第46話 私のヘッショが欲しいのかい?



 休暇中の社長。


 襲撃者たちの引き渡しも証拠も尋問も終っており、あとは私たちの関するところではない。

 もちろん、調べは進めているけど、正直手詰まりだ。

 ご丁寧に魔法の抵抗力の高い何かもやられて、ハッキングとか盗み見とかできなかった。


 あぁ、あと襲撃者たちはやはりというか輸送中にやられたそうだ。

 当然そのことに関してはしっかりと私たちの潔白を証明してもらった。


 世間にもそう伝えられたらしい。まぁ、あんまりその部分について触れるところは少なかったが。


「体も戻ったことだし、休暇を目一杯楽しむか」


 小さくなり、普段と変わらない力に戻った。

 それのお陰で、真の休暇となり、私は何をしようかとウキウキしていた。


「溜まってた動画流しながらゲームしようか」


 いや、待てよ……誰かの生配信を見に行くか。

 ゲームはその後だ。

 二つ同時にやっても問題なくできるが、やっぱり一つ一つやったほうが面白いよな。


「え〜っと……クスリがやってるな」


 配信を開くと、昨日話していたような謝罪やら何やらをまだ気にしていた。


「全く……あんまり深く考えんなって」


 ここで私がコメント打っても良いが……ここは皆がいるから大丈夫だな。


 そう考えていた通り、クスリのところにはたくさんのコメントや感謝の言葉が寄せられた。


「うんうん。これでいい」


 クスリも吹っ切れたみたいだし、リスナーの皆さん、ありがとな。


「それにしても職員とはなんぞや」


 社員ちゃうんかい。


「ん?翔から?……遊びの誘いか。しかも夜霧ちゃんと?えっ?普通に見たいんだが」


 このままか遊びに行くかはアンケートに委ねられた!

 もちろん私は遊びに行くに投票!


「……よしっ!」


 遊びに行くで決定!

 やたー


「さて……夜霧ちゃんと翔のコラボでやるものと言ったら……フロートナイトかな」


 としたら参加型になるだろうし、今のうちに肩慣らししとこか。


「ちょうどゲームもしたかったし、一石二鳥だ」


 ゲーム起動。

 久しぶりのゲームだが、まぁ、問題ないだろ。




 三十分後。


「や、やばい」


 スナイパーエイム意外が死んでる……


 なんでだ?なんでスナだけ当たるんや?なんでアサルトとかショットガンとかは当たらんのや!


「ラグか?ジャストで当てようとしすぎて逆にラグとかでズレが生まれるから……」


 逆にスナは割と判定が広いからジャストで当てようとすると上手いこと当たるのか?

 わからん……が、乱入するにしても、スナで見せつけるしかないか。


「よし、始まったな……」


 配信を見ながら、パスコードを撃ち込んで、タイミングを見計らってマッチング。


 コツはマッチングが始まるちょっと前にマッチングを開始する。


「……うし。入れた」


 さ〜て、ど〜しよ。  


 なるべく高い位置で、かつ序盤のうちに多く物資を集めて、さらになるべく頭数を減らしておく必要がある。


「私ならやれらぁ。やったらぁ!」


 試合開始〜決闘開始〜



 場所は……ラッキー、山近い!


 ここの周辺を漁って、山を登るぞ。


「できればスナとトラップ系があると良いな〜」


 ピストルは〜キャッチ。

 地雷もキャッチ。

 ショットガンは捨て。

 回復はもちろんキャッチ。

 フラッシュバンは捨て。

 スナだ〜やったね。もちろんキャッチ。


 よしよし、ラッキーラッキー。


「さぁ〜狩りの時間だ」


 山の頂上に立ち、高倍率スコープを覗き込み、周囲の街を見渡す。


「……いた」


 手持ちの弾は12発。

 一発も無駄にはできない。

 漁夫られる可能性があるやつは狙わず漁夫った相手を落とす。


「だが、あいつは完全孤立のハイドムーブ。なら、撃ってよし」


 パァン


 比較的小さめな銃声が聞こえ、その弾丸は街で一人でに回復を集めていたプレイヤーの頭を射抜いた。


「よし。次……戦闘中か……周囲に他のプレイヤーは……いないな。よし。終わり次第、撃つ」


 …………終わった。今!


 パァン


「んな?!」


 えらっ!?

 しっかり回収や回復するときに壁を建ててから!

 たまたまそれに引っかかって弾が防がれたっ。


 くぅぅ


「相手はどこから撃たれたか方向しかわかってないみたいだな」


 弾一発無駄にしたからにはしっかりと仕留めさせてもらうぞ。


「慎重に逃げやがって……だが、だからこそ動きがわかりやすい」


 置きエイム。

 逃げる先、そして警戒して背後に壁を建てる一瞬の硬直。そこを狙って弾丸を放つ。


「チッ、頭じゃない」


 倒しきれなかった。次弾装填……籠もりやがって……流石にこちらの位置に気づいたか。斜線を切るように立ち回りやがる。


 弾はあと9発。


「どうする……追うか、追わないか……いや、動き的に上手いやつだ。なら、ここで潰しておく方が良い」


 よし、次の一発で確実に仕留める。

 油断してくれるその一瞬を見逃さねぇ。


「今だ」


 パァン


「……よしっ」


 討ち取ったりぃ!

 ふぃ〜手強かった〜


「さて、安置は……まだ大丈夫だな」


 このゲームには時間経過で縮小されていく、ストームなるものがある。

 そこの中にいると持続ダメージを受けてしまい、そのダメージを受けないために安置へ移動する。そしてその安置は当然、時間経過で小さくなり、必然的に接敵し、戦わざるを得ない状況を作り上げられるわけだ。


「さて、安置移動組にはご退場願おうかな」


 先に次の安置に入っている私は安置内へ移動するプレイヤーよりも有利な位置から撃つことができる。

 当たらずとも迂回してくれるだけで相手はダメージを受けてくれるから、気楽でいい。


 まぁ、だからといって弾を無駄にすることはしない。


「……まずは南方向の安置移動組には見せしめに一人」


 パァン


 よし、命中。ヘッドショットじゃないけど、ダメージを受けていたのかそれで倒れてくれた。


「よし、怯えてる。足が遅くなってる」


 あれはこっちが何もせずとも勝手に倒れそうだ。


「次、東方向……一人だけか?」


 なら気兼ねなく倒させてもらうぞ。


 パァン。


「やべっ、外した」


 残り弾数は……6発。

 3発は残したいからここで使えるのは3発。


「どすっかな……」


 ……というか、あいつ撃たれたのに警戒してねぇな。

 なら撃つか?


「せめて足止めだけでもできりゃ良いんだ。てぇ!」


 パァン


「……あれ?あいつもしかして、私の弾意識的に避けてね?」


 そんなことはないと、思いたいんだが……わざわざ置きエイムしたそのタイミングだけ足を止めて避けるんだよな……


「ちっ、見逃してやる」


 弾はあと5発か。

 次の移動のときに、近場で仕留めたやつの物資を貰って弾を補充して行こうか。


 パパァン


「っと、あぶねぇ。流石にバレたか」


 予定よりはかなり早いがに〜げろ〜


「壁を張りつつ、距離を取って、山の斜面を使って下る」


 多分これで追ってこないからな。


「追ってきても……」


 ダァァーーン


「あら、引っかかってもうたんですか。そらぁ不運やなぁ」


 いくつか撒いてきた地雷に引っかかったみたいだ。

 この音とダメージは流石に無視できないだろ。


「引いてくれた。よし、じゃあさっきの物資を拾って……ねぇ……」


 先程のスナイプで倒した敵の物資を拾いにきたんだが、ねぇ。

 いや、正確には物資はあるんだけど、スナの弾だけピンポイントでねぇ。


「ち、ちくしょ〜」


 こいつは計算外だった。

 だが、もう一つの物資に行くのはリスキーすぎる。


 護身用のピストルだけじゃ、なぁ。


「……どうしよっk……」


 タァン、パァン


「……ふっ、私の後ろに立つな」


 後ろから足音を消して近づいてきていたプレイヤーの弾丸を受けつつも、すぐに振り向いてスナイパーライフルを構えて、一瞬だけスコープを覗きすぐに放つ。

 その弾はしっかりプレイヤーの胴を捉えた。


「まぁ、体力がなくて助かった」


 今のは流石に当てるだけが限界だったから、打ち漏らしたらピストル連打だったな。


「おっ、こいつは弾持ってんな……しかも大量に!」


 よっしゃ。これで弾数の心配はなくなった。

 ついでに移動系アイテムも手に入れた!

 ワープポータル、一度だけ安置内のランダムな場所に転移するアイテムだ。スタック(オブジェクトにハマって動けなくなること)しないような仕様にはなってるが、たまにスタックする。


「よし、移動するぞ〜」


 目指すはあの山……おや?何やら2つほど隣の街が騒がしいな……フラッシュバンとサウンドボムの音やな。


「……誰か漁夫しようとしてるのか?」


 この二つが戦闘中に飛び交うことはそうそうない。

 どちらか片方くらいはあるがな。


 だがそれが二つってこたぁ……


「ここからならギリギリ見えるな」


 ……戦闘中。

 ほんで……やっぱりいた!漁夫マン!


「じゃ、遠慮なく漁夫漁夫させてもらうよ〜ん」


 戦闘が終わって〜漁夫って〜それを私が〜漁夫る!


 パァン


「わ〜るぃねぇ」


 って、おや?さっきのはクスリだったか。申し訳ないわ。

 だが、私はここでは止まらんよ〜!


 高らかに笑いながら次のポジションへと移動する社長だった。



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