第66話 翔、まだまだ強くなる。私、まだまだ余裕


 先程パーティウルフを撃破したところまで戻ってきた私たち。


「さ、進むよ」


 この先には間違いなくパーティウルフよりも危険なのがいるが、それでも私がいる限りは問題なんてない。


「その、背中から撃たないでよね!」

「撃たねぇよ」


 が、その私に背中を見せたくないように、チラチラ私に意識を向けてしまっているのが今。

 正直申し訳ないわ。

 流石にちゃんと集中してほしいが、やってしまった私としてはあんまり大きくは言えない。


「ほら、前見ろ。集中しろや」

「わかってるって……」


 とは言いながら私の方に一定以上の意識を向けるもんだからしょうがない。


「はぁ……しょうがねぇ。ノルマを課すからそれをこなしたら一つだけ、その倒した魔物の報酬で叶う範囲なら叶えてやる」

「えっ!?ホント!?」

「……碌でもない事ならやらねぇけど、普通に常識の範囲なら良いぞ」

「やたーー!チョーやる気出てきた!」


 調子の良い奴め。

 だが、良いだろう。こいつのことだ、どうせ私を巻き込んで何かやるんだろ?いいよ、今回は私が悪いし。少しくらいなら付き合ってやるよ。


 ・

『チョロいが代償を払う社長は大変そうやね』

『俺たちも同罪とはいえ、俺たちは美味しい思いをしそうだねぇ』

『あからさまに元気になりやがって』

『だがこれが翔って感じやな』

 ・


 はしゃぐ翔を横目に静かにため息をつきながらも私たちは前に進む。


「お、出てきたぞ」

「今度は……トカゲ?」


 遭遇したのは、5メートルはあるかというほど大きいトカゲの魔物。

 情報なしは危ないので、ちゃんと聞かれる前に答えますよ〜。


「こいつは毒々ト影」

「えっ?なんて?」

「毒々ト影」

「名前?」


 名前だ。命名者は知らんから文句の言いようはないが、正直まんまな名前をつけたなって最初見たとき思ったよ。


「こいつの武器は猛毒を全身から浴びせてくること、そして影に逃げ込むことができることだ」

「名前通りだ……」


 ・

『名前考えるの面倒になったんかな?』

『かもな』

『命名したのって誰?』

『知らん。というか命名って誰がするの?』

『見た目は大きいだけのトカゲなのに』

『だけど、言ってることはヤバない?』

『猛毒だけでも面倒なのに逃げ足早いってこったろ?』

『しかもあの体格的に力が弱いわけないからな』

『近い魔物としてスルーウルフに毒をつけたってイメージか?』

『陰キャ戦法かよ』

『戦いたくないないですね……』

 ・


 反応通り、こいつは雑魚敵として厄介すぎる。

 影に逃げ込まれると物理も魔法も届かない上に食らったら致死になる毒を全方位好きなタイミングで投げてくるわけだからな。

 もちろん、指摘されてる通り力も強い。

 乗りかかられると毒で衰弱しながら弱ったところをぺちゃんと圧殺されるなんてこともありえるわけだ。


「さて、まずは様子見かな」


 風を巻き起こし、自分を守るように纒わせる。


「毒は絶対に受けない、押さえつけられない、この二つ意識で、様子見かな」

「まぁ、そうだな」


 さて、どうなるかな。

 こいつは五十階のボスよりもヤバいからな。まぁ、まともに戦うと五分ってところか。


「『ウィンドエッジ』」

『ギャ』

「硬っ!?」


 先制して放ったウィンドエッジは皮膚に当たって霧散、もちろん無傷。


『ググッ』

「っ!」


 体を縮こめて、鳴き声と共に、毒を全方位にばら撒く。

 私はとりあえずカメラを守るためにも結界を張って防ぎ、翔は動きから察していたのか風のバリアの出力を上げて防いでいた。


「っぶなぁっ!」

「ちゃんと防げてるな」


 ・

『うゎぁっ!』

『いきなり来たぁ』

『カメラ目線、怖すぎる』

『これが社長の目線、怖い』

『お、おい、地面が溶けてる』

『そんなもん食らったらひとたまりもないぞ!』

『マジで気をつけてくれ!』

『あっ、社長、毒のせいで視界悪いです』

 ・


 えっ?マジ?

 ……確かに毒のせいで結界がちょい濁って見えにくいな。


「ちっ、カメラ目線は面倒だな。ほれ」


 パッっと画面が切り替わるように結界が消え、ついでに私の方に飛んできていた毒も消えて、その上で再び透明なバリアのようなものが薄っすらと見える。


 ・

『流石に仕事が早いですね』

『くっきり翔が見えますね』

『あっさりやってるけど周囲の毒も全部消し去ってるのヤバない?』

『気にするな』

 ・


「そういうことだ。ほら翔が動くぞ」


 言った側から翔は地面に足をつけないようにいつもよりも高く飛び、ト影に接近する。


「『ウォーターショット』『クリスタルランス』」


 エッジが効かなかったことから、斬撃系は効きが悪いと判断し、打撃と突撃が効くか試すためにその二つの魔法を放つ。


 結果はウォーターショットは霧散して効果なし。クリスタルランスは先端が少し刺さった程度だった。


「一点集中で貫通狙い、かな」


 ボソッと呟いていた通り、一応ト影は衝撃に強い皮膚を持っている。

 だから面で強いものは効きにくいので点で強くしなければならない。私の場合はそんなん関係なくパンチだが、普通にやるのならランス系が適正だ。


「そうとわかれば問題ない。オーロラも効くってことだし、逃げれないようにすることだけ意識すれば良いんだから」

「さて、どれくらいかかるかねぇ」


 ・

『悪い笑みやなぁ』

『危なくなったら助けてくれるけど、それ以外じゃ口しか出さないからな』

『手を出したら一瞬やんけ』

『これほどの緊張感のないダンジョン攻略ってあるだろうか』

『翔、がんばえー』

 ・



 ・・・


 倒し方は決めた。

 あとは影に潜るってやつを見ておきたいかな。


 トドメのタイミングが初見になって避けられるなんて洒落にはならない。

 だったら早めに見ておきたい。


「『ファイヤアロー』」


 火の弓を作り、わかりやすく火花を散らしながら派手に弦を引く。

 今から大技行きますよアピールだ。実際は演出だけで普通のものなんだけど。


「ふっ」


 大げさに弓を放ち、矢はト影に一直線で向かう。

 それに反応してト影は地面を一度強く叩き、そうするとト影の足元の影は大きく広がりト影はその中に吸い込まれるように消えた。


「なるほどね、そういう感じか」


 となれば、結局いつも通りスピードモード頼りか。

 この魔法本当に強いんだなってここ最近謎の実感を得てる。まぁ、その分リスクが大きいから乱発はしたくないんだけどそんなこと言える相手でもない。


「今回は先に下準備かな」


 魔法を放っても避けられたらスピードモードの無駄遣いになってしまうから、今回は魔法を完成させてから走ってぶっ放す。


「圧縮融合……よし、行くよ『スピードモード』!」

『ギョッ』


 ドンッ


 私がスピードモードで仕掛けることに対し恐怖を覚えたのか、先程のようにすぐさま地面を叩き、影へ逃げようとする。

 しかしそれよりも大きな音が響いた。

 もちろん、私の踏み切った音だ。


「連結、ランス」


 影へ逃げ込もうとするその背後に私は移動し、手を胴体へ向けた。


「『オーロラシュート』」


 通常のオーロラブラストよりも小さく圧縮された弾丸状のオーロラがト影を貫いた。

 その後すぐに元いた位置に戻る。


「『オーバーフロー』……これでどうよ」

『ゲギャッ……グベベベ』

「うひゃぁっ!?」


 貫かれたト影はその場で痙攣し、体内にある毒を全部ぶちまけて倒れ伏した。


「置き土産がきもい!『クリスタルウォール』」


 距離を取っていたことからすぐに防御が間に合ったから良かったけど、置き土産が最低すぎる。

 確かに、やる前にもしかしたら毒を吐いてくるかもとは思ったけど、軽く雨が降る量の毒を残していくとか……


「と、とりあえず撃破!」

「はい、お疲れさん」


 ・・・


 少し手間取った、というか大技に頼り過ぎっていうか。

 倒せたからまぁ良いが、こいつがこの辺の雑魚ってことを考えるとまだまだ成長の余地ありって感じだな。


「はい、お疲れさん」


 ・

『おつかれぇ!』

『流石だ!』

『最後の残りっペは酷かったけど、流石だよ!』

『これが、ランク6の戦う世界か……』

『信じられん。これが道中雑魚だと……』

『これが人外領域ってことだ』 

『でもそこで少しは戦える翔は流石すぎる!』

 ・

 

「んで、どうだ?」


 もちろん、戦ってみてどうだ?反省点は?って意味だぞ。


「一匹だから良いけど、複数相手になると常に防御張らないと行けないから、正直うざい。貫通力の高い魔法じゃないと効かないってのも厄介だね」


 そうだな。貫通力については何も言わないが、複数相手については今の翔なら逃げるしかないだろうな。


「反省点って言うか、その辺は、やっぱり大技を使いすぎって感じだね。正直ここに来てからスピードモードに頼り切ってる気がするし」

「本来切り札に該当するもんを連発はその通り良くはないな」


 わかってるなら良いんだ。

 というか、翔に関しては言わなくてもわかってるだろうよ。けど一応聞いとかないとな。


「んじゃ、あれは勝てる?」


 親指で倒したト影の奥から湧いて出るように現れたト影の大群を指す。


 ・

『なにあれ……』

『あんだけ強いのが、群れで……』

『信じられん』

『これがメタル◯ウラの絶望か』

『逃げるんだぁ、勝てるわけがない!』

『本当に雑魚敵なんだなぁ』

『ヤバい光景なのはわかるんだけど、通路のサイズ的に蟻の行進みたいなの笑う』

『言われると見えてきてしまう……』

『蟻じゃねぇし、トカゲだし』

『トカゲじゃねぇよト影だよ』

 ・


 言われて目線を向けて、それを見た翔は、少しそれを眺めて私に振り返り、良い笑顔を作って


「無理に決まってんだろ」


 珍しい強い口調でそんなこと言った。

 私もわかりきってたことなので、素直にだよなぁと呟く。


「じゃあ、私がやるか」


 ・

『あっ、なんだ。いつものか』

『知ってた』

『この人、やっぱおかしいっすよ』

『まだ何もやってないのにこの盛り上がり……』

『流石です社長』

『流社』

 ・


 一先ずコメントから目を離し、ちゃんとト影に目を向ける。


「さってと。『キングコマンド』『クイーンコマンド』」


 もう見慣れた、聞き慣れた詠唱を、合掌しながら唱えて、掌を開いて丸を作るような動作を取り、名を唱える。


「『玉座開墾の槍』」


 完成した玉座は槍を作り出し、それは回転をしながら宙に待機しその槍先を群れに合わせる。


「行くぜ!ギガぁぁぁぁド◯ルぅぅぅ◯レ◯クぅぅぅぅぅ!」


 鉄のような見た目ではなく、光の槍だからすこ〜し違うがやってることはそれな槍をト影の群れ目掛けて放った。


『『『ゲゲギャァァァ』』』


 悲鳴のような断末魔が生々しい音をかき消しながらも、たこ焼きに爪楊枝を刺すような感覚で次々と風穴を空けて貫いて行く。


「ですよね〜」


 ・

『開墾って言ってたか?』

『文字通り力ずくで開墾されてるね』

『普通にグロい方の映像なのに、なんか、ね』

『さっきまでの苦戦が嘘のようだなぁ』

『ホントに、ですよね〜って感じやわ』

『この爽快感がたまらんのですわ!』

『爽快感は置いといても、清々しいよな』

『やっぱ社長最強やな』

 ・


 最後の一匹まで貫いた辺りでコメントに向き直る。遠い目の翔は無視だ。


「はい、これで綺麗になった」

「自信失くすわぁ」


 まだまだ、ここからだぞ?

 なんて、私が言えた義理ではないわな。

 それに翔はかなり強くなってる。……んなことは口が裂けても言わん。調子乗るからな。


「お前にはまだまだ先の領域ってことだ」

「ランク6は遠いわぁ〜」

 

 ・

『いや、そのランク6の戦う場所で戦ってたくせに良く言うよ』

『普通のボスよりも強い奴と戦っていて良く言うよ』

『十分人外に足を突っ込んでる件』

『お前は強い。社長がおかしいだけや』

『そうそう』

 ・


「なんで私がバケモンって話になってんだ」

「いや事実でしょ」

「あぁ?」

「すみません」


 すげぇスマートな土下座をする翔。

 正直こいつ私といると必ず一回は土下座してないか?って頻度でよく見るから、価値がねぇ。


「まぁ、流石にこのままもう一体なんて鬼畜はしないさ」

「させようとしてたの?」


 いやぁ〜余裕があればね〜。まぁ、なさそうだからな。無理はさせねぇよ。


「じゃあ、今日は配信終わるか」

「うん、そうしよう。じゃないとまた戦わされる」


 すげぇ早口。どんだけ戦いたくねぇんだよ。一応あと一匹くらいなら行ける余裕はあるだろうが。

 まぁ、私も仕事あるし、自分で終わりにするといった手前何も言わねぇよ。


「またね〜」


 翔はカメラに向けて手を振って、配信を切った。


 

 この配信は終了しました




・・・・・・・・・・

後書き


はい、実家の方に行って、時間空いたら書くぞ〜って言ってたら台風とかでスケジュール押して、挙げ句帰りの飛行機が遅れまくったせいでほとんど徹夜で次の日出勤した作者です。

昨日完成させるつもりが、行きも帰りも電車で爆睡して、帰宅してから一瞬で寝てしまったから、今日ようやく投稿できました。


さて、次回どうするかまだ決めてないですが、まだやってないリクエストやって行こうかと思います。

あと、そろそろストーリー(なんだかんだ忘れてた)進めるかぁ(進めてないわけではないがほとんど進んでない)。構成としてはこんなグダグダは良くないんだろうけど、えぇやろ。

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