第69話 裏:合宿一日目。私、面倒事の処理



 合宿のオープニングを撮り終わった後、私は一人久しぶりに冒険者協会支部へ来ていた。


 九重やゼウスたちの案件に関しては、どうにもできない案件なので、イレギュラーの同時発生によるイレギュラーという形で幕を下ろすことになったらしい。

 ゼウスのことを機密にすればなんとかなるってことでそこは機密になった。

 正直、説明できないし、私だって理解できないものに理由付けも回答を求めるのも無理ってもんだ。

 だが、わからないは駄目なので、適当に理由をつけることになったってだけだ。


 それで、今日協会に来たのは、イレギュラーの件ではなく、黒鷲の件である。


 襲撃者は何度かに分けて移送させてもらった。

 一人目は普通にやって殺害されたので、二人目以降は私の方で護衛をつけて移送したら返り討ちにしたので、無事に移送できた。

 取り調べまではなんとかこぎつけたが、流石に襲撃者側にそこまでの情報を持ってるやつは多くはなかった。

 持ってそうなやつも一人はいたが真っ先に自害したそうだ。

 まぁ、それすらも自害かどうかは怪しいが。

 逃げられたってことはなかったので、それは良かった。


 結果的にわかったのは、極国という国の暗躍だった。


 極国というのは、日本の西(正確には西南西)に位置する国。極中我親(きょくちゅうがしん)国という名称の国であり、日本を使って他国に侵略したい国の一つだ。

 ついでに言うと、日本のダンジョンに対するやり方を真似しようとして失敗した国でもある。

 理由として、極国はもともと、独裁政治をしていた国でダンジョンができた際はドロップは国に格安で納めよって言ったわけだ。

 いつもならそれで良かったが、相手の民は武力を手に入れていた。当然それに反抗し、より高く買うと言った大企業にそれらは流れ、結果、国の資産や保有戦力を大企業が上回り、立場が逆転し、無事お飾りの王、国民が統治する専制国家ってやつだったかな?になったわけだ。


 要は独裁政治をしていたら民が力を手に入れて反逆してきたってこと。

 そうなれば、本当に力が全てみたいな国に早変わりってわけだ。


 よくもまぁそこまで鳴りを潜めてたなぁって思うよその大企業。

 まぁ、そこから侵略しようと仕掛けた理由は私にはわからんので割愛。


 兎にも角にも、そんな国が今回暗躍していた。


「力こそが正義なくせに、なんでそう暗躍するかねぇ」


 私としては、真正面から仕掛けてくれたほうが嬉しいんだが。わかりやすいし、返り討ちにできるし。


「私に言われてもわかりませんよ」


 と、ここまでの愚痴は独り言じゃないぞ。

 ちゃんと支部長の報告を聞いて浴びせるように出たやつだぞ。


「で?その報告のためだけに呼んだわけじゃないだろ?」

「はい。ここ最近、またダンジョンの様子がおかしいようなんです」

「は?最近も見てきたがそんなことはなかったはずだぞ」


 実際、ここ最近は前の倍以上の頻度で潜ってるわけだからな。翔と潜ったところまではちゃんと確認していて見逃すことも今更ないはずだ。


「いえ、そちらではなく、南のダンジョンです」


 日本に四つのダンジョンがあることは言ったと思うが、それらには名前とかはないが、だいたい位置を名前で呼んでいる。

 北、南、東、中央。西はない。


 日本の最北端に近いところに位置する北のダンジョン。

 反対に最南端の海の上に現れた南のダンジョン。

 最高峰の山の麓にある東のダンジョン。

 そして都心のど真ん中に現れた中央ダンジョン。


 私たちがいつも潜ってるのは中央ダンジョン。私が担当しているのもそこな訳だ。

 基本、その担当以外のダンジョンに行くことはないのだが……


「南……確かガキンチョが担当しているとこだったか?」

「ガキンチョって……彼女はもう立派な大人ですよ」


 いつまで経っても私の中ではガキンチョなの。


「知るかよ。で?あいつが泣きつくくらいの何かがあったのか?」

「はい、ちょっと六十階層辺りから魔物が登ってくるって……」


 ちょっとじゃねぇじゃん!


 ダンジョンのシステムは基本全てに共通している。強さも私たちの基準と大差ない。

 仮にでもそんなの登ってきたらランク5以外は即死、いやランク5ですら危ないだろ!

 最悪、ダンジョンの外に出れば、話は一気に変わってくるぞ。


「というか、魔物って集団で登ってくんの?」

「わかりませんよ、そんなことぉ」


 情けない声。けど、実際胃が痛そうだなぁ。

 それにしても、そんなこと今までなかったけどなぁ。


 私の中で魔物ってのはダンジョン内システムの一つだと思っている。

 一つ一つにプログラムがされてて、その上でたまにバグって一匹二匹が階層を超えて上がってくるなんてことはホントにたまにある。

 それに怯えて連鎖的に他の魔物も上がることはあるが、プログラムがそうさせてるのか、それは大抵最低限の規模に抑えられる。……ボスが逃げ出すことがなければ大抵そこで止まるし。


 スタンピードなんて概念が存在しないのもこれが原因だな。

 海外でもイレギュラーを除けば外に魔物が出た記録はない。……まぁ、出そうになってもそれぞれの国の人間がしっかり倒してるからってのもあるが。

 私がイレギュラーをしっかり処理しているのもそれが原因かな。


 例外として、冒険者を追って出てきたことはあったらしい。


 ともかく、自主的に魔物が上に上がってくるなんてことは基本ないはずだ。

 それが上がってくるって事自体がイレギュラーだ。

 しかも今回はランク6が相手する世界の魔物だ。


「流石に今回は助けてやったほうが良いか」

「一応、これも黒鷲関連かもしれないので、調査を含めやっていただければと」


 あぁ〜そうだったな。

 これが仮にそれ関連で、かつ極国が裏で引いてたら一度話し合いに行かないとな……。


「わぁったよ」

「では、ジェット機を用意してますのでそちらへ」


 あ〜夜までには帰らないとなぁ〜合宿してる子たちがいるのに留守にはできないからね。

 ……いや、九重に連絡して一緒についてきてもらえば……やめとこうか。あいつ今仕事で手一杯だったわ。


「わあったよ、さっさと案内しな」


 というわけで、今から南のダンジョン行ってきまーす。



 ヒューーーン



 はい、つきました。南のダンジョン。


「一応聞くけど、どれくらい経ってる?」

「彼の救援要請から二日ほどです。それから一度もダンジョンからは出ていないそうです」


 まぁ、頑張ってんのかね。

 生死の心配はしない。疲れたり怪我とかはしても、ランク6が簡単にくたばる事はない。

 それだけ人外なのだから。


「じゃあ、サクッと間引いてくるわ」


 早速ダンジョンに潜り、雑魚は私を見ることもできずに素通し、ボスは無視、時々私の道に立ち塞がるやつは物理的に轢き逃げ。

 そうして、三十分ほどで件の階にやってきた。



 ダンジョン内は普段のダンジョンと大差なく、出てくる魔物は違えど、強さにさほどの違いはなくどこのダンジョンだから簡単や難しいとかはない。


「さってと〜ガキンチョは〜」


 周囲に目を向け、キョロキョロと見回す。

 すると、丁度階段の前辺りで戦う姿が見えた。


「見つけた、ガキンチョ」


 その子の前に近寄り、とりあえず寄ってきてた魔物を腕を一振りして全て炭にしてから声を掛ける。


「よっ」

「あっ、えっ?……宵闇ぃぃぃ!」


 一瞬何が起きたか理解できなかったのか呆けていたが、私の姿を視界に入れるなり状況を飲み込み、若干の嬉しさのこもった鳴き声で私に抱きついてきた。


「ったく、ガキンチョはいつまで経ってもガキンチョだなぁ」

「うるさいです、ガキンチョ言うなし」

「はいはい、光子(ひかりこ)ちゃん」


 改めて、彼女は光子。クラヤミ 光子。

 綺麗な金髪と完璧ボディーを持つ女の子で、御年27歳。

 ランク6で弓を獲物とした戦いをし狙撃から近接まで何でもござれの強さをしている。


 十年前からの付き合いで、クソガキの頃しっかり叩きのめしてからは色々とあり普通に友人である。

 この見た目からファンも多く、ダンジョンの絶対無敵のアイドルなんて言われたりもするが、本人は全力で否定中。

 何故?アイドル的な仕事をしている私に遠慮(畏怖して)してるから名乗りたくないとのこと。

 まぁそれくらいは好きにすりゃいいけどよ。


「んで?どんな感じ?」

「全然勢いが収まらない。ずっと倒し続けても減らないし、今は通路で制限してるから良いけど、奥の方は正直私だと危ないかな」


 ほう、そんくらいの数が固まってるのか。

 とりあえずこの階の分は全部倒して見て様子見しようかな。


「おけ、じゃあこの階の分は今から吹き飛ばすね」

「あ〜この感じ懐かしい」


 左手で銃の形を作り、ここから通路の奥、その奥にいる魔物の集団に照準を合わせる。


「バンッ」


 チュンッっと閃光のような光がほんの一瞬だけ私の先で光ったと思えば、次の瞬間には通路の奥からドカドカドカドカとすんごい音が聞こえて、最後にはドォっかぁぁぁんなんて特大の爆発音が鳴り響いた。


 奥から凄まじい風が煙と共に押し出されてきて、軽く顔を覆いつつ、奥を見つめる。


「こほっこほっ。さ、流石宵闇さん」


 光子ちゃんは今ので奥にいた魔物共が吹き飛んだことを理解し、私もそれには同意なので上げていた腕を下げる。


「さってと、これでしばらくは大丈夫だけど、まだ下の方は駄目だね」


 さっきの攻撃はあくまでこの階の魔物にしか届かないものだ。

 下の階にもいるであろう魔物には届かない。


「どうします、宵闇さん。私は倒しにいかないとですが、宵闇さんは仕事があるでしょうし」


 まぁ、あるな。うん、ここ最近は溜まりがちの仕事はな。

 でもまぁ、今は会社で夏休みを作り出すための期間として仕事を減らしたり一部業務は休止させてるからな。

 なにせ、何人かは合宿中だからな。普段通りの業務なんかできるかってな。


「まぁ、これも仕事だからやらんとなぁ」

「じゃあ、一緒に行くってことで」

「いや、私一人で行くけど?」


 だってそのほうが早いし、私が本気出せなくなるし、そもそも私の見立てだと私ですらちゃんと戦うような階層までいかないといけなさそうなところに何かありそうだからね。


「ついていかせてください」


 言い直すな、ついてくるな、何も意見は変えんぞ?


「や」

「こっちも仕事なんですから」

「邪魔」


 邪魔になる可能性があるんだから、連れてかない。そこは曲げないからね。

 というわけで大人しく帰ってもらいたいわけ。


「……むぅ、じゃあここで待ってます」


 聞き分けが良くてよろしい。


「さってと、行きますかね」


 チラッと時計を見ると、今からどう頑張っても夜までに帰るのは無理そうだな、なんて思いながら私は下の階へと足を進めた。



・・・・・・・・・・

後書き


台風のせいで色々と前倒しで仕事してたのに結局こなくて気を抜いたら疲労で倒れた……。

更新頻度が落ちて申し訳ない。多分やることやったんでしばらくは予定通りに更新できそうです。



というわけで、合宿は一日を計三つに分けてやろうと思います。

表、裏、真。この三つですね。

表は合宿、裏は社長、真は両視点(かつ配信外)という感じで。


あ、あと国の設定は後々変える可能性があるので変える場合はその時報告します。

元独裁とか力こそ正義ってところは変えないけど、自分の理解度問題や他二カ国(というか本作品に置いての世界観)で修正しないといけなくなるということです。


なので、もしこれおかしいよ〜とかあれば直しますので遠慮なく言ってもらえると助かります。

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