第37話 Sumaの経歴。私、振り返る
配信がはじまって、雑談を始めるにしても初盤のうちは解説とかそういうのはないわよね。
「じゃ、まずは紺金ちゃん、ユッケちゃんについて教えて欲しいかな」
「俺にもお願いするぜ」
あぁ、そうね。
二人はそういうのまだわからないから話しましょうか。
「わかった、じゃあ、最初の内容は二人について、だね」
さて、どこから話すか。
「まず、ユッケちゃん。つい先日ランク4に上がった子だよ。んで、ユッケちゃんは、Sumaの冒険者部門、その初期から見てくれている子よ」
・
『えっ?』
『いや、それは言わん方がえぇやつ』
『いや、それよりもさっきのことを誰も触れないというのが怖いんやが?』
『さっきの?なんのこと?』
『この人たちをについて触れるだけ無駄だと悟った』
『持ってきた爆弾の威力が強すぎて我々は吹き飛ばされ、戻ってきている間に受け入れられた』
『もう、俺たちは見れるだけでいい』
『それ以上は求めない』
『だから、下手に刺激すな』
・
なんか酷い反応が見えてるけど、とりあえずは無視ね。
「へぇ~憧れから始めたってわけね」
「良いじゃないか。憧れを憧れのままにしないその姿勢は称賛できるぞ」
「憧れられるべき存在が言うのもなんだか変だけど、まぁ、そうね」
実際、一度ユッケちゃんについては落としたんだけど、次の応募のとき、別人みたいに強くなって来たって言う、ある意味私の眼を欺いた子でもある。
「一回目の時は、普通の女の子のはずだったんだけどね……」
「その話は聞きたい」
「えっ?いや……まぁ、そうね。じゃあ、少し話しましょうか」
どこから話そうかな……Sumaの冒険者部門の内容からかな。
「冒険者部門は現在第五部まで在籍しているの。九年前に翔たち初期メンバー三人が入って、二年間その三人だけでやってきてたの」
あの時はそれなりに辛かったね。
まず誰も見てくれない、って状況から始まって、色々な冒険者として上手く行かなかった人たちの妬みや嫉妬、憎悪や恨みなんか多かったわね。
けど、次第に受け入れ始めて、ようやく軌道に乗り始めたって言うか、今みたいな形になったんだよね。
「それで軌道に乗り始めた二年後、第二部を募集、それで完全に今の形として乗り始めた。それから一年後、VTuber部門を開設。冒険者という特別な存在じゃない、普通の人でも、やりたいことをやりたいようにやりたい場所でやらせる、っていう私の当初の目標を達成したわけかな」
まぁ、自己満足に近かったけど、そこで冒険者のSumaから動画配信会社としてのSumaに変わったんだっけ。
「んで、本題だけど、そこから一年でVTuber部門第二部を募集して、さらにその一年後に冒険者部門第三部を募集したときに、ユッケちゃんが応募してきた」
どう見ても普通の女の子だった。
確かに冒険者としてやっていけそうな気もしてたけど、少し危うい。そんな感じが受け取られて不合格にした。
これがVTuber部門なら合格にしたかもしれない。
VTuber部門の方は定員を設けておらず、何人でも受験できて、何人でも合格できる。その上で数人しか合格が出ないっていうことからハードルはそれなりに高いことを承知してくれ。
途中で挫けるような子や問題のある子は論外だ。
人生を預かることになる以上、半端な子をいれるわけにはいかない。
普通の子でも入れるとは言った。だけどそれは最後までやりきる覚悟を持った子というのが前提ともいえる。
そこに才能はいらない。やりたいことがあって、それをどうしても心の底からやりたいという熱意を重視している面もある。
やりたいことをやりたいように、楽しくやれる子は才能がなくても、見てくれる人はいる。
そうやっているうちに、いつかそれは才能となり、人を楽しませることができる。
そして冒険者部門はそこに、合格人数と実力が追加される。
合格人数は指定しないとこっちがパンクするからな。
そして実力。冒険者は人生だけじゃなく、命を預かるわけだから、普通でも、戦えるだけの、成長していけるだけの実力が求められる。
「まぁ、そのとき、この子は無理だなって落とした。冒険者は憧れだけでどうにかなる世界でもねぇ」
実際、冒険者で夢を見る子供の大半は消える。
それが挫折して諦めてなのか、文字通りこの世から消えてしまったのかはわからない。
「少なくとも、現実を見る子供が冒険者としては生き延びやすい。だから、ユッケちゃんもそのタイプだと思ってた」
私の目から見ても、実力はないはずだった。
「……それから二年後、ユッケちゃんは応募してきた」
「実力を持って?」
「えぇ。まさかランク3になって来るとは思ってなかったわ」
しかもその戦闘スタイルも面白くて、初期メンバー三人の良いところを取ったような戦いかたをするのよね。
翔の魔法とユウナの身体能力、そしてその両方を扱うクスリの立ち回り。
「これ以上ない熱意と、これ以上ないくらいの実力で合格をもぎ取ったのよね」
「凄い子ね」
「しかもそれを中学三年の時から高校受験をしつつ二年間でものにしたのよ」
ちょっと狂喜染みた何かを感じたわよ。
「ん?ちょっと待てよ、じゃあユッケちゃんは今19歳ってことか?」
「若いねぇ」
「前までは最年少だったね」
今は奴ちゃんが17歳で最年少ではあるけど。
・
『なんか、良い話だなぁ』
『社長の目を持ってしても見抜くことのできなかった才能』
『Sumaの経歴なんて始めて知ったけど、なんか色々な凄いな』
『本人がいないところで色々と暴露されてる』
『なんでこの話になったか覚えてないけど、良い話だ』
『情景一途かな?』
『それ思ったわ』
『確かに、今はSumaって特別な人ってイメージないよなぁ』
『VTuber部門っていうのは確かにそう思わせてくれたかも』
『冒険者が夢を見ると駄目ってどこかで聞いたけどそういうことだったのか』
『へぇ、そうなのか』
『ちょっと整理が追い付かないんで、誰かまとめてー』
・
「はい、そういう人がいると思って、この間にググって調べて作ったよ~」
<
Suma経歴
九年前:活動開始
冒険者部門第一部(翔、ユウナ、クスリ)スタート
七年前:冒険者部門第二部スタート
六年前:VTuber部門開設
VTuber一期生スタート
五年前:VTuber二期生(クルシュたち)スタート
四年前:冒険者部門第三部スタート
VTuber部門三期生スタート
二年前:冒険者第四部(ユッケ、紺金たち)スタート
VTuber四期生スタート
一年前:冒険者第五部(奴たち)スタート
VTuber五期生スタート >
「って感じじゃない?」
「そうそう。この方がわかりやすいわ」
・
『こう見ると、Sumaも長いんだな』
『あ~あれから五年くらい経つのか』
『やめろ。それは俺が傷つく』
『大丈夫だ、問題ない(損傷大)』
『もうそんなに経つのか……(遠い目)』
『ユッケちゃんは九年前から見てたリスナーってことか』
『ま、待て、逆算すると……ユッケちゃん10歳からSumaを見ていたわけか!』
『おい変態……その通りだ』
『社長!やめてください!俺はロリじゃない!変態でもない!嫌だ、やめ………』
『なんか一人消え去ったなぁ』
・
「当然、これからもそんな目で見るやつは……こうなるよ?」
「ちょっ!?イタタタタ!俺見てないから!やめっ!マジでお前のは洒落にならんぞ!」
……まぁ、今の私のは洒落にはならんな。
当然のように痛がってるだけのこいつもおかしいんだけど。
ただ左手で顔面鷲掴みしてるだけね?もちろん、今の私ならちゃんと握れば大型ビルを粉砕できるよ?
「かぁぁぁ……いってぇ……」
「まぁ、そんな目で見た人が悪いから、無視で良いよね」
「桜も大概酷いよね」
・
『お前ら、同志のために下手なことを言うなよ!』
『おうとも』
『ただ静かに見てただけのはずなのに可哀想に』
『なんかこうしろうって人が一気に身近に感じたわ』
『逆に社長と一宮 桜がめちゃくちゃな高みに感じたわ』
『ヒエラルキーを理解した瞬間だった』
『女は強い。以上』
『というか、社長の鷲掴みって、あのドアノブ壊したやつでは?』
『それを耐えた、だと?』
『いや、手加減……できないんだったな』
『ま、まさかこうしろう、強い?』
・
「ホントに見てないってのに……というか、ユッケちゃんの話が終わったんなら、紺金ちゃんも紹介しろよ」
「その通りなんだけど、なんか言い方も文も怪しいから、握り直して良い?」
「やめろ!」
「わかってるわよ」
紺金ちゃんのことよね。
「……紺金ちゃんは、普通な子ね。真面目で誠実な良い子」
「へぇ~意外」
「まぁ、色々と凄い子ではあるよ」
「やっぱりか」
真面目で誠実で良い子。
そう評価するのは間違いではないのだが、ずっと冷静なんだよね、あの子。
「紺金ちゃんはひたすらずっと冷静」
「と、言うと?」
「そうね……始めたての頃、紺金ちゃん、配信でちょっとエッチな下着が公開されちゃって……」
名誉のために下着についてはこれ以上触れないが、何かの拍子にドアップでそれが映り込んで全国公開されたわけだ。
「そのとき、紺金ちゃん、全く動揺しなかったのよ」
「えっ?」
「コメント欄が指摘しても『お見苦しいものをお見せしました』ってね」
「ワァ~オ」
桜に近い何かを感じたよね。
感情がないわけでもない。笑うときもあるし、悲しむときも普通にあるんだけど、なんかずっと冷静なんだよね。
・
『あん時は驚いたわ』
『そんなこと言ってる自分が愚かしくなったわ』
『けど、なんであんな下着を着てきたのかは謎のままなんだよね』
『表情を動かさず冷静にそう言われた時は普通に怖かったね』
・
「鉄仮面のようなもん着けてんのかよ」
「これに関しては個人のあれだから何も聞いてないけど、それで常に最善の行動を取り続けるんだよ」
冷静であり続けられるのは才能だ。
何が起きても、しっかりと判断し一秒でも速く、行動に移せるのはなかなかできないことだからね。
「日常はどうなの?」
「うーん、わかんない。多分普通かな。普通に驚くし、戸惑ったりもする。けど、どこか余裕を持ってるんだよね」
例えば、後ろからユッケちゃんが抱きついた時、確かに驚いたのだが、それも一瞬ですぐに「いきなり抱きつかないでください、危ないですよ」と淡々と言うもんだから、驚いたのか判断しづらかった。
「……ふむ」
桜が何かを考え込んでいる。
「ちょっと、今度会いに行こうかな?」
「私も気になるし、私がアポイントメント取るから、言いなさいよ?」
「いや、止めてやれよ」
・
『流石に可哀想』
『気になりはするな』
『この二人が会いに行くとか、普通に怖いだろ』
『多分普通の子なら顎外れるくらい驚いてぶっ倒れると思うよ』
『普通の子ではないから大丈夫だと?』
・
「まぁ、行く行かないはおいといて、そんな感じね」
「二人の実力は?」
「二人ともランクは4。オールラウンダーのユッケとマジックタンクの紺金よ」
「ちょい待て、マジックタンクってなんだぁ?」
……わからないよね。
うん、そういや、紺金ちゃんもユニークなスタイルだったよね。
「あの子は大盾を振り回しながら魔法で攻めるスタイル。だからマジックタンク」
「普通に魔法で防御する感じかと思ったらゴリゴリ攻めるタイプかよ」
当たり前よ。
「守ってばっかな人がランク4にはなれない。盾使いは特にそういうことができるのは前提よ」
「盾使いねぇ……」
「あぁ~そういや、盾使いは苦手なんだっけ?」
あぁ~そうだったわね。
何でも表情が見え隠れする上に硬いからやりにくいとのことで。
「まぁ、倒しにくいってだけだから嫌いではないよ。苦手ってだけで……」
・
『なぁ、これって……』
『おかしな話が始まっております』
『まるで二人が戦えるというか、戦うということを示しているかのようです』
『……確か教えあいをしてたんだよな』
・
うーん、一応二人が強いってことは隠しておきたいから話を変えるか。
「そうだね、特に紺金ちゃんの盾は私が作ったやつだし」
「じゃあ無理」
「なんの無理かわからんが、ヤバイな」
・
『そうなんか』
『はぇ~』
『確かに一年と半年前くらいから新しくした盾からここまで変わってなかったな』
『あっ、伝説の制作者の品か……』
『ってことはあの盾も普通じゃない!?』
・
驚いているところ悪いけどあれは普通よ?
「ただ固くて、魔法の威力を上げる能力と鎖で固定するくらいしかないよ」
「うーん、強い」
そんなことないって。
ガチガチにするなら、あれに収納やパイルバンカー、反射効果、重力操作くらいつけてたけど、あの時は自重したのと素材がなくて、普通なものしか作れなかったの。
だから、そこまで凄くないわよ。
「……視聴者の皆さん、絶対に霧ちゃんに素材を与えないでください」
「間違っても作ってなんて依頼するなよ?」
「なんか二人とも酷いね」
・
『パワーバランスが崩壊する武器なんてポンポン作るなって話や』
『序盤の村で聖剣が配布されてるようなもんやで?』
『了解しました!』
『というか、そんなもん持ったら国からもギルドからも闇討ちされそうで怖いわ』
『改めて、社長の力って凄いんだなって』
・
「あっ、中ボス突入したよ?」
お?さっきまで雑談に夢中であんまり見れてなかったけど、結構良いペースだな。
「ここからはこっちを見ながらになりそうね」
「さっきの話を聞けば、結構楽しんで見られるわね」
「だな、知ってると見方が変わるって言うもんな」
じゃ、楽しみながら観戦しましょうか。
それに、仕掛けるならそろそろだろうし、ここからは目をなるべく離さないようにしないとね。
・・・・・・・・・・
後書き
ママって偉大やな……母はこよりも強しってよく言ったもんや。
たくさんエイプリルフールネタあってどれが本当で嘘かわからんくなる4月1日でした。ですが、どれも創意工夫、ネタからガチまで色々あって楽しかった。皆さんは何か嘘でもつきました?私はつく相手がいなかったよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます