第33話 クスリとユウナと


 流石に勝ったのは桜か。


 最後の自棄になったのはなんとも評価しがたいけど、あれもあれでクスリのやり方だ。

 自分のやり方でやれって言ったのも私だ。


「とりあえず、二人ともお疲れ」

「すぅぅぅ、はぁ~~つっかれたぁっ!」

「あるぇ?わたくしが負けたのに、勝った方が凄い疲れてるぅ」


 そりゃ、現役の戦闘用と護身用の人間じゃスタミナが違う。

 途中から結構限界近かったっぽいから、バッカたれ!みたいなこと言ってたでしょ?

 普段なら絶対に漏れない言葉を漏らしたんだから疲れて集中力がなくなってたってことだよ。


「霧ちゃん、手、貸して」

「えっ?無理」

「なんでぇ!」


 いや、だって握ったら手を木っ端微塵にしちゃう。


「腕は貸したげる」

「そ、そうだった……よっ……わぁっ、木の幹みたい」

「それは褒め言葉なのか何なのかわからないのだけど?」


 とはいえ、今の私は振りほどいたり、振るという行動で吹き飛ばしかねないのでそのまま大人しく腕を貸した。


「よっ、ありがと」

「はいはい、どういたしまして」

「さてと、どうだった?霧ちゃん」


 ここまで見てきた総評ってことか?


「わたくしは冒険者でもない女優様に負けたウジ虫ですわ」

「あれぇ?おかしいな、さっきまで熱々だったのに、冷え冷えのネガティブーになってるぅ」


 いや、燃え尽きたのもあるけど、全てをかけて負けた上に相手は女優の桜だ。

 冷静になったのとさっきのテンションの反動でこうなってるんだろうね。


「とりあえず、桜は久しぶり?の運動にしては動け過ぎってレベル。それに加えて、最後のオーロラブラストを使ったのはビックリね」


 まさか翔のやつを見て覚えたものを最後の最後に使ってくるとは、やはり、やり手だ。

 切り札を抱えたまま、最後の最後まで戦って、一番良いタイミングで切り札を切れたのは流石すぎる。


「それを見よう見まねで大方再現してきたのはホントに驚きよ」

「昔、霧ちゃんの理論解説で聞いたのを思い出して、理論とイメージがあればできるって思って試したら、行けるなって」

「理論とイメージがあれば……それがわかっても現実はそう上手くいきませんわぁ~」


 あ、本格的にヤバいか?体育座りで、顔がまたの間にどんどん沈んでいく。

 穴があればすぐに入ってしまう。


「まぁ、元気だしなさいクスリ。貴女も十分よかったわよ」

「そうですか~?」


 実際、途中まではしっかり様子見しながら対処のしかたや、特殊な剣に対しての対処。

 初見殺しもしっかりと回避したその辺は流石だ。


「最後の自棄?かな。あれは良い悪いが半分半分かな。あの焔纏いだったかな?あの魔法は発想自体は悪くない。まぁ、翔に引っ張られたのはしょうがないとして」

「(///∇///)き、気のせいですわ!」


 あ、照れてる。

 普段からあんな風に接しているが、わりとクスリは翔のことが好きなんだよね。

 気づいたときは、お前ツンデレか?とか言ったな。


「ぶっつけ本番みたいなあの魔法を使って魔法の発動時間短縮や威力の上昇、あとは防御力の上昇かな。それをできたのは偉いね」

「防御面はまだまだでしたわ。攻撃も、上手く行けばもっと手数を増やせるはずでしたわ」


 まぁ、それは追々調整してもろて。

 その辺の改善点がわかってるならよし。


「そうだな。それに加えて高みを目指すなら、そこにいつも通りの立ち回りを合わせられたら良いな」


 繊細さと大胆さ。それを合わせることができれば、翔にもユウナにも、Suma冒険者で今までにない新たなスタイルが生まれる。


「……はい」

「さて、あとは細かく指導するくらいかな」


 魔法とか、レイピアの振るい方、立ち回りとかね。


「よろしくお願いします」

「任せなさい」



 後日、配信を行ったクスリは今日のことを話し、「いつもよりわかりやすいし、いつもより丁寧で凄く良かったです。」と述べたそうだ。


 いつもよりってなんだこらぁっ!


 ・・・



「おーい、そっち終わった~?」

「ん?えぇ、こちらは終わり……ユウナ、後でどうなっても知らないわよ」


 わたくしが社長からの指導を受け終わったあと、奥の方で試合していた二人が帰ってきた。

 ユウナはけろっとしているが、奴ちゃんはユウナに足を持って引きずられている。


「手加減、知らねぇ、こいつ……」

「はぁ。まぁ、こっちの二人の指導は後ね」


 主にユウナに呆れた顔を見せる社長。


 引きずられる奴ちゃんをわたくしは担いで、とりあえず寝かせられる場所に寝かせてあげる。


「んで?そっちはどうだった?結構楽しんでたみたいじゃん?」


 わたくしの目を見てそう言うユウナ。

 全部バレバレね。


 ずっと、出会った頃からずっと、こんな風に全てを察してるみたいに見透かしてくる。

 きっと、彼女自身ただ勘が鋭いってだけなんだろうけど、それが堪らなく、ありがたい。


 深く踏み込んでこない、この感覚。

 変わらない姿や、考え方。


「えぇ、楽しかったわ。とっても」


 それが、わたくしにとって、とてもありがたかった。

 だから私はユウナと翔と二人と一緒にSumaで、社長の元で働けたことが、人生で一番幸せなことだって、思える。


「ありがと」

「ん?どうした?急に」

「……わたくしのこと、奴ちゃんに隠してくれたことですわ!」


 そっぽを向いて、目線を逸らして感謝を述べる。

 きっと、わたくしの顔は赤く染まっていることでしょう。


「あぁ、その事か。気にすんな。長い付き合いだろ」

「えぇ。これからもよろしくお願いしますわ」




「何あれ、尊い」

「えぇ。めっちゃてぇてぇ……」


 そんな様子を見ていた二人はそれ以上何も喋らずその光景を眺め続けたと言う。


 ・・・



「びぇぇぇ」

「いつまでそこで駄々こねているつもりですか?」


 Suma事務所。

 説教を終えて、足を痺れさせた翔が、動けないとかなんとか言って駄々こねていた。


「ここから配信したいぃ」

「帰ってください。やるならスタジオ行ってください」

「だって、疲れたしぃ、足痛いし」

「ちっ」

「舌打ち!?」

「これ以上は仕事の邪魔ですね。仕方がありません」


 な、何をするつもりだ!?

 というか、聡子さん、そんなキャラでしたか?


「九重さん!」

「はい!」


 はやっ!?

 というか今どこから?


「社長の家にでも送って下さい」

「丸投げだな!よし、行くぞ」

「行くって、どうやって!」

「こうやってだ」


 シュンっと浮遊感を覚えて目を開くと見覚えのある顔が見えた。


「あれ?」


 ただし上空から、地上にいる二人を、だ。


「あっ」

「落下するぞ!注意するのだ」

「やっば!『フライ』!」


 自由落下が始まる直前、咄嗟にフライを発動させ空を飛び、落下をキャンセルした。


「ん?何やら声が……」

「あれ?なんで翔が空にいるんだ?」

「ふぅ。あ、おーい!」


 二人に声をかけて手を振り、ゆっくりと降りる。


「よっと」


 二人の前の地に足をつける。


 そして、周りを見渡す。


 ここどこ?というか、どうやってここに来た?


「九重ちゃん?説明をちょうだい?」

「ワープをした。我はワープが使えるから、こうやって遠いところに一瞬で行くことができるのだ」

「えっ?すっご」

「これも我の仕事の一つだ。何かあったときこうやってすぐに駆けつけて対処する」


 へぇぇ。初めて聞いたけど凄いね。

 これまで以上に安心して配信ができるってわけだ。


「とりあえず、ここどこ?」

「社長の家です」

「おっ、そうなの?」

「今日アタシたちが社長の家行くって言ったろ?そのアタシたちがいるんだ。それ以外ねぇだろ?」


 そりゃそうか。


「なら、私も二人と練習でも……」

「おっ、何やら賑やかだな!」

「ん?」


 練習でもしよう、と言おうとしたら、またまた空から声が聞こえた。

 それと同時に人一人分の影が差し掛かった。


「来たわね」

「来ましたね」


 ドォーン


 ダイナミック着地を決め、大きな砂ぼこりをたたせる。


 しばらくして、砂ぼこりが晴れて、降りてきた何者かのその姿が露になる。


 金色のラインの入った白のジャージを着たサングラスをかけた高身長の男。少し焼けた肌、整った髪型。


「……あっ!」

「天が呼ぶ!ファンが呼ぶ!世界が呼ぶ!」

「……驚きませんわ」

「天下無敵のダンサーインザダーク!」

「ホントにすげぇな、社長」

「その名もこ・う・し・ろ・う!!」


 彼こそ、世界で活躍し、自称するように天下無敵のダンサー。


「相変わらずね、こうは……」

「こうちゃんのあれだけは治らないね」


 そして、社長の親友の一人。

 こうしろうであった。



・・・・・・・・・・

後書き


感想で変わらないユウナの存在が~って言うのが、そうだな良いよな、ってなって今回そこに少し触れてみました。


こうしろうを出して気づいたのは、ちゃんと名前付けて出てきたちゃんとした男キャラ初めてじゃね?

最初の方の山田だか田中だかタダラだかは置いといて……いや、いたな、中村さん。

……中村さんは主要じゃないって?彼はSumaのベテランだぞ?他のモブと比べるな?彼は結構頻繁に出てるぞ!事務所が出る度いるんだぞ!書いてないけど。中村さん語り以上

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