第70話 真:合宿一日目。私、天魔なる一撃



 社長のいない社長宅。

 今日の配信は諸々の確認作業という感じで終わってしまったので盛り上がるところはそれほどはなかった。

 まぁ、投げられたり、刺さったり、回されたり、リバースしたりとそれなりに散々な目にあってはいたが。


「皆さん、一日目お疲れ様ですわ。特に紺金ちゃん」

「はい、お疲れ様です……」


 死にかけ(前進打撲させられた上でジャーマンスープレックスを決められて時間になった)の紺金はいつになく表に出るくらいの疲労を見せていた。


「ちょっとユウナ、やりすぎないでって言ったでしょ!」

「いや、そこまでやりすぎてないって。せいぜい最後のやつくらいで」

「それのせいで一歩も歩けなくなったんでしょう?ユッケちゃんもギリギリまで起きてこれなかったのですから」


 ちなみにユッケは終了一時間前に復活してかなりのスピードでまた投げられていたらしい。


「そういう翔とクスリはどうなんだよ。進んでんのか」

「私は基礎的なものを固めさせてるよ?明日にはしっかりできそう」

「わたくしは貴女がばかすか怪我させそうだから救護室から離れられなかったんですが?」

「くっ、分が悪いか」


 当たり前である。

 だがしっかり紺金に関しては成長しているのが目に見えてできているので怪我させるなとは言うがそのやり方をやめろとは微妙に言いにくい二人であった。


「三人の世界に入るのは良いんだが、こっち手伝ってくれねぇかな?」


 そんな三人に少し呆れた様子で声を投げかけたのは奴ちゃん。

 というか、今は食事の準備時間であり、奴、ユキナ、林花の三人は手を動かしている。

 ユッケ、紺金は疲れ果ててるため免除だ。


「あぁ、すみません。今手伝います」

「私は……皿でも準備しようかな」

「アタシは」

「「いや、大人しくしてて」」


 二人の反応でわかる通り、当然というか勿論というかユウナは家事全般割と壊滅的だ。

 料理なんか絶対に料理に手を出させてはいけないので出させない。


「えっと、何を作ってるんでしたっけ」

「素材から作るパスタです」

「結構楽しいわよ〜」

「なぜ素材から作るのかは知りませんが、せっかくの合宿です。そういうのも良いですわね」


 一応言うと、裏でメイドさんたちが色々と準備していることをここにいる面子は知らない。

 進捗状況はようやく形ができてきたところだ。このペースだとどれだけかかるか……。


「はっ!?」

「どうしましたの?ユキナちゃん」

「か、完成品がいつの間にか……」


 流石にそれでは食事ができるのは日付を跨ぎ兼ねないので、ここに完成品が置かれた。勿論メイドさんの仕業である。

 それをみんなで苦笑いして見ながらもありがたく使わせてもらうことにした。


「ソースは流石にできますわ」

「ソースっね……すみません」

「寒いよ奴ちゃん……」


 絶妙な雰囲気の中、林花はパスタを人数分に分け茹でる準備を、そして他三人はソース作りに取り掛かる。


 そしてそれから三十分後。

 かなり美味しそうなミートソースパスタが完成するのだった。



 ・・・


 さってと……あいつらは今頃飯でも食ってる時間かねぇ。


「原因が遠すぎるねん」


 今に行く階段に来てるが一向に湧きがやまない。

 このままだと、久しぶりに六十のボスとやり合うことになりそうだ。


「まぁ、湧きの数が減ってきてるからそろそろ止むとは思うが」


 ここまでの道のりは階段下って開幕ブッパの一掃、常時全方位に結界プラス無手の拳、ホンで移動は『アクセラレーション』。残った魔物も轢かれるか粉砕かの二択で殲滅してここまで来たわけだ。正直代わり映えしなくてつまらん。


「何が原因なのかねぇ」


 六十階にいるやつがとんでもなく強くなる、だけだと説明つかないから、統率能力を得た何かに進化したか?それともシンプルイレギュラーか?

 なんにせよ、そいつ倒せば終わりなら話が簡単で助かるわい。


「ん、そろそろか」


 一応、考え事とかはまとまった。

 丁度そのタイミングで階段は終わり、六十階に到着した。


「道はいつも通り作って、『アクセラレーション』で駆け抜ける〜」


 そうして十秒もかからずにボスがいる部屋に到着。道端の魔物は知らん。ミンチか灰だったから何のやつか知らない。興味ないし。


「さ〜て今回は誰かな〜」


 ボス部屋に入り、私は今回の敵となる魔物を視界に入れる。


「……なんだこいつ」


 そこにいたのは、私も見たことのない異形というべき存在が佇んでいた。

 イメージとしては、泥が固まって形作っている感じだが、人形なのか獣形なのかその形を流動体のように変え続けている。

 そのため大きさも変化し続けており、質量とかどうなってんだって感じだ。


「メ◯モンが変身を一生こすり続けてるってことか」


 違うがな?メ◯モンは変身したら変身し直せないからな?イメージというか分かりやすく言うならそういう感じってだけだからな?


「さて、冗談はここまでにしておいて、やりますか」


 そして私が初手でやるのは決まってブッパ!


「『キングコマンド』『クイーンコマンド』」


 今回は〜剣!


「『玉座粛清の剣』」


 巨大な剣を作り、振り下ろし両断した。

 んだが……


「ん〜〜増えた」


 両断されたそれ……それ、じゃわかりにくな。とりあえず異形の魔物でいいか。異形の魔物は両断され二つに別れたが、それで倒れることはなく、むしろ、その二つはそれぞれ動き出し、分裂とも言える事をした。


「厄介だな」


 この調子だと、どっちも一個体として動かしてんだろうから両方倒さないと駄目なんだろなぁ。


 とか、そんなことを考えていると片方が完全な人形に変わった。


「……なぜに?」


 さっきまで不定形で流動的に姿変えてたろがい!いきなり人形になられても困ります!……何も困らんけども。


「あ〜もしかしぃーて」


 自分から分裂しては分裂したやつが魔物の長ポジに変形して統率して、上に上がらせてたわけか?


「ふむ……面白いな」


 ということは本体もそういうことできるのにわざわざ不定形を保つのは……何かあるのかねぇ。

 まぁ、今変身してんのが本体の可能性もあるがな。


「だが、今回は仕事が詰まってるんでね。一撃で吹き飛ばさせてもらう」


 物理じゃ駄目よな。

 拳、剣、槍は駄目だから礫?それでも残りそうだな。


「玉座は基本魔法物理だからなぁ」


 武器や物質を軸にした魔法だからな。実は純粋な魔法って感じの魔法はない。というか、それすると危険だから分類分けしたっていうか。


「あんまり時間かけたくないし、仕方ない。確実なものでやろう」


 私としても余計な手間を増やされても困るから、一撃で木っ端微塵に、いや一瞬で木っ端微塵に消滅させる必要がある。


「だから、全力行くよ!」


 前に言ったことがあったろうか?

 私の玉座には上があるって。


「まずは『玉座解放の楔』」


 久しぶりの〜大人の私の登場です!

 この姿に変身したのは当然、その上の魔法を使うため。


「そして、行くわよ」


 両手を目一杯広げて、タァンっという音を響かせる勢いで手を合わせる。

 そのまま右手を上に、左手を下に伸ばし詠唱を始める。


「『エンジェルコマンド』」


 伸ばした右手の先が眩く白く光り輝き私の姿を照らす。


「『デーモンコマンド』」


 伸ばした左手の先から黒く深い影が足元を覆い、差し込んでいた光を飲み込み、照らす白と飲み込む黒で腰辺りからパックリと割れるように私を照らす。


「『天魔極光』」


 その名を言い放つと共に、光と闇は混ざり合い、無色とも虹色とも取れる色となり、その色は静かに、そして確実に指先へ集約されていき最終的にビー玉程度のサイズまで集約されていた。


「消えなさい」


 それを弾き、知覚できないほどの速度で異形の魔物に着弾し


 キィィィィィンッパァァァンッ


 白く弾けた世界は、異形の魔物を二匹纏めて有無を言わせず消滅させた。


 白く弾けた世界が晴れ、視界がもとに戻る頃には、ダンジョンの床も天井も含めて魔法の効果範囲はもれなく消失していた。



「ふぅ……久しぶりに使ったけど、流石に疲れたわね」


 この魔法は、玉座魔法という魔法の極地を軽々と凌ぐ、禁忌とも言われる分類の魔法。

 まぁ、私が作って私が使ってるわけだから、禁忌指定したのも私だけど、それほどの魔法だ。

 理たる天と魔の名を冠する魔法。

 その名も『天魔魔法』。

 防ぐことも逃げることもできない概念的に、物質的に命中したものを消滅させるものだ。


 ちなみに危険すぎて使うのはだいたい三回目。


「これを使わせてくれないことが多いからね」


 魔貫◯殺砲ほどためはいらんが、それでも詠唱も色々と準備がいるからな。

 今回はそれができて、一撃で消滅させられる大魔法が必要だったから使わせてもらった。

 ……別に玉座連打しとけばそのうちやれそうだったけど手間だし、残すと厄介なのでこれを使わせてもらった。


「それにしても、ちょっとやりすぎたわね」


 地面も床もまるまる消滅させてしまうとは。前はもっと広いところで地面は含まないでやったからなぁ。

 次からは気をつけよ。


「まぁ、ついでにコバエもやれたのはラッキーだったわね」


 さーて、か〜えろ。

 えっ?穴?知らない。そのうち治るでしょう。えっ?体?説明しなくても知ってるでしょう?多分。


 そのまま十秒もかからず光子ちゃんの前に戻り色々と驚かせたのは、ある意味いつも通りということだろう。



 ・・・


 俺は極国から派遣された尖兵。名前はない。

 このダンジョンでこの魔物の実験をしろと渡されたのだが、こいつは凄い、魔物たちの姿に変化し次々と群れを率いて登っていくではないか。

 素晴らしい、このままダンジョン外へ溢れてしまえば、日本は大変だろうなぁ〜。



 しばらく経った。

 なぜだ、ランク6というのは化け物か。いくら魔物が押し寄せても一向に倒れる気配も休む気配もなく倒し続けやがる。

 だが、ダンジョンには無限に魔物がいるんだ。時間の問題だろうよ。



 誰か来た。

 というか、なんか無茶苦茶な攻略をされながら魔物を減らされてるんだが?

 群れとか一瞬で一掃されて何もできてないが?

 というか、ここに来た……だが、この魔物は倒せない。無限に分裂し続ける、ある種不死身の魔物だ。

 例えこの女、宵闇が強かろうと倒すことは不可能だ。


 どうだ!貴様の自慢の魔法もこいつの前じゃ無意味だ!

 ……えっ?大きくなった。

 ……えっ?なんか白黒光りだした。

 ……あっ、やべぇ(ピチュン)


「ついでにコバエもやれたのはラッキーだったわね」


 人知れず、理解もできず、静かに暗躍をしていた一人はこの世から消え去ったのだった。




・・・・・・・・・・

後書き


もっと早く終わらせるつもりだった。

同僚との話で盛り上がりすぎて、帰りの電車すら危うい時間まで話し込んで……うん。楽しいし盛り上がるのは良いけど、それはしっかり時間を確認しようねと再確認した日だったぜ。


さて、天魔魔法を使う日が来た!

もう、使いたくて使わせたくて堪らんかった。というわけでお披露目として使わせてもらいました。

それじゃあ次回二日目行ってみよう〜



……予定というかネタバレというか、ヤマカズ君とツクヨミさん、そして一応初登場になる一人を次回の裏で活躍させる予定です。

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