第75話 後編:合宿三日目。みんなで模擬戦



 さて、ユキナと林花、紺金とユッケの試合が終わったところで四人には休憩してもらって


「その間は私たちの番だぁ!」

「いやっふーー!」


 今まで我慢してくれてたユウナのこともあるし、さっさか始めましょうか。


 ・

『待ってましたぁ!』

『どんなもん見せてくれんだい?』

『まぁ、凡人には見えないんだろうけどなぁ』

『というか、紺金さん、大丈夫そ?』

『それもあるけどツクヨミさんも大丈夫そ?』

『画面端で小躍りしながら準備してるユウナが怖い』

 ・


 ……ホントだ、小躍りしてる。

 小躍りしながら武器を取って感覚掴んで、振り回してるぅ。

 あと、みんな気づいてないけど、クスリも楽しそうに微笑んでるよ?画面外だから分からないけど。

 シマミ君はいつも通りだよ?まぁ、準備運動してラジオ体操してるくらい。


「いち、にー、さん、しー」


 とっても、シュールだよね、あれ。

 ちゃんと声出しもしてるから余計に。


 ・

『画面外から恐ろしいカウントが聞こえるんだが?』

『体を大きく開いて?……え?開かれてるの?』

『……あ、これラジオ体操だ』

『確かに……えっ?』

『シマミさん画面外で声出してラジオ体操してるってこと?』

『シュール過ぎて吹いたww』

 ・


 ちなみに、本人曰く、全身の筋肉をほぐすのならこれが最適解だからとのこと。


「どりゃっ!でりゃっ!おぉぉりぃゃぁっ!」


 ……彼はラジオ体操してるだけですってテロップ出しとこ。


 ー彼はラジオ体操していますー


「まるで、別のことしているように見えるって言ってるようなものじゃない」

「いやだって……」

「んなこたぁどうでもいい!オレと!戦えぇぇ!」


 あぁ〜あ、オレとか言い始めてるよ。普段はアタシなのに、たまにオレって言うんだよね。

 テンション上がりすぎてるとき?

 冗談だけど。


「さて、こんな調子だし、まずはユウナと……シマミ君でいいかな?」

「問題ない」

「というわけで二人の試合だよ!」


 ・

『最初からほとんどクライマックスなカードなんだが?』

『問題ないの物言いが強者感しかない』

『接近戦タイプの物理同士の戦いじゃあ!』

『拳と拳!』

『※ユウナ大剣を使います』

『絶対最初の方は殴り合うと予想』

『それは思った』

『有識者、待機の方よろしくお願いします』

 Ⅵ『はーいっ!』

『なんか湧いた』

 ・


 あれ、九重ちゃん?昨日の今日だけど大丈夫なのかな?

 ……そういえば昨日、あのあとどうしたんだろ。帰ったのかな?

 まぁ、無事に見てるってことは問題ないのかな。


「とりあえず私はカメラと一緒に避難するね」


 とりあえず、試合が始まる前に距離を取るよ。社長宅は広いから結構引いてもまだまだ余裕がある。

 もちろんズームとかでさっきまでと大して変わらない視点にしてるよ?ぼやけるかもしれないけどね。


「では、紺金ちゃんが休憩中なので、緊急時のストッパーはわたくしがやりましょう」


 まぁ、最初からユウナが絡む時は紺金ちゃんにやらせる気はなかったけどね、危ないから。

 ちなみに私はカメラを守りながら解説役です。

 いないと高速戦闘に入っちゃうとカメラに映らないから視聴者本当に何もわからないからね。


「では、位置についてください」


 コートに立ちそれぞれ、構える。

 ……二人とも拳を。


「まぁ、そうなるよなぁ」


 ・

『知ってた』

『一応、横に大剣ぶっ刺してるから使う気はあるんだろうね』

『だけど初手はステゴロ』

『ちょっと楽しみ』

『おーい、魔法使わない二人が戦うのにカメラ離したってこと忘れるな〜』

『衝撃波ってことぉ〜?』

『かもな』

『それ以外の何かかもしれんよ?』

 ・


 ……あの距離だと本気で撃ち合われるとレンズが粉砕されるからです。

 何なら魔法の方が案外安全だよ?拳とのぶつかり合いでの衝撃波はどう飛んでくか分からないからね。


「それでは、はじめ!」


 それと同時に、世界は揺れた。


「離れてて良かったね」


 開幕、二人とも全力で踏み込んで全力で拳を合わせた。

 言葉にすればそれだけだが、現実はそうもいかない。ランク5の二人が全力で撃ち合えば、とてつもない衝撃波が周囲に無差別に放たれ、空気は弾かれ、割と物凄いことになってるよ。


 端的に言うと、今の私たちは竜巻にでも遭遇したみたいになってまーす。


 ・

『うわぁっ!?』

『音しないのになにこれ!?』

 Ⅵ『空気が衝撃で弾き飛んだから音がしないのだ。つまり、それだけの力で撃ち合ったということだ』

『解説助かる』

『それが本当なのヤバくてヤバい』

 ・


「へっ」

「ふんっ」


 その一撃でお互い睨み合い、お互いに小さく笑う。

 そしてすぐにお互い飛び退き、仕切り直すように元の位置に戻る。


「流石に、素手での撃ち合いじゃ分が悪いな。アタシの手がジンジン言ってらぁ」

「当たり前だ。素手でオレに勝てると思っていたわけではあるまい」

「シマミにステゴロで勝とうなんて思っちゃいないさ」


 そう言って刺してあった大剣を引っこ抜き構える。


「だから、ここからは本気で行かせてもらうよ」

「ならば、オレも本気で行くぞ」


 それに答えるべく、シマミもまた拳を打ち鳴らしてから静かに構えを取る。


「「……」」


 そして無言の見つめ合いが始まる。

 お互いに、隙がなくそれを見せた瞬間やられることがわかってるからこその無言の見つめ合い。


 ・

『やべぇ、空気が凍ってるのがこっちからもわかる』

『どっちもピクリとも動かないから動画が止まったのかと……』

『どっちがどうなのかとか素人目にはわからんな』

『せんせー』

 Ⅵ『呼ばれたぞ!基本的に先手はユウナちゃんになると思うぞ。懐に入られたくないし、リーチがあるからな。まぁ、ヤマカズ君がそれをさせるわけないがな』

 ・


「ほとんど説明された」


 九重ちゃんの言う通り、先手は基本ユウナになる。

 セオリーではなく、同じだけの実力があるから間違いないってだけだ。

 ユウナはリーチはあるが大剣を使ってる分懐に入られると弱い。

 シマミはリーチはないが素手のため小回りが利くが懐に入れなければダメージを通せない。


 この場合、一撃決めたほうが勝ちになることが多いため、下手に動けないのです。


「というわけだから、もう少しお付き合いください。チャンネルはそのまま、瞬きしてると見逃しちゃうぜ」


 ・

『はーい』

『通販かっての』

『め、目薬……目が、乾いて……』

『任せろ』

『瞬きしてなくても見逃しそうな希ガス』

『すまんな、時間だ。後で結果見に来るぞ』

『おう、任せとけ』

 ・


 そんなふうにコメント欄内で会話が行われているくらいには、変わりのない映像だが、私目線からは空気は時間を追うごとに張りつめていく。それに当てられて息苦しいくらいだ。


「……」


 だからか自然と口数が減っている。しょうがないことなんだけど配信者としてはどうかと……まぁいいか。


 ・

『嵐の前の静けさってやつか』

『十分位経ってんのにずっと変わらないの凄いよな』

『集中力ヤバい』

『何がきっかけになるからわかんねぇからハラハラ止まんねぇ』

 Ⅵ『む、そろそろ来るぞ』

 ・


 えっ?


 九重ちゃんのコメントが流れたとほぼ同タイミング。

 これまで一定のリズムで呼吸していたユウナが息継ぎを一瞬短く切り、吸い直した。

 それを見逃さなかった。


「ふんっ!」

「っ!」


 ダァんっ


 シマミはすぐさま、詰める姿勢を見せつつ、踏み込むことなく右拳を振るい、無手の拳を放ちユウナに防御をさせた。


「やっべ」

紫電突しでんづき


 その防御に一瞬意識が割かれた、その時にはもうユウナの背後に立っていた。


 ドゴッ


「ぐっ、はぁっ」


 ん、何今の?

 空気が突き抜けるようにユウナを貫通した。確かにシマミの威力ならできるだろうけど、今のはインパクトが抜けたと言うよりかは、無手の拳みたいな……。


「ぬう」

「まだ、だよ!」


 それを受けながらも、ユウナは大剣を振り抜いた。

 それを避けるべく後ろへ飛び回避するが、ユウナはそれよりも早く剣から手を離した。


「危なっ!?」


 ヒュンっとしれっとツクヨミさんの方に抜けた剣は飛んで行ってた。

 それはどうでもいいとして。


 剣から手を離したユウナは腰を深く下ろして、自分をバネみたいに縮めて発射、発勁をシマミへと打ち込む。

 それを少し体から浮かせたクロスガードで防いぎ、そのまま詰めることはせずに後ろへ引く。


「くぅ」

「流石だ」


 あの一瞬で二人は揃って一撃を食らわせていた。

 シマミはあの突き抜ける拳を、そしてユウナはツクヨミさんとのとき(ゲロらせた)に使っていたあの発勁。まぁどっちも確かなことは言えないからそれを使ったとは断言できないけどね。


 まぁ、ユウナのは決まってないも同然のやつだけどね。発勁の威力を防ぎつつ、魔力が巡って気持ち悪くなるやつも腕だけに抑えてたね。実際、初見じゃないとあれは防げちゃうからね。


 というわけでシマミが一歩リードって感じ。


「あの、大剣が私の頭の上を通り過ぎたのには誰も触れてくれないんですか?」


 ……無視。

 というか、ツクヨミさんってちょくちょく何が頭を掠めるよね?呪でもかかってるのかな?


「視聴者たちはついてこれてる?」


 ・

『もちろん、と言いたいが』

『ほとんどついていけてない』

『ぶっちゃけ同士の解説と翔ちゃんのやつがないと全くわからん』

『リアルタイムで色々と見抜いて書き込んでくれる九重ちゃんマジ神』

 Ⅵ『それほどでも、あるがなぁ〜〜』

『マジで九重ちゃんのコメントは固定して良いよ』

『ちなみにシマミが魔◯拳みたいの放ったのは見えた』

『何かが突き抜けたなぁってのも一応見えた』

『そしてツクヨミさんがただただ不憫なのも見えてた』

 ・


 九重ちゃんが補足入れてくれてるのか。ありがたいね。

 ……どんだけの速度でコメント打ち込んでんだよとは言いたいけどね。

 ついでに一応見てたけど、あれ動き出した時点でどうなるか見えてるって速度で書き込んでたんだよね。やはり化け物か。


「さて、剣落としたし、拾わせてくれたりは?」

「好きにしろ、拾った瞬間叩くがな」

「じゃあ無理だな」


 仕切り直しだけど、ユウナは剣を飛ばしちゃったから拾いたいけどそんなのシマミが許さないよね。

 というわけでステゴロで仕切り直しになったわけで、圧倒的にユウナが不利になったなって感じか。


「……すると、勝ち目はねぇか。降参するよ」


 そう言って手をひらひらあげるユウナ。

 降参っていうアピールなのだろう。


「勝者、シマミ!」

「不完全燃焼だが、まぁ、勝ちは勝ちか」


 ユウナが降参するなんて、思ってはなかったけど、そんなに不思議でもないんだよね。

 剣はないし、ダメージもかなり蓄積してるし、このまま続けても勝てる見込みはほとんどないからね。


 ・

『あら〜』

『終わりか』

『ユウナが降参、だと?』

『その選択肢は考えてなかったぞ』

『まぁ、冷静になって考えるとそうだよなって』

 Ⅵ『もう少し見たかったが、仕方ないか』

 ・


 否定的なものもないし、その判断を下せるのは流石だよね。

 さて、この試合の次は私の……


「翔、時間が」

「えっ?」


 チラッと時計を見ると、とんでもなく時間が押していて、日が暮れかけていた。


「そ、そんな時間経ったかな?」

「わたくしもそう思いますが、時間は時間ですわ」


 く、くそ。私たちはお預けということか。


「みんなー!非常に!ひっじょーに残念なんだけど、今日はここまで!明日また見に来てね!……私も戦いたかったよぉ」


 ・

『な、なんだと?!』

『も、もうこんな時間なのか!』

『あかん、課題終わってないぞ』

『明日の準備できてない』

『時間が立つのは早いのぉ』

『翔ちゃんたちのは明日の楽しみにするよ〜』

 ・


「というわけで、今日は長々とお付き合いいただきありがとー!おつかれ様!」

「お疲れ様ですわー」



・・・・・・・・・・

後書き


なんとか体調復活。色々と忘れてるから取り戻すのに時間かかってた。多分、いつも通りに調子戻せると思います。


あと、時間そんなに経ったか?の質問はするなよ?経ったんだから経ったんだよ。


次回は裏合宿。真はバーベキューしたいがお預けして、代わりに何かをしようの回の予定です。

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