第71話 合宿二日目。撃って、教えて、白の魔法。



 二日目。


 カメラ視点は私!昨日はユウナに取られてたからね!私がいかにちゃんと教えてるのか見せてあげよう!


「翔だよ!」


 ・

『なんでこの子開幕からドヤ顔ーなの?』

『私の教育がいかに正しいかを見せてあげるってさ』

『昨日そんなことを呟いてたよ』

『それで、どうなん?』

『わからん。が、心配』

『まぁ、ユウナより酷いことはないやろ』

 ・


 うーん、酷い言われよう。

 けど、今日一日あれば私のことを見直すはず!


「そうとなれば、早速行くよ〜」


「張り切りすぎて怖いんだが」

「うん、ちょっと何があるかわからないからやめてほしいかな」

「ま、まぁ、やる気があることは良いことですし?」


 そこの三人、聞こえてるぞ!

 あっ、私が見た途端、揃って目線を逸らすな!


「……まぁいいか。じゃあ、昨日は基礎的なものはしっかりしたよね。だから今日は得意な魔法を見つけよう〜」

「あぁ、だから私こっちに呼ばれたのですね」


 うん、クスリも今日はこっちに応援に来てもらいました〜。

 あっちも心配だけど、これやるからには一応こっちにいてもらわないと。


 ・

『なになに、どゆこと?』

『そんな危険なん?』

『ま、まぁ一応』

『説明誰かー』

『えぇ〜得意な魔法を見つけるときに、得意な魔法が暴発することがあります』

『苦手な魔法は暴発してもさして危険ではないが、得意な魔法は暴発するとホントに危ない』

『たまに魔法の暴発による事故も大半はこれ』

『へぇ〜』

『そうなんだ〜』

 ・


 昨日のうちに確認したけど、三人共自分の適性はわかってないらしい。

 魔法も誰だって全部使えるわけじゃない。

 全部まんべんなく使える人、というか私みたいなのもいれば、一つの魔法だけ使えるってことも、一つの魔法に特化するってこともある。

 だからそれはしっかりと知る必要がある。


 一応練習次第では割と誰でも基礎魔法くらいは使えるらしいけど、それすらも怪しい人もいる。ぶっちゃけるとユウナみたいな人だ。

 魔力はあるし魔力自体は使えるけど魔法は使えない、なんてことはざらにある。適性とはそれだけ大事なことだということだ。


「あ、そうだ、すっかり忘れてた」

「ん?どしたの?」


 急に何かを思い出した奴ちゃんが声を上げる。

 私の質問は無視して、収納から社長からもらった剣を取り出して、何か見せようとしているかな?


「ふんっ」


 ……えっ?刀身がモノクロに……あ、思い出したわ、ユウナとの配信でやってたねぇそんなこと。

 だから割と流したりするのはすぐできたのかこの子。


「これって何かわかるか?」

「……うーん、こういうのは見たことないからなんとも……クスリは?」


 振り向くと、手を顎に当てて考えているクスリが目の前まで来ていた。

 驚きたかったよ?ただビックリしすぎて思考中だったのもあってスルーしちゃっただけで。


「わかりませんが……光魔法くらいは使えそうな気がしますわね」

「それは私も思った」


 光魔法や闇魔法とかあるのか知らないけど、私はそういうのは使えないからなぁ……もしかしなくても社長なら知ってそうだよね。


「うーん、これを社長なしでやるのは、ちょっと……」


 ・

『なんだかわからないが色々と大変なことになってる模様』

『多分、これが適正なんだろうけど、これを使うのはどうなん?問題だと思われ』

『正確にはどうかるかわからないから慎重になってる感じ』

『モノクロなんて初めてみた』

『この二人がわからないってなると』

『やはり、呼ぶか』

『しゃちょえもーん』

『久しぶりに聞いたわそれ』

『みんなで呼ぼうか社長を』

『シャチョー!』

 ・


 とはいえ、昨日から社長を見てないんだよね。

 何かの仕事だと思うんだけど、副社長も知らないって言ってたから冒険者関連だと思うんだよね。

 そうなるとすぐ帰ってこれない可能性もあるからちょっとなぁ……


「うーん……試しに呼んでみるか」

「えっ?」

「社長っ!」

「面白そ!しゃーちょーー」

「そうですね、社長〜」

「奴ちゃん、貴女はしませんよね!」

「……お、おう」


 私からユキナ、林花が社長と叫び、困惑するクスリはまだ叫んでない唯一の仲間の奴ちゃんに縋る。

 その勢いに苦笑い気味に返答するが、多分、流れに沿って叫ぼうとしてたの私にはわかるよ。


 ……それにしても来ないな。


「来ませんね」

「ですね」

「えぇ〜留守か〜」

「まぁ社長は基本忙しいもんだろ」


 ちょっと残念。

 仕方なく諦めて、奴ちゃんを後回しにして進めるか〜と思ったとき、私は何かに気づいた。

 私の上あたりからなんか陰がかかってることに。

 そしてそれは少しずつ大きくなってることに。


「あれ?まさか」

「えぇ。気づきましたか翔。ちゃんと来てますよ」

「えぇぇ……」


 何の話だと三人はこちらに視線を向け、そのうち奴ちゃんがそれに勘付き、上を見上げ、それにつられて二人も見上げる。

 最後に私とクスリがわかってますよと顔を空に向ける。


「誰が留守だって〜〜!」


 やっぱり……というかなんか大きくない?社長。

 社長が空からバンジー(紐なしパラシュートなし)でこっちに、向かってきていた(落ちてきていた)。


 ずっどーーんっと音と激しい砂埃をたて着地。

 社長が現れた!しかも大人の姿!


「さて、お待たせ、仕事が立て込んでてね」


 ・

『まさか上から降ってくるとは』

『生身でフリーフォールするやつがあるか!』

『ちょいちょい、生身でフリーフォール強要する人がいるんだから安いもんだよ』

『そりゃそうやな』

『というか、何があった?』

『久々登場大人社長』

『しゃちょーーー』

『この裏側で一体何をしてたんだよ……』

『とりあえずお疲れ様?』

『ご苦労さまです!』

 ・


「それで?なんのよう?配信開いたら急に呼ばれて仕方なくジェット機から飛び降りてここに来たのよ?」

「「「「ジェット機から飛び降りて……」」」」


 うん、ツッコミどころも言いたいこともみんな一緒だね。

 けど、それについてはツッコミはいれないよ。


「と、とりあえず奴ちゃんの魔法の適正なんだけど」

「ん?」


 カクカクシカジカと。

 内容を伝えると珍しく動揺したような表情をするもんだから、ちょっと我々は不安。


「タイミング良いのか悪いのか」


 えっ、怖い。何タイミングって。大人のときにってこと?だとしたらどんだけヤバいのそれ。


「……うーん、ちょっと見る?」

「ちょっと見る?」


 えっ、何するつもりなの?


 ・

『嫌な予感』

『奴ちゃんの適正ってヤバいもんなの?』

『この悪寒が言ってるだろ!ヤバいもんだって!』

『もしかして社長最初からわかってて採用した可能性ある?』

『というかタイミングが良いって?』

『大人になったタイミングってこと?』

『やっぱりやな予感!』

 ・


「白の魔法、黒の魔法」

「ナニソレ」

「初めて聞きますね皆さんは?」


 クスリの問いに当然みんなで首を横にふる。

 そりゃ、私とクスリが知らなきゃわからんわな。


「解説すると、この二つは概念的な魔法なのよ」


 社長が言うには、この二つの魔法は通常の魔法とは異なり自然的影響、魔法的影響をデフォルトで全無視するものらしい。

 まずこの時点で防御不可とかいうのはヤバい。

 理屈はそれがそうなるという概念を叩きつけてるからだそう。うん、わからん。


「ナニソレ」

「翔さん、さっきからそればっかりだぞ」


 だって、そんなの私からしたらズルそのものだもん。

 例えタメが長かろうと当たれば確実にダメージ与えられる魔法なんてズルに決まってんじゃん!

 私の苦労の大半をそれで解決できるんだよ!


「とりあえず……九重ー実験台になれー」


 ・

 Ⅸ『嫌だ』

『ナイン……これ九重ちゃんのアカウントかよ』

『地味にヒデェこと言うなぁ』

『丁度いい的が欲しいってことか』

『強いことは罪やな……』

 ・


 当たり前だよ、誰が好き好んでそんなの良いなんて言うかな。


「せっかく次の特番の司会をやらせようと思ったのに」

「やるのだ!」


 ……好き好んでやるって言った人いましたね。対価のためとはいえ、自ら死にに来たよこの子。

 というかそれのためだけに命かけて良いの?


 ・

『知ってた』

『即落ち2コマかよ』

『綺麗だったな〜』

『誰も瞬間移動に関して触れない件について』

『流石同志』

『死ぬなよ、九重』

 ・


「とりあえず全力で防御固めよっか」

「……これは死なないのだよな!」

「大丈夫、ミスらないから」

「ホントだな!」

「当たり前よ。天魔魔法でもないのに失敗なんかするわけないでしょ」


 ……いや、待って、大人社長は出力が苦手どうのこうの言ってなかった?ねぇ、大丈夫だよね!というか天魔ってなに!

 そんなの気にしないし構いもしない、社長は頭上に円形を描き、何かを掴むような動作をする。


「「「っ!」」」


 そして、それを開いた瞬間、私とクスリ、九重ちゃんの三人は鳥肌を立て、思わず後ろに飛び退いてしまった。


 神々しい光が溢れそれは周囲の空気のようなものを取り込んで回転がかかり渦を巻いている。


「ヨイヤミさん、それを我に?」

「えぇ」

「……無理無理」

「じゃあ、行くよ」


 不味い不味い、多分あれ食らったら九重ちゃんでも死んじゃうよ!

 それくらいわかってるでしょ!どうするつもりなの社長!


「次回!九重死す!」

「誰が死すだぁ!」


 九重はどこからかベルトを取り出し、腰に巻いた。


『SET:Ⅸ Tail』


「『ホワイトブレス』」

「やばっ『クリスタルウォール』!」

「ちょっと社長!?この規模はヤバいわよ!『アイスウォール』『ウィンドカーテン』」

「反射全開プラス『フレイムウォール』多重展開!」


 三人はすぐさま二次被害を抑えるためにどんなものかも見る前に全力の防御魔法を展開させた。

 社長の説明も忘れて。


 ホワイトブレスと唱えられた光は空気となって霧散し、九重の前でダイヤモンドダストのように細かくキラキラと光を放った。


「えっ、ちょっ」

「あ〜吹き飛ぶかもだから気をつけてね」

「ヨイヤミさん!これ……」


 次の瞬間、光は全て同時に炸裂し九重を爆破した。


 ・

『デデーン』

『あぁ、あぁ……』

『同志ー!』

『おい!本当に大丈夫か!』

『みんなが全力で張った魔法全部すり抜けて意味をなしてなかったんだが!』

『防御無視って言ってたじゃん!』

『クソ技過ぎんだろぉ!』

 ・


 私たちは爆風から身を守るために手で顔を覆うがそれでもなお後ろに持ってかれる。

 あかんやつやこれ。


「こ、九重ちゃ〜ん!」


 爆風による砂埃は未だ晴れずその姿を確認できない。

 本当に、生きてる、よね?


 ・

『生きてる、生きててくれ』

『ヤバすぎる……』

『画面越しからわかる威力ってなにぃ』

『社長、アンタって人はっ』

 ・


「はぁ、調整ミスらないって言ったでしょ?」


 ものすごい呆れた様子で社長がボヤいた。


「し、じぬがどおもづた」


 爆風は止み、砂埃も晴れ、九重の声とともに五体満足で無事な姿が見えてきた。

 とりあえず


「「「良かった〜」」」

「ヨイヤミさん!あれ!ナインテイル使ってなかったらやばかったよな!」

「いやぁ〜ごめんね。怪我くらいはしてたかもね」


 いや、調整ミスらないんじゃないんかい。

 九重ちゃんに向けたのはちょっとくらいミスっても怪我で済むからなんだろうなぁ。


「それで、これが白の魔法なんだけど」


 ・

『その前に言うことがあるだろ』

『そうだな』

『さっきみたいに軽い感じじゃなくてな』

『解説は後でちゃんとして貰うが、それはそれだ』

 ・

 

 ……そうだね。ちゃんと謝ろうか。


 みんなでジッと社長を見つめる。もちろん無言でね。


「……悪かったわ。ごめんなさい」

「いや、わかっててきたから良いのだ。ボソッ(それよりも我にも後で教えて欲しいのだ)」

「えぇ、構わないわ」


 ……今ボソッと何かを言ってたけど、まぁ気にしない。


「でも、これでわかったかしら?」


 ……え。あ、あぁ。そういえばこれ奴ちゃんのために見せたやつだったね。

 当の本人もスッカリ忘れてたみたいで、小さく、アッ、っと声を上げてた。


「わかったけど、これ私らじゃ教えられなくない?」

「……そうね。社長、奴ちゃんの魔法は見てもらっても良いですか?」

「まぁ、仕事しながらで良いなら構わないけど」


 私とクスリはこれは教えられないのでさっさと社長に投げた。社長もそれは理解してるのでちゃんと了承してくれた。

 だけどその前に


「とりあえず、この辺片付けよっか」


 さっきの爆風で荒れに荒れた風景。

 流石にこのまま続けるのは危ないよね。


「はいはい。治しますよ〜っと」


 その後十分もかからず元の形に戻した社長は奴ちゃんを伴って少し離れたところに行った。


「……さて、続けよっか」


 ・

『この状況で続けようとか言われてもなぁ』

『なんというか、虚しい?』

『ここから普通の魔法を覚える二人』

『普通でえぇんや』

『頑張ってくれ』

『もう二人とも呆けてるやん』

『このあと続けるの?ってもう顔が言ってる』

 ・


 うん、リスナーが言いたいことはわかるよ。

 けどね、やらない選択肢はないんだよ。


「さっ、ここから何があっても些細なことだよ」

「その励まし方はちょっと違わない?」

「ま、まぁ、失敗も可愛く見えるって考えれば良かったとも取れますから」


 その後、しっかり二人には魔法を教え、魔法はちゃんと使えるようになりました。暴発はあったけど、あれと比べればと私もクスリも、撃った本人もリスナーも怖いくらい動じなかったよ。



「……我、帰っていいかな」


 約一名、存在を忘れられた子がいたのに気づいたのは、配信終了間際のことだったという。



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