第72話 裏:合宿二日目。あれはヤクザじゃないよ
社長の去った南のダンジョン。
光子は一度帰還した後、残党処理に回っていた。
応援は呼んだのだが、来るのに時間がかかるらしいので、仕方なく宵闇さんに依頼を出した。
個人的に人をよこしてくれないかって言ったら、どこかで家の子を指導してくれれば良いよとのことで、二人ほど来てくださるらしい。
「宵闇さんのところは、強い子が多いからね!」
本当にギルドじゃないから頼みにくいだけでもっと依頼とかあってもおかしくないんだけどね!
考え事、独り言をしながらも正確無比な弓は次々と魔物を射抜きその姿を変えていく。
実際、人手が足りないだけでピンチとかではないわけだ。恐らく一週間だろうが二週間だろうが倒し続けること自体は可能だ。だけど、当然疲れるし、しんどいしやりたくない。
それに漏れも出てきたら面倒なので、こういう時は素直に応援を呼ぶ。
「それにしても、誰を送ってくれるんだろ」
翔ちゃんとか一部組だったら嬉しいけど、そこまで贅沢は言えないから、ランク4の子が来てくれると良いかなぁ。
あっ、できれば歳が近いといいなぁ〜
「……あれ、誰か来てるな」
感知に誰か引っかかった。
噂をすればってやつかな。三人来てるね。立ち入り禁止してるし、多分援軍だね。
そして私の視界にその人たちは入ってきた。
「……あれ?」
私疲れてるのかな?とっても怖い人たちが来たよ。
いかにもな、傷をたくさんつけたお兄さん。
美魔女とゆうべき風貌の女性。
「……会長さんかな、あれ」
そして、もう一人、スーツの上に黒い革のコートと黒のシルクハットで決めた男性。というか、冒険者協会会長。
その三人がこちらに女性を前に二人が脇を固める形で歩いてきたのだ。
正直、怖い人たちが来てるようにしか見えない。
「お待たせしました、社長に言われて派遣されたSuma所属のツクヨミです」
「同じく、Suma所属のシマミだ」
「ど、どうも……」
ツクヨミさん、確か、最年長の人だったよね。正直、私と同じかちょっと上にしか見えない。
そしてシマミさん、この見た目で私より歳下……声も渋いし、傷多いし、どんなことしたらこんな子に育つの……。
「宵闇さんに言われて調査も兼ねて応援に来ました。会長です」
「何やってるんですか会長……」
あなたお偉いさんでしょ!というかそんなに気軽に来ないでください!
あと、絶妙に似合ってない服装やめろ。
「普通にヤクザかと思いましたよ」
「「どこがだ?(ですか?)」」
このシマミ君は言ってもいいけど、会長は狙ってんだろ!なにとぼけてんだぁ!
「ま、まぁまぁ、とりあえず状況を教えてもらっても」
……歳上。こんな感じか。宵闇さんも歳上だけどなんかツクヨミさんは包容力があるというかなんというか。
はっ、いかんいかん。とりあえず三人に今のところの状況を説明した。
「社長がやってくれてるんですね」
「えぇ。その辺は流石なのよ」
非常に悔しいけどね。あの見た目で本業でもないのにあれだけの力があるってのは反則よね。私なんて本業でほぼ毎日戦い続けてんのに本気の宵闇さんに一撃加えられる未来が見えん。
ホントに憎いくらい強いですよ。
「昔から憧れなんですよ、光子さんの」
「アッ!てめぇ!」
何勝手に人の個人情報バラしてやがる!というかそれ絶対に宵闇さんには言うなよ!恥ずかしいんだから!
あとガキンチョ呼びとか気に入らない部分があるのは確かだからな!
「へぇ〜現役のランク6にも憧れられるって、家の社長はどれだけ……」
「おい、話もいいがそろそろ来てるぞ」
「そういえばあれってどれくらいの強さなんですか?」
そういえばツクヨミさんはランク4だっけ。
そうするとあれは辛いかな?
「ランク6相当が混ざってるけど基本的にはランク5相当の魔物だよ」
「私が一番足手まといじゃないですか」
「いや、社長が行ってくるように言ったのは戦えると踏んでいるからだろう?」
そうそう。宵闇さんがその辺を間違えることは早々ない。
イレギュラー案件だけはどうしようもないけど、それ込みでもここにいるメンツなら大丈夫って踏んだんでしょ。なら問題ない。
「さてと、ウォーミングアップは行きの道でやらせていただきましたし最初から行けますよ」
……会長、戦えるのか。
いや、戦えるのは知ってるけど、ここで戦えるレベルなのか。
そういえばサラッと聞き流したけど会長を顎で使うって、宵闇さんは一体何をしたんだ……。
「さぁ、仕事の時間です」
スーツのタイを緩め、両脇からククリと呼ばれる刃がくの字についているダガーのようなものを取り出し両手で逆手に構えた。
構えた武器は確か……ククリだったかな。この人それで戦うの?珍しい。初めて使ってる人見たよ。近いものでマチェットナイフは見たことあるけどね。
「私たちも最初見たときは驚きましたよ」
「会長は近接をこなせる暗殺者だった」
ここまで見てきていた二人が私の様子を見て察して、ここまでで見たことの共有というかボヤキというかを呟く。
えっ、近接をこなせる暗殺者ってなに?アサシンなのに隠れてねぇじゃん。
疑問を覚えるのもつかの間、チラッと会長の方を見ると、文字通り言葉通りのことをしている会長がいた。
正面からゴリ押ししたかと思えば、消えてかなり距離の離れたところにいる魔物を暗殺し、それに気づいた魔物に対しては正面から切り結ぶ。
そんなことを繰り返して内側から混乱を広げながら食い荒らしていった。
「つんよ」
「私たちいらないよねってなりましたよ」
「あぁ、しかも上手いのがこちらに魔物を追いやってるんだ」
ホントだ。
弓を撃ちながら射抜いた魔物の動きを見て、その発言に納得と少しの畏怖を覚える。
正直、強すぎて笑えない。ひょっとしたら私と同等かそれ以上強い可能性だってあるレベルだ。
「……私たちもそろそろ加勢しますか」
「そうだな。早くしないとこの二人だけで全て倒してしまいそうだからな」
「私は後ろから撃ち続けるから好きにして良いよ」
「助かります」
「俺に援護はいらない」
……この子ホントに歳下だよね?
そう思いつつも二人を見送った。
・・・
さて、私はこの場で一番弱い。それを埋めるにはやはり、装備に頼るしかありませんね。
私は収納から社長からもらった短剣を取り出す。
私は武器を取り替えたり、投げたりして自分のフィールドを作ることを主体として戦う。
恐らくそこを理解している社長は双剣使いの私にあえて一本だけ短剣を渡してくれたのだとも思う。
……まぁ、特殊能力的なものはどう足掻いても片手で使えないから一本にして両手で使えって言ってるような気もしなくもないが。
「行きます!」
もともと使っていた剣を左に、社長の剣を右手で握り、魔物の群れへ突撃する。
シュパパパパっ
綺麗で耳障りの良い音を立て、そんな音とは裏腹に魔物は冗談みたいに細切れになっていく。
自分でも驚くくらいには切れ味が良い。
流石社長の作った短剣。
「それに加えて」
手前の魔物を蹴り宙を舞う。そして着地地点の魔物へすれ違いざまに一閃。その後すぐに覆いかぶさるように襲う魔物へ左手の剣を投げて眉間に刺す。
止まることなく槍を取り出し、周りの魔物を薙ぎ払う。
すると、そのタイミングで矢が飛んできて、その魔物たちを全て貫いた。
「凄すぎです……」
これがランク6。社長と同等の力を持つ冒険者ですか。
「本当に、やりやすいですね!」
倒しきれなくても、崩せば確実にやってくれる。
相手を両断できる武器がある。
それだけでどれだけ気楽に戦えることか。
「ちょっと楽しいです」
調子乗らないほうがいいのはわかりますが、やはり普段以上の事が出来るって楽しい。
「ふん、そろそろ終わりだな」
「みたいですね」
……というかサラッと言ってますが、シマミ貴方援護無しで一人で全部倒しきってるのは流石というかなんというか。
「まぁ、強いのは会長が全部倒してるからな。俺は気が楽だな」
ホントだ、強そうなのが遠くで次々と倒れてる。
「さっ、私は私でやることやりましょうか」
そんなことは私には関係ないし、気にしていたらきりがないので切り替えましょう。
私は残りの魔物に向かって走るのだった。
・・・・・・・・・・
後書き
すまんな、約70話ぶりの登場だよ、会長(多分)。
社長以上に忙しいんだから……えっ?そうでもない?そうなんだ〜じゃあ出演よろしく~ってことで登場!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます