第27話 貴女は誰?私やが?
空は青い。
数時間ぶりにダンジョンから出てきたのだが、さっきまで雲の上にいたからか、なんとも不思議な気分だ。
「さっきまで、青いけど眩しすぎてね」
青いって感じはしなかったな。青ではあったが。
やっぱりこの距離で見上げる空が一番良いね。
「そういえば、調査隊は家の事務所に送ったんだっけ?」
「そうだぞ?」
ってことは、説明のために一度事務所に行ってから協会に報告かな。
「じゃあ、帰りましょう」
「ワープするか?」
階層を数えるのはしっかりやったので問題なし。だからもう、ここから歩いて行く意味もない。そして、早く帰れるに越したことはない。
「良いわよ」
「じゃ、ほい」
軽いわね。
と、軽くつっこんでたら、景色は見慣れた社長室だった。
「ひゃっ!?」
そして目の前に聡子。
突然現れたから、驚いて変な声が上がったみたいね。
「大丈夫?聡子」
「あ~はい……誰」
えっ?
「……あぁ、そっか」
今の私は大きくなってるもんね。まぁ、普段から大きいですけど?こっちの姿を見せるのは始めてだったわね。
「ヨイヤミさんだぞ」
あっ、言う前に言われた。
「あっ、社長ですか……ってなるか~い!」
まぁ、それで納得するわけ無いか。
「なんで大きくなってるの!?というか、口調と言うか雰囲気と言うか、もう別人ですよね?!嘘ついてませんよね!?」
「付いてないぞ?そんなに言うなら証拠の映像があるぞ?」
「えっ?あるの?」
映像?そんなのいつの間に……
「さっきの仲間?」
「仲間……あぁ、調査隊の皆さんね」
「それだ。その人たちを送るときに、これ撮っておいてって」
あぁ~記録用の映像ね。
「なるほどね。じゃあ、見ておいて。とりあえず私は協会に報告に行くから、さっきこっちに送られてきた人たちは?」
「それなら、皆さん協会に先に」
「わかったわ。じゃあ、私も行ってくるわ」
とりあえず、上着を羽織る。
さっきまでは言いずらかったが、着ていった服は成長して、その、おへそ丸出しで、膝から下も丸出しで、流石にね。
幸い大事な所は隠せてるから良いけど、ね。
カジュアルスーツに着替えて……どこ行ったっけ?
このサイズの使ってなかったから……あっ、あった。
「よし、これで大丈夫っと」
着替え終わって、外に出ようと扉を開ける。
グシャッ
「あっ」
「えっ?……ドアノブが」
開けようと掴んだドアノブがひしゃげた。
「駄目だ……窓から行こう。九重、開けてくれ」
もちろん、開けられない。開けようとしたらロックが壊れて、窓が抜けて、下に被害が出るから、流石にね。
「はい」
「ありがと。じゃ、今度こそ行ってくるね」
「うむ、行ってらっしゃい」
窓から飛び降りた。
そして、細心の注意を払いながら協会に歩いて(走ると地面が陥没する)向かった。
・・・
昨日の社長の配信の次の日、私は雑談配信をしていた。
内容は当然
「あのフィギア欲しいよね?!」
昨日見せてくれた自作フィギアの話
・
『いやいや、ちょっと待て』
『開口一番がそれって』
『確かにあれ凄いクオリティだったが』
『今日はグッズの宣伝とかじゃないのか?』
・
ではなく、記念のグッズなどの宣伝も兼ねた雑談配信だ。
「だって、欲しいじゃん。私が社長からもらっても良いけど、それじゃあ、皆は自分たちで作るしかないわけじゃん?」
・
『それはそうだが……』
『欲しいことは違いない』
『けど、いきなりそれを言うかね……』
『粘り強く交渉してみたら?』
『今から皆で直談判だ!』
『嫌そうにして話題をぶっちぎったあの社長にどう談判しろと?』
・
「やっぱり欲しいよね?じゃあ、談判してくるね~」
というわけで、私は早速事務所にカメラ片手に向かうよ~
・
『この子ここ最近ずっと雑談言いながら事務所に行ってる気がす』
『ちげぇねぇ』
『まぁ、今回はグッズのためですし』
『俺が欲しい定期』
『よ~し、皆で情に訴えよう~』
・
ドロン、ゴー
はい、事務所です。
「社長室にこのまま凸しちゃうよ」
・
『最近見慣れた景色』
『社畜臭がする』
『汚物消毒しようと思ったらワイが消毒された』
『勝手にしてろ』
『社長も見慣れたよね~』
・
コメ欄を見ながら廊下を歩き、社長室に向かう私。
すぐに社長室前に着いたのだが……
「あるぇ?」
掴むべきドアノブがない。
つまり、扉が開けない。
「なして?」
・
『ドアノブのない部屋』
『唯一の扉は完全に封鎖されている。つまり、密室ということですね』
『いや、窓あるやないかい』
『そうだな』
『どうするよ?』
・
蹴破る?
いや、社長にまた怒鳴られる。
「流石にね、空いてるよね?」
ドアノブがなくても、押せば、開く、よね?
「えい」
・
『はまってるな』
『ホントに開けるためのドアノブがイカれてるだけだな』
『ひっでぇ』
『中に誰もいない?』
・
「あっ、社長ならいそう。しゃちょ~お!」
呼び掛けてみる。
「むっ?この声は、翔ちゃんか?」
「あれ?社長じゃない……この声は確か」
新人の九重ちゃん!
「そこにいるの?」
「いるぞ!社長?……あぁヨイヤミさんなら、少し前に出掛けたから、もうしばらくで帰ると思うぞ!」
そうなんだ?
えっ?ってことはこれって
「社長がこれやったの?」
「力加減ができなくてやってたぞ」
・
『えっ?』
『え』
『ちょっと待て』
『今まで普通に過ごしてた人がいきなり加減ミス?』
『嫌な予感が』
・
私が知るなかで、こんなことはなかったはず。
私生活、普段の生活で加減ミスなんてことをするのなんて、始めてじゃ……。
「何かあったの?」
「あ~」
「九重さん、そういうのは本人からですよ」
あれ?聡子さんもいる。
「翔さん、社長はそろそろ帰ってくるので、その時にご本人からお聞きください。……あ~撮影しているのなら、止めてもらえると助かります」
「あ、映っちゃうと仕事が増える感じ?」
「まぁ、はい。結構おかしなことになってます」
まぁ、仕方ないかなぁ。
「ねぇ、皆どうする?」
小声でカメラに話しかける。
・
『えっ?止めたほうが』
『アイアンクロー飛んで来るぞ~』
『ちょっと見てみたい感はある』
『怖いもの見たさってやつさ』
『う~ん、仕事増やすと、連鎖的ダンジョン配信見れないわけだからなぁ……』
・
あ~それは確かに。
「いや!でも、見てみたい!」
「聞こえてますよ~翔さん?これで増えたら覚えておきなさい?」
「ひぇっ!?」
聡子さんのそれはかなり怖い!社長のも怖いけど、別ベクトルで怖い!
「止めなくては。九重さん、開けてください」
「えっ?壊すのか?」
「どうせ直すのですから良いですよ」
「それなら任せろ」
バコンッ
「えぇぇぇ」
・
『これは、酷い』
『縁から壊れて、ではなくど真ん中に穴を開けた』
『蹴り開けるとかじゃなくて、文字通り蹴り破るなんだね……』
『が、頑張れ翔ちゃん!抵抗しろ!拳で!』
・
開けられた穴から出てきた二人。聡子さんは鋭く私を睨み詰め寄ってくる。
「さぁ、早く配信を終わりにさせてください」
「わ、わかったって」
流石に圧には勝てない、そう悟って配信画面を閉じようとした。
「何騒いでるの?」
後ろから社長?のような声が聞こえた。
「しゃちょ……だれぇ」
咄嗟に振り向いて、社長!と言おうとしたのだが、いたのは全く見知らぬ大人のお姉さん。
「あっ、えっと……」
「何を緊張しているの?」
いや、いきなり知らない美人な大人の女性がいたらこうなるって!
「……撮影しているのかしら?」
「あっ!みんな、また後でね!」
言われて急いで配信を終了させた。
「ぷはぁ!何をする!」
「まだ配信中なので余計なこと言わないように口を押さえておりました」
どうやら、後ろでは何か余計なことを言おうとした九重ちゃんを聡子さんがインターセプトしてたみたいだ。
「えっと……どういう状況かしら?」
「翔さんが、社長を訪ねに配信しながらお越しになり、それを閉じるよう催促していたのです。これ以上余計な仕事を増やさないように」
すみません。
「そう。なら、カメラもないし、聞くなら今ね。なんで私を訪ねにきたの?」
……ん?私?社長に用があってきたはずだよね?
この人もどこかの社長さん?
「何か勘違いしているぞ翔ちゃん!これはヨイヤミさんだぞ?」
……は?
「いや、えっ?この人のどこが社長なの?あの小さくて可愛らしい生物がどうしてこんなに理想の大人のお姉さんになるの?」
「それは……ディスってるのかしら?褒めているのかしら?」
「あっ……えと」
褒めてるよね?いや、この人がホントに社長ならディスってもいるのか。
「……今日は聡子に怒ってもらいましょう。今の私は加減ができないから、しばらく大人しくしてるわ」
「えっ?」
ホントに社長?
こんなに冷静で大人びて、普段みたいにふざけた雰囲気の欠片もないのに?!
「それでは、しっかりとお説教しますね」
「えぇ。お願い」
困惑はそのままに私は引き摺られながら社長室を後にすることとなった。
・・・
一方、社長が訪ねて、去った後の協会支部。
「……あの人、本当に無茶苦茶ですね」
「胃が痛い、助けて」
「あ、私たちはダンジョンの調査隊なので無理ですね」
報告やら何やら聞けば聞くほど意味のわからないことばかり。
宵闇さん、何故か大きくなってるし、というか力加減ができないって、ドアとかボタンとか粉砕しちゃってるし。
本人曰く、歩くことに凄く気を使っているから、手を使ったアクションに意識を割けなくて駄目なのだと。
「ふむぅ……それにしても、これで終わってくれると嬉しいのだかね」
「調査結果も、正直書きようがありませんし」
なんて書くの?何者かの仕業、と見て良さそうとは思うが調査隊として何者がわからない以上、誰の仕業かなんて置いといて、普通に起きた異変とその正体(イレギュラー)などを書き納めるくらいだろうか。
「最後のあの戦いに関しては、九重さんに撮影してくれるように言ったので、それが撮れてるかどうかですね」
「あっ、回収するの忘れてた」
あっ。
宵闇さんに、持ってくるように言うのは……無理だな。今の宵闇さんの場合、カメラを持った瞬間粉々になる。
「誰か回収に行ってこい」
「あ、では私が」
調査隊の一人が手を上げて、志願する。
他にいなかったので、決定し、すぐに取りに行かせた。
「さて、あの戦いが世に出回れば、本気で面倒になりますね」
上司の顔はまだ見ぬ仕事を前にゲンナリする宵闇さんと全く一緒だった。
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