第77話 真:合宿三日目。盛り上がりの食事会。盛り上がるお通夜


 あのあと、私たちはユウナとシマミを労いながら、不完全はおろか燃焼すらできなかった私とクスリは若干不機嫌気味にも良いものを見れたことには満足して、今日のご飯の準備に取り掛かろうとしていた。


 そのためにキッチンに行くと、そこには何故かランク6の光子さんがいた。


「なぜ?」

「なんでここにいるんですの?」


 光子さんはランク6として南のダンジョン担当だから滅多なことではこっちにこれないはずなのに。

 ちなみに、私たち一部組は昔一度だけ手伝いで会ったことがある。まぁ、それ抜きでも光子さんは有名人だから顔見たらわかるんだけどね。


「あら、みんな久しぶり〜元気してた?」


 私たちの声で気づいたのか、振り返り、前に会ったときと何も変わらない声と背丈で変わらないテンションで語りかけてきた。


「げ、元気にはしてましたけど」

「まぁ、あんだけ元気に配信してれば元気よね」

「あっ、見てくれてるんだ、ありがとうございます」

「んで、質問の答えなんだけど、ちょっとダンジョンで色々あってね。宵闇に助けてもらったんだよね」


 社長、何やってんの……というかランク6がどうこうという事件が起きてたってことだよね。


 同じようにそれを察したクスリも若干顔が引きつってる。それだけ恐ろしいものということだ。


「何があったかは、宵闇か、ツクヨミさんとシマミ君に聞けば良いんじゃないかな?」

「あの二人に?」


 もしかしてこっちに来てたのも同じ理由?確か予定が入ってるからってあと二日はこれないって言ってたから今日いきなり来て早いなぁ〜って思ってたんだよね。


「……まぁ、宵闇に聞くのが一番早いと思うけどね」

「じゃあ、それは後で聞くとして」

「光子さんは、しばらくここにいるの?」


 それ大事。配信のネタになるし、何よりみんなのレベルアップ、というか私自身のレベルアップに繋がるからね。


「さぁね、今は会長と宵闇に丸投げ状態だからどうなるかはわからないけど、しばらくはここにいられると思うよ」

「「よしっ!」」


 二人して声出してガッツポーズしちゃったよ。というか、クスリも声に出して喜ぶなんて珍しいじゃん?

 ……あぁ、今日不完全燃焼だったからか。


「明日が楽しみだね!」

「えぇ。とっても、とっても楽しみですわ」

「あれぇ?クスリちゃんってこんな子だったっけ?」


 その後も、二人の騒ぎ声に気づいた他の面々がキッチンに様子を見に来ては声を上げるので、最終的には自体を知ってたツクヨミさんがみんなに引っ張られて(シマミは抜け出した)、色々と濁しながら話している間に、何故か光子さんとシマミの二人が夕食を作って、それを食べることになるのだった。


「どうぞ召し上がれ」


 食卓に並んだ食事は、ご飯、生姜焼き、きのこのお吸い物、ポテサラと凄く家庭的なものだった。


「献立はシマミ君が考えてくれたよ」

「健康的な食事は体を作るからな」


 いや、言ってることはすごく正しいと思うんだけどシマミが言うとなんか、ね。


「……それで、どうして私のところにはお酒が?」


 その声で気づいたのだが、確かに瓶ビールがツクヨミさんのところにだけ置いてある。


「いらないのか?」

「いる!これは譲らないから!」


 まぁ、そうだよね。


「一応、奴とユッケは未成年だということは忘れるなよ」

「私一人で飲みますから」

「あら、少しくらい分けてくれても」

「光子さんとはいえども渡しませんよ」

「残念」


 なんでとか言ってた割には絶対に酒瓶を渡さない強い意志で抱いてるんだよね。

 というか、その気遣いできるシマミってなんか凄いよね。


「さて、他の子たちはお茶でいい?」


 光子の投げかけにユウナ以外は全員頷いて、ユウナはサイダーを冷蔵庫から持ってきていた。

 まぁ、私もジュースとか飲もうかと思ったけど、この献立でジュースはないかなと思ってやめた。


「んじゃ、みんなの飲み物も揃ったところで」

「「「いただきます!」」」


 とりあえず生姜焼き〜から。


「うん、上手く味付けできた」


 タレが上手く絡み合って、くどくどしない甘さと柔らかいお肉の噛み応え。食べても食べても飽きないこの味付け。

 完璧だわ。うん。


「これは光子さんが?」

「えぇ。一時期料理とかにハマってね、その時の名残で今も自炊とかするんだよ」


 へぇ〜私なんかウーバーとかコンビニとかで最近は済ませてたなぁ。


「あと、自炊の良いところはコスパが良いことだよね」

「そうですね、一食300円位、ですかね」

「それくらいだね」


 へぇ〜外食の最低でも三分の一か。


「物によっては一食100円割る時もあるよ」

「えっ、それは凄い」


 その100円で計算すれば、一日三食の三十日で90、100×90=9000円ってこと?

 300円で計算しても27000円。

 確かにすっごいコスパ良いね、それ。


「そういえば最近翔は自炊しないんですか?」

「えっ?翔さん、自炊できるの?」

「なんでナチュラルに私が自炊できないって思ってるのかなユキナちゃん?」


 驚いた様子で私にそう尋ねるユキナちゃん。それに加えてえっ?できるの?って表情で私を見る奴ちゃん。

 ユッケちゃんと林花辺りは特に何も反応せず、紺金ちゃんは黙々と食べてる。

 他は多分知ってるから苦笑いのような笑みを浮かべている。


「だって、普段の翔先輩見てると、ちょっとできるイメージなくて」

「普段の私はユキナちゃんにどう映ってるのかなぁ?」

「えっ?お馬鹿」

「ハッキリ言いやがってぇ!」


 私これでも、超頭いいんだからな!家庭能力全般あるんやからな!

 あんまりそういうのは声を大にしては言わないけど、私はできるんですよ!


「まぁ、昔はよく翔の家に集まって晩御飯を食べたものですよ」

「その話は聞きたいです!」

「わ、私も!」


 あっ、今度はユッケちゃんも食いついた。

 ユッケちゃん、私たちのファンだからそういうの気になっちゃうか。


「うーん、まぁ、昔って言っても始めたての頃だよね」

「その時の話、あんまりわたくししたくないのですが」

「クスリが言わねぇならアタシと翔で話すから良いぞ別に」


 そうだね、別に秘密ってわけでもないしね。まぁ、あの頃のクスリは色々と、ね。今とは全然違うからね。


「はい!知ってます!クスリ先輩、初期は」

「はい、ストップ、やめてくださいまし?その話はわたくしの黒歴史ですの!」

「酷くな〜い?あの頃の私に憧れたクスリは黒歴史なんですか〜?」

「そうですわよ!黒歴史ですわ!」


 ハッキリ言われるとなんかこう、ね。


「そうだよな〜あの頃のクスリと今のクスリは別もんだからな。あんまり触れてやるなよ。アタシのならいくらでも話していいけどよ」

「ユウナはあの頃から何も変わってないからね」

「一番変わってないのはアタシだからな〜」


 うん、本当に変わってない。内面はだいぶ変わってるけどね?まぁ、これを言うと恥ずかしがって色々と面倒なことしてくれそうだし触れないでやるか。感謝しろよ?


「話が盛り上がってるところ悪いけど、明日もあるし片付けもあるから早いところ食べちゃってね〜」


 それでだいぶ話し込んでたことに気づき、私たちは残りのご飯をしっかり味わいながら、なるべく素早く食べ進めるのだった。



 ・・・


 九重、アテナの二人と別れた私は、家に戻ろうとしていた。


「今日は、光子もいるし、良いの食えるかもなあ」


 あいつ自炊普段からやってるらしいからな。結構家庭的な味で良いんだよなぁ。


 ピリリリ〜


 ……ポケットに入ってる携帯が鳴ってる。

 無言でマナーモードに変更した。


 ブブブブブッ


「……やだ。やだ」


 見たら駄目だ、それなのに体は携帯の画面を覗こうとしてるぅ!

 見たら無視できなくなるぅ!やめろぉぉっ


 チラッ……会長から。

 つまり、そういうことだ。


「はぁ……」


 こうして、私の晩飯はその辺で買ったゼリーと鮭おにぎりに決まったのだった。



 ・・・


 そして、宵闇と別れた九重とアテナの二人は、宵闇が出ていくところを窓から見ていた。

 そうして、宵闇が家から出ていったところを確認すると


「「ハアァァァァアァ」」


 二人してその場に座り込んだ。


「もうやだ、あの人、怖い」

「うん、わかる。我も今だに怖いもん」


 二人は宵闇がいる間は気丈に振る舞い続けていた。そう、最後まで、ずっと。

 アテナを的に、九重が宵闇の指導のもと白と黒の魔法を撃つ。

 失敗→アテナが吹き飛ぶ、手本として宵闇がぶっ放す、アテナぶっ飛ぶ。

 成功→アテナが吹き飛ぶ。成功が安定するまで継続。安定した場合次の魔法に移る。

 的にされてる方はたまったもんじゃない練習が行われていた。

 ついでに、アテナが何か文句やら何やら言うたびに、黙らされる。最初は正座だけだったが最終的には亀甲縛りの状態、素っ裸、吊るし上げられて、猿轡にされて的にされた。

 しかも特別性のロープで引き千切ることも体を振ることもできないというもの。……ついでに反抗しようとするたびに強く締められるというおまけ付き。


「ヨイヤミさんの鬼ぃぃ」

「宵闇さんのアホぉ」

「悪魔ぁ」

「魔王ぉぉ」

「社長ぉぉぉ」


 と、まぁ、当然悪口のオンパレードというわけだ。

 九重は練習していただけと思われるかもしれないが、白と黒魔法にはかなりの集中力を要求される上に、脳内リソースを半端なく使うので、それだけで限界。それに加えて後輩たるアテナをなるべく傷つけないように超集中して超丁寧に繊細な操作をしていた。

 それを、マスターするまでずっと。

 疲労感は最初に宵闇と戦った時と比べ物にならないくらい上だ。

 しかも休まず。そりゃ、文句も出る。出ない方がおかしいというものだ。


「先輩、本当にありがとう」

「なんの、我も大事な後輩をこんなにすぐ失いたくないからな」


 そして、そんな九重の努力によって、死ぬ思いをせずに済んだ(死ぬような怪我なく)アテナは完全に九重のことを先輩と認めて、すでに尊敬の念を抱いていた。


「本当に、ありがとう」


 その目は完全に死んでいた。というか潤んでいた。いや、すでに泣いていた。


「えぐっ、何あの人、神って偉いんだよ、凄いんだよ。それなのにあの人、その辺の草でも刈るような感覚でボコボコにして、なんなの本当に。これでも私、神の中でも上に入るくらい強いんだよ。自惚れてたし、全体的に私が悪いのは認めるけど、あんなのってないよ!」


 うん、もうとっくにアテナは壊れてる。そう、九重は認識した。


「あと、アイギス斬られたままだし……」

「アイギス?」

「私の槍。神器。神の武器。概念の塊。それが、あんな簡単にポッキリ……へッ」


 九重はもう、話しかける言葉を失った。

 静かに背中に手を添えるくらいしかできなかった。


「そういえば、明日からの配信に混じるか?」

「……そもそもだが、配信ってなんだ?」

「……フフッ」


 その瞬間、表情が変わった。先輩からヲタクへと。そしてそれに気づいたアテナもまた若干引きつった表情へと。


「配信というのだな!」


 それから、九重は永遠と配信について話すのだった。


 そうしてアテナは過去の自分に激しい憤った。何をやってるんだ大バカ野郎と。

 たった一度の行いのせいで、私のこれからは割と地獄だと。


「でも、面白そうなの……」


 ただ、これからの日々は何もしなければ、普通に面白そうなものになるという予感はあった。

 むしろ、それなかったらもうすでに立てないところまできている。


「(あぁ、お父様。願わくば私を守ってください)」


 そう願わずにはいられなかった。



・・・・・・・・・・

後書き


昨日のうちに完成してたんですが、途中でアテナさんのところ、色々とやりすぎたとなって、結果九重アテナのところを丸々書き換えてました。亀甲縛りの下りはその名残です。

決して、そういうのを作りたかったわけではない。ないんだが調子乗った。

まぁ、遅れたのはそういうことです。修正前のはご想像にお任せします。


あと、自炊の金額は調べたらそんな数字が出てきたからであって、本当かは知りませんのであしからず。

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