第52話 続々続:九重通販


 そんなこんなしていれば当然、日付を跨いでしまった。

 クルシュちゃんは最後までいてくれるとのこと。

 寝不足はいつものこと、らしい。体は心配だが、絶対に外せない仕事というわけでもないから大丈夫との判断から最後まで一緒にいてくれるらしい。


「じゃあ、残り二つ、サクサクいくぞー」

「おー」

「お〜〜」


 あっ、奴ちゃんは顔を真っ赤にして床に体育座りしてるのだ。

 なので、いつも通り一人で紹介していくぞ。

 反応や進行を二人がやってくれたりするから良いのだが、さっきまで二人だったから少し寂しく感じる。

 まぁ、それはそれとしてペンの紹介だ。


「では、紹介するのはこのペン」

「社長のサインが入ってるけど……」


 まぁ、サインだけではないと思うだろう。そのとおりだ。

 このペンは一種の普及活動とのことだ。


「このペンは社長が愛用しているモデルのものらしいぞ」

「へぇ〜あの社長が愛用って」


 ・

『い、一体どんな仕様なんだー』

『気になる〜』

『普段遣い用グッズありがてぇ〜』

『受験生です。これから来る詰め時に使いたいので買わせていただきます』

『丁度使っていたペンが壊れたところだ。ありがてぇ』

『これだけは嫌がってなさそう』

 ・


「ちなみに我もこのモデルを使ってるぞ」


 胸の内ポケットから一本のペンを取り出す。

 それは今紹介しているペンとほぼ一緒。つまり同モデルなのだ。


「ヨイヤミさんがくれたものなのだ。使いづらければ変えてもらって構わないからと渡されたが……多分これが一番良いと思うのだ」


 実際、初めて握ったときからとても手に馴染むし、綺麗に文字を書ける。

 メモ帳で使っても全く気にならない。


「というわけなのだ」

「へぇ〜凄いのね」

「……わぁ、値段凄いね」

「万額ね〜」


 画面の向こうでのやり取りはこちらからは見えないからムズムズするのだ。

 まぁ、問題はない。声が聞こえるだけで良い。


「配信者のみんなは知らないかもだが、割と多くの社員さんがこれを使ってるぞ?」

「えっ?そうなの?」

「ヨイヤミさんが使ってくれって配ったことがあったらしい」

「それで気に入った人はそのままそれを使ってるわけね」


 ……一本の値が万額のものを社員全員に配るなんて、何事かと思われるかもしれないが、それは記念日とかでお祝いも兼ねてだったらしい。

 ちなみにヨイヤミさんのポケットマネーだったらしいぞ。会社で稼いだ金ではないと明言してたそうだ。


「つまり百万単位をポンって出すほどのポケットマネーね」

「恐ろしいわ……」


 話がズレたな。


「話を戻すが、そんなモデルを今回、ヨイヤミさんのグッズとして販売するのだ」


 ・

『ポケットマネー?』

『流石億単位で稼いでる女』

『なお副業』

『なんか社畜臭がするもんやなぁ』

『九重ちゃんも気に入ってるって相当では?』

『理由とか聞いても良き?』

 ・


「書き心地が良く、とても手に馴染む、耐久性も抜群。あと、長時間使い続けても手が痛くならないし、芯も尖り続けて綺麗に書けるし、折れないし、力が抜けてきても変わらない字を書けるし……」

「「うわぁ……」」


 最後の方、九重の目は死んでいた。それに思わずといった声が漏れるお二人。

 そこに対して触れようと思う人は、リスナー含めていなかった。というか、触れたくない。


「……改めて、そんな性能のペンを今回特別モデルでヨイヤミさんのサインを入れての販売となるぞ」

「ちょっと私も買ってみようかな?」

「値段はどれくらい?」

「一本1万2千円だ」

「「わぁ〜お」」


 ・

『調べたからわかるけど、五六千円のものもあるのにしっかり万額モデルを迷わず選ぶ社長よ』

『まぁ、そこまで買い替えないし、性能も良いならこれくらいなら良いほうなのか?』

『良いほうだろ、安物は手が痛くなって酷いんだからな!』

『お、おう』

『よし、四の五の言わずに買おう』

 ・


「とはいえ、流石にそこまでの数は用意してないらしいのだ」

「値段もあるし、ペンだもんね〜」

「コラボモデルじゃなくても同じスペックのものは変えるからそこまでって感じかな?」


 そういうことらしいぞ?

 普通に売れると思うがなぁ。


 ・

『あっ、まずい』

『欲しい人は早く予約しろ!』

『え?いやまだ予約始まってないだろ』

『違う、始まったらすぐに予約しろってことだ』

『なる、ほど?』

『まぁ頑張れ』

『用意が少ないは競争の合図なんだよぉ』

『そゆこと』

『増販確定コースクセェ』

 ・


 ……確かに、こういう事を言うとこぞって買いにくるのか。


「今度から言わないようにしようかな」

「言ってもいいんじゃない?」

「買うか買わないかはその商品次第だからね〜」


 それもそうだな、気にするだけ無駄か。


「むしろ欲しい人に絶対に買わせるものになるから良いだろ」


 あっ、奴ちゃん復活した。


「見方を変えれば、そんな考え方になるのね」


 確かにそうなのだ。

 欲しい人はうだうだ悩んで結局買えないってことも減るか。

 時には選択の時を迫る、というか押し付けるのも良いということか。

 あっ、社長には内緒だ。そんなこと言えば、やるかできるかを押し付けられるのだ……。

 まぁ、なんだかんだできる範囲しか押し付けてこない辺りは優しいのだがな。


「というわけだ。欲しい人は早く予約をするのだぞ!」


 ・

『は〜い』

『予約はいつからですか?』

『そんなこと聞かなくても張り付いて待ってるよ〜』

 ・


「まだ予約の始まってない商品はこのあとの公式と生産元の方から予約できるぞ」

「鯖落ちしないように頑張れよ、鯖」

「落ちると色々と仕事が増えるので、ぜひ頑張ってもらいたいぞ」


 復旧、それに伴ってのアナウンス、あとは日時再調整とか、なんだかんだで増える、と社長がぼやいていた。

 アナウンスとか復旧とかは我も関わるので増えるのだ。勘弁してくれ。


「さぁ、最後となったヨイヤミさんグッズ。最後を飾るのはこれだ!」

「でっかいね」


 カメラの前、には枠が入らないのでカメラを持って枠に入るようそれを映す。


「じゃじゃん、5分の1スケールのフィギュア。単位に直すと、だいたい30センチとのことだ」

「なんで8分の1とかすっ飛ばして5なんだ?」

「デカくすればその分作る量も売る量も減らせるからとのことだ」


 ・

『考えたな』

『デカい……』

『もとから小さいからスケール大きめにしたのかと』

『それにしたって大きいわ』

『何やて!?フィギュア、まだ半年も経ってないのに!?』

『売る量少なくするために、そこまで考えるなんて……』

 ・


「販売方法は完全抽選販売、限定千体。お値段なんと三万円だ」

「流石にするね」

「でも、千体限定ってことを考えると安いね〜」

「嘘だろ?三万ありゃ一月暮らせるぞ?」

「金銭感覚が未だに一般人な奴ちゃん可愛いぞ」


 とっくに豪遊できるだけのお金は稼いでるのにそんなことはせず未だに節約しながら生活している奴ちゃん。そのへんの感覚を失わないのも良いところだ。

 我?稼いだ途端に全部溶かす勢いで使ってるぞ。


 ・

『しまったな、先を越された』

『流石同士』

『三万、かぁ……』

『限定千体ってことを考えりゃ安いが』

『値段と生産数的に抽選なんだろな』

『駄目元で応募して、当選してから金額については考えろ。まずは応募だ』

『抽選方法はどうするの?』

 ・


「それについては、検討中だが、我としては宝くじ風に配信するのも良いかなと」

「えっ?なにそれ面白そう」


 宝くじの高額当選を発表してるあれってワクワクするだろう?あれをやりたいと思ったからここで先に言ってしまえば勝ちなのだ。


「無害なふりして結構えげつないことやるな九重ちゃん」

「あのセット用意するの大変だろ〜ね〜」

「人ごとだからテキトーだね?」


 その辺はまぁ、ヨイヤミさんの仕事だし知らないのだ。

 我はただこうしたいと言っただけだからな。

 これで我の仕事が増えても文句しか言わないのだ。


 ・

『お〜それは良いな』

『せっかくだからその場で電話しようぜ』

『まさかの転売対策!?』

『いやただやりたいだけだろ』

 YoIYaMi『お〜い、私を無視してなにするつもりだぁ?』

『なんかいたな』 

『気のせいだ』

『話を進めろ〜』

『外堀は完全に埋まったな』

 ・


 ……後で怒られそうなのだ。


「だが撤回はしないのだ!」 

「その時はまた呼んでね〜」 

「えっ?良いのか?」

「もちろん♪なんなら明日一緒に遊ぶ?」

「遊びたい!」


 むぅ、だが、ファンとしてそれは……いや!


「社員だから良いのだ」

「都合の良い社員だなぁおい」


 だって社員だもん。



「さて、だいぶ長くなってしまったが本日の九重通販は以上だ」

「色々と疲れたが楽しかったぞ。また呼んでくれ」

「飛び入りだけど楽しかったよ。ありがとう、できれば今度はサシでやらない?」


 由実る先生とサシ……面白そうだな。

 となれば返事は一つ。


「是非お願いするのだ。連絡先は……」

「あ〜私経由で渡そうか?」

「え?!クルシュちゃん、我の連絡先知らないのでは?」

「同じ会社なのに知らないわけないよ?社長に言えばそれくらいは問題なくゲットできるもん」


 そ、そうなのか。

 えっ?そんなわけないよな?

 ……あれ?すでに我の連絡先知られてる?ホントに?えぇ……。

 喜んでよいのか?いや、それよりも勝手に渡した人に対して怒るべきか?


「いや、渡した人グッジョブ」


 ・

『草』

『勝手に連絡先を渡されたのにサムズアップすんの欲望に忠実すぎw』

『困惑顔ながらも滲み出る喜びのサムズアップ』

『まぁ、推しが自分の連絡先を知ってるって言われたらまぁ……』

『正直きーつねは好きよ』

 ・


「というわけで、はい、九重ちゃんの連絡先」

「ありがとー。……喜んで良いのか怪しいけど」 

「ホントだよ」


 我は喜んでもらって一向に構わない。


「顔が深い」

「失礼したのだ」


 思わず満面の笑み通り越して内なるオジサンが。さて気を取り直して。


「みんな、今日はありがとうなのだ!視聴してくれている皆も最後まで付き合ってくれて感謝するぞ!ではまた次の機会に!おつかつ!」

「「「おつかつ〜」」」


「……えっ?なにそr」


 この配信は終了しました




・・・・・・・・・

後書き


暑いわぁっ!!夏なら納得して受け入れるが今梅雨やぞ!?6月やぞぉぉ!?ど〜なってんだ。

熱中症などには気をつけてね。毎年軽度のそれになって休んでるから。


さて、そんな話は置いといて、このあとは後日談開封配信回、続いてダンジョン配信回、晩酌配信、その後くらいに歌みたやASMR回を予定しております(自分用のメモとしてもここに記載)。

前回の後書きで言ったキャラ表は後日談とダンジョン配信の間に入れます。

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