第68話 合宿一日目。それぞれの方針。

 Side:紺金



 社長は仕事とかあるんで〜と言って家、いや屋敷の方に戻っていった。

 私は、もらった盾を眺めながら、使い心地を試していた。

 まだ重いし、思うように扱えないが、一つだけ持っただけでも上がるものがありました。

 魔法です。魔法を使おうとするといつもよりも早く、そして強くなりました。

 なので、これだけでもお釣りが来るレベルのものです。前のものはどれだけ押さえて作られたものなのかを知り、社長の腕に畏怖してしまいました。


 さて、私は何故一人語りをしているのかと言うとですね。


「わきゃぁっ」

「おらぁ、ちゃんと受け身とれぇ!」

「ひゃ、ひゃい!」


 ユッケがちょっと嬉しそうにユウナさんと組手(一方的に投げられてる)をしているからです。

 クスリさんは少し準備があるからと準備中であり、私は言ってしまえば暇なんです。


 ・

『いつぞやで見た光景やなぁ』

『これ見てると、いかに奴ちゃんが異常なのか理解できてしまう』

『あっ、またモロに落ちた』

『今、回復役どこ?』

『社長不在、クスリ準備中につき動けない』

『つまり、そんなのいないと』

『一応、紺金はいるぞー。確かつかなかったはずだが』

『気をつけろ〜』

『ちょっと笑ってるのがユッケちゃんが1部組を尊敬してるというか大好きなのが伝わるね』

『絵面はちょっと変態チックなのが残念だけどなww』

 ・


 正直、あれで意味があるのかはわかりませんが、私はお断りさせていただきたいですね。攻撃を受けるっていう性質上、掴み投げはちょっと苦手なので、一方的に痛い目みそうなのはわかってるのでね。


「ぐへっ」

「あ〜やっちった」

「ゆ、ユッケ〜〜」


 棒読みなのは自覚してますが、投げられて受け身失敗頭から地面に着地して痙攣して刺さってるのは流石に心配しますよ……。


「あれ〜なんか酷いことになってる……」


 と、そんなところにユキナと特訓しているはずの翔さんがやってきた。


「あ〜翔、悪いが治してやってくれ」

「だよね……とりあえず引き抜いてあげな」


 全く持ってその通り。そうだったとボヤいてからユウナさんはユッケを引き抜き横に寝かせた。

 そこに翔さんは回復魔法を行い、安静のためにユウナさんがそのまま救護室へ運んだ。


 あ、こういうことを見越して社長はあらかじめ救護室を準備していたらしい。

 ホントに助かります。


 ・

『早速救護室送り一名』

『可哀想に』

『まぁ、ユッケちゃんなんだか嬉しいそうだし』

『幸せそうだからよし』

『これに反省して、今度は手加減ちゃんとしてよね』

 ・


「おう。ちゃんと手加減するよ……」


 ホントですか?信じますよ、次私ですからね?ホントに、ホントにお願いしますよ。


「あ〜どうしよ。三十分くらいしたら見に来よっか?」

「お願いしますっ」


 食い気味に懇願するように翔さんにお願いする。

 ユウナさんへの信頼とかないのかって?ない。あるわけがありません。

 だからお願いします!


「う、うん。わかったよ。まだ余裕はあるし良いよ」

「ありがとうございます、ホントに」

「悪いのはアタシだってわかるけど、なんか悲しいぞ……」


 黙ってください、悪いのがわかるなら直してください、信用ないのは日頃の行いです!

 ……とは流石に言えませんね。

 先輩なので尊敬もしていますが、それとは別にこの辺に関しては信用できないので。

 ……決してユッケがあんなにされてるからとは言いませんよ。


「じゃあ、そっちも頑張ってね〜」

「はい、このあとよろしくお願いします」


 ・

『紺金必死で笑う』

『先輩に対しても辛辣ですね?』

『珍しく感情を見た気がする』

『流石に身の危険となるとこうなるんかねぇ』

『というかユッケちゃんがやられたことに対してでは?』

『え?』

『同期に対しては慈母のように接してるからな紺金ちゃんは』

『だとしたらてぇてぇなのか、これ』

『保身はあるだろうけどな』

 ・


「では、本当に、よろしくお願いしますね」

「はいはい。ちゃんと危なくないようにやるから」


 信用していいんですよね。ではやりましょう。

 武器はなしで、素手。

 一応投げられたり掴まれたりするわけですからその辺の武器は邪魔になります、というか危ないです。


「おっし、じゃあいくどー」

「っ!あっ……」


 くるっ、って構えた直後、すでに私は空を舞っていた。

 自分でもいきなり過ぎて情けない声を出してしまったと思う。


 さて、空を舞っているけどどうしよう……とりあえず受け身取る?いや、普通に着地するか。


 ドォォォン


「着地」


 両足を揃えて綺麗に着地。

 体操の人みたいにできた。


「いや、そりゃねぇだろ」

「私、素で硬いから盾持ってるわけですし」

「そういやそうだった」


 ・

『流石というかなんというか』

『驚いたりしたのもほんの一瞬だけって』

『着地した音エグいのに何の被害もない紺金やべぇ』

『そういやこの子素で硬かったの忘れてたわ』

 ・


 まぁ、着地できたとは言え、投げられるのを防ぐことはできませんでしたから、私的には三十点かな。


「よし、次お願いします」

「やらねぇよ?」

「えっ?」

「これはあくまで耐久力や対応力を見るやつで完璧に対応したから必要ないだろ」


 確かに……


「それでは次、お願いします」

「……」


 それでも投げに対応できなかったのは悔しいのでもう一回お願いします。

 そんな目線でユウナさんを見る。

 しばらく私を見て、ため息をついて頭を掻き、仕方ねぇと呟く。


「わぁったよ、行くぞ」

「ありがとうございます」



 それから、何十回ほど投げられながらも予測と慣れでなんとか投げられる前に対応できました。

 満足です。



 ・・・


 Side:翔


 あっちの方は大丈夫かな。

 カメラも回ってるし無茶苦茶はしないと良いけど、ユウナのことだし何かしらやらないはずがない。

 けど、私も私でちゃんとこっちを見ないとね。


「おりゃぁっ」


 私はこっちで奴ちゃん、ユキナちゃん、林花ちゃんを対応している。

 なんで私が、担当か?余ってるからだよ。

 あとクスリが救護室の準備して、そっちを担当しているからだよ。


 というわけだから私は魔法を、主に身体にかける魔法を教えようと思う。


「と言っても使えるかどうかは素質だけどね」

「それ言われるとちょっと心配なんだけど」

「そうねぇ〜」


 心配無用だよユキナちゃん、林花ちゃん!

 できなくてもちゃんと別の場所で生きるものだからね!


「あのぉ!私は無視しないでくれますか!?」

「あはは〜無視してない無視してない。ちゃんと見てるって。ってわけだから奴ちゃん、もう少し力抜いてみよっか」

「……はいよっと」


 信じてないな?私、これでも魔法の使い方は社長よりも上手い説出てきてるんだからね!

 最近見てて思ったけど、社長の魔法は割と大雑把で高出力でゴリ押してる。

 もちろん、玉座の魔法は私にさえ真似できないほどの高等技術だけど、扱いだけなら恐らく私のが上。

 技術も知識も社長には負けるけど、繊細さ使い方ほ私の方が上だと結論に至りました。


 だから大人しく私のこと信用しなさい!


「それで、私は何をすれば良い?」

「ユキナちゃんはまず武器に魔法をつけることをやってみよう」

「わかりました!……それで、どうするの?」


 ……ユキナちゃんとやってると立場がいつもと逆な気がして違和感を覚えるんだよなぁ。良いんだけどね。


「まずは基礎的なものから行こっか」


 時間はたっぷりあるんだ、丁寧にしっかり教えてかないと。



 ・・・


 Side:クスリ


 わたくしは開始してすぐに救護室の準備のために設けられた部屋の整備をしていました。

 ある程度の準備はできてましたけど、すぐ使いそうなものは早めに取り出しておいたり、救護する側にしか分からないようなものを、ですわ。


「クスリ〜」


 この声は、ユウナ。

 ……やったのですね?


「頼むわ」


 担がれてきたのはユッケちゃん。

 回復はされているので、多分たまたま通りかかった翔がやったのでしょう。


「はぁ。気をつけなさいよ?救護室なんて使わないほうが本来良いんだから」


 ……あれ?もういませんわ!


「しょうがないですわねぇ。不足箇所とかは……ないわね。安静に寝かせておきましょうか」


 外傷は治っているので、気絶しているだけ。……幸せそうなのが気になりますが、まぁ、安静にしていれば問題はないでしょう。


「翔の方は大丈夫だと思うけど、紺金ちゃん、大丈夫かしら」



 結局、その日はユッケちゃん以降は運び込まれることはなく、ユッケちゃんが起きたところで一日目の配信は終わりの時間を迎えました。


「……あら、そういえば社長はどうしたのでしょうか」



 ・・・


 さってと、あっちの方も特に何もなく、進んでるようで安心した。


「そろそろ私も帰りたいんだがなぁ」


 そう呟く私の目の前には大軍勢のような数で押し寄せる魔物の大軍があった。


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