枠、だと?』

『神様と同じ名前……』

『すげぇ可愛いんだよな』

『和の九重と洋のアテナ』

『並べてぇぇ』

『そこの間に社長』

『やめれ』

『けど、いい子そー』

『ホントに』

 ・


「本当に後輩さんでしたの……あっ、わたくしの後輩ではないですからアテナさん、と呼ぶべきですね」

「別になんと呼んでもらっても構いません。もういっそ、豚でも奴隷でも家畜でも、とりあえず呼び名があれば何でも……」

「ほ、ホントに何があったんですの?」


 ・

『何か闇を感じた』

『その闇の名前、言ってみぃ?』

『闇に名前はありません』

『つまりそれは影がかかって見えないだけ』

『やめろよ、見えてきたじゃねぇか』

『うるせぇ』

『とりあえず、優しくしてやろうな』

『おー』

『おー』

『まかしぇろ』 

 ・


 とても闇深いものがありそうですわね。この方。そして光子さんは知ってる雰囲気出しているのはなぜですの?

 いや、驚いてますわね。目を丸くして見てますわ。


「えっと、あの時のと同一人物だよ、ね?」

「えぇ。光子さん。あの時と同一のアテナです」

「……あの人に何かされた?」

「.⁠·⁠´⁠¯⁠`⁠(⁠>⁠▂⁠<⁠)⁠´⁠¯⁠`⁠·⁠.」


 頷いてますね。しかも頭が地面につく勢いで。というか凄い速さで謝罪の姿勢を作るのなんなんですの?最近の流行りですの?

 光子さんも苦笑いしてるよ?


「うん、仲間だ。仲良くしよう、アテナちゃん」

「……うん、仲良くしましょう!光子さん!」


 ガシッっと握手を交わす二人を今だに色々と追いつかない目で眺めた。


「二人の事情は後で聞くとして、ユキナちゃん、わたくしたちはわたくしたちでやりましょうか」

「はい。……よかったぁ、このまま蚊帳の外にされなくて」

「しませんわよ。翔じゃあるまいし」


 ・

『ついていけないので、二人にフォーカス』

『なんか九重ちゃんの後輩だなって感じる』

『何があったら社長にあそこまで……』

『そして社長被害者の会で握手が交わされる』

『草』

『そしてさらっとdisられる翔ちゃん』

『なんだ、カオスみたいなもんか』

『あと、誰も触れないけど、背後でシマミ君が腕組んで見守ってんのツボるww』

『これが本当の後方腕組みってな』

『けど、不憫とかじゃないんだよな』

『やっぱり、不憫は翔じゃないと』

 SHO.ch『なんか、超不本意なんですケ〜ド』

 ・


「あっ、翔?ちゃんと寝てなさい?」

「気づくのはや……」


 ん?これくらい普通ですわ。もう十年近く同じアイコンで同じ名前なんですから、チラつけばわかります。


「はい、その話は良いですから、わたくしたちは早いところ始めますわよ」

「は〜い」

「あっ、シマミもお暇でしたらどうぞ」

「ならばお言葉に甘えよう」


 というわけで、ユキナちゃんへの指導が始まった。


 その間もあちらで二人は主に一人のことに関してグチグチと言っているようだった。



「手解きって言っても、特にこれと言ってやることはなくて、打ち込んできてもらって一回一回アドバイスとか入れ続けて改善するみたいなものだけど」


 ・

『十分では?』

『普通にやり方としては正しくね?』

『いや、冒険者として対人に強くなってどすんの?』

『通ずるものはあるから』

『アイドルなのにアサシンがどんどん強くなってく』

 ・


「アサシン?君のハートを盗んじゃうぞ♡」

「それは盗賊」

「……君のハートにチェックメイト♪」


 それは……いいのでしょうか?合ってるんですが、喉元にナイフ突きつけられてるだけですよそれ。


 ・

『可愛い』

『盗まれても盗られてもどっちでも嬉しい』

『ただ可愛い』

『わかりみしかない』

『おい、正気に戻れ!とられるぞ!』

『とられてもいい』

『むしろ取ってください』

『駄目だこいつら』

 ・


 ……良いみたいですね。


「では」

 

 とりあえずそれは一旦無視して、腰からレイピアを抜き、脱力気味に構える。


「始めましょう」

「お願いします」


 それにすぐさま切り替え、ダガーを構える。


「しっ」


 そのまますぐに正面から絶妙に視認しにくい角度から右に回り込み、懐に入り込んできた。


「はっ」


 それに、方向という当たりだけつけレイピアを横払いに振るいながら、一歩後ろに下がる。


 すると、キィィンという音がなったので、下がっていた行動から反転、一瞬で間合いを詰め替えし、下がる間もなくダガーを打ち払った。


 ・

『はっや』

『普通にユキナちゃん、消えなかった?』

『消えた。けど当たり前のように反応して、カウンターまで持ってった』

『一応、見える速度、理解できる行動をしてはいた』

『へい、有識者カモンヌ』

 ・


「俺が説明しよう」


 ・

『あ、兄貴ッ!』

『よろしくお願いします!』

『おなしゃす(お願いします)!』

『なんて頼もしいっ』

 ・


 ……解説と配信は任せて、わたくしはこちらに集中するとしましょう。


「な、なんでわかったんですか?普通に見切ったんですか?」

「それもできますが、今回のは当たりをつけたってだけですわ」


 基本的にユキナちゃんは真面目でセオリー通りに動く事が多い。

 だから、咄嗟の反撃で貰いにくい武器を持っている方向から来ると読み、最も確率の低い正面と武器を持たない方向に引きつつ、レイピアを振るった。

 それが当たったので、そのまま反撃にこぎつけたってわけですわ。


「これくらい読み通さないとやってられませんわ」


 というか、本職の方とやり合うかもってとき、猛勉強して対策をたくさん立てましたから、ユキナちゃんから貰うわけにはいかない、というのもありますわね。


「そ、それで弾かれるのはちょっと尺ですね」

「アドバイスというほどではありませんが、直前までしっかり相手のことを見ましょう。アサシンは対人で先手を取って不意打ちを決めるというよりかは、先手を見せて後手で確実に差し返すってイメージで進めるほうが良いかもしれませんわ」


 相手にあえてギリギリ反応できる速度で動いてそれに反応した相手が反撃を取ろうとしてくるのを差し返すみたいに。

 先手を取って後手を制す、そんな感じですね。


「なるほど。もう一回お願いします!」

「えぇ、何度でも打ち込んでらっしゃい」


 ・

『そういや、あの事件のことがあったな』

『すっかり忘れてたよ』

『あのあと勉強したって感じかな?』

『やってそう』

『シマミさんの解説もわかりやすいし見てて本当に面白い』

『こっちも色々と参考になるわ』

『アサシンにセオリーとかあるか』

『そんな咄嗟に判断できんわ』

『シマミさん曰く、思い切って武器を振り抜くといいらしい』

『正面からくる気合のない奴らだって言ってね』

『男か』

『いや漢だろ』

 ・ 


 そんなふうにわたくしたちは修行を進め、最終的にちゃんと見ていなければ不意打ちを入れられるほどには成長し、その日の配信を終了させた。



・・・・・・・・・・

後書き


ちょっとした通常回。

アテナの周知とユキナの強化イベ、何時ぞやの事件の影響を語りました。


アテナちゃんは、次の表回でなんかやらせようかと思ってるからその準備って感じやね。

そしてある特定の人物を話題に仲良くなる二人、よくあることですね(多分)。自分はこれで人と仲良くなるイメージが強いです(これで作れるとは言っていない)。

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