第41話 各々の戦い



「そろそろ、追いかけっこも、おしまいですわ!」

「ふん、ぬかせ」


 わたくしは体感では五分ほど襲撃者とのチェイスを繰り広げ、次の階層に入った辺りで襲撃者は動きを止めて、私に攻撃を仕掛ける。


 投げナイフか何かはわからなかったが飛んできたものを弾き、ついで飛びかかってくるその襲撃者の男の攻撃をレイピアで受け止める。


「軽いですわ」

「暗殺職なもんでね」


 軽口を叩きながらも、金属がぶつかり合う音が何度も鳴り響く。


「正直、貴女ではわたくしには勝てませんわ」

「さぁ?最終的に仕事を果たして帰れればそれで良い」


 ふーん。


「舐められたものです。わたくし相手に無事で帰れるおつもりで?」

「他のランク5、ユウナや翔なら話は別だがお前相手なら問題ない」


 ……本当に、舐められたものですわ。

 確かに暗殺系統の相手に逃げられるとなれば分が悪い。

 ユウナなら逃げようとも追いついて倒せるし、翔ならまず背を向ける行為そのものが悪手だ。


 それに比べれば、確かにわたくしの方が楽でしょうね。


「ふふっ……本当に、甘いですわねぇ」

「っ!?」


 わたくしだってそれくらいわかってますわよ?

 そんなこと何度も言われて何度も考えてるんです。


 そんなわかりきったことに何もしないわたくしではありませんわ。


「『炎纏い』『ビルドアップ:ドレス』

『焔を纏う王女』」


 一宮さんとの特訓の成果、わたくしのやり方。

 その形。それをわたくしはものにしている。改良の余地はまだまだ残っているが、現時点でのこれはほぼ完璧に使えるようになっている。


「は、はは、随分と派手だな」

「冷や汗出てますよ?わかりますわよね」

「はっ、それがどうしたってんだ」


 さて、これを使ったのは良いですが、逃げに徹されるとわたくしが時間で負けてしまいます。

 なので一瞬でケリをつけますわ。


「『ファイヤー』」

「うぉっ!?」


 足元から火柱を上げましたが、避けられましたわね。

 ですが宙に浮かせるまでは計算通り。


「『インフェルノ』」

「しまっ」


 地獄の業火。それがほんの一瞬だけ宙に浮いた男の周囲ごと燃やした。


「……見え見えですわ」

「……ちっ、駄目か」


 どうやってかその炎から抜け出した男が背後から襲いにくるが、その手を掴む。無論、今のわたくしの力を振りほどけるほどの力は男にはない。


「では、『焔纏:鉄拳』」

「ぐふぅっ」


 着ているドレスの出力を上げ、かつ拳に集めることで、通常の何千倍ものパンチを放つ、物理と魔法の混合の攻撃である。


「……よし」


 本当ならトドメを刺しておきたい。

 暗殺職は捕まえてもすぐに牢屋にでもブチ込める状況じゃなければすぐに逃げられてしまう。


 ランクが高いなら尚の事。


 なので暗殺職は情報のメリットよりも後ろから刺されるデメリットを考慮して倒しておきたいのだが……


「流石に、後々面倒になりそうだから、やめておきましょう」 

「何を止めるのだ?」

「ふひゃぁっ!?」

「九重だぞ」


 び、ビックリしたぁ。

 急に現れると心臓に悪い。気配もなく本当にスッって現れて話しかけられるって怖いわね。


「え、えっとそこの暗殺職のやつを倒したけど捕まえても逃げられたらなぁって」

「それなら我が捕まえておこう」


 パチンっと指を鳴らすと器用に炎の魔法で襲撃者を拘束した。


「九重さんがここに来たってことは紺金ちゃんとユッケちゃんの方は終わったのですか?」

「いや、それ以外はこちらで片づけたからその二人のところにいる奴だけだ」

「やっぱりわたくしがこいつを追っている間に紺金ちゃんたちは別のやつに」

「だから早く行くぞ」


 九重さんはわたくしの手を取り、その場からわたくしと捕まえた襲撃者とともにワープを行った。


 ・・・



 スルーウルフを倒した隙を狙って二人目の襲撃者が私を襲いましたが、ユッケのお陰で最初の奇襲はなんとかなりましたね。


「ありがとうございます」

「どういたしまして。で?どうする?」


 相手の実力がわかりませんし、狙いが私たちの殺害なのか望外なのかで話は変わってきます。

 私たちはそれぞれランク4の力を保持しているが、ユッケはつい先日ランク4になったばかりであるため、切り上げのランク4とした時、相手の実力がランク4.5〜5の時勝ち目があるか怪しい。


「作戦は決まったのかよ?」

「……どちらにしても戦うことは変わらないようです」


 盾を構える。


「安全第一で、最悪逃げも視野にいれますよ」

「了解」


 他に伏兵がいないといいですね。

 私はボスを倒しての連戦で体力に余裕があるわけではありません。


 ですので、撃破を目標にせず、怪我なく生存を重視で立ち回ります。

 この際逃げられても問題ありません。


「よ〜し、じゃあ行くぞ!」

「っ、やっ!……『ロックショット』」


 直線飛びかかり。


 それを盾でしっかり受け止め跳ね除ける。

 跳ね除けたところへ魔法の追撃を放ち軽く牽制。


 放った魔法は当然のように背中の籠から取り出した大剣によって払われた。


「フッ!」

「おっ、っくぅ!」


 その払ったときに一瞬できた隙、そこを見逃さずにユッケが懐から大剣を振り抜いた。


 それに対して男は今しがた魔法を払った大剣の面で受け止めたが、懐から放たれたユッケの一撃はその大剣を粉砕してその男へ届かせた。


「ぐはっ」

「『アイスランス』」


 ノックバックで後ろへ飛ばし、その背後から氷の槍を放ち、盾の影に隠れタックル、バッシュを狙いに行った。


「ちっ、いぃ!」


 籠から今度はマント?


 それを私の放った魔法に振りかざすと、魔法が消えていた。

 しかし、それで止まるわけにはいかない。


 そのまま止まることなく男に突撃し吹き飛ばした。


「ざ〜んねん」


 ザシュっ


 キラッと一瞬何かが光ったと思えば私の腹部からナイフの刺さる音と出血。


 ぶつかるときにナイフを突き立てられたみたいですね。


「こっ……

「問題ありません!」


 ここでユッケの注意を逸らしてはいけない。

 その一心で痛みに耐えながら大声で叫ぶ。


 その意図を汲み取って、ユッケもそれ以上何も言わず相手に集中、私がすぐに戻るまで一人で時間稼ぎの戦い方にシフトして戦ってくれている。


 あとは私自身。


 毒は、ない。


 私の硬さを貫通してきたことから、貫通特化のナイフ。私は体も硬いので包丁とか刺しても包丁が折れますよ。生身も盾として使えるレベルを貫通する武器を投げるとなると、厄介な武器をまだまだ持ってそうですね。


 痛みはかなりあるが、それもしばらく食いしばって耐えてれば問題ない。


 だけど、コンディションの問題はある。


 どうやってもベストコンディションではなくなる。

 となれば、私は立ち回りや考えを変えなければならない。


「倒しに行くしかない、ですか」


 今の状況。

 このまま戦い続ければ私が倒れる。それは駄目だ。

 時間を稼げば助けが来るかもしれませんが、それはいつになるかわかりません。

 ならば、相手にも致命傷を与える。そうすれば私が落ちてもユッケ一人でなんとかなるでしょうし、相手が逃げを選んでくれるかもしれない。


「『ファイヤ』」


 傷口に掌大の火を押し付けて止血する。


「くっ……すぅ……はぁっ」


 これで一先ずは大丈夫。


「よし」


 盾を構えて、立ち上がる。


「『ロックスピア』」


 立ち上がってすぐに魔法を使い私がいると相手に認識させる。


「紺金、大丈夫?」


 私のもとまで下がってきて、私のことを気遣うユッケ。

 そんなユッケに大丈夫といつも通り言って、先ほど決めた考えを簡潔に伝える。


「攻めますよ」

「……オーケー、やったりますか」


 可変式の武器を剣に変えて、先程スルーウルフと戦ったとき以上の殺気を放ち、構えるユッケ。


「ほう、良い殺気だ」


 その殺気を感じ取った男は雰囲気を変えたその雰囲気は先程よりも強く感じさせた。

 実際、本気を出すのかもしれない。


 だけどそれは関係ない。


「「行くぞ!(行きます!)」」


二人は肩を並べて男を見据えて、力強く吠えるのだった。



・・・・・・・・・・

後書き


暑さにやられてバテたので短めです。

いきなり暑いんじゃ!

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