第43話 もがれた黒羽。私、最後の仕上げ
それから、私たちはその場で解散し、二人はそれぞれの家に帰った。
私はそれを見送ってから、事務所に向かい戻ってきた四人と聡子を連れ社長室に入った。
「さて、お疲れ様、みんな」
「……誰?」
「社長だと思います」
……そういえばユッケちゃんと紺金ちゃんに見せるの初めてだった。
「あのちっこい社長!?この人が!?」
「失礼ですよ、ユッケさん」
聡子さんや、静かに嗜めてくれるありがたいんだが若干その小さいってところに対してみたいで地味に傷つくんやが。
「まぁ、その辺は置いておいて、とりあえず、申し訳ありません」
話の流れを切ったクスリが頭を下げてきた。
「この事態のためにわたくしをつけたのにお二人を危険な目に合わせてしまって」
「いや、十分よ。怪我も刺されたくらいで、私がすぐに完治できたし、あいつ一人じゃなければとっくに二人はやられてた」
これは二人には申し訳ないけど、クスリが追ったやつと二人が戦ったやつが一緒にいた場合二人は死んでたと思う。
その場合は九重をそっちに向かわせてたとはいえ、今ほど事態は優しくなかっただろう。
「だから、クスリはよくやってくれた。ありがとう」
「……はい」
「よし、じゃあ次は二人にだ。あの男と戦ってみて、どう思った?私たちはあの男を見てて対人慣れしてる軍人のようなやつだと思ったんだけど」
続いて二人に振り返り、あの男との戦いについて聞くことにした。
「はい、私たちも戦っててそう感じました」
「そうだね。私たちの攻撃に合わせて武器を取り回したり、その場に合わせて攻撃や防御などの択を選んできてたよね」
やっぱり、当事者もそう感じたみたいね。
「よし、それなら良いわ」
「?」
ならこの考えは確定。
ということはあいつは雇われのやつではなく……いや、今はどうでもいいか。
「聡子、九重が捕まえたやつら、全員の名簿を作っておいて。護衛はこのまま九重とクスリに任せるわ」
「「はい」」
「わかったのだ」
というわけで、あとは黒鷲の処理。
とはいえ、全国ネットであれだけ自滅してくれたんだ。
やることはない。勝手に政府や公安が動いてくれる。
私がやるのは証拠の保持だ。
「あいつら全員の証言を記録を残しながら聞いてくれ。なるべく、協会や警察、公安などの手に渡る前に終わらせてくれ」
「わかりました」
証拠、あいつらが持っている情報は間違いなく証拠になる。
九重が捕まえたやつらはダンジョン内で襲ってきたやつらのみ。流石に黒鷲の本社で暴れたときのやつらを捕まえるのは無理があるから止めさせた。
それに私の予想が正しければもうあいつらはやられてる。
こいつらも私の手元を離れれば恐らくやられてしまう可能性が高い。
だからこちらの手元にあるうちに証拠は確実に記録する必要がある。
ロストするわけにはいかない。
「頼むぞ」
「はい」
そう言って聡子、クスリ、九重の三人は社長室から出た。
さて、今社長室には私とユッケと紺金の三人になったわけだ。
「さて、まずは二人ともお疲れ様」
「「は、はい」」
そういえば二人と話すのって久しぶりかな?
「二人は今回の戦いはどうだった?」
先程のと違い素直な感想を求めるものだ。
「どう、と言われても」
「正直、一方的なものだったので」
まぁ、思うところはあるよね。
なぜこんな質問をしているのかと言うと、今回の件で冒険者組にはこれまで以上に強くなってもらわなければ行けないと判断したからだ。
無論、ギルドにするつもりはないし、どっかに喧嘩を売るわけではないが、正直、これからは喧嘩を売られることが増えるだろうと確信した。
そうなると、どうあがいても私だけでは守りきれない。
ならばせめて自衛能力のある冒険者組には自衛くらい自分でして貰おうと考えたわけだ。
あわよくば社員や関係者なども、だ。
「それで?そのまま泣き寝入り?」
「ううんっ」
「そんなわけありません!」
うん。当たり前だよね?
ここで泣き寝入りするような子を加入させたりなんかしない。
「よし、なら、二人は同期の子含めて三人としばらく合宿ね」
「「え?」」
「え、じゃない。これは決定ね。もちろん配信はしてもらうよ」
これは前々から考えてたができなかった企画ではある。
理由ができたというのが大きい。
「それぞれにあった相手は用意するし、終わり際には新武器も上げるよ?」
「それは……」
無論、もとより二人の武器は私がプレゼントしたものだ。
そして、それが私の手作りだと最近知れ渡り、さらにそれが伝説の制作者のものであることも理解している。
「もちろん、やります」
「ユッケ……」
「だって、私はまだまだこれからだもん」
うんうん。良い返事だ。
だけどね、多分紺金が二つ返事で頷かないのはそれなりに理解しているからだと思うよ。
「それは良いけど、その相手というのは?」
「そうね。ユッケなら一部組とかで、紺金なら……まぁ、私ね」
「やっぱり」
「えぇ!一部組の皆さんとっ!」
ちょうど両極端に分かれたわね。けど、本人前に嫌な顔するのさ違うよね?
「まぁ、厳しくするつもりだからね。後で泣き目を見ても知らないってこと」
「大丈夫です!」
「はぁ……まぁ、やらない選択肢はないですよね」
そゆこと。
じゃあ決定ね。
「その旨をもう一人に伝えておくね」
「あぁ、可哀想に」
知らぬ間に決めちゃってごめんね〜でも、もう一人の子もちょうど良いタイミングではあるからね。
「日程は後で連絡するわ。とりあえず今日は帰ってゆっくりして良いわよ。明日は資料とか報告書とかのためにまたきてもらうことになるけど」
「はい、それでは」
「ありがとうございました。失礼します」
二人は席を立ち、一礼して社長室を後にした。
・・・
「遅かったか」
九重が襲ったあとの黒鷲。
そこへは協会を始めとした人々が黒鷲の容疑を固め確保しに来ていた。
しかし、今の一言が物語るように、そこには惨殺された死体。
「だから速くしろって言ったのに」
これじゃ、こいつらがどこと繋がってたかわからねぇな。
「あとは宵闇様……いやSumaに迷惑かけないようにしないとな」
ここまでが黒幕の思惑通りだとしても、このあとの展開だけは阻止しなくては。
Sumaが悪役となる未来はな。
「できないと、より面倒になるぞ(´;ω;`)」
俺は知っている。今は大人になったあの人がハメを外した瞬間、日本は愚か世界が終わることを。
それだけあの宵闇という人間は化け物なのだ。
ピリリッ
「ん?電話?誰だ……んっ!?」
その画面には宵闇と書かれていた。
「あ〜終わった……」
・・・
「あ、ケントさん?ちょっと話があるんだけど」
「は、はい!何でございますか!」
なんでこの人はいつもこんなに緊張してんだろう?
まぁ、不都合はないし良いけど。
「多分だけど黒鷲の連中殺られてるよね?」
「は、はい。よくお分かりで」
「まぁ、これだけ巻き込まれたら嫌でも予想が付くわよ。で、こっちで襲撃者を確保してるの。こっちはまだ無事。そちらに引き渡すまでは魔法による暗殺も自殺も絶対にさせない。だからそっちの件もこっちの件も、私たちに責任とか風評被害とか及ばないようにしてもらいたいの」
相手の狙いはわからないけど、こっちまで巻き込まれると困る。
そうならないように私は証拠を握るし、根回しも行う。
正直、これから黒鷲がどうなろうと知ったことじゃない。
それでも、考えられる策略の一つ、社会的地位の抹殺だけは防がないといけない。だからケントさんに連絡した。
「それは勿論です。そもそも無関係の人を悪人にするほど落ちぶれてません」
「だからケントさんを窓口にしたんだけどね」
ケントさんはそれなりに長い付き合いであり、ランク5相当の力を持ちながらも協会で働く正義感の高い人。
会長の右腕と言われるほどに優秀であり、決して裏切らない良い人だ。
だから、こうやって連絡先を持ってるし、協会とかに用があるときはこの人に連絡することが多い。
「あ、ありがとうございます」
「それじゃ、よろしくね」
プツン、と電話を切って、引き渡すときのことを考える。
「……奥さん用になんか送ろうかしら」
ケントさんと奥さんの時間を不本意ながら奪ってしまったわけだし、なんかお詫びの品とか渡したほうが良いわよね。
あの人、既婚者だけど、仕事が多すぎてなかなかイチャイチャできないって奥さんに相談されたのよね……ものすごく申し訳なかったわ。
あ、ちなみに奥さんとは五年近くの仲良しである。
「さて、そっちはまた後にするとして、今は書類を片付けるか」
事故として処理するか、事件として処理するか……どっちゃにしても仕事は増えるなぁ。
とりあえず、紺金は一応怪我したわけだし保険とか……いや治したからなしね。
装備の欠損はない。というか黒剣からの借りもんだから問題ない。
あとは黒鷲への賠償とかは……弁護士に頼むか。
細かいことはわからんし、下手にやるより徹底的にやる方がいいからね。
「……この件はだいたいこれで終わりかなぁ」
賠償とか説明とか色々と残ってはいるけど特に問題ない。
勝ち目がないのは相手だ。翼はもがれた。クチバシはとうの昔に折れている。
「はぁ。眠い……」
休みのはずだったんだけどなぁ。
結局事務所にきて働いてる気がする。
「あっ、でも、力加減が効くな……明日には戻ってそうだな」
ようやくね。
やっぱりこの姿も悪くはないけど、このままだと不便が多いからね。
小さい言われてもあっちの方が利便性が高くて良いのよね。
さてと、やれることはやったし、帰ろうっと。
聡子に尋問の結果を後で送ってもらおう。どうせ、終わり次第速達九重便で届く。
暗殺防止とかは全て済ませてある。ランク6を超えない限りは破られることはまずない。
「三人に挨拶だけしてか〜えろっと」
お疲れ様でした〜
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