第74話 前編:合宿三日目。みんなで模擬戦
三日目。
「はい、今日は模擬戦形式で行くよ」
私たちは今日は全員集まって今私が言ったように模擬戦でみんなを鍛えようと思う。
あっ、クスリは審判、私はユウナのストッパー約プラス運営だよ!
「……あれ?翔さん、奴ちゃんは?」
……昨日まで別々だったユッケちゃんは知らないのか。
「社長が拐ったよ。今はどこいるかわかんないや」
・
『あのあと帰ってなかったのか』
『ユウナ、絶対に大人しくしてろよ?』
『翔が運営だって?今すぐに変われ。心配しかないぞ』
『みんなの二日の成果が見れるのか!』
『よし、誰が一番成長してるか賭けようぜ』
『俺達じゃ判断できないから却下で』
・
……賭け、いいね。
「よし、私たち一部組は成長率を判断して順位付けしよっか」
「えぇ……」
「まぁ、暇よりはマシだから良いぜ」
・
『よしやるか』
『ほぼほぼ優勝確定の翔ちゃんはいないから結構むずいぞ』
『ありがとう!』
『じゃあ、アンケート作ってくれよ!』
『後でなんか言われても知らねぇぞ』
・
「なんか変な話になってますね」
「賭けは良くないぞ」
あれ?
私の後ろから昨日まではいなかった声が聞こえて振り返るとシマミ君とツクヨミさんの二人が立っていた。
「シマミ君、ツクヨミさん?」
なんで二人がいるのかな?
昨日までは間違いなくいなかったはずなんだけだな?
「二人がなんでここに?」
「昨日の夜、お前らが寝静まった後にここに来てな。さっきまで寝てた」
「理由になってませんよ……まぁ、色々とあったんです」
な、なるほど。
大方社長関連か、配信者とは違う冒険者の話なんだろうな。
でも、二人が来たのは調子いいんじゃない?
「よし、二人も来たなら、私たちも遊びたくない?」
「遊びたい!」
真っ先に食いついたのは当然ユウナ。
やれやれしながらもやりますよとクスリも続く。
というわけで、私たちも遊ぼう!
「じゃ、私たちは私たちで模擬戦をやろうと思いまーす」
・
『やたー』
『あ、ツクヨミさんが私も?って顔でこっち見てる』
『こっち見んな』
『ランク5の四人の中に放り投げられるランク4のツクヨミさん』
『ライオンの檻に投げられた豹かよ』
『豹も十分強いんだよなぁ……』
・
さ〜楽しくなってきたね!
私はとりあえずアンケート準備して、その間に紺金ちゃんたちは移動して模擬戦の準備を始めていた。
「さて、みんなアンケート作ったから投票よろ。私は準備運動しながらルールを確認してくるね」
・
『お〜う。いってらー』
『よし、お前ら紺金ちゃんたちの情報共有頼むぜ』
『良いぜ』
『とりあえず昨日の配信はユキナちゃんと林花さんがそれぞれ魔法使えるようにはなってたよ』
『一日目は紺金ユッケが酷い目にあってたな』
『ふむふむ。よし、俺は紺金に決めた』
『俺は期待を込めてユキナちゃんで』
『おうおう、ユッケちゃんに決まってんだろん?』
『誰も林花に入れないし大穴で入れようかな』
・
コメント欄が盛り上がるのを横目にクスリと二人でルールを確認する。
「とりあえず、禁止はないんだっけ?」
「相手が死ぬようなものは駄目、致命傷も同様ですわ」
「おけ、そうなりそうならクスリが止めるんだよね」
「えぇ。一応その間も翔はユウナに気を張っておいてくれれば」
「了解」
いざとなれば私がユウナと殴り合えば大人しくなるでしょ。
それに、この中でランク4の紺金ちゃんとユッケちゃんが力の面では強いけど、殺傷が出るほどの出力はないからよっぽどじゃなければ致命傷になるようなことはないと思う。
もちろん、ちゃんと警戒して見るつもりではあるけど。
「それで、私たちの方は?」
「審判は……紺金ちゃんにやってもらって、危なくなりそうなら逃げるようにしてもらいますわ」
止めてね、なんて言えないからね。特にユウナとのやつになれば、終わりと言われて終われる自信はない。
「マッチングは?」
「総当たりの勝ち点制で。四人しかいないですから」
「それもそうだね」
確認はこれで全部かな。
私は試合のコートを軽く描いて、その中心線にクスリと対角で立つ。
「さて、早速、模擬戦、やっていこうか!」
「最初は林花とユキナでやりましょう」
「は〜い!」
「お手柔らかにね」
それはユキナちゃんのセリフな気もするけど、まぁやっていこうか!
「お互い定位置についてね」
中心線からお互いに距離を取り、ユキナはダガーを、林花は戦鎚を構える。
何度見ても二人ってイメージと合わないんだよね。
ユキナちゃんはキラキラアイドルしてるのに戦い方はダガーでのアサシンキル。
林花はおっとりしてて大人びているのに、身の丈ほどある戦鎚を使って豪快な粉砕キル。
ちょっと裏側が怖いと思うことがちょくちょくあるよね〜。
「それでは、始めてください!」
そんなこと考えてる間にクスリは試合を開始させ、それと同時に二人は駆け出した。
スピードではユキナちゃんが勝っているため先に仕掛けたのはユキナちゃん。
「やぁっ!」
林花の射程の一歩手前で一気に踏み込み懐に入り込みダガーを振るう。
「ふぅっ、えい!」
それを林花は交わすことなく、腹部にダガーが命中するが、そんなの大した事ないというふうにすぐに反撃として戦鎚を振るう。
「危なっ!?」
「あら、惜しい」
それを振り抜かれた方とは逆方向の背後に逃げることで回避、林花側のコートの端に立ち、冷や汗をかきながら悲鳴のような声をあげる。
攻撃を受けた側の林花の方がむしろケロッとしている始末。
「……ねぇ、クスリ」
「なんでしょう?」
「剣とかと違って戦鎚って強くない?」
模擬戦用に刃を潰したりしているのだが、そも打撃武器から先端とか外しても危険なもんは危険じゃない?ということだ。
「大丈夫だと願うしかありませんね」
危ないなぁ。
けど、そうだよね。
あれが顔になんて命中して流血したらちょっと面倒だよね。
治せるし、傷跡も残らないけど配信はできないよね……グロすぎて。
「たぁっ!」
そんな私たちの心配なんて関係ないと二人は試合を続ける。
先程同様にユキナが攻めて林花が受けて返す展開。
攻撃力の低いユキナは決定打に欠けるため攻め続けることを余儀なくされるが、スピード負けしている林花もまた自分から攻めることができず攻めあぐねているためカウンター一点狙いの試合になっている。
正直見ててヒヤヒヤする。
というか、林花の攻撃がクリーンヒットしてみろ、(配信が)飛ぶぞ。
それは絶対に避けなければならないことなので、そうなりそうなら試合を中断してでも止めるために気を張っている。
「あっ」
そんなとき、一歩、たった一歩分、ユキナの動きが遅れた。
「まずっ!?」
そんな声からわかる通り、一歩の遅れで回避は間に合わなくなる。
「はい、ストップ!」
だから、林花が戦鎚を振り抜き切る前に私とクスリは二人の間に割り込んで試合を止めた。
「あら?」
ブォンっ
「ヒッ」
いつもと変わらない表情で、私の目の前で戦鎚を止める林花は、私目線、かなり怖いよ?顔には出さないけど、怖いよ……。
勿論止まらなくても防げるけど、怖いもんは怖いのよ……。
「勝者、林花!」
・
『あ〜〜』
『よく頑張ったぞ!』
『翔ちゃん、それ怖くない?』
『目の前まで戦鎚来てるぞ?見てるこっち怖いぞ』
『というか、よく間に合ったな、それ』
『まだあるぞ!頑張れユキナちゃん!』
・
「あぁ〜引っ掛けちゃった……」
「それがなかったらわからなかったですわ。お疲れ様ですわ」
クスリがその場で腰を下ろしているユキナに手を伸ばして立ち上がらせて、コートの外まで運ぶ。
一応、本人の名誉のために言うが、結構拮抗していた勝負だった。
画面的には代わり映えしてなくてなんとも言えないが、ちゃんと攻めと回避を両立し攻め続けられたのは流石だと言える。
「欲を言うなら、習った魔法を絡められたら良かったね」
今回は多分、近い実力だから下手に新しい技術を使わないほうがいいって判断なんだろうって思うが、それはそれとしてせっかく教えたんだから使って欲しかったと思うのは仕方ないと思うんだ。
「あ〜そうでしたね。使う暇がなくて」
「そうね〜。私もちょっとあのタイミングで使うのはちょっと……」
私の独り言のような呟きを拾った二人はそう言い切り、多分私は悪くないってフォローしてくれてるのかな?それともただの本心の独り言かな?
「まぁ、それはまだ四日あるし、実戦交えて教えて最後には使いこなさせるからいいよ」
むしろ、私のやる気が出たのは内緒。
さて時間もあるしどんどん行くよ。
「次は紺金とユッケの試合だよ!」
「実力はほぼ互角の二人で、同期同士で手の内も全てさらけ出しての対決ですわ。熱い試合が見れると思いますわ!」
……なんか、クスリ熱くなってない?
まぁ、これくらいならまだ大丈夫か。
「まぁ、クスリの言う通り、熱い戦いになるのは間違いない!普通に楽しみだよね!」
それはともかく、私もこの二人の試合は楽しみ!
だって、実力も近いし、よく一緒にダンジョン潜っている二人の対決だよ?
手の内から性格、思考までよくわかっている二人の対決なんて面白くならないわけないよね!
「期待には応えますよ」
「い、一部組の皆さんの前で、無様な戦いなんてし、しません!」
二人はほぼ平常運転だね。ユッケちゃんがちょっとあがってるけど、試合前だから割と平常運転してるように見えるよ?
「あんぎゃっ!?」
ツルッズドーンって、漫画みたいな足の滑らせ方で転んで顔から地面に落ちた。
「大丈夫?」
「う、うん。大丈夫……」
……平常運転って信じていいよね?
紺金の手を借りて立ち上がるユッケちゃんをみてると流石に心配になるんだけど。私の見立て間違ってる?
ほら、クスリも心配そうな顔で見てるよ?
「た、楽しみにしてもいいんですのよね?」
「も、もちろんでしゅ!任せてください!……かんだ」
可愛い。じゃなくて、心配だなぁ。
そんなことを思いつつも二人はコートに入り、お互いに向かい合い、武器を構える。
ちなみに、紺金はいつも通り盾だけど、ユッケちゃんは大剣のみとなっている。模擬戦用の可変式ガンブレードなんてなかったです。
「では、試合開始!」
お互いの準備ができていることを確認したクスリが振り上げた手を下ろし、試合の開始を宣言した。
「さて、真面目な話、どっちが勝つと思う?」
定位置に戻ったクスリに視聴者に向けての解説を含めた質問を投げる。
「わたくし視点では、やはりユッケちゃんですわね。実力面で言えば紺金ちゃんなんですが、スタイル的には攻めの強いユッケちゃんの方が強いと思いますわ」
うーん、言いたいことだいたい言われちゃった。
「今のところは私もユッケちゃんかな。手数も火力も恐らくはユッケちゃんが上だからサシならまぁ、ユッケちゃんだろーなー」
けど、わからないのがユウナの教えで何を得て何が強くなったのかってところだよね。
そこが未知数だから断言は今はできないよね。
「行くよ、ユッケ」
「えっ!?」
と、駄弁ってる間に先手で駆け出したのはまさかの紺金。
盾に身を隠し、一直線にユッケちゃん向けて突っ込んでくる。
それに焦る様子を見せつつもすぐさま大剣で、切っ先が地面に擦るくらいの切り上げで応戦しようと振るう。
カンっ
「……あっ」
それと打ち合うつもりで振るわれた大剣は、打ち合うことなく、軽い音で盾を打ち上げていた。
それはつまり、盾の裏には紺金がいないということであり、若干大振りになった切り上げを空振ったということである。
つまり、胴体ガラ空き、大剣を引き戻すには間に合わない、完全な隙を晒している状況ということだ。
そのガラ空きの胴に潜り込むように肉薄した紺金は拳を握り、腰を捻り、これ以上ないくらいの綺麗で力が最大限乗る構えをしていた。
更には、不自然な揺らめきのような光が紺金の拳を覆っていた。
「ふぅっ……はぁっ!」
そして振り抜かれた右ストレートはユッケの腹部をしっかりと捉えた。
「ふんぬっ!!」
しかしそれじゃ終わらない。
ユッケちゃんは直撃寸前、ほぼ無意識に腹に力を入れ硬めつつ後方バックステップを半歩間に合わせることでできる限りダメージを抑えていた。
「うっ、らぁっっ!」
そして、振り上げていた剣を強引に真下へ振り下ろした。
「甘い」
しかしそれも読んでいたようだ。
紺金は振り抜かれた大剣の柄の部分をクロスガードで止め、振り切る前にその剣を止めた。
「……あ、無理」
受け止められたユッケは、そのまま力尽きるように倒れた。
「ぶい」
倒れた紺金を支えつつ、私たちの方に向き直り、ピースを作る。
「勝者、紺金」
・
『わぁ〜お』
『すげぇ……』
『ほぼ一撃ノックアウトやん』
『というか、ワシの身間違いじゃなかったら紺金ちゃんの手光ってなかった?』
『光っとった』
『相手のことよくわかってるやつよなぁ』
『すぐ倒れなかったユッケちゃんも凄かったぞ!』
・
ちょっと一瞬すぎて何も言えなかったなぁ……。
「受け展開を予想していたのですがね……」
「まさか初手で突っ込んで、その上盾まで捨ててくるとは思ってなかったな」
そこなんだよね。
「失敗したら負け濃厚になる手を一発目に持ってきた上で、カウンターまでしっかり受けきるなんて、ちょっと予想できないよね」
「えぇ。ユッケちゃんも頑張った、というかよくあれ振れましたよね」
あのタイミングで、あの一撃、普通ならもろに食らってあんな力強く剣を振り下ろしたりなんかできない。
腹筋固めて、半歩引いてクリティカルだけは避けてなんとか一発振るうチャンスを残したのは凄いと思うよ。
「さて、ユッケちゃんは医務室に運んできますわ」
「じゃ、その間インタビューしちゃうよ?」
クスリが倒れたユッケちゃんを背負い、医務室に向かった。それを確認してから私は紺金ちゃんにインタビューを開始し、そのあとしばらくはドヤ顔(そう見える真顔)紺金が映り続けていたそうな。
・・・・・・・・・・
後書き
すみません、体調崩して倒れてまった。
寒暖差がきつすぎた。(あとは徹夜で色々とやってたせい)
それは置いといて、長くなりそうなので前後編で分けます。
アテナちゃんに関しては合宿裏と真でやるのでもうしばらくお待ち下さい。
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