第32話 わたくしのやり方で。わたくし、自棄



「っぅ」


 あれからどれくらいたったかわからない。


 わたくしの攻撃は届かず、一方的にダメージを稼がれる状況が続いている。


 わたくしのレイピアによる攻撃のリーチは一宮さんのリボンのような剣に当然のように負けていて、近づくにも近づけない。

 それだけでレイピアは防御用でしかなくなっている。

 攻撃に転ずるために肉薄するにもあの武器相手では近づけないし、仮に近づいたとしても剣に巻かれてやられてしまう。


 だからといって、私の魔法の出力は一宮さんと同程度。

 打開ができるだけの魔法はないことはないが、それを使うための溜めをさせてくれない。しようもんならあの剣にやられる。


 だから、ジリ貧。


「けど」


 それなりに慣れてきた。

 剣の動き方に少しは慣れてきて、最初ほど辛いわけではない。


 けれど、一宮さんにはその感覚すら怪しい。


 私は相手に対応して、最適解を出して勝つ。そんなスタイルだ。

 対して一宮さんは相手を自分の掌の上で踊らせて、勝つ。嫌らしいったらありませんわ。


「それが一宮 桜。世界的超天才女優」


 その微笑み一つで他の人の表情を操るとまで世間に言われた、超が付く女優としての天才の力。


 それが、私が戦って推測した、一宮 桜という相手。


「社長やユウナみたいな性格なら、もう少し楽だったのかも知れませんね」


 どう言うことだ!?と叫ぶ二人が脳裏をよぎったが無視無視。


「考え事は終わったぁ?」

「待ってくださり、ありがとうございます」


 疲れを一切見せない一宮さん。だから、今の待ち時間が自分の休憩を兼ねてたのか、ただ私を待ってくれていただけなのかは不明だ。


「そう?なら、続き、行くよ」

「はい……すぅぅぅ、はぁっ。行きます!」



 再開直後に、私は先手を譲られたのでそれに甘えて攻め込む。


 相性が悪いのはわかった。

 そうなれば、今の私に必要なのは、攻めの姿勢と、臆病にならない精神。


「『アイスショット』」

「はっ」


 牽制として放つアイスショットを剣を一振、螺旋を作りたった一振で全てを切り落とした。

 その振る瞬間、同時に私は踏み込み、間合いを詰める。


「ファイヤ」

「っ!」


 魔法による迎撃!


 と、判断し、一度足を止めて、横に飛び退く。


「しまっ」


 しかし、それはフェイク。

 炎は放たれず、代わりに迎撃をしていた剣が横から、さっきの私がいた位置の背後の辺りから流れてきた。


 咄嗟にレイピアで防ぐために受けるが、レイピアの刀身をすり抜けるように潜り抜けて私の左腕から右足にかけて一閃を喰らった。


「っぁ」


 そこまで深い傷じゃない。

 ですが……臆病になってしまった。リスナーさん風に言うなら日和ってしまった。


 あの瞬間、臆病にならず、そんなもの知るか!って突っ込んでいればこうはならなかった。


「……」


 どうする?正直、それはわたくしには苦手も苦手。それをやらない方が恐らくマシではある。しかし、やらなければ勝てない。


「……」

「クスリぃぃ!」

「ひゃい!?」


 と、顔をうつ向けて考えているとき、大きな声でわたくしを呼ぶ声、社長がわたくしの目を見ていた。


「貴女は、貴女よ!貴女らしく、貴女のやりたいように、貴女だけのやり方でやるのよ!わかったわね?」

「霧ちゃん、いつから熱血系になったのよ」


 わたくしはわたくし。わたくしらしく、わたくしのやりたいように。そして、わたくしのやり方で。


「わたくしはわたくしのやり方で……はい!」


 いつからわたくしはあの二人ことを考えていた?

 いつからわたくしはわたくしのやり方を忘れていた?

 いったいいつから、わたくしは誰かの真似をしていた?


 利口でいようとして、大人になろうとして、先輩であろうとして、わたくしはわたくしを忘れていた。


「わがままの一つくらい、淑女の嗜みですわね」

「( ・д・)……ねぇ、霧ちゃん、あの子変な方向に行こうとしてない?(ボソッ)」

「(^-^)(サムズアップ)」

「丸投げした……どうすんのよ……」


 今のわたくしにできることでわたくしのやり方で、わたくしはわたくしの限界を超える。


「『焔纏い』」

「えっ?」

「『ビルドアップ:ドレス』」

「え、えぇぇ」

「『焔を纏う王女ファイヤープリンセス』」


 焔纒いで、わたくしは自身の周囲に炎を作り出してそれらをわたくしの体に沿わせるようにする。

 続いて、その形をわたくしの理想の形にし、魔力の回路の通りを良くさせ、そしてわたくしの戦い方に合わせて理想を調整する。


 それらの行程を経てわたくしはそのドレスに腕を通す。


「これがわたくしの全てですわ!」

「は、はは。一番、大人しく子かと思ったんだけどなぁ」

「いや、クスリは初期の三人の中なら一番、性格に難を抱えているぞ」

「噓ぉ」


 体温が上がる。

 それと同じくらいに、鼓動がはね上がる。


「わたくしの心が迸る!もう誰にも止められませんわ!」


 今のわたくしは負ける気がしませんわ!そしてわたくしの心はマグマのように熱く、雷のように鋭い。

 こうなったわたくしはもう止まれませんわ!


「ホントに、この子は何なのよぉ…」



 ・・・



 それと同時刻。

 そこから少し離れたところで組手?をしていた二人。


「おらぁっ!くたばれぇ!」

「当たらねぇぞ!」

「やかましい!さっさと倒れろぉっ」

「そんなの食らわない!……って!あれぇ!?」


 そんななか、奴の攻撃を受けたユウナは爆発するかのような闘志があがり、それに驚いて、目線を逸らす。


「隙アリィ!」

「あっぶっ、ちょっと大人しくしてて!」

「げふんっ」


 デコピン一発、湯気が出るほどの威力のものをぶつけて何回転かさせてその場に倒した。


 そして改めて、その闘志の先を見つめる。


「ありゃぁ~クスリか?……懐かしいというか、何というか」

「いったぁぁぁ~……って、どうしたんですかいきなり」

「……ん~ちょっとね」


 これはクスリの名誉のためにも話さない方が良いな。



 アタシたちが配信を始めた頃の話。


 色々とあったあの頃。

 私は前から変わらないが、クスリと翔は今とは違っていた。


 言ってしまえば、二人は今とは正反対だった。


 これを話すのに当たって、少し翔についても説明が必要になる。


 翔はガチのお嬢様だ。詳しくは知らないが、本当に良いところのお嬢様だった。


 そのせいで入社当初は大人しくて、色々と注意してきたり小うるさいやつだった。丁寧な口調で品のある動き、丁度今のクスリのような感じだ。

 聞いた話だと翔は、家とその時点で縁を切っており、ついでに何やら社長とは入社前からの関係らしい。この二つを並べて言ったってことは何かしたんだろうな、あの人。


 そして、肝心のクスリはお嬢だ。


 ちょっと力に対してうるさい家族だったらしいので、当初は力こそ正義!な脳筋であった。


 そのせいで自身の力に対して色々と葛藤があったんだよねぇ。

 ちなみに過去に何があったかはわからないが、社長には従順な子だった。


 そんな子は様々な経験から、あんなに丸くなったわけ……というか当時の翔に憧れていたからか今のような口調になったり雰囲気になったりした結果が今のクスリだった。


 最初は拙いものだった。『アタイ……いえ、わたくしは』とか今では慣れた……いや、作り物が本物になったか……まぁ、今では本当にお嬢様のようになったわけだ。


 しかし、口調や行動、仕草や立ち振舞いを変えられたところでその人の本質は変わらない。


「クスリは、生粋の」

「?クスリさんが、何ですか?」


 危ない、声に出てた。


「何でもない」

「気になりますけど?」

「何でもないから、何でもない」


 アタシは気になってその続きを聞きに来る奴ちゃんを引き剥がしながら、これから面白くなりそう、と思い笑みを浮かべた。



 ・・・


 仕掛けたのは私。


 何やら危ない雰囲気を放ち始めたクスリちゃんを警戒しての行動だ。


「しゃっっ!」

「えっ?!」


 剣を振るい、足元から太ももへ切り上げる攻撃を行ったのだが、なんか普通に跳躍……跳躍って言っても私の頭上を通り越して背後に立たれるくらい高い跳躍で回避され、そのまま攻撃を仕掛けに来る。


「はぁっ!」

「『ロックウォール』」


 ボォーン


「バッカたれ!」


 そのまま獣のように、レイピアを振りかぶりながら突進してくるクスリちゃんに、壁を一枚作って防ごうとするのだが、余裕で壊されたから急いで横ステップで回避。その際に本音が漏れたのは不覚である。


 何だかんだで、ここまで焦ったのは久しぶりだから、やっぱり戦いって難しい。


「でも、まだまだだよっ!」

「っ!?『フレイムバーン』」

「防ぐよね?」

「抜けて!くぅっ」


 回避直後、戻ってきた剣先を今度は背後から襲わせ、クスリちゃんに魔法を切らせ、その魔法を正面から突破させ、目の前まで切先を迫らせた。


 纏っていたドレスがそれを受け止めるように変化して防ぐことはできたが、咄嗟だったからかなり体勢も意識も崩した。


「『アイスフォール』『ウィンドカッター』『フレイムバースト』」


 ここぞとばかりに魔法を連続発動、このときように溜めていた魔法を放ち、トドメを指しにかかる。


「ファイヤーっ!」


 と、思ってたんだけどなぁ


「燃やし尽くす勢いで炎を上げるねぇ」


 流石にここまでの出力は予想外だ。

 放った魔法が全部跳ねかれてしまった。


「これは自棄になってるのかな」


 ちょっと面倒だな。

 自棄になった相手は何をしてくるかわからない。

 読めない攻撃は反射神経に任せるしかないからね。


「さて、なら私も本腰いれないとね」

「今度はわたくしから行きますわぁ!」


 叫びながら、レイピアを上段に構えて振り下ろしてくる。


「さっきまでそんなことしてこなかったのに」


 ホントに人が変わったみたいだね。


 レイピアを剣で巻き取り、引っ張って剣の柄で腹を突く。


「かはっ」

「『バーニング』」


 相手を包む炎、相手を発火させる魔法だ。

 触れたところから炎が全身に広がり、バーニンバーニンする。


「しゃらくせぇ!ですわ!」

「(;^ω^)そのままくるの……」

「『フェニックスバーン』」


 クスリちゃんの着るドレスが形を変えて、今言った名の通りフェニックスのような形に変えて、突っ込んでくる。


「ふぅ」


 これは少しヤバいかな。

 今のタイミングで避けても、多分合わせて追ってくる。


「なら、見よう見まね、圧縮して融合させて……よし、『オーロラブラスト』!」


 翔ちゃん、少し技借りるよ?


 その魔法は間違いなく、翔が使ったもの。


 霧ちゃんに会う前にある程度の子の切り抜き?を見てきたんだけど、これは昔霧ちゃんが言ってたやつかな?って試してみたら行けそうだったので使わせてもらった。


「っ!?噓ぉっ」


 ゴリッっと空間ごと削られるような感覚がクスリを襲い、気づいたときにはドレスがフェニックスバーンごと抉り取られていた。


「はぁっ!」

「きゃっ」


 一瞬気を取られたところを見逃すほど優しくはないよ!

 回し蹴り、からの剣の面で巻き取って拘束。

 ついでに口を塞いで押し倒した。


「ムググ……」

「私の勝ち、ってことで」


 コクコクと頷きその場に大の字で空を仰いで倒れた。



・・・・・・・・・・

後書き


遅れるとか言ってたら一週間近く空いてしまった。

色々と手続きやら、友だちの手伝いやら言ってたら全然更新できませんでした。



更新についてですが、二日に一回くらいのペースで固定しようと思います。一日一回は流石にキツいからですね。

なるべく守れるようにやりますが、予告なく更新ができないときは、あぁ何か忙しいのね、と解釈していただければ幸いです。

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