第49話 公式通販:九重の推し活部屋(第5回)
ふと、九重の配信ってどんな感じなんだろって気になった。
この前、九重に私のグッズを回してもらって紹介してもらうんだが、その九重すでに最初の私が出たのも含めて第4回までをこなしている。
評判良いですよ、と報告は受けているがなんだかんだで見られていなかった。
というわけでちょいと覗きに行くかってなったわけだ。一応、非常に不本意だが、私のグッズの反応は知りたい。
ちなみに、販売は確定、商品も問題なくあのまま行くことに。
逃げることは許されない。
「自分の抱き枕がロリコンどもに抱かれるのを想像すると……」
駄目だ駄目だ。頭がおかしくなる。聡子が勝手にとは思えん。誰が考えたのかわからんが、そいつを一発殺りにいかなければ。
えっ?視聴者アイデア?商品の感想でもらった?……覚えとけよ。
ということもあった。
「って、あんなの思い出したくもないわ。それよりも発売前の商品紹介の配信だ」
確かそろそろだよな。
何番スタジオかは覚えてないが、確かこの時間からだったはずだ。
仕事を進めながら、スマホの画面で配信を開いた。
・・・
「貴様ら、九重だぞ!」
・
『よっ、同志』
『お疲れ様九重ちゃん』
『待ってたぜぇ〜』
『ここ一月で売り上げを急激に伸ばした要因配信』
『待ってました、推し部屋ショッピング』
『なんかテンション高いね』
・
むっ、良い推察力だ。
「そうだ!我はすっごくテンションが高い!」
なぜなら!今日は念願叶う楽しみにしていた日!
「ゲストを呼んだからだ!」
・
『ついにやりやがった』
『職権乱用だ!』
『社員で公式なのを良いことに!』
『で?誰呼んだ?言ってみろ』
『最近なら夜霧ちゃんとかかな?』
『いや、翔ちゃんかもよ!』
『誰であろうと一職員として許せんなぁ』
・
むふふふ、みな我のことを羨むなぁ。
当然だ。我でも羨ましい。
「だから、ヨイヤミさんや副社長がいつも羨ましいのだ」
・
『まぁ、そういう面では羨まだが』
『あの二人の仕事量はそれに見合わない地獄だからなぁ』
YoIYaMi『そうかそうか……』
『あっ……』
『あっ』
『終わったな』
・
ちょ、ちょっと待つのだ、なんかいるのだが?
「で、でも、今の我はこれで満足しているぞ!うん!」
・
『言い訳苦しいよ』
『大人しく、諦めよ?』
『その分、色んな配信者に接せるって考えれば』
『良かったな! By社畜』
・
「嫌だぞ!我は今のままがいいんだ!だからご勘弁をぉ」
精一杯の土下座ァァ。
翔ちゃんがいつもこれで許しを請うてるから、これが一番の誠意というやつなのだろう!だから、これでご勘弁をぉ。
・
『翔ちゃんがいつもしてるから……』
『何変なの教えてるの翔ちゃん』
SHO.ch『えっ?私なの』
『出たなスペルミスの本家アカ』
『正確には間違ってるとも言えないけど、ショオになってるショウ』
『間違いなく貴女ですよ、どう責任取ってくれるんですか?』
SHO.ch『すんません』
・
「おっ、翔ちゃんだ!謝り方ってこれであってるか?」
・
『ほら、お前のせいだぞ』
『本家本物を見せてみろ』
『これが教育の敗北か』
SHO.ch『ホントにスミマセンでした』
YoiYami『ほーん』
『あっ、飛び火した』
『ま〜た説教だよ』
『何度目だよってんだ』
『あの〜本編入らないのなに?』
『全く進まない本編』
・
はっ!
「げ、ゲストも待たせているので、進めるぞ!」
助け舟をありがとう、名も知らぬリスナーよ。
「今回のゲストは、奴ちゃん!」
「は〜い、こんやっこ。奴だ」
「待たせてすまん、奴ちゃん!」
「いえいえ、これくらいなら待ったうちに入らないから気にするな」
うぅ〜良い子ぉ。
「どうぞいないものと思ってお過ごしくださいなのだ」
「番組の顔をいないもの扱いなんてできるか」
「うぅ、隣にいれるだけで幸せだ……」
「紺金先輩やユッケ先輩、クスリさんのときのカッコよさはどこへ……」
それはそれ!これはこれ!
今はただ推し活してるだけの一般人なのだ!
仕事中と推し活中は違うのだ!
「……使い物にならなそうだから、私がもう一人ゲストを呼ぶぞ」
司会進行役の九重は、すでにまともにできていないので、仕方なぁ〜く奴が進行した。
パッっと画面の真ん中に映し出されたのはクルシュだった。
「はい、どうも〜。ゲスト2のクルシュだよ〜」
「どうもクルシュ先輩。今日はよろしくお願いします」
「任せて、九重ちゃんもよろしくね」
「は〜い」
・
『なんて、幸せそうな声で鳴きやがる』
『この狐め、そこ代われ』
『社員、冒険者、VTuberの三人の並びってスゲェな』
『翔は呼ばれなかったんだな』
『だからここで話してんだろ』
『でもこの二人か』
『何気に奴ちゃんとクルシュのコラボは初や』
『公式で初コラボなんて、また珍しい』
・
「そういえばそうだな。改めて、奴です」
「クルシュです。よろしくね。いつも見てるよ?カッコいいし可愛くて好きだよ!」
「カッコいいはともかく、可愛いって……」
「あぁ〜可愛いーーっ!」
「と、尊い……」
・
『間に挟まれて幸せそうだな、推し活狐』
『めちゃ強くて怖くてカッコいい狐もこれじゃ台無しだな』
『お前ら、この狐、一応黒鷲の連中フルボッコにして、(推定、というか本人談では)翔ちゃんたちより強いんやぞ?』
『どこが?』
『狐に化かされてるみたいだわ』
『ほんそれ』
『そんな子が同士なことに喜べば良いよ』
・
はっ!これではまた社長に怒られる!
ちゃんと仕事はしなければ!
「さ、さて!今回はこの三人で紹介して行くぞ」
「あっ、九重ちゃん、もう一人いるんだけど」
「ん?我は二人しか呼んでいないぞ?」
「なんか混ぜてくれって連絡を貰ってね。繋げても良い?」
「問題ないぞ!」
電話をかける音が通話越しに鳴り、その音はすぐに止まって、また一人声が聞こえる。
「は〜い、聞こえる?」
「むっ?配信者ではないな」
聞き覚えはない声だ。
・
『えっと……誰やったっけ……』
『あ、もしかし〜て』
YoIYaMi『ウゲッ』
『この反応って、やっぱり』
『そうだな』
・
みなはわかったみたいだが、我はわからん。
だが、関係者なのは間違いないようだな。
「じゃ、自己紹介。お世話になっております。イラストレーターの由実るだよ」
「あぁ!」
なるほど、由美る先生か!確かヨイヤミさんのガワを描いた人だったな。
「よろしくね、急だけど、一緒に良いかな?」
「もちろんだ!」
ヨイヤミさんはどうやら苦手みたいだし、もしかしたらいい感じに運ぶかもしれんし、何より断れるわけなかろう。
「さて、じゃあ、仕事の時間だ。宣伝行くぞ」
「「「おー」」」
裏から、最初のグッズをカメラの前に持ってくる。
「まずはこれだ。酒だ!」
「もっとオブラートに包めよ」
「あはは、奴ちゃんはまだ駄目だよ」
「あれ?そういえばまだ未成年?」
「お酒は二十歳から、成人年齢は十八歳だから論外だね」
「あの、あんまり年齢に関しては言わないでもらえると」
・
『若いなぁ』
『間違いなく最年少である』
『ユッケちゃんも十九歳だから、結構若い子多いよなぁ』
『お前ら、どう考えても最年少は社長だろ』
『見た目はな』
『本人曰くもうそろそろ三十歳らしいぞ?』
『逆に最年長は、確か』
『言うなよ』
『は〜い』
・
そういえば我の歳っていくつなのだろうか。
生まれを覚えていないからなんとも言えないな……後で設定付けしてもらうか。
「皆さん後で二人に謝りに行こうね?」
「社長は止められないからな」
「もう一人は?」
「大人しく土下座してね」
「ここまで土下座が多用されるのがおかしいなぁ……」
・
『ほんそれ』
『社長、俺じゃないんです!俺じゃ……』
『ツクヨミ様ぁ!ご勘弁をぉ』
『わぁ〜酷い』
『…………』
『無言コメやめろ。怖い』
『土下座では許されなくなるな』
・
「まぁ、隠してることでもないし言うか。間違いなく最年長はツクヨミさんですね」
「そうだねぇ。私の先輩だけど、歳の差的にいまだにさん呼びなんだよね」
「あの人、ホント美魔女って感じですよね」
ツクヨミさんとは、我が最近ようやく直近三年の動画を制覇した配信者なのだが、冒険者組第二部の一人『ツクヨミ』のことだ。
ランク4の双剣、槍の二種類の武器を使う女性だ。
見た目は背が高い女性で普通に綺麗な人で大人の魅力というのが一杯なのだが、実年齢はなんと46歳。奴ちゃんの約3倍。不思議である。
二十代と言われても違和感のないツクヨミさんは現在公開しているなかでも最年長であり、尊敬の意味も込めて『ツクヨミさん』なのだ。
「あとは、配信事故に関しての教訓としてもツクヨミさんだよね」
「あの伝説の事件ね」
「それはしっかり確認したぞ!というかヨイヤミさんからハンメンキョウシってことで進められたぞ!」
「その通りだけど……」
「それは可哀想だよ」
・
『何の話?』
『おや、知らんのかい?』
『伝説の酒乱配信』
『配信を始めて一年経つちょっと前にだな、切り忘れの配信事故を起こしたんだ』
『んで、終わってると思ってツクヨミさん日本酒空けて一人語りを始めました』
『その時に年齢、動機等のもののほとんどが曝け出された』
『これだけなら良かったんだけどなぁ』
『そこからだんだん酔っていきまして、次第に、画面には映らなかったが、樽酒開けて飲み始めまして』
『た、樽?』
『測定班いわく、漬物作るときに使うような樽のサイズだとよ』
『なにそれ……』
『ほんで酔いによった、ツクヨミさん、その……』
『エッな本を読み始めて、性癖全部さらけ出した上に駄目な発言全部言っちゃいまして』
『挙げ句には、『わらしのころみはシャチョ〜みたいなコヨぉ〜あ〜フゥ』と』
『そういや、Sumaの社長が謎の社長って言われ始めたのもこの辺りからか』
『そう考えると配信事故で存在を噂され、配信事故で姿を晒したってことになるな』
『愛されてんなぁ』
『後日談で色々と謝る羽目になったそう』
・
「だからいつも切り忘れには注意しているのだ。トリプルチェックしているぞ!」
「トリプル?」
「自分と他の社員さんと配信画面の3つのチェックだ!」
「それなら大丈夫だね」
「そうだね、安心だよ」
・
『あ〜可愛い』
『ムフって顔も可愛い』
『しっかり教訓にできて偉いね』
『こんな可愛い子が同志なんて、幸せだなぁ』
『ホントになぁ』
『汚い大人が浄化されるよ』
『見てるか、汚い大人』
『誰のこと指してるか知らないけど、怒られるぞ』
・
可愛いと言われるとなんか嬉しいな。
あと、同志って皆に認識されていることが嬉しいぞ同志たちよ!
「話が脱線しまくってしまったが、このお酒は件のツクヨミさんが監修したものだ」
「小樽とはいえしっかり樽なのは良いね」
「まぁ、そのせいかかなりお高めになってるがな」
「小樽はそのまま再利用してコップなどとして使えるんだな。味見は私はできないから……あれ?九重ちゃん、飲める?」
……あっ、今この場には我と奴ちゃんしかいない。
奴ちゃんは未成年だからな!我が飲むか?いやしかし……誰か連れてくれば良いかの?
「さぁ?飲んだことはないのだ」
「じゃあ、やめようね〜」
「仕方ないから、今回は紹介だけして、次回社長とか連れてきて試飲会をすればいいんじゃないか?」
「それが一番だよ。悪いことは言わないから、飲もうとは思わないでね、九重ちゃん」
・
『駄目だかな!』
『同志からの助言だ!やめろよ!』
『絶対にやめろよ!』
『おいちゃん、君が酔ったら危ないよ』
『お前が危ないわ』
『おい、誰かあいつを捕まえに行け』
『はい、ポリスです。猥褻未遂で行ってきます』
『やめろ!やめてくれぇぇぇぇぇ!』
・
三人からも同志からもしっかり止められたので飲むのは止めるのだ。変態はポリス殿に任せるのだ。
奴ちゃんの提案通り、紹介だけしていこう。
「まずは小樽に入ったお酒が500ミリリットルが二樽」
「買ったらみんなで飲もうかな」
「小樽が結構好きなデザインだし、お酒はともかく、日用品としては欲しい」
社長に言って、奴ちゃんへのプレゼント用に貰おうかな……ちゃんとお酒はお試しも兼ねて飲んだものをだ……はっ!これでは変態みたいではないか!
「つ、次!メモ用紙だ!」
「ツクヨミさんの飲み方メモ、当然直筆だ」
「本人曰く、間違えておつまみのレシピも渡したそうだ」
由「どっちのおつまみでしょうか」
「「「??」」」
「ごめんなさい」
・
『由美る先生……』
『んなわけないだろ』
『流石のツクヨミさんでもツクヨミさんするわけないやろ』
『いや、わからんぞ、届いてからのお楽しみだ』
・
「最後はオリジナルミニフィギュアだ」
「遠近法次第ではこうやって樽を持ってるように見えるようにできてるぞ」
ク「ミニサイズだと可愛いですね」
由「ミニじゃないと可愛くないみたいな言い草ですね」
ク「しっ!」
・
『先輩やぞ〜』
『ついでに強いぞあの人』
『樽で殴ってくるぞ』
『お前らやられるぞ……えっちょっ!?なんでおr』
『何者だったんだ』
『さぁ?』
・
「という感じなのだ!価格はこちら!」
「ワンセット19800円です」
「普段やってないでしょそれ」
「皆いるしやってみようかなぁと」
通販ってこんな感じだと、広告で知ったのだ。
「まぁ、ここまで擦ったからには、買ってもらえると本人も浮かばれると思うぞ」
「ツクヨミさんは死んでないのだ」
「奴ちゃん、酷いよ」
「言葉の綾だ!」
「あはは〜まぁ、でも私は買うよ〜申し訳ないからね」
・
『俺も買うよ』
『買わないとなんか申し訳ねぇ』
『実際美味しそうであるからな』
『晩酌配信待ってるぞ』
『社長の晩酌配信期待してます』
『!?』
『忘れてた!お前ら!みんなでお願いするんだ!社長はそれに弱い!』
YoIYami『そうだな、ツクヨミさんが良いなら良いぞ。あと、何に弱いって?』
『っ!!?オワッタ、ミンナサラダバー』
『マッ!?(前のやつには触れずに)』
『楽しみに待ってます!』
『喰われないか心配なんで、もう一人そこの狐をつけてください』
『それはえぇな』
・
ふぅ、これで一つ目か。
ずいぶん長くなってしまったな。
さて、お次は同志たちがお待ちかねのヨイヤミさんのグッズの時間だ!
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