第73話 真:合宿二日目。成長の塊と戦の神と笑顔の剣



 あれ以降、奴ちゃんにつきっきりで(仕事をしながら)魔法を教え続けていたが、やはりというか飲み込みが早い。

 成長速度がバケモンレベルなのよ、奴ちゃん。ユッケちゃんも凄かったがあれは純粋な努力の結晶に近い。凄いことには変わりないけど、奴ちゃんは天性のそれだ。

 信じられないくらい飲み込みが早い。

 見込み通りというか、見込み以上というか、最近の若い子は凄いね。


「『ブライト』!」


 放たれた魔法は的を蒸発させるように消滅させた。

 あれが白魔法の基本に近い魔法。

 性質は雷の魔法と近いため比較的適性さえあればすぐ使える、とはいえ通常それでも一月はかかるものだ。この短時間で使えるようになったのは異常と言える。


「できた〜!」

「ホントに、恐ろしいね」


 私が言うな?わかってるわ。それでも恐ろしいことに変わりはない。

 私ですら二日位かかったのに、ちょっと妬けちゃうね。


「でも、貯めにかなりかかりますね」

「ノータイムで撃つには経験値がまだ足らないわよ。それもすぐできたら流石に引くわ」


 私や翔、クスリとかが出来て当然みたいにやってるけど、普通はそこそこ時間かかるんだよ?

 今まで使ってこなかった奴ちゃんがいきなりできたら流石に怖いわよ?


「当分はさっき使ってみせたホワイトブレスみたいな魔法を使えるようになること」


 一応、今の『ブライト』の時点では概念にちょい触れるくらいだから防御無視(二割)なんで、『ホワイト〜』の魔法まで昇格させたいね。


「黒の方はまた面倒だから、今度時間あるときね」

「じゃあ、それまでは今の魔法をスムーズに実用的に使えるように練習します」


 まぁ、それで良いかな。


「さて、そろそろ配信も終わってるだろうし、飯の時間かな?」


 ピリリリリリ


「……はぁ。仕事終わらないから、みんなのところに行ってらっしゃい。終われたなら行くから」

「あはは……それ絶対終わらないやつ……」


 そうだよ?というわけだから早く行きなさいな。


「では、失礼します」


 奴ちゃんは一礼して、家に戻っていった。

 私はそれを見送り、視界から外れたことを確認してから電話を取った。




 ・・・



 会長たちが来てから魔物の討伐スピードは格段に上がった。

 流石に一人から四人になれば当たり前、とは言えないのが実力主義的ダンジョン。私のレベルのところで戦えているのは私の援護込みでも流石と言える。

 あとは、前衛で戦ってくれるのは私としてもやりやすい。恐らくこの二人がここに派遣されたのもその辺を考えてのことだろう。……宵闇さんはその辺抜かりないよなぁ。


「だいぶ勢いが落ちてきましたね」

「そうだね」


 最初に来たときよりも勢いは確実に衰えているのは目に見えてわかる。


「……浮かん顔だな?」

「わかる?」

「わかるぞ」


 ……ねぇ、この人ホントに年下?頼りがいありすぎんか?サラッとこんな気づかいまで、何をどうしたらこんな子が……ってこれはさっきも言ったような気がするから置いといて。


「ちょっとね、いや〜な予感するんだよね」


 あんまり当てにはならないけどたまに感じるこの予感的なもの。警戒するほどではないんだけど、ね。


「そうか、当たらないと良いな」

「う、うん」


 シマミ君と話してると調子狂うなぁ。

 けど、当たらないと良いよね。


「あの、お話中のところ申し訳ないのですが」

「どうしたツクヨミ」

「なんだか会長さんのところで凄い剣閃のようなものが」


 ツクヨミさんに言われてその方角を見ると、確かに凄い剣閃のようのものが光っている。

 一応、さっきまではあんなにではなく、一閃程度のものしかなかったのに、あれだけ世話しなくというのはおかしい。


「試しに一発撃ち込んでみて様子見、かな」


 その方角へ矢を放ち、反応を見る。


「……ちょっと不味いかな?」


 その矢が放たれたことで一瞬その剣が止んだ。そしてもう一度始まった。

 つまり、何かと戦闘中であれだけのことをしている。しかも一体と。


 会長は私よりも力自体は下だろうと踏んでいるが実力では五分。相性も込ではあるがそれでもランク6とためを張れるような人があれだけのことをしている。

 それだけの敵がいるということ。


「二人は待ってて」

「……わかりました」

「雑魚は俺たちで倒そう」

「ありがとう。じゃあ、行ってくる!」


 私は壁を使って魔物たちを飛び越えて会長のいるところへと向かった。


 距離にして一キロ程度のところで戦っていた会長のもとに訪れると、大量のドロップが散乱するそこで会長と切り結ぶ、人形の何かがいた。


 ……何かとは言い方が悪いか。

 聖騎士のような鎧を着込んだ女性が槍と盾を用いて会長と切り結んでいる、だ。


「援護、するべきか」


 近接戦もある程度はできるけど専門的なものじゃないからこんなとき援護するのが良いのか悪いのかそういう判断がつかないから、下手に手を出すのを躊躇っている。


 実際、援護はできる自信はあるけど、それで好転するかの自信はない。


「くっ!?」


 そう躊躇っているときにくぐもった声とともに吹き飛ばされる会長が目に映った。


「今なら撃てる!」


 手加減なし、ためのいらない範囲で力強い一矢をその女に向けて私は放ち、急いで会長の元に駆け寄る。


「おおっと!」


 カンッっと言う音なり、女は私の矢を盾で防ぎ、同時に追撃する手を止めた。


「良いね、アナタもできる」

「喋るのね」


 こいつホントに何者?

 喋る魔物なんて聞いたことないよ?


「新しい子も来たところだし、改めて名乗ろうか」


 少し上からの物言いで私を見据えて、令嬢がするような動きで私に頭を下げる。


「私はアテナ。一応、戦の女神をやってるわ」

「アテナ、女神?」


 あの神話上のアテナってこと?

 特殊な魔物どころか神様が出てくるなんて意味のわからない状況になってる。


「いてて」

「あ!会長、大丈夫?」


 わりと無事そうだけど、だいぶ息があがってるし結構装備もボロボロ。


「ハァッハァッはぁ、ふぅ〜。いや〜私も年ですね」

「そういう冗談はよしてください」

「冗談違うんだけど……」


 あんだけ動けるのが年寄りとかないから。そも、会長は年寄り言うほど年寄りじゃないから。

 世の中には六十超えてもピンピン動き回る人もいるけど……。


「それで、どうしたの?」

「いえ、魔物を間引いていたら奥の方から彼女が歩いてきまして、戦おうって言うもんですから断ったんですけど、問答無用って」

「襲われた感じね」

「……まぁ、宵闇さんを探しているって言ったので警戒するために構えたらそのままっていうのが正しいでしょうか」


 ……なんで神様から知られてるのあの人。というか探しているって、何をしたんだあの人。


「さて、私は二人同時に、いや向こうの二人も合わせて四人でやっても良いんだが、どうする?」


 引いてくれたりは……しないか。

 子どもみたいに目をキラキラさせて、憎いねー。


「私一人で十分」

「そうか、では始めるぞ」


 私は先程まで使っていた弓ではなく、小型収納の指輪から取り出したボーガンのような弓を取り出してそれを構える。


 これが私の持ち武器となる弓。

 弦の硬さは最大限まで上げられているのに連射も可能、加えて矢の補充は仕込んである収納から自動で行われ十万発程度は入っている。

 さらに本体の耐久力も高く、近接で使うことも可能な長く愛用している相棒だ。


 ……悔しいがこれも宵闇さん作のものだ。ちゃんとある程度の要望を伝えたうえでオーダーメイドで作ってもらった。

 あのときはほぼ全財産が吹き飛びかけましたね。


 と、そんな相棒を構えるということは本気だということだ。


「行くよ!」


 ギリッっタァンッ 


「ムッ!」


 ガゴンッ


「……なんて威力だ」


 硬い弦を難なく引き、放たれた弓はいとも簡単に弾かれる……ことはなくその盾に先端が突き刺さって地面に落ちて消えた。


「受けるのは不味いようだ。ならば攻めるのみ!」


 そう言って、躊躇なく、それでいて隙のない距離の詰め方で私に迫るアテナに対し、私は矢を二発ほど牽制程度の力で放つ。

 しかしそれを受けてくれることはなく最低限の動作で矢を避け、間合いに入ったと同時に槍を突き出した。


 ガギンッ


「くぅっ」


 それを私は弓で受け止めつつ、距離を取ろうと後ろへ飛ぶ


「させないぞ!」


 が、それに合わせて槍を突き出しさらなる追撃を行う。

 もう飛んでいるため避けるのは難しい。だから私は体を強引にくねり槍を蹴ってずらしながら槍から距離を取る。


「あっ」


 だが、そこまでしてもまだ一手分足らなかった。


 私に陰がかかり、平行に私の上から盾の側面で殴りかかろうと構えるアテナが視界に映った。


 ゴッ


「ガッ!?」

「まだまだ!」


 ゴゴンッガガガガガンッ


 意識、飛ぶんだけど!

 一発目で意識飛びかけて二発目で無理矢理戻ってきて四発以後はなんとか弓を割り込ませて左腕で支えるガードが間に合ったが私は背中から地面に落とされそのまま殴り続けられ、抜けることはできず、このままじゃジリ貧だしそろそろガードしてる腕が終わる。


「くうぅっ」

「これで終わりにっ」


 そこでヒュンっと音が鳴り、それに反応したアテナは私から離れて回避をした。


「光子さん!」

「っ!はあっ!」


 会長の声でハッとした私はすぐさま弓を構え直し、速射六発ほどをアテナへ向けて放つ。


「ちっ!」


 放った矢のうち二発は盾で防がれたが四発は左肩、足首、右腕、頬に命中しそのうちいくつからは赤色の血液が飛ぶ。

 さらにその着地地点に先回りしていた、というかいつの間にかこっちに来ていたシマミ君が腰を捻って力強く右手を構えていた。


「ふんっ!」

「はっ!」


 そしてその全身の力を使って放たれた右ストレートが背中へ命中した。


「ぐはっ」

「まだ終わりじゃないですよ!」


 さらにさらに、そこへククリナイフを交差で構えた会長が飛び込みシマミ君のストレートでスタンするアテナにバツ字に切り込まれた。


「フフッ」


 こんだけやられて笑うの?


 それだけのダメージを負いながらもアテナは笑みを浮かべた。


「素晴らしい力です!」


 そう叫ぶと同時に、衝撃波のようなものがアテナを中心に放たれ近くにいた二人は弾かれるように距離を取らされ、シマミ君は私の横まで、会長はその対角にそれぞれ着地した。


「宵闇という人と戦うときに取っておいたものですが、皆さんの力に敬意を評して本気を出しましょう!」


 何やら本気を出すみたいだけど、正直今までの部分でも十分キツかったんだけどなぁ。


「シマミ君、ツクヨミさんは?」

「あらかた片付いたから一人で大丈夫と言って俺をこっちに行くように言ったからこっちに来た」

「そう。それは頼もしいね」


 けど、正直三人でやってもここから強くなったらどうしようもないんだけどなぁ。


「はあっ!」


 パンッっとアテナの着ていた鎧が弾け飛び、白い光に包まれたほとんど裸のような姿に変わった。


「ふむ、装備がなくなったが強さの気配は段違いだな」

「……」


 普通に、ほとんど裸で、良く分からない白い光に遮られているだけの女性がいるのに目を逸らさず真っ直ぐ向けて、動揺のどの字も見えないんだけど……。

 ホントに凄いねこの子。会長なんか赤面して目を逸らしてるよ?


 それは置いておいて、ホントに強くなってるんだけど。

 さっきの倍々くらい。


「さて、行くよ!」

「「「っ!?」」」


 その一言が聞こえて構えようと動いた瞬間、私たちは一人残らず宙を舞って血を吐いていた。


「うっそっ」

「くうっ、ふん!」

「ちぃっ、反則、でしょう!」

「っ!やっ!」


 シマミ君と会長は待機していた、何かを反撃として放った。私はそれに反応して少し遅れて弓を構えて放つ。


「無駄です」


 しかしそのどれも、アテナに届くことはなくその手前で弾かれてしまった。

 普通に当たらないとかじゃなくて命中する前に弾かれただ。


「無理無理、これ負け確でしょ」


 まだ私たちは空中、この時点で半ば詰みに近いのに、攻撃は通じないって……


「それでは、さようなら」


 槍を剣の抜刀のように構えた。

 多分あれが振り抜かれたら私たちは全員死ぬ。


 しかし私たちに避ける手段も防げ手段も残されていなかった。


 ……少なくとも私には。


「『玉座粛清の剣』」


 一瞬、世界が無音になった。


 シャン


「へっ?」


 その間抜けた声は誰のものだろうか。一閃の綺麗で抵抗のない音だけでその場を支配した。

 そしてその一閃はアテナの構えていた槍を真っ二つに切り裂いていた。


「なっ、何が」


 アテナがようやく自体を飲み込み、私たちがそれぞれ地面に着地して、急速に時が流れ出した。


 そして、私たちはアテナよりも早くその事態、何があったかを飲み込んだ。


「えっと、良く分からないから武器だけ斬ったんだけど……」


 私たちが来た道から、悠々と振るったであろう魔法の剣を手に歩き近づく、宵闇さんの姿であった。


「社長、か。助かった」

「シマミ君、ボロボロね。すぐ治すね」

「あぁ。助かる」


 ……私たち割と呆けてるのに、受け入れるのホントに早いわねシマミ君。


「さて、あいつはなに?」

「えっ?!」


 シマミ君の回復を終えて、親指で刺されたアテナは目に見えて動揺した声を上げていた。


「さぁな、戦の神のアテナと名乗って、俺たちに戦いを挑んできた」

「ふむふむ」

「えっ、そ、そうなんだが」


 ……あの、なんだがめちゃくちゃ顔青くなってない?あの子。


 そんなの気にせず二人は会話を続けた。


「それで?」

「ある程度追い詰めたら本気を出すって言って、さっきのザマだ。流石に死んだと思ったぞ」

「そっかそっか〜」


 あ、めっちゃ悪い笑顔、というか怖い笑顔で剣をトントン手の上で跳ねさせながらアテナに近づく。


「じゃあ、敵だね♪」

「ちょっ、やめっ、は、話をーー」


 そ、そこからは自主規制ということで。

 とりあえず、笑顔でブンブン剣を振り回して、白く光らなくなるまで、というか文字通り素っ裸にされるまで斬り裂かれてたよ。

 戦ってた相手だけどさ、同情しちゃうよね。


 さっきまで死にかけて、殺伐としてた空気感は完全に死んでたね。

 とりあえず、言わせて?

 宵闇さんはやっぱり頭おかしいよ。


 あ、その後残った魔物は全て宵闇さんが殲滅しその上で死に体のアテナ(ほとんど死体)を担いでツクヨミさんと合流。

 九重って子の力で宵闇さんの家に移動し、もう疲れた私は何も言わず静かに貸してもらったベットでぐっすり寝ることになるのだった。



・・・・・・・・・・

後書き

 

二話分くらいのペースで描いてて不味いってなったのでここで切ります。

アテナちゃん、君の話はまた今度だ。尺を取りすぎだよ。


とりあえず、九重ちゃんみたいなおも、んんっ可愛い子が欲しくて出そうとしてた子です。

ちょうきょ……じゃなくて教育はまた今度ってことで。


ちなみに、社長の来た経緯

ツクヨミ「社長、緊急です。すぐ来て」

社長「……(九重を見つける)わかったわ」

九重「とりあえず、帰るか、休みたいし……ヨイヤミさん?どうし(首根っこ掴まれる)」

社長「転移頼むぞ。南のダンジョンに」

九重「えっ?」


という感じですね。

ま、一応本編でもやるけど、ここでも語るぜ。

では。

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