第30話 手加減知らずのパワー。私、親目線


 そんな風に私は、ユウナさんと剣の実験をしていたのだが……


「よし、あらかた終わったかな?」

「そうですね。ブーストの他は特になさそうです」


 まぁ、あと一つ、絶対使うなっていう危険コマンドの一つがあるのだが、それは口が裂けても言えない。


「よし、終わったわけだし、奴ちゃん?」

「はい」

「早速、組手しよっか」


 忘れてたー


「い、今からですか?」

「うん!」

「や、やってやりますよ!」

「よし!」


 ポーン


 そんな音、実際になってないが、そんな音がなったと錯覚するくらいには、軽く捻るように投げ捨てられた。


「あるぇ!?」

「ほら、集中しないと」


 いや!今のが始まりの合図だったのかよ!というか、いつどうやって私投げられたの!?


「って、そういうのは後!らぁっ!」


 着地するために体を捻り体勢を整え、着地!

 足から着地し、かつ限界まで衝撃を殺し、なんとかダメージを抑えた。


「ちょっと!?」

「ほら、もう一回!」

「ばっ!?ナンデェ?!」


 今度はちゃんと見てたのに!なんで空を舞ってるのぉ!


「くそぉっ」


 同じように捻って整えて足から着地!

 二回目だから、というか連続で二回だから足痛い!


「流石にこれくらいは問題ないか」

「はぁ……ユウナさん?ちょっと、説明を……」

「じゃあ、次はこう!」


 だから話聞けよぉ!


「ぶっ!?」


 という間もなく、今度は頭から地面に埋まっていたのだが?


「モガモガ……」


 結構しっかりはまってんなぁ!


 両手で少し捻りながら、顔を地面から抜く。


「ぺっ、土がぁ」

「土美味しいねぇ!」

「んなわけあるかぁ!」

「じゃ、もう一回!」

「食らうか!ブッ」


 駄目だ。なんも見えん。それどころかどうやって投げらたり、埋められてるのか検討もつかん。


 とりあえず、自分を引っこ抜いてぇ


「ユウナさん!そろそろ説明を!」

「よし、次はこれかな」

「だから話聞けっ……ぬぁぁぁ!?」


 今度は足と手を持たれながら空に跳躍(だいたい五十メートル)、縄跳びのようにぐるぐる回されて天空から発射された。


「ぶべるぶぶぅ?!」


 しかも、それなりな豪速球と同じ速度で投げやがった!

 というか、一秒も満たないうちに地面に接触するぅ!


「しぬぅ!」


 どうする?どうすれば生き残れる!


「死んで、たまるかぁ~い!」


 咄嗟にマット運動の前転の要領を思いだし、手から地面に付き、前に体を押し出し、次に背中を地面につけ、そして受け身(フルパワー)で止まった。


「ぜぇぜぇ……し、死ぬがどおもづだ」


 死因:先輩からの指導。なんて嫌だぞ!


「おぉっ!流石は奴ちゃん。皆が気に入るだけあるね」

「いけしゃあしゃあとこの先輩わぁ」


 ・

『唐突に始まった組手?特訓?でユウナさん後輩を殺しにかかる』

『いつものこと……じゃないな』

『お姉様がキレてる……』

『さっき合流した奴リスナーだが、どういう状況?』

『さっきまで、剣を試してたのに、唐突に始まった組手によって奴ちゃんが死にかけてる』

『というか、あれを普通に最低限のダメージで抑えるの天才過ぎん?』

『咄嗟に受け身まで繋げてダメージ減できるのはヤバい』

『これで一年か……』

『肩入れしたくなるわな』

『それにしても酷い扱いだなユウナよ』

 ・


「おぉ、死にかけるかなぁ~って思ったけど全然だね(^-^)」

「死にかける攻撃を後輩にやるなよぉ!」

「攻撃じゃないよ?」

「死にかけるのに攻撃じゃないってなんだよぉ!」


 この人、イカれてるのか?!

 というかよくこんなんで今までやってこれたなぁ!


「過去のコラボ相手に、同情、します」


 ・

『あったなぁ』

『初期の三人の後に入った子達は全員食らってたな』

『できればもう二度とダンジョン攻略以外でこの人とコラボなんかしたくない、とまで言わしめた地獄だったな』

『確か、過去に一度勢い余ってコラボ相手の腕にヒビいれたよな』

『そのときは流石に謝ってたな、結構な勢いで』

『悪い子ではないんや。ただ、このやり方しか知らないんです』

『悪い人ではないよ、Sumaですから』

『そりゃそうか』

『お姉様ぁどうかご無事でぇ!』

 ・


「さて、ここまで投げ埋め落としとよくわからないことをやってくれた理由をご説明頂けますか?」

「まずはどこまで受けきれるかのテスト」


 受けきれるか……耐久力のこと?


「防御力とか、咄嗟の判断能力とかね」


 鍛えてますから、その辺はねぇ。

 鍛える前の一年前なら即死コースですね。


「それで?」

「合格!これなら、普通に組手しよっかな」

「普通ではなかったよな、流石に」


 これが普通の組手ですなんて言われたらこの人の頭を殴って直さなきゃならない。


「ステゴロがいいよな?」

「剣でやろうがステゴロだろうが変わりませんよね」


 サッと構える。

 右足だけ前に一歩踏み込むように、それに合わせて右腕を前目に下段でその上に左腕を下の右腕と交差するように構える。


「じゃぁ、始めるよ」

「っ」


 速い。

 けど、さっきみたいに見えない知覚できない動きじゃない。


「よっ」

「くぅっ!?」


 背面からの攻撃に右手で対処したのだが、重い。ただのパンチなのに……受けた腕が痺れた。


「くそっ」


 このまま押しきられたら負ける。そう判断し蹴りで距離を取ろうと蹴りを放つ。


「いいね」


 その蹴りの直撃を食らって1ミリも動かず、というかダメージを受けず、一歩踏み込まれ胸ぐらを捕まれる。


「ふんっ!」

「がっ!?」


 頭突き!?


 胸ぐらを捕まれて自分の額まで私を引き寄せての頭突き。


 ゴッっという少し生々しい音を鳴らしてユウナさんの頭突きが私の頭に激突し衝撃が突き抜けた。


「や、ば」


 その衝撃によって、脳が揺れて、上手く立てない。


「ほれ!」


 膝から崩れ落ちる私に、続けて右腕で振り上げて私の体を宙に打ち上げる。


 なんちゅう力してんねん!

 パンチ一つで人の体を打ち上げるんじゃない!


「落として」

「ぎゃっ!」


 跳躍一つで打ち上げた私より上に行くんじゃない!


 ちなみに言った通り、私を追い越し、小突くように叩かれ空から落とされた。


「受け身っ」

「できないよ」

「ふげっ」


 なんでもう下にいるのかなぁ?

 もう一回右腕を振り上げてもう一回打ち上げられる。


「となると、もう一回上かっ」


 流石に見える攻撃を二度も食らうもんか!


「ガード間に合って偉いね」


 けど、上からの攻撃は防げても落下は阻止できない!


「どりゃっ」


 また落下地点に先回りされて、三度目の右腕振り上げ。しかし、今度は飛びすぎない短い振り上げ攻撃。


「あ~やば」


 軽く空に舞わされて、下に目線が言ったとき、身を捻り、左腕を構えるユウナが見えた。


「でりゃっ!」

「かはっ」


 振り抜かれた拳は私の背中の中心部に吸い込まれ、吹き飛ばされた。

 さっきのぶん投げよりも高く、今日一の威力によって吹き飛ばされた。


 意識を手離さなかっただけ、私は偉い!


 雲との距離が近づく景色を見ながら、私はそんな風に自分を褒めながらここからどうするか考えていた。


 正直、今すぐには体は動かせない。

 この位置から体を動かせずに落下すれば死は免れない。

 自由落下が始まる前に体を動かせるようにならないと。


「ユウナさんのことだ。受け止めてくれるなんてことはないだろうから」


 てめぇで何とかしろってことだ。


「……そうだ!」


 収納から社長に貰った剣を取り出し、それを死ぬ気で握る。

 体は動かなくても、手くらいは動く。


「ありったけで握れぇ」


 自由落下が始まり地面が近づいてきた。

 タイミングを間違えるなよ……今!


「ブーストぉ!」


 横にブーストを発動し、間垂直落下から斜めに軌道を変更。


 おっ、体が動く。これなら!


 その途中で体の感覚が戻ってきて、動かすこともできる。


 体を捻ってより確実に軌道を変えて、落下角度を斜めからゆっくり横に変えることで、それまでの勢いを殺す。

 その角度でブーストを解除しそこから再び落下。


「シールドモード!」


 続けてシールドモードに切り替え、それをパラシュートのように使い一瞬空を滑空。

 その時点で地面まで5メートル。

 ここからなら普通に着地ができる!


「はぁっ!」


 ……生きてる?


「……死んでない。生きてるぅ!」


 生きてるって感じ!生きてるって素晴らしいっ!


「おぉ、流石に受け止めてやろうと思ったけど、これはなかなか……」

「えっと……もう、無理」


 そこで意識を手離した。


 ・

『あれを自力で生き残った?!』

『よぉ頑張ったな』

『奴ちゃん、何だかんだで指導側の予想を越えてくるよね』

『おねえ~さまぁぁぁ!!』

『怖すぎる。今飛行機と同じくらいまで飛んでったよな?』

『ただのパンチでそんな高さまで打ち上げられて、それを社長装備もあったとはいえ自力で生き抜いた奴ちゃん。ここは魔境か?』

『まぁ、Sumaって冒険者の中の魔境ではあるな』

『これが社長も含めて惚れ込む子です』

『奴俺誇』

『とりあえず、ユウナ、奴ちゃん起きたら謝ろうな』

 ・


「うん、やりすぎた。ごめんな」


 寝ている奴に優しく語りかけながら謝るユウナだった。



 ・・・


 というのが3日前だった。


「もうしないでくださいね」

「ホントにごめんて」


 社長の家の庭で、そんなことを思い出しながら、ユウナに説教する奴。



 私が着いたとき、二人はそれなりに仲良く話をしていた。


「お待たせ」

「あっ、早かったですね」


 二人はこちらに向き直り、話しかけてくる。


「えぇ。話も報告だけでしたから」

「さて、早速やりましょうか?ねっ?霧ちゃん」


 なんで桜が仕切るの?


「まぁいいわ。じゃあ、早速始めましょう」

「では、先に二人からどうぞ」

「サンキュークスリ」

「ありがとうございます、クスリさん」


 まずはユウナと奴の二人からね。


「じゃ、奴ちゃん!アタシと組手で良いか?」

「私何も言ってないのにすでに剣を構えてる時点で答えは聞いてませんよね?」

「そうとも言う」


 なんか、姉妹みたいだな。

 というか奴ちゃんは皆の妹感が凄いからな。


「誰と組んでも妹キャラになるのって才能よね、ある意味」

「本人に言わないであげてね?」

「私もあんな妹が欲しいな」

「駄目よ?」

「わかってるよ~」


 と、そんな二人を見て私たちは盛り上がる。


「どうせ、言っても聞かないみたいですし、今日こそその頭に一撃当ててやりますよ!」


 収納から私特製の剣を出し、柄を両手で握った。


 いつの間にかあの剣を使えるようになってるわね。


「2ヶ月以上経ってるとはいえ、もう使えるようになるなんて」


 成長率だけなら、私が見てきた中ではトップクラスね。

 まぁ、流石にまだ両手ではあるが、異常ではある。


「奴ちゃん、3日前はあんな風に持ててなかったのに……」

「クスリ?どうした?」

「3日前の配信の時点ではあんな風に持ててなかったはずなのに、奴ちゃんは今こうしてあの剣を握っていますの」


 えぇ……いや、ユウナの特訓のお陰か?

 というか、筋肉痛とか引きずってるとも言ってなかったか?


「あの子、ホントに凄いね」

「ホントね」


 私の目に狂いはなかった、と言いたいがここまでとは正直予想していなかった。

 若い才能って凄いわね。


「なに老けてるの?私たちもまだまだ若いわよ」

「奴ちゃんに比べたらそこまで若くないわよ」

「えっ?奴ちゃん、今いくつなの?」

「えっと……17歳」


 つまりSumaに入社当時は16歳の中卒の子である。


「わぁ~それなら、ねぇ」

「ね?若いって凄いでしょ?」

「えぇ」


 私と桜は親目線で奴ちゃんを眺めた。


「いや、お二人もまだ若いですよね?まだ二十代のはずですよね!」

「もう少しで三十路よね」

「ホントよね。時の流れって残酷ね」

「なに目線だぁっ!?」

「「親目線?」」


 二人で綺麗にハモった。

 イェイ、何だか嬉しいわ。


「そういうのはもう少し年齢を重ねてからにしないと、あの人が怒りますよ」


 そんなこと言い出したら、私の会社とか私より年上がたくさんいますから、ピンポイントであの子を指すのなら可哀想ね。


「あの人が誰かは私はわからないけど、とりあえず、私たちも十分歳を取ったのは間違いないって話よ」

「そ、それはそうですが」


 あっ、桜にタジタジさせられてる。

 実際、良い言葉だし、良い正論。


「私なんて、若い頃にできてたこととかできなくなり始めたもの」

「私はまだそういうのはないけど、それなりに減ってるものもあるもの」


 まぁ、減った先から増やしたり、別のもので代用したりと好き勝手してますが。


「だから、若いうちにやりたいことやった方が良いわよってこと」

「私たちはやりたいことやりきった結果がこれだから」


 人生の先輩としてはそういうことを言わせてもらおう。


「はぁ、というか、お二人って何歳なんですか?」


 えっと、いくつだったか……


「29、よね?」

「そう、29ね」

「ホントに三十路手前だった……」


 いや、私たちは嘘はつかないわよ。

 つく理由も必要もないし。


「というか、待ってください?そうすると社長、貴女いくつで社長に、というかランク6に……」


 えっと、確か


「十年前に会社を作って、初期メンバーが加入したのが企業としてのスタートとするなら、スタートはそのだいたい一年後だから九年前?だからだいたい二十歳ね」

「卒業して一年とちょっとで社長になってたんだ。私の女優業開始と同じね」

「……」


 あれ?なんでそんな呆れてるのよ。


「今時二十歳で企業なんて珍しくないわよ?」

「俳優とか女優とかも最近は子役からなんて珍しくないんだから、二十歳からなんて遅い方よ」

「そうじゃなくてですね……」


 あなたたちそれまで何してたんですか?という言葉は飲み込んで、一つため息をつく。


「一宮さんはそれで一年、社長はそれより前にやってることが異常なんですよ……」


 何かしたっけな?

 桜も何かしたの?


「社長はそれより前、つまり十九歳でランク6に認定されてたってことですよ?」

「そうだね?」

「一宮さんは女優一年目、というか初出演で主演に抜擢され、その作品で最優秀主演女優賞を取っていますよね?」

「えぇ」

「「それがなにか?」」

「駄目だこの人たち……」


 私たちは顔を見合わせて、疑問符を作りながら、クスリを見直す。


「私たちはやりたいようにやって」

「その結果、みんなに認められたってだけ」

「それが凄いことなんですよ……やりたいこともできない人がいるんですよ」


 小さな声でうつ向いて、そんなことをもらすクスリ。


「知ってる。だから、やりたいことをやりたいようにさせるために、私はこうしてる」

「知ってます……」

「ありがと」


 今の私なら、頭に手が届く。


 優しく頭に手を乗せて、優しく胸に頭を抱き寄せる。


「あ、あの」


 と、そんなときに奴ちゃんが話しにくそうに、話しかけてきた。


「///え、えっと……」

「どうしたの奴ちゃん」

「あの、その、腕が折れました」

「回復まほー!」


 生々しい!?というか、それなら早く言え!


 急いで回復魔法を使い、折れたという腕を治した。


「ありがとうございます」

「いや、折れるまでやらないでね?」

「はい!」


 そこ、にこやかに笑うとこじゃないよ?


「ぜってぇ脳天に攻撃をいれてやる」


 怖いよ!?


「な、なにをやったの、ユウナ。奴ちゃんがあんなんになるまで……」

「……後で3日前の配信でも見てもらえば」


 あんなになるまで何したんだよ……。あの奴ちゃんが闇堕ちしたみたいになるまで。


 苦笑いで見送る社長だった。

 そして、少し不満げに奴を見るクスリをニヨニヨしながら見つめる桜であった。


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