第31話 私だって戦えるのよ?
「さてと、クスリちゃんはやらないの?」
私たちにかまってばかりじゃないでしょ?
まぁ、この子は全然、それでも良さそうだけど……折角ならね。
「あら?桜もやるの?」
「えっ?」
何を驚いているの?
「私もやるよ?というか、クスリちゃんに付き合ってもらおっかなって」
「……えっと、一宮さん、女優でしたよね?」
「そうだよ?みんな知ってるよね?」
「それなのに、わたくしの特訓に付き合うって……」
あれ?聞かされてないのかな?
「霧ちゃんから聞かされてない?私含めてみんな最低限戦えるだよねぇ」
「み、みんな……」
そ、ここにいない私たちの親友たち。
「懐かしいよ。当然、霧ちゃんが私たちに教えてくれたんだから」
「何をしているのですか社長」
「な、なにって、教え合い?」
霧ちゃんが私たちに教えてくれたのは、護身術や魔法。
それらは多分、私たちの芸能生活の中で一番活躍している。
「そのお陰で私なんかは、映画とかのアクションでリアリティーを出せたり、たまにいる変な人たちを自力で撃退できるし、何より、若さや健康を保ててる」
「最後の方関係あるんですの?」
ん~あると思うけどなぁ。少なくとも健康はね。
若さは……まぁ、霧ちゃんがその最たる例だから、ね。
「まぁ、だから、私だって戦えるし、久しぶりの運動でもしよっかなって」
「う、運動?わたくし、これでもランク5……」
「知ってるよ?それでも……あの頃の霧ちゃんよりは、マシかなって……」
遠い目。
あの頃は酷かった。
私たちは絶対に手を抜かない。
それが得意だろうが不得意だろうが、教える側も、教えられる側も。
私たちの集まりでは、その実力を全員余すことなく使う。
私なんかは、表情どころか、喋る言葉や次の行動まで引っ張る、ある意味擬似未来予知、言ってしまえばマインドコントロール。
そんなものを見せつけていた。
そして、当然、霧ちゃんはその圧倒的力。
最初はみんな一般人。
だけど、霧ちゃんの地獄の合宿によって私たちはみんな揃って戦えるだけの力を得ていた。
合宿の内容は遠い目になるようなものだが、結果は出ていたので誰も特に何も言わなかった。が、もう一度やるか?と問われれば当然やらない。
「だから、遠慮なくやろうね」
「……怪我しても知りませんわよ」
「怪我しても霧ちゃんの回復魔法で一発よ」
だから遠慮なくやれる。
「あっ、霧ちゃ~ん。私の武器頂戴」
「えっと……これね」
そうそう、それ。
収納から取り出されたのは、薄く長い剣。
紙のように薄い刃と1.5mほどの刀身。
「刃が地面に…」
「準備は良いね。じゃあ、霧ちゃん!合図よろしく!」
・・・
桜の武器は、私特製の剣。
特殊な効果は付いていないが、剣自体がかなり面白い。
薄く長い剣は、振るう度にしなるため、まともにつばぜり合いすらできない。
だが、そのしなりは攻撃の時は凶悪だ。
手首の細かい動きに反応し軌道を事細かく変化させ、その一振は相手をスパッと切り裂く。
剣で戦うとき、あの剣を受け止めることはできない。ぶつかってもそのまますり抜けるように切り裂かれてしまうからだ。
「剣で戦うなら必ず弾くことが必須」
それが難しいんだよね。
長い刀身、薄い刃、しなる剣、それによって弾いたところで使い手にまるで響かず、しなった剣は反動をつけて再び襲いかかる。
「その分使い勝手は悪いけど、桜はそれができる」
対するクスリは剣と魔法のハイブリット。
剣はレイピア。魔法は基本的にはなんでも使える。
魔法剣士というのがしっくりくる。
「他の二人と比べると迫力は劣るがクスリはそれに劣らない美しさがある」
全ての攻撃を冷静に捌き、的確な攻撃で相手を沈める。
それがクスリの戦闘スタイルだ。
「……どうなるかしらね」
二人の実力差はそこまででもない。
クスリには申し訳ないが、桜はそれだけの強さを抱えている。
「霧ちゃん!合図よろしく!」
「わかった~」
さて、どうなるかな?
「それでは、始め!」
私は手を上げて、振り下ろし、開始の合図を送った。
「行くよ!それ」
「っ!?」
先手は桜。
その長い刀身を最大限に生かした攻撃。
一歩踏み込んだだけで間合いは意味を失くし、クスリは後退を余儀なくされる。
「『ロック』」
「えっ?あっ」
クスリの後退した先、足元に小さな出っ張りが発生した。
踵が引っ掛かり、体制を崩され、後ろに倒れる。
引っ掛かかり、倒れると認識した辺りで倒れることに抵抗をせずそのまま後ろに倒れ込む。
そして、何もないところへ、倒れ込んだ目線の先に置くようにレイピアを振るった。
「おっと」
そのレイピアは横払いで襲ってきた桜の剣を弾いた。弾いたところで、足元のロックを利用して後ろに飛び退いてから受け身を取って倒れ、すぐに起き上がった。
あのタイミングで踏ん張っていたらこれで終わっていたことだろう。
「……っぅ、本気で行きませんと」
「流石、霧ちゃんのところの子ね。これ初見殺しだったのに、初見で防がれちゃった」
桜の言う通り、あれは初見殺しだ。
だが、質の悪い初見殺しだ。
何せ、これによって、通常よりも足元などの周囲に気を払わなければならず、精神的に余裕がなくなる。
張り詰められた集中は時に、己の首を絞め、足を引っ張ることがある。
例えば、一言、ロックと呟いたとしよう。
同じように後退されていた状況下でその一言を聞いた人はどうする?
足元に意識を必ず向ける。それも、かなり早いタイミングで。
この時点で、桜の掌の上だ。
意識が足元に向かった瞬間、ロックを足元ではなく、普通に正面から放たれれば、剣で斬られてしまうことになる。
そんな風にその行動が意識に植え付けられてしまうのだ。だからこそ、質の悪い初見殺し、なのだ。
「じゃ、行くよぉ。『アイスバレット』」
「っ!『ロックバレット』!」
「ほっ」
「っぅ」
桜の放ったアイスバレットにすぐさまロックバレットで相殺。
しかし、その魔法を放った瞬間、二歩踏み込み、剣をクスリの胴体まで届かせる。
ギリギリで胴体に当たることは防いだが、薄皮一枚程度がパックリやられてしまっていた。
「間合い管理ができない……」
先端意識で間合い管理をするのが、長物相手の基本だが、あれは長さが分かりにくい。
まだいくらか桜も短く見せているだろうし、クスリ目線では剣が伸びているように感じることだろう。
かといって間合いの管理を怠れば、あの剣に蛇のように巻かれてTHE ENDだ。
「どうしましょう……」
悩むクスリ。
私はその姿を見ながら、向こうで戦う二人を意識する。
「クスリにとって、相性最悪よね」
桜の弱点は、結局のところは攻撃力不足。
例え間合い管理ができなくても、防御力の高い子、ユウナとかならば正面突破で近づくことも可能であり、また翔のような強力な魔法を使えば倒すことは楽だろう。
しかしクスリの場合、それを可能にするだけの強力な魔法はなく、ゴリ押しでなんとかなるほどの攻撃力も防御力もない。
「ヒットアンドアウェイができない状況なのよね」
それがクスリのスタイルであり、戦い方。
それができないなら、どうする?というのが、私視点での注目点だ。
「逆にヒットアンドアウェイされてるようなものだもんね」
勝てる勝てないは置いといて、まずはその剣をどうやって攻略するか。そして、どうやって攻撃を与えるかだ。
「桜には悪いけど、私としてはクスリに頑張って貰いたいかな」
独り言のように語りながら、私はその試合を見守る。
・・・・・・・・・・
後書き
今回は短め(ここから長くなりそうだから切ったとも言う)で、少し忙しくなってしまいしばらく更新が遅れます(もう遅れてる)。すみません。
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