第42話 どんな時も冷静に。私たちの連携力



 二人で足並み揃えて踏み込み、同時に肉薄する。


 私は盾で、ユッケは剣でそれぞれ攻撃を仕掛ける。

 男はそれを捌きながら後退、それに反応し私はそのまま前へ、ユッケは後ろへ移動する。


「『ファイヤショット』」

「たぁっ」

「おらぁっ!」

「くっ!」


 盾を振りかぶって叩きつけるように殴りかかる。

 その隙間を縫ってユッケが銃モードの武器で魔法射撃。

 そしてその両方をそれぞれ違う二つの盾で防いだ。


 さらに魔法を弾いた方の盾で突撃してきたので、正面から盾で受け止めた。


 こうやって真正面から力比べしてみて感じたのは私とこの男にそこまで力に差はないということ。

 だが、体格の都合上上から押し付けるようにしてくるので私は押し合いでは分が悪い。


「潰れろ!」

「っっぅ」

「余所見、駄目だよ!」


 そのタイミングで大剣に変化した武器を背後から振り下ろすユッケ。


「油断はねぇよ!」


 しかしそれを、私との押し合いで力を抜くことで吹き飛ばされその勢いのままユッケへ蹴りをいれる。


「かぁっ」

「てめぇもだよ!」


 蹴りを入れられ、怯み、硬直してしまったユッケの体を私に投げつけ、そのまま私たち二人をまとめて切断せんと大剣を大きく振りかぶる。


 あの剣は間違いなく、私たちをまとめて両断できる。そう思わせる気迫だった。


「『ロックチェーン』」


 岩でできた鎖を壁に突き刺し、それを力いっぱい引っ張って横に離脱しその剣を回避。


 途中でチェーンは外れたので、ユッケを抱きかかえながら転がり、壁近くで倒れた。


「大丈夫ですか、ユッケ」

「ありがとう、紺金。大丈夫だよ、ダメージもそこまで」


 それなら良かったです。


 ですが、状況はよくありません。


「あの男、対人慣れしすぎてる」

「確かに……厄介だね」


 明らかに普段からこうやって人と戦っているような動き。

 この人、暗殺者というよりかは、警察とか軍人みたいな治安維持をやっているんですかね?


「そんな人がなぜ……いや、今はそれよりもここから勝つ方法、または逃げ切る方法を考えなければ」


 男の武器は多種多彩。

 大剣に盾など、状況に合わせて武器を取り出して戦っています。

 厄介なのはその武器の中には粗悪品はなく一つ一つしっかり警戒しなければならないこと。

 この中に一つでもそういうのがあればそれを使わせるように誘導してそれを壊して攻めることとかもできるのですが、それはできませんね。


「そうなると、人数有利を押し付けて倒し切るというやり方しかありませんよね」


 だが最初に言った通り男はかなり手練れ。それを捌き切る技量がある。


「……」

「紺金」

「何でしょう?」


 不意にユッケが私の名前を呼んだ。


「私なら、私たちなら、できるよ」

「っ…………そうですね」


 その一言、たったそれだけの言葉。

 それなのになぜだかこれ以上ないくらいに安心できるし、信用できる。


「はいっ」


 そうだ。なぜ私は普通にやって勝てないと思い込んでたんでしょう。


「他の人ならともかく、私とユッケです。私たちなら勝てる。勝ちます」

「そうそう。難しいことはわからないけど、私たちなら勝てるっていうことはわかるよ」

「おーい、そろそろ良いか?」


 待ってくれて本当にありがとうございます。


「さぁ」

「「勝つよ」」



 先程同様に足並み揃えて接近、そのまま二人同時に武器を持たない方の拳を突き出す。


「なに?」


 その拳をクロスガードで防ぐが、私はその腕を掴み、そして解かれたガードにユッケが蹴りを放ち、蹴りが入ったのを確認し、蹴りを放った辺りへ同じように蹴りを放つ。


「くっ」


 ノックバックしたところへ盾を構えながら全力ダッシュ。


「おらっ!」


 そんな私へ盾を取り出し同じような面で受け止めようとする構えを見せる。

 このまま突撃しても大したダメージにもならなければスタンも取れないだろう。


「それが紺金ならね」

「なぁっ!?がはっ」


 あの一瞬、盾を構えて突撃するあの一瞬で私はユッケとスイッチし、背後へ、男からは見えない位置への後退を行い魔法の準備をしていた。


 だからあの盾を持って突撃したのはユッケであった。


 そして、純粋な力なら私よりも遥かに上のユッケが行ったシールドタックル。

 耐えられるはずがない。


「ぐ、おおぉぉっ!?」


 弾け飛ぶように吹き飛んだ男は近場の壁へナイフか何かを指し減速を図っていた。


「『エンドレスフリーズ』」


 そして準備を終えた私はその魔法を男へ放つ。


「っ!ぐぁぁぁっ!?」


 その空間を極寒の空気が支配し、水分から空気までその全てを凍結させた。


「……」


 無論、男も壁にナイフを突き立てているところで凍結していた。


「……やった、のかな」


 それだと嬉しいですが、その言葉がなんというかフラグくさいんですが?


 ピシッ


「まぁ、そうですよね?まだです」


 あれだけの力を持っている人だ。

 これくらいで倒れるわけがない。


「くはぁ〜〜今のはヤバかったぞ……純魔法職のなら終わってたな」


 となると、割と良い線ですかね。

 とはいえ今のを何度やろうと私の出力では限界ですね。倒し切るには至らない。

 凍ったところを即割りに行く感じなら……


「不味いな……ここは逃げるわ」

「え?」

「お前ら相手にしながらあれを相手なんかできるかっての」


 あれ?周りには……誰も何もいませんが……

 もしかしてクスリさんが戻ってきてるのですか?


「ってわけだ、じゃあな、お二人さん」

「あっ、待ちなさい!」


 男は私たちに背を向け、暗闇の先へと姿を消した。

 それを追おうとするユッケの肩に手を乗せて制止させる。


「ユッケ、追わなくて大丈夫です」

「でもぉ」

「この先は私たちのやることではありません。だから今日は帰りますよ」


 私はその場にしゃがみ込み、疲れを一気に吐き出した。

 そのせいか、足腰がハッキリしなくなってその場に倒れ込む、奇しくもユッケの腕の中へと収まった。


「ちょ、大丈夫?!」

「いえ、大丈夫です……ですが、しばらくはこのままにさせてください」


 私はそのままユッケの腕の中意識を失ったのだった。



 ・・・


「ふぅ、なんとかなったみたいね」


 ・

『よ、良かった〜』

『かっこよかったぞ!それと無事で良かった!』

『二人の絆に少しほろり』

『撃退成功おめでとう!』

『紺金ちゃん、傷とか大丈夫かな?』

『戦った時間自体は短いのにこの濃密感エグ』

『というか、これ後で社長の仕事が押し寄せることになるって考えると……』

 ・


 その戦いの結末を見届けホッと一息。


「それにしてもあいつ強かったね」


 まぁ、暗殺しにきてる相手にしては強かったな。

 あの二人を相手にしっかり攻撃を捌いてその上で攻撃をしてきていた。


「軍人みたいね……」

「ホントにね」

「そうだな。ありゃ対人相手に正面から何度もやったことあるような動きだ」


 そうなのよね……としたら、あれは黒鷲が外部から雇った人間ってことかな。

 ギルドには基本、そんな人間はいない。なにせ、魔物相手に戦う場所で対人なんて鍛える意味が無いからだ。


「……となると?」

「外部から雇った人間……なんだろうけどなぁ」


 だとしたら普通は暗殺者でしょうに。あれは明らかに軍人系統のそれだ。

 となると、あの男は一体どこから……


 と、そこまで考えると、嫌でも一つの仮説は浮かんでくる。


「……まぁ、今はみんなの無事を喜びましょう」


 だが、下手にカメラの前で言うわけにもいかないのでここは締めに入りましょうか。


「皆さん、今日は見てくれてありがとうございました」

「あっ、これからも霧ちゃんをよろしくね〜たまに私も遊びに来るから、よろしく〜」

「あ〜良いなぁ、たまに遊びにこれて。俺は年一以上は無理だなぁ。まぁ、次回があれば遊びに来るぜ。またな!See You Again」


 ・

『堂々とまた遊びに来る宣言(苦笑い)』

『そんな簡単に集まるなよ……』

『ま、まぁ、今回はユッケちゃんたちも無事で、色々と話も聞けたし、楽しかったってことで』

『そうだな。普通生きているうちに見ることができないと思ってたような映像だからな』

『普通にまたね、なんてあり得ないはずなんだよなぁ』

『シリアスな展開だったはずなんだけどなぁ』

『社長の安心感エグいよな』

『けど、これで黒鷲は終わりよなぁ』

『相手が悪い』

『だが可哀想とはこれっぽっちも思わねぇなぁ』

『そうゆうこと』

 ・


 この配信は終了しました。



・・・・・・・・・・

後書き


本当は前回と含めてここまでで一話にする予定だったものですね。

若干駆け足になったのは申し訳ない。このあとは後処理パートな以上配信を切るまでが必要だったので。


今筆の乗りが不調(半分はスマホの画面の反応が悪いせい)で更新が遅れています。なんとかやってますが、遅れることがしばらく続くと思いますがご了承ください。


追記:

こちらのミスでユッケのランクが曖昧になっていました。

初期は3で最近のでは4と書いており、私もそのつもりで戦力差とか考えていたため、辻褄合わせのため、名前が初登場した回のランク3という説明に、昇格は済んで4ではあるが発表はしていないという状況に修正しました。同様の理由で前回の回に説明みたいな文を追加しました。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る