第80話 真:合宿四日目。裏で始まり、真に終わる。
Side:九重
「もぉ!」
配信を終えた我ら、というか我と翔ちゃんは医務室にて不貞腐れるように座っていた。
あのあとしっかり回収して、なんとか貞操は守りきった我。しかし、翔ちゃんからしてみればなんでもっと早く助けてくれなかったのぉ!とお怒りなのである。
正直に、すまぬ、欲望には抗えぬのだよ。抗って助けられただけ良かっただろう。
だが、頬を膨らませて、腕を組んで怒る翔ちゃんもまた可愛いので、ごちそうさまです。
「すまぬすまぬ」
「後でアーカイブ確認するからね?」
「うぐっ」
「それで見てたの確認できたら社長に報告するからね!」
「そ、それだけは勘弁してほしいのだぁ!」
ヨイヤミさんに、ヨイヤミさんに今回のこと話されたら、どやされるぅ!下手したらゲンコツがぁ……それはやだぁ!
「まったく。光子さんは純粋に忘れてただけっぽいから良いんだけど……忘れられてた、だけ、うん。忘れられただけ……へっ」
うん、どんまいなのだ。心のなかで合掌した。
声に出したら不憫、だからのぅ。
「そういえば、クスリはどうなの?」
「クスリちゃんは今夕飯を少し早いが食べている」
疲労が凄いそうで早く寝たいらしく、早く食べて早めに寝るそうだ。
「ふぅん、他のみんなは?」
「ユウナ、シマミ、ツクヨミさんの三人は翔ちゃんの試合の後やりあって、ゼーハー言いながら(主にツクヨミさん)今休んでる」
あとの奴ちゃんを始めとした子たちは揃って汗を流しにお風呂に入ったあと、夕飯まで暇だからとカードゲームしてる。ちゃっかり後輩も混じって遊んでて良いなぁとは思いつつ、今の二人きりの状況を楽しむためにここにいるのだ。
「はぁ。動けないのは私だけ?」
「遅行性の全身筋肉痛が襲ってきて倒れて、オマケに右腕火傷して治ったけど痛くて動けないのは翔ちゃんだけなのだ」
「全部言うなぁ!なんか恥ずかしいだろぉ!」
全部事実なのだ。オンギャーって赤ん坊みたいな悲鳴あげて痙攣して動けなくなったのは見物だったのだ。後でヨイヤミさんに相談してそういうの作らせようかと本気で検討しているのだよ。
「そういや社長は?」
「ヨイヤミさんは……ちょっと忙しいらしいのだ」
そう、色々と。
さっき来た連絡からすると、そろそろ暴れてるのではないだろうか。
まぁ、ヨイヤミさんの心配はするだけ無駄なので気にしないとして。我は我で降りかかる火の粉を払わなければな。
・・・
Side:宵闇(社長)
あのあと速攻で調べてくれた会長によるとあの二人は工作員であり、中枢機能を破壊、そうでなくても妨害、遅延が役割だったそうだ。
「会長がいるのにんなことできると思ったのか?」
「いや、私丸腰」
「十分だろ」
そもそもお前はククリナイフよりも体術の方が上手いだろ。
私忘れてないんだからな?油断してたとは言え、投げられたこと。まぁ、空中蹴って肘鉄入れたったが。
「いえいえ、魔法なんか使われたら素手じゃどうしようも……」
「あ?その素手で昔ランク4犯罪者の魔法を握りつぶしてシバいた男が何を言ってる?」
「アハハハ、若さゆえと言うか、今はもうやりませんよ」
どうだか。できないじゃなくてやらないだからな。会長も会長でどこかネジがぶっ飛んでるってのは間違いねぇな。
「まぁ、雑談はほどほどにして、実際問題協会が襲撃されれば機能の一部は滞りますし、一人でも怪我人が出れば責任どうこうで時間は稼げますからね」
「んで?あれは?」
あれ、とは私がここにいることを驚いてた件だ。正直、あぁ言う反応しても不思議ではないんだが妙に引っかかる。どこかで足止めされてる算段だったのか?と疑いついでに調べてもらった。
「えぇっと、社長宅に襲撃をかけようとしていたらしい、のですが……」
「私をおびき出すため?」
「えぇ。まぁ、貴女がまだここにいるということは未遂でしょうね」
……光子か九重辺りが処ってくれたんかな。ありがたい。
「だが、もう許せないな」
指をパキパキ鳴らし、今すぐにでも飛んでいきそうになる感情を抑えながら、ボソッと呟いた。
「えぇ。許せません。ですので、完膚なきまでに叩き潰してください」
「そこは叩き潰しましょう、じゃないのね」
ホントに食えない人だよ。だが、言われなくてもそのつもりだよ。
そして、日付を跨いだ深夜一時。
山口県の沖合にて極国の侵略行為を確認。
これを侵略行為とみなし、日本はこれの殲滅を開始した。
後に、宵闇の夜と呼ばれる、一方的戦いの始まりであった。
・・・
深夜の静けさを波が打ち消す深夜の浜辺。
そこに砂を踏みしめる音が一つ、また一つと現れる。
海の向こうからここ日本へと上陸を果たした極国の人間、その本隊だ。
彼らは決して軍隊のように規律があるわけではない。だが、その動きは統一、統率されていた。
「ふっ、さぁ、待っていろ!我らが力で支配してくれる!」
全てはこの男、極国を統一するキッカケとなった男、リーフェル・ターブサル。
この男の存在は軍隊のように訓練を受けていなくとも、自然と彼らの動きを纏めている。
それだけの存在感、それだけの圧力が男にはあった。
「ゆくぞ!我らが誇り高き、極国の戦士たちよ!」
「「「オォォォォォォォッ!」」」
そうして彼らはこの地で最初の雄叫びを上げる。
チュン
そうして、彼らの大半はその雄叫びが断末魔となった。
白い光が、明るくも、眩しくもないがその存在をハッキリと示す白い一筋の光が、男たちの少し後ろに落ちた。
爆発音はなく、ただその白い光が降り注ぐときになったであろう音だけが男たちの鼓膜に届く。
そしてその光が落ちた後ろへ振り返ったうちの誰かが悲鳴を上げる。
「あ、ぁぁぁぁ!?」
そこには海辺だったことが信じられないような焼痕だけがあった。
そう、焼痕だけが。
男たちが乗ってきた船も、男たちに続いて上陸をしようとしていた仲間たちも、先ほどまで歩いていた砂浜すらなく、ただ焼痕だけがそこにはあった。
「こんばんは、極国の皆様。今日は良い宵闇ですね」
その日は、月の光も差さない、宵闇。
その空には震え上がるほどの恐怖を覚える瞳だけが怪しく輝いていた。
震え上がり、その場で立ち尽くす男の中で唯一その影響も恐怖も感じず立ち向かう男がいた。
「貴様が宵闇か」
その男は当然リーフェルで、その表情は恐怖や今起きたことへの怒りでもなく、ただただ純粋な笑み。
これから始まる戦いに期待を膨らませる子供のような表情だった。
「……確かリーフェルだったか?」
「いかにも。リーフェル・ターブサル。そういう貴様は宵闇 霧江だな?」
「私も有名になったなぁ」
「お前を倒し、この国を我が国としてくれる!」
・・・
極国の連中が上陸するとされた場所の一つに私は先回りして空に座っていた。
今日は宵闇、対して月明かりもなく、近くに光の灯るものもない。
空にいるだけで割と見えないものだ。
そんなふうに待っていると、潜水艇のようなものがいくつか浮上してきて砂浜に上陸、その中から極国と見られる連中がこの地に足をつけたのを確認した。
それと同時に連絡を行い、攻撃の許可を貰い、私は全ての乗員が降りるのを待った。
「犠牲なくして、戦は止まらぬ」
全てを生かして勝つなんてのは、ただの絵空事だ。
相手に敵意がある以上、相手に隙を見せ続ける以上、相手が人である以上、どんな時代どんな世界どんな世の中になったとて、世界から争いがなくなることはなく、争いを終えるにはいつも少なくない犠牲を出す必要がある。
ならば、私がやることはただ一つ。
「恐怖を与え、力を見せつけ、二度と抵抗できないように、完膚なきまでに叩き潰す」
それが、最も被害が小さく収まる戦い方だと私は信じてる。だから、私はこの手を汚すのをいとわない。
「さて、やりますか」
人差し指と中指を立て、その二点に魔力を集める。
それを火の魔法に変え、放つ。
放たれた魔法は、薄い白色の光となって、極国の人間を、文字通り消し炭に変えた。
超高温光線を一点に照射することで、人も、なんなら海ですら一瞬にして蒸発させる魔法。
光だから、魔法による結界を貫通、威力的に防具で防ぐことはほぼ不可能、鏡は反射よりも早く蒸発、どんなに鍛えられた人間がどんなに対策を取っても、この魔法を防ぐことはほぼ不可能。
文字通り、人を殺すための魔法というわけだ。
チュン
一瞬にしてその姿を溶かしたその光景を見ながら、彼らの前に降り立つ。
「こんばんは、極国の皆様。今日は良い宵闇ですね」
そうしながら私は威圧を放ち、戦う人数を絞り込む。
これに耐えられる奴がいるのならば、それを倒すことでこの戦いを終わらせられる。
そう踏んでの行為だ。
そして、リーフェルが現れたのだった。
リーフェル・ターブサル。
彼は幼くして両親を国の方針によって失い、いつの日か国を変えることを夢見ていたらしい。
そんな男が力を手に入れ、政権を壊し、武力によって国をまとめ上げた立役者。
つまり、今の極国の象徴だ。
「一応確認するが、なんでこんなことをする?」
「国は数ある分だけ争う。ならば全てを力で統一し、真の平和をもたらす。そのために、全ての国を支配する」
……そうですか。
御大層な夢なこった。
だが、理には適ってるな。
「まぁ、そんなの私がいるうちは不可能だろうがな」
「いいや、俺が可能にしてやる。さぁ、いざ尋常に!」
「「勝負!」」
そして、私とリーフェルの戦いが幕を開けた。
リーフェルの戦闘スタイルは高いフィジカルのゴリ押し、獲物は2メートルほどあるバトルアックス。
正直、私の敵じゃない。
確かに強いが私との相性が悪い。
そうなると、勝つだけなら簡単だ。
「だが、それじゃおもろくないよな」
もう体は小さく戻ってるが、これくらいの敵ならこのままでも大丈夫そうだな。
「むっ」
私は収納から一振りの鎌、デスサイズを取り出した。
「ハンデだ、お前の土俵で戦ってやる」
「負けたときに吠え面かくなよ!」
「そっちこそ、私に本気を出させてくれよ?」
鎌を蹴り上げ、肩に乗せ、挑発するように指くいしながら、余裕一杯の表情を見せつける。
「ふん、ほざけ。そっちこそ、俺を楽しませてくれよぉっ!」
そう言ってリーフェルはバトルアックスを引きずりながら、およそその背丈に見合わぬ速度でこちらへ突進してきた。
それに私は担いでいた鎌を横薙ぎに構え、迎え撃つ姿勢を取る。
そして接触する瞬間、私は鎌を振るい、リーフェルはバトルアックスを振り上げた。
「ふっ」
「ぬぐぅっ!?」
その衝突はけたたましい金属音を鳴らしながら拮抗し、火花を散らしていた。
しかし、二人の表情は対照的であり、私は何ら変わらぬ余裕の表情、リーフェルは苦悶のような驚いたような表情をしていた。
まぁ、まさか受け止められるとは思っていなかったんだろうな。
それにリーフェルほどの実力者なら分かるはずだ、私がまだまだ手を抜いていることに。
「どうした、苦しそうじゃないか?」
「ほざけっ」
口はまだ達者だな。
なら、しっかりとわからせてやろう。
「まずは、その武器だな」
「っっ!?」
私は拮抗していた状況から、軽く力を抜き、鎌を引いた。そうすると振り上げてぶつかっていたバトルアックスは一気に上へ振り抜かれた。
その間、私は悠々と縦に鎌を構え直し、バトルアックスを持つ手目掛けて振り下ろした。
それに直前で反応できたリーフェルは間一髪でその攻撃を回避した。
ザンッ
振り下ろされた鎌は残ったバトルアックスの柄の部分を何の抵抗もなく切り落とし、柄と刃の部分に綺麗に分かれもう使うことはできない武器になってしまっていた。
「くっ」
「どうした?俺を楽しませてくれ、じゃなかったか?」
「っ、あ、あぁもちろんだ」
その声はどう考えても虚実のものだが、諦める気はないのだろうな。
それならと、私は鎌を手放し収納にしまった。
「何のつもりだ」
「ハンデだって言わなかったか?同じ土俵で戦うって。武器のないやつに合わせて武器をなくしてやったんだ。ありがたく思いたまえ」
「ふざけやがってぇぇぇ」
両手を牛のように横に広げて突進。タックルに近いものだが、肩幅とか広いから何とも言えないな。
「まぁ、どうだって良いか」
ピッっと左人差し指を広げている右手に突き出す。
すると、ピタッとリーフェルの動きは停止した。右手を動かそうと、体を前に動かそうとするがびくともしない。
「どうした?左手もあるじゃないか」
「言われずとも!」
「馬鹿が」
私の指摘した通り、左手は普通に動くのだが、それはあえてだ。
指摘された瞬間、左でで私の首辺りを狙いに来たが、それに焦ることもなく突き出した人差し指をそのまま横に流す。
「うぉぁっ!?」
冗談みたいに横に体を倒し、そのまま突き出していた左手へ全体重が乗っかる形で倒れた。
「へっ、や無茶しやがって」
倒れる姿勢がそのまんまだから口に出てしまったよ。
……冗談は置いといて、今ので折るつもりだったんだが、流石に頑丈だな。
「まぁ、良いか。そろそろ飽きてきたし」
「く、くそっ、こ、こんなっ、こんなはずでは」
「ふわぁっ」
あ〜欠伸。そういや寝てないもんな。
まぁ、それ以上にこれに飽きてきたのが大きいな。
「さてと、じゃあ終わらせるか」
少し体を捻りながら低姿勢を取り、一気にトリプルアクセルしながら跳躍、頭上からその回転のまま肘鉄をいれて地面に叩きつけ、さらに追撃で逆の手で頭に拳骨でもいれるように殴りつけ顔を地面に埋める。
「おら、寝てる暇ねぇぞ!」
その埋まった顔ごと、というか埋まっていた地面ごと空に蹴り上げられ、軽く百メートルくらいの高さまで打ち上げられていた。
「最初は、グー」
体の上半身を右にギリギリまで捻り、拳を抱えた状態で落下地点に待機する。
あ、髪とか体は長くなったり大きくなったりしてないからな?
「じゃーんけーん。ポンッ!」
そして落下してくるリーフェルの腹部目掛け、拳が突き刺さった。
「ごひゅっ」
一拍置いて、その直線上の空へ宵闇の空が晴れるように雲が打ち払われ、月明かりが差し込んだ。
腹に拳が突き刺さり、気絶しその身体を私の体に預ける形になったリーフェルの姿が、その月明かりによって残った兵士たちの目にこれ以上ないほどにハッキリと映った。
「大口叩いた割には、弱かったな」
拳に突き刺さるようになっているリーフェルを投げ捨て、埃を叩くように手を叩き、残った極国の兵士たちに向き直る。
「デッド・オア・アライブ?」
「「「降伏しますっ!」」」
こうして、裏で始まった侵略作戦の本隊は降伏することとなった。
・・・・・・・・・・
後書き
まだ終わりじゃないけど、目立った戦闘はこれでおしまい。
あとの残党狩り的なものはこれ以上に一方的なものだから、ね。合宿の残り三日で極国関連の全てを終わらせる。
だから宵闇の夜、まだ終わってない。
ちなみに今回の社長のネタは、神之怒(リムル)、レジェンドトリガー(バーダック)、ゴンさん(ジャジャン拳)ですね。
ジャジャン拳をやりたいからチェインとしてバーダックを持ってきた。
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