第45話 リアルとバーチャル
2番スタジオに指定の5分前に到着したわたくしはスタッフの案内で二人のもとへ向かった。
「……どういう状況ですの?」
到着すると、二人は何故か、ツイスターゲームが如く絡まっていた。
本当になんでですの?
「あっ、クスリ〜助けて〜(テヘペロ)」
「うぅ……汚されちゃったよぉ……私の陰キャソウル」
……帰りたい。
というか、その陰キャソウルとはなんぞや。むしろそんなもの捨ててしまいなさい。ついでに言いますが最初から淀んでるようなイメージがあるのですが?むしろ綺麗になったの間違いでは?
「あ、クスリ先輩、どうも」
「え、えぇ。どうも」
……えっ?気まず。
「とりあえず、この人剥がしてくれません?」
そうね。時間もあるし、絡まり方も翔が上ですし、剥がしましょう。
「人を呼んどいて、遊んでないでください」
ペイッ
つまんで捨てた。
夜霧ちゃんを立たせて上げて、そのまま何があったのか軽く事情を聞いた。
特にこれといったものはなく、すり寄ってくる翔に対して、イヤイヤした夜霧ちゃんが体制を崩して、その時翔の足を引っ掛けて倒して、こうなったらしい。
多分、倒れたあとは翔がふざけたんでしょうね。
「はぁ……準備はできてるんですか?」
「できてるよ〜」
ならよし。
「さて、夜霧ちゃん、準備はできてますか?できてるならこのまま始めますわよ?」
無言コクコクを頂いたので、始めるとしますか。
「あ、スタッフさんもそのつもりでお願いしますわ〜」
周りで無言で見ていたスタッフさんも無言でコクコク。
もちろん、有無なんて言わせませんわ。
「さぁ、始めましょう」
めちゃくちゃ強引ではあるが、こうでもしないと永遠に始まりませんものね。
あっ、せっかく引っ剥がしたのに、なんだかまたお二人がくっついてますね……
「は、早くしよう!うん、そうしよう!」
「は、はははひい!準備に行ってきまーす!」
ん?
バヒュン
今、スタッフさんも大慌てで準備に走りましたか?わたくし、普通に言っただけなのですが。
まぁ、円滑に進む分には良いですわね。
「な、なんでしょう、怒ってるわけではないんですが」
「う、うん。なんというか、早く動かないと行けないって感じてしまって、体が勝手に、というか……」
と、クスリのいないところでは静かにそんなふうに囁かれていたとか。
・・・
「はい、こんやきり〜」
「こんやきり〜」
「なんでか真横から返事が帰ってきて困惑しています……」
・
『こんやきり〜』
『夜霧ちゃんがオフコラボなんて……おいちゃん、嬉しいよ……』
『自称陰キャの夜霧ちゃんが自分からなんて、陰キャ卒業だね……』
『というか、いつもの仲良しコンビじゃなくて接点の全くない翔とクスリとって……』
『Sumaの大先輩だね……大丈夫そ?』
・
「緊張はさっき限界超えて彼方に消えました」
「あはは〜」
「あはは〜ではありません。ほとんど貴女のせいでしょうが」
「そ、そうですね〜……み、皆さんこんばんわ!翔だよ!」
「あっ、逃げた」
・
『逃げたな』
『逃げましたね』
『逃げるな卑怯者』
『というか、その緊張のくだりについて詳しく』
『そうやな』
・
「……え、えっと、事務所でいきなり捕まって、セクハラされて、一緒に副社長の圧を受けてちょっと仲良くなって、その副社長の策略でコラボが決定して……あっ、さっき(私が躓いて)押し倒されたりもした」
・
『お、押し!?』
『おい、翔、申し開きはあるか?』
『問答無用、クスリさんやってくだせぇ』
『いきなりの三下感だが、そこは同意』
『お、俺たちの夜霧ちゃんを!』
『セクハラした上に、お、押し倒しただと!許さんぞ!』
『裁判長判決を』
『ギルティ!』
・
「あ、アハハ」
「笑うしかありませんよね。ほとんどは事実ですから。……あ、わたくしはクスリと申しますわ。以後お見知り置きを」
「よろしくお願いしましゅ」
・
『噛んだな』
『可愛い』
『どんどん声量小さくなるの可愛い』
『でも自分から挨拶できて偉い』
・
「さて、先程のわたくしの配信を見ててくれた方は知ってると思いますが、わたくし、急に呼ばれてきたのは良いんですが、何やるのか知りません」
「あっ……何も説明してなかった」
「やろうとしてたのは〜対戦ゲームだよ〜バトロワの」
・
『いつも夜霧ちゃんがやってるやつやな』
『先輩らしく、後輩の土俵に立ってあげるってわけね』
『そうやね。個人的にはゲームとか冒険者組が上手いのかとか気になるし』
『確か、翔とかはたまにゲームやったりしてる。割と上手い』
・
「ふーーん。つまり、初心者はわたくしだけですね?」
「そういうこと」
・
『しょ、初心者狩りだ!』
『さ、最低だぞ!いくら相手が同期とはいえ!』
『も、もしかしたら上手い可能性もあるのでは?』
『その場合はザマァって言おう』
・
「じゃ、じゃあ私はクスリさんを援護しようかな……」
「いえ、わたくしは大丈夫ですわ」
「え、えぇ……私なんかいらないよね。そうだよね……」
「えっ?あっ!違いますわ!ただ隠れてやり過ごそうとか、そういう姑息なことを考えてたので、一人のほうがやりやすなぁ〜ってことですの!」
「そ、そうですか。良かった……」
・
『必死に弁明してあげるの優しい』
『ちゃんと取り乱すの良いね』
『後輩思いな大先輩』
『それに比べて、隣の大先輩は……』
・
「なんで私に流れ弾が……」
そんなこんなで始まった配信。
説明された通り、今からやるのはフロートナイトというTPS(三人称視点)のシューティングバトルロワイヤルゲームらしい。
ただ銃を使って打ち合うだけでなく、多種多様なサブ(グレネードやトラップ、グラップラーなど)があったり、弾を防ぐ壁を作ることができるというシューティングゲームらしい。
言った通り、わたくしは初心者です。翔は趣味でやったことがあるそうです。夜霧ちゃんはかなり上手いですわ。ストリーマー部門で準優勝できるくらいには、ですわ。
それぞれ、三人に分かれて、ブースに入り、コントローラーを手にゲーム用の椅子に腰掛ける。
スタジオにはこういうアイテムはいっぱいゲームやコントローラー、グッズ開封に必要なものなど色々と取り揃えられており、わざわざここまで通ってゲームをする子もいるほどです。とはいえ、ちゃんと申請はして貰う必要もあるのでそう頻繁にはいかないらしいですが。
「さて、始めましょうか」
「よっしゃ〜やっろうかい!」
「とりあえず翔さんを潰しますか……」
「えっ?夜霧ちゃん?」
あ、お互いの声はボイスチャットで繋いでいるので聞こえている。試合が始まると切り、やられたら繋げるらしい(ただし聞こえるだけで喋っても生きてる人には聞こえない)。
「それでは、皆様、マッチングを開始します」
今回使うのはプライベートマッチング。そこで三人がマッチに参加したのを確認出来次第、視聴者に参加して貰う方式だ。
・
『いけいけいけっ!……弾かれたぁ!』
『く、くそっ!やたら硬い障壁だな!』
『どけ!俺がやる!ぬぁぁっっ!?』
『あ、入れた』
『まぁ、視聴者現在3万ほどいるから入るのはなかなかな』
『上限100人だっけ?』
『おう』
『うち3枠は使ってるから入れるのは97人か』
『無理ゲー……あれ?入れた……』
『ぬぁ〜ぜだぁっ!?』
・
募集してすぐに埋まってしまいましたわ…。
「では、締め切らせていただきますわ!」
「お〜し、一位目指すぞ!」
「ぅん」
なんか声の小さい方がいらっしゃいますが、関係ありませんわ。
スタート!
プレイヤーはゲーム開始すると、それぞれランダムな場所に転送させられる。
初動はこの時、いかに早く武器を手に入れるかである。
「なるほど……」
・
『さぁ、注目の初心者視点』
『やはりというか、すぐには動かない』
『近くに人はいないよね』
『あっ、あそこに武器あるんじゃね?』
『んなこと言ってもここは見えないって』
・
近くには人影はなく、街からは少し離れている。
しかし、身を隠せるほどのオブジェクトは多くなく、早めに移動しなければいけませんね。
……どうやって動かすのかしら?
こう?こう?こ〜ん?
・
『おっ、これは……』
『移動しないのではなくて、移動の仕方がわからないってこと?』
『みてぇだな』
『こんなにキショい動きしてんの始めてみたわ』
・
アバターがグニョングニョン、人ならざる動きをしてしまう。
一歩も動かないのに。
……いや、移動は普通にスティックでは?
あっ、動けた。なんでボタンを押して動けると思ったのでしょうか……
「視点は、さっきの失敗のときに見つけました。よし、とりあえず移動しましょう」
・
『お、治った?』
『さっきまでが嘘みたいな迷いのない動き!』
『進め進め〜』
『おっ、街に向かうのか?』
・
とりあえず街の方にきましたが……あっ、武器ですね。
散弾銃。ショットガンというやつですね。
あっ、ついでにフラッシュバン。
これで一人くらいは倒せそうですね。
・
『さっきのグニャグニャ運動でほとんどのボタンのあれを覚えた模様』
『ま、まさか、あの動きにそんな効果があるとは……』
『普通に初期武器としては充分やな』
『あとは行くか行かないかや』
・
「隠れながら街を覗きましょう……最悪このフラッシュバンでどうにかします」
コソコソこそこそと近づき、街を覗く。
見る限り人の姿は見えません。ですが……多分一人か二人いますね。
戦いのあと、物資を漁ったあと、そして中間辺りには手つかずの物資が残っていることからお互いが動くのを待っているのだろう。
「恐らく、お互いに睨み合いが続いていて、そこにわたくしがきた感じですわね」
となると、わたくしは下手に頭を出すわけには行かない。
ここは引いても良いですが……
「……となるとあともう一つくらい武器が欲しいですわ」
見つからない範囲で漁り残しを探す。
「おっ、ありましたわ。サウンドボム」
相手に当てると一定期間音が聞こえなくなる。というアイテムらしいです。
「これなら、いけますわね」
あとは上手く釣れてくれるか……お祈りですわ!
・
『おっ?行くんか?行くんけ?』
『おっと……フラッシュバンを構えて?』
『待って、人いなくない?』
『いや、いるのかも……痕跡はあるからまだいるかいないかだ』
・
「行きますわ!てぇ〜い」
フラッシュバンを天高く放り投げた。
パァンっと音をたてて光が街を包んだ。
すると、パァンパァンっと今度は銃声が鳴り始めた。
「……上手く釣られてくれましたね」
・
『うわぁ……これは策士』
『対決の合図を横から鳴らしやがった』
『そして漁夫をすると。ついでに手持ちにはサウンドボム』
『やるぅ』
『よっしゃやったれ!』
・
目の前では、壁を作りながら距離を詰めて顔を出しながら撃つ。撃ち合う。
そこにこそこそギリギリまで近づき……そして静かに空高くサウンドボムを戦い合う二人の間に投げる。
キィィィン
ふゎぁっ……耳が……ま、まぁ、ちゃんと私は聞こえてますし、成功したってことにしましょう。
「あとは……戦い終わるのを待って……」
タァンっ!
……終わった、みたいね。
「今!」
ドッパァン!
・
『漁夫成功したな』
『音が聞こえないから相手が近づいてきてるのかわからないな』
『やぁ〜どちらも戦っている相手が投げたと思い込んじゃったね〜』
『下手なりに考えてプレイしてるね〜』
『こういうのはこういうので良いよね』
『これはちゃっかり一位狙えちゃいますかね?』
・
出だしは順調。あの二人もいい武器を抱えてましたね。
流石に、一位はきつそうですけど意外と良い戦いできそうですね。
ピチュん
「アッ」
・
『あっ……』
『スナ、だと!?』
『お、おい!キルログを見ろ!』
『1000メートル、だと!?しかもヘッドショット!?』
『だ、誰だ!』
・
死んだのでコメントを見てるんですが、キルログ……あっ
「しゃ、社長……」
他ならぬ休暇中の社長その人でした。
・・・・・・・・・・
後書き
風邪ひきました。そのせいでだいぶ遅れました、申し訳ありません。
しばらくは様子見ながら書きます。
というわけで、みんなでバトロワやろうぜ。大人しくスナで実力わからせろ〜
ちなみに元ネタは当然フォ◯ナです。しばらくやってないけど、剣とかあるし丁度良かった。
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