第35話 社長の創作物。私、動きたい



 はい、戦況は良くないです。


 どうしましょう。


「普通にユウナより身体能力高くて、手数では私が上でも威力がなぁ」


 それに加えてあの反射付きの盾。

 厄介この上ないね。


「あとはワープとか場合によっては詰まされるよね」


 例えば炎を撃ってきます。そんでそれを躱した。けれど、ワープで先回りされて叩かれたり、ワープで炎の中に入れられたりなんかされたらおしまいだよね。


「ユウナさんや」

「わぁってる」


 どうにかして、一撃、話はそれからだ。


 ここからはお遊びなし、私もユウナも本気だ。


 まず考えるべきはやはり反射だ。


 どこまで反射できるのかが未知数な以上、ユウナは下手に詰められず、私は魔法を撃てない。


「ってことは」


 私はいつものダンジョンで使う魔法を展開する。そしてすぐに前傾姿勢を取る。


「『スピードモード』」

「くるか」


 ギュンッ


 反応できない速度で盾を落とす。


 そのために私は最高速で懐に潜り込んだ。


「読んでるぞ」

「っ!?」


 魔法は使わず、その速度で盾を握る手を蹴ろうと振り抜いたとき、その目は私を捉えていた。


「それっ」

「まずっ」


 このスピードモードの性質上、回避はすることが出来ない。

 予め決めた道を走る魔法であるがために、割り込まれることも、防がせることも考えられていない。

 それを許した時点でこの魔法は終わっているのだ。

 もちろん、そのデメリットがあってもこの超スピードは強力なものだ。


 だからこそ、今回も使ったわけだが、当然のように反応してきたんだけど?


 そんな刹那の思考ができても現実は止まらないし、体は動かせない。

 そんな私にシールドバッシュが振り抜かれる。懐だったから横払いなので、バッシュかと聞かれると微妙だがとにかくぶっ飛ばされた。


「くふっ」


 加速されたスピードは吹き飛ぶ速度すらも加速させ、少なくともリニアよりは速い速度で叩きつけられた。


「かぁっ」


 それなりに遠くまで飛ばされ地面に叩きつけられた。

 それだけだが、デメリットのせいもあり、しばらく動けない。


「肺がいったわ」


 水と風である程度のクッションを作れていたとはいえ、それでも衝撃だけで私の体はボロボロだ。


「腕はしばらく痺れて動かせない」


 あぁ、駄目だわ、あとは頼んだわ、ユウナ。



 ・・・


 翔のあのスピードモードを見切るとかあり得ねぇ。


 というか九重、強すぎだろ。

 最初はその場のノリに乗った感じだったが、社長が太鼓判押してるだけあってバカ強い。いや、社長が言ってるから信憑性は高いけど、ランク5二人で敵わない人間がそうそういるわけねぇだろ?

 九重は普通にランク6レベルだ。そんなやつをどうやって見つけて、どうやって雇ったんだか。


 いや、それはどうでも良いとして、本格的にどうするか。


「少しやり過ぎたかのぉ」

「……翔は」


 あの様子じゃ翔はしばらくは動けないな。


 小さいクレーターが出来上がっており、その中で踞って倒れている。

 意識はあるだろうが、しばらくは動くことも喋ることもできなそうだ。


「さて、翔ちゃんはやった。あとはユウナだけ」

「ちっ」


 舐めてた、というか、社長の関係者って辺りで当たり前のように強いとは理解してたつもりなのに、なんで行けると思ったんだか。少し自惚れてたか……。

 いや、これに関しては何度も言うが、ランク6レベルの人間が、普通にいるなんておかしいだろ。せいぜいアタシたちと同じレベルだと思うだろ。


「いや、文句を言っても仕方ねぇよな」

「さてさて、お次はこちらじゃ」

『SET:プロテクト』


 ん?今度はなんだ?

 ベルトに何かをセットし、また一瞬光って……鎧、か?


「なるほど、こうなるわけか」

「鎧ねぇ」


 相性が悪いのは間違いないかもな。

 反射の盾はなくなったが、翔がダウンした以上、むしろ純粋な防御力が上がる方がアタシとしてはつらい。


 どうせ社長のことだ、ただの鎧だとしても耐久力は最高レベルだろうよ。


「さて、奴ちゃんに色々やった手前、アタシが無様にやられるわけにもいかないよな」


 剣を構え直し、間合いを計る。


「……」

「では、我から行こうか」


 正面から突っ込んできて、それをアタシは剣で撃ち合い鍔迫り合いにするつもり、または牽制になればと振るった。


 だが、ここで予想外だったのは、九重が避けない止まらないでノンストップで突っ込んできたことだ。


「?」


 だから、一瞬迷う。

 これまでの動きから相手はただ考えなしに突っ込むような相手じゃない。


「っ」


 迷った結果、振るった剣を手元に戻し、防御に回した。


 カキィン


「ぶわっ!?」


 ただの突撃。

 だが、200キロで走る2トントラックにでも跳ねられたかのようにアタシは吹き飛んだ。


 しっかり着地し、次に備えて目線をあげる。

 追撃はない。


「……固いだけじゃない……純粋に我のスペックもあがっておらんか?」


 なんであちらも困惑するような強化をさせてるんですかね、うちの社長は。


 というか、ホントに剣を当てなくて良かった。

 多分、あの感触的にあのまま振るってれば弾かれて胴体がら空きに食らって吹き飛んでたな。


 そうしたら翔の二の舞だったかもな。


「マジでこれどうすんだよ」


 そんなカチカチに私の剣を通すにしても、下手な一撃は弾かれて隙を作るだけだ。


「……」


 やるだけやってみるか。


 いや、止めとこうか?


「まぁ、降参なんてあり得ねぇよなぁ!」





 …………


「無理」


 仰向けで空を見上げた。


 いや、あれこっちの攻撃通しても弾かれるし、攻撃食らったら食らったでアタシ吹き飛ばされるし、距離取ったら炎の魔法で焼かれるし、アタシとは相性最悪よ。


「翔やクスリと違って、奥の手なんてないからな」


 攻撃が通らなきゃそれで詰みに近いからなぁ。

 というか、そういうのがありゃアタシも翔と同じように言われてたくらいだもんな。


「あぁ~久しぶりに動いた動いた。さて、帰って寝よ……」

「あら?」


 あっ


 のびのびする九重に影がかかった。


「私もそれの実験してみたかったのよね」

「……すぅ」


 久しぶりの運動で楽しんで、帰ろうとした九重の背後に、社長が立っていた。

 スッゴい良い笑顔で。


「貴女だけスッキリして、さぁ帰ろうなんて、駄目よ」

「いや、普通に帰りたいのだが」

「私ね、いっつも働き詰めで、こんなにゆっくり休んだことなかったのよ」


 あぁ~社長、ずっと我慢してたんだなぁ。

 何もできない暇。ほんで何もできないのに、自分はたくさん見せつけられる。

 そりゃ社長、うずうずしてるよなぁ。


「だから、付き合って?」

「( ;∀;)」


 私やクスリに涙目で助けの目を向けてくるが、アタシたちには無理だ。

 すまんな。


「じゃあ、やろうか」

「御愁傷様」



 ・・・


 あれから三人で最近の話とか、花を咲かせていたのだが、途中で窓からユウナが轢かれて打ち上げられたのを見て「あ、九重やん。それにあれも使ってくれてるなら、私もやろうかな」と思ったわけだ。


 流石に治せるとはいえ、下手な相手なら一撃で死に至らしめる以上抑えてきたが、動きたいんよ、私も。


「ちょっと遊びに行ってくる」

「ほどほどにしておいてやれよ」

「いつも圧倒的な実力で相手を泣かせてるようなこうに言われたかない」


 同じステージに立ち、同じダンスをしているのに、そこには圧倒的な実力差があり、それを見たものは、心を折る。

 そこの領域には辿り着くことはできないと悟って。


「指先から髪の動きまで全てを操れるこうの魅せる力には誰も敵わないよ」

「そりゃ、俺が頂点で、空だからな」


 訳、こうが頂点で、見上げて届くことのない存在だからな。


「ま、霧ならひょっとしたら捕まれるかもな」

「そこまでやる気はないから安心しなさい」

「ライバルになってくんないのかよ」

「なりません」


 まったく、私たちはそれぞれの分野の土俵があるってのに。

 私たちはその違う土俵には乗らない。


 私たちはそれぞれ得意なものを教えあって、その技術を得て、違う土俵に立った?違う。

 私たちはそれぞれの分野の土俵の上から一度たりとも降りたことはない。

 技術は教わった。だがそれは自分の土俵の上で使っているだけ。


 ライバルではなく、競争相手でもない。ただの友人。親友。


「わかってるよ。言ってみただけ」

「わかってる」


 決してそこは揺るがない。

 私たちは同じ土俵に立ってはいけない。


 だからこの口頭はただの確認。

 誰も本気になんかしていない。


「じゃ、行ってくるわ」


 空いている窓から飛び降りた。




 ほんで、ちょうどユウナとの決着がついたところで、私は九重に語りかけた。


「あら?」


 このまま帰れると思わないことね。



「やるだけやってやるぞ!」


 さてと、あのベルトに関してだけど、あれはもともと作ってあったものだ。

 私の力を抑え込もうと色々と試行錯誤してた頃の副産物。


 それに九重の力を落とし込んだ。

 いや、違うか。似ているものがあったからそれをちょいと調整した。

 私が食らった力はほぼ100%再現したと言える。


「化け物相手だ。これのMAXパワーでやるしかない!」

「私が化け物?違うな、私は社長だ」

「ただの悪魔だろ!」


 酷い言いがかりね。


「行くぞ!」

『SET:Ⅸ Tail』


 あれが本来の九尾としての力の再現、そしてそれに加えて人間体のスペック強化や各種能力を増幅させたモード。


 今の九重なら普段の私の70%くらいの力はあるのではないだろうか。


 九重の姿のまま九つの尻尾や鬼火のようなユニット、そして鎧や盾などのてんこ盛りだ。


「……普通にもとの我より強いのだが?」

「へぇ?」


 やっぱり強くなるんだ。

 もともとは私の力の抑え込むためのものだから弱体化してもおかしくはなかったけど、ちゃんと成功したみたいね?


「さぁ、かかってらっしゃい」

「はぁっ!」


 直線的に素早く踏み込んで、それよりも速く横抜けから回り込んで残像を残しつつ私に攻撃を仕掛けてきた。


 速い?……いや、今自分がどんな速度感で見てるかわからないから判断できないわ。


 けど、余裕で見切れるので見切って回避。

 回避と言っても回り込んで叩きにきたところを逆に背中を取って躱した。


「はっ?」

「よっ」


 そのままノールック裏拳。


「ぐへぇっ!?」


 ズコォーンなんて冗談みたいな音で顔から地面にぶつかった。


「痛ったぁ」

「やっぱりこの力ならダメージは与えられる」


 硬化とか防御力アップとはいえ、あくまでも防御力を上げてるだけで無敵とは言えないね。


「あれに簡単にダメージ通すとかどうなってんだよ、あの人のパワー」

「本当だ、あの時も硬化で受けたが、ここまでじゃなかった」


 そりゃ、もとに戻ってきているとはいえ本気は本気。

 あの時弾かれた硬化も今なら余裕で貫通できる。


「ふぅ、どうにかして一撃、だ」

「さっきのアタシたちみてぇだな」

「私に一撃?良いわよ、撃ってみなさい?」

「「えっ?」」


 なに驚いてるのよ。

 その性能実験も兼ねてるなら攻撃も受けてあげないと、駄目でしょ?


「な、なら遠慮なく。エアロバレット、ファイヤブレイズ。融合『ブラストキャノン』」


 ……風でバレルを作り、炎で弾丸を形成。

 それを高速で射出し、炎は若干バラけて、それは魔法版ショットガンみたいなものになっている。


 あとはそれを細くした分だけ速度や弾丸の拡散率を上げたり減らしたりできるって感じか。


「食らえっ!」


 放たれたそれは予想通りの内容の魔法で、かつ速度上げの拡散率低めの一撃。


 私はそれを、宣言通り体で受けた。


 ドォーーン


 大砲のような音と共に放たれた一撃は私の右肩を撃ち抜いた。


「……ま、こんなもんよね」


 当然ノーダメですが。


 いや、一応着ていた服が破けてしまったがそれ以外はホントに無傷だ。


「ですよね~」

「さて、あとは反射だったかな?」

「げっ」

「『フレイムバーン』」

「やっば」


 ドッカーンっと響き渡る、爆発音。

 通常あり得ないような威力のフレイムバーン。それが九重を襲った。


「ケフッ」

「反射はされてたけど、反射された側から相殺で、普通に範囲でダメージ通した感じね」


 もとの九尾がオーシャンウェーブの範囲魔法を全部跳ね返したから恐らく全方位反射だったからその辺は改良ね。


「いや、もとの我でもこれはちょっと跳ね返せない」


 あっ、ベルトの効果きれてる。

 服の端々が焦げてるけど、それ途中でベルトが解除されて自前の魔法でガードしたわけよね。

 その辺も改良の余地ありね。


「まぁ、初期改良時点でこれなら上々ね」


 さて、運動もできたし、満足満足。


「九重を回復して、着替えさせたら帰しますか」

「……あの、社長、ついでにアタシと翔の回復も頼めるか?」

「いいよ、ほい」


 ごめんなさいね、少し忘れてたわ。


「はや……いや、すげぇな。すこぶる調子いいんだが」

「さ、じゃあ、ユウナ、九重背負ってもらえる?」

「おう」


 ちなみに翔はクスリが「重いんですわっ」と言いながら担いでいる。


「よっ」

「じゃあ、一度休憩にしましょう」


 私たちは足並み揃えて(二人ほどバタンキューしているが)私の家に戻るのだった。


・・・・・・・・・

後書き


そろそろ配信回やりたくなって急ぎ足でユウナを仕留めた(書くことが特になかったというのもある)ので、扱い雑になった……いや背負い投げとか巴投げとか投げ技使えばなんとかなりそう?とも考えたが普通に硬いのでダメ通らないからなぁ。と思いやっぱ書くことねぇやで雑になった。

ごめんよユウナ。一応、弱いわけじゃないからね!


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