第26話 天空の地での決戦。私の力、見せてやらぁ



 さぁ、本気だ。


「……さて、見せてやる」


 もともと、戦いは好きだった。

 まぁ、敵がいなくなって、一人が寂しくなって、つまらなくなった。


 だから、今はもうそんなことはない。


「それでも、本質は変わらない、か」


 こうやって強い相手との戦いを前に、こうして本気を出せることに、胸の高ぶりが止まらない。

 私が、どれだけ成長しても、どれだけつまらなくなっても、結局、いつまでもこの心だけは変わらない。


 好きなゲームを前にはしゃぐ子供が、大人になっても同じようにはしゃげるように。

 いつまで経っても、そういう部分は変わらないってことなのだろう。


「よし、始めるか。『キングコマンド』」


 唱えると共に、私の体から白銀と青色の混じった魔力が溢れる。それと同時に、私の全身に巻き付く鎖が可視化される。


「『クイーンコマンド』」


 その魔力は私を包み、渦巻き、そして、私に巻き付く鎖を断ち切る。


「『玉座解放の楔(くさび)』」


 その魔法を口にした瞬間、鎖は断ち切られ、私の体は青白く光輝く。


「お、おぉぉぉ!?ヨイヤミさん?!」

『な、なんじゃぁ!?』


 体の骨格から変わっていく、某魔法少女のような光と共に、子供の姿から大人の女性へ。


「お待たせ……さぁ、始めましょう?」


 子供のように小さかった社長の背丈は今の九重と変わらないほどに伸び、顔立ちはつり目のちょっときつめな表情からタレ目の優しい包容感のある表情へ。


 私は、自身の力のほとんどを使わないとして鎖で使えないようにした。

 何かの拍子に暴発して、街が吹き飛びました~は洒落にならないからな。


 それと同時に身体能力も九割九分を封じていた。

 今は普通の人間として普通に暮らせるが、昔はそれがなかなかできなかった。

 それも力を封じることで上手く行ったのは本当に良かった。

 だが、身体能力もついでに封じたまでは良かったが、何故か副作用で体が力に応じた大きさになっていたのだ。

 何時もの私の力というのは、その見た目通りの年齢の時のスペック、ということだ。


 そして、その使えなくしていた力の鎖を取っ払うためだけの『玉座解放の楔』という魔法を使用し、その力を解放した。


 その結果、私の身体能力はアップし、それに伴って身体は影響を受け、こうして骨格から姿を変えたというわけだ。


『お、おほぉっ!?我好みの大人のお姉さんにっ!?』

「あれが、ヨイヤミさん?今までの力はホントにお遊びだったのか……」


 グーパーグーパーと力を確かめるように握ったり開いたりする。


「大丈夫そうね。久しぶりの全力……楽しませてもらおうかしら?」

「こ、心なしか性格というか、喋り方も、大人びているような……」

『我好みだ……声も喋り方も……』


 とりあえず、ゼウスは絶対に蹴散らす。


「待ってくれてありがと、改めて始めましょう?」


 ヒュッ


『ぬぉっ!?』


 ゴズッっと鈍い音が、風の吹いたような音共に鳴り響き、ゼウスの腹部には青アザができ、そこを庇いながら後ろによろめく。


『がぁっ……み、見えなかった』

「そ、ならこれはどう?」


 私はゼウスの背後にさっきよりも速度で移動し、背中合わせで立ち、咄嗟に振り返ろうとしたゼウスに振り向かせる間も無く裏拳で後頭部を小突き、振り向き様に肘鉄、からの回し蹴り払い。

 その蹴り払いまでは一瞬の出来事だったため、慣性が働かずに吹き飛ぶことなくその場にとどまり、最後の蹴りでようやく働き出した慣性により吹き飛んでいった。それまでの攻撃が纏まった分の勢いで吹き飛んだため、かなり遠くまで吹き飛んだ。


「……」


 吹き飛んでいった軌跡に目を合わせ、その先に掌を掲げて、掌の先から白い衝撃波のようなもの、無手の拳が放たれた。


 ヒュンヒュン、ゴハッゴベッ!?


「今の当たったのか……」

「この距離なら、良いかな」


 再び掌をゼウスの吹き飛んだ方向に掲げる。


「『グラビティ』」


 それを唱え、掌を自分外から内へ引き寄せるような仕草をする。


『ぬぉぉぉあぁァァッ!?』


 すると、遠くに吹き飛んだはずのゼウスが凄い勢いで社長に引き寄せられるように飛んできた。


「はぁっ!」


 そこへ容赦なく、グーパンを叩き込む。


『がっはぁっ!?』

「逃げられると思わないで」


 叩き込まれて再び吹き飛んだのだが、ある程度の距離まで飛んだところで、ベクトルが反転し、社長のもとへ戻ってくる。

 先程と同じようにグラビティの魔法で無理矢理引っ張ってきたわけだ。


「もう一回!」

『げへぇぁぅ!?』

「何度でももう一回!」


 そしてそれを繰り返す。

 殴っては戻ってきてまた殴られる。


「女の敵は殺さないと」


 何度も、何度も。


 数えきれないほど殴ったあと、最後に一発グラビティを切って殴って吹き飛ばし、その後両手の親指をくっ付けて掌を吹き飛ばした方向へ向ける。


「『流星《スターダスト》』」


 その日、空に無数の流れ星が流れた。

 まだ日が落ちていなかったが、明確にその目で見ることのできる光。


 そんな魔法が、ゼウス目掛け放たれ、そして爆発した。


 ・・・


「ふぅ……」


 一息つくヨイヤミさん。

 そんな姿を我は戦慄を覚えながら見ていた。


 何せ、一度の打撃の衝撃波で周囲の雲が弾け飛んでいた。

 ただ風にあおられて流れるのではなく、岩が粉砕されるように弾け飛んだのだ。


「一度の打撃で、ここまで」


 それがたった一発のパンチだ。

 そんなのが何度も何度もだ。


 多分、地上でやれば地形が変わるほどの余波だろう。


「余波、そう、余波なのだ」


 この被害はただの余波。

 直接なにかをしたわけではなく、ただ敵に向かって攻撃しただけで周囲に影響を与えてしまったのだ。


 どうやったら一人の人間がここまでの力を持てる?


「あら、やっぱりタフなのね」


 そんな考えを中断させたのは当然ヨイヤミさんだ。


『ぐ、ガハハ……まぁ、もう限界だがのお』


 あれを喰らってまともに立ってられるアイツは正直凄まじい力を持っているのだろう。


 我では逆立ちしても勝てないレベルだ。

 だが、そんなアイツが逆立ちしても、今のヨイヤミさんには指1本振れることはできない。


『最後に、少しくらい、反撃させてもらおうか、宵闇』

「……ふ、良いわ。受けてあげる」

『神の意地を見せてくれる!『ケラウノス・フルバースト』ぉ!』


 空は暗雲に、いや雷に覆われた。

 雲なんていらない。雷そのものが泳ぐように宙に大量に発生した。


「『玉座天命の拳』」

「はぁっ!?」


 玉座の魔法を、巨大な拳を、必殺級の魔法をヨイヤミさんはノータイムで放ったのだ。


『っ!……いけぇい!』

「全部、払え」


 雷は降り注ぎ、拳はその雷を捉えた。


『バカな』


 その雷は抵抗する間も、威力を知らしめることもなくその拳によって力なく霧散した。


「そのまま、潰せ」


 そしてその拳は鉄槌となって、ゼウスへと放たれ、


『NOーーーーー!?』

「消えろ、そして二度と地上に来るな」


 ペチャンと雲の水分となった。


「これが、ヨイヤミさんの本気、か。どうやったらこんなのに勝てるんだろうか……」


 ゼウスを見届けたヨイヤミさんは我の方を向き、手を振って笑った。


 ・・・


 遥か彼方の場所。

 天空の先と呼ばれる場所。


「まさか、あんな化け物染みた人間がいるとは」


 先程まで社長と戦っていたゼウスがちゃぶ台に足を通して突っ伏していた。


「確かに遊ぶためだけの体だったとはいえ、最後のケラウノスは普通に本気だったぞ?」


 ここは神々が暮らす場所。

 そして、人間などの生物を見守る場所である。決して天国やら地獄などとは違う。


「あれを軽く捻るように跳ね返すとは……」


 うぅむ……少し調べてみようか。


「そういえば、何故あの場所に……」


 確か、宵闇も不本意で来たみたいだったな。


「ん?」


 そこで、近くの物陰で隠れてこちらを見ている者がいたことに気づく。

 二十代くらいの若く、顔とスタイルの良い男の姿をしたもの。


「どうした、アレス?」

「いや、あの、その……」


 ……あっ、なるほど。


「お主が我の所に宵闇を呼び寄せたのだな?」

「えっと……その通りです」


 アレスは戦の神。

 そして、人間の魔物とやらと戦う様が好きだそうだ。

 我々の物ではないがアレスは時々あのダンジョンに手を加えたりしている。

 今回のもそれなのだろう。


「何故我にぶつけた?」


 だからこそ不思議だ。

 我はアレスよりも強い。そして人間と比べれば天と深海との差がある。

 戦う様を見たいのなら我にぶつけるのは違うだろう。


 それとも、宵闇の力を知って我にぶつけたのか?


「いや、その……あの化け物、父上ならば倒せるかなぁ、なんて」


 宵闇のことを知っていたのか?こいつが?人間の名前やら能力やらに全く興味を見せないこいつが?


「実は、ちょっと前に……人間どもで遊んでやろうと思って下界に降りたことがありまして」

「ほう?」


 ちょっと前、十年前程度かの?


「それで、色々としていたら、あの化け物がきて、道端の石のように殺されまして」

「普段なら驚くことだが、あの強さならばな……」

「もう大丈夫だろ、と、下界を覗きながらダンジョンを弄っていたら、やつがいまして」


 それで怖くなって、わざわざ我のもとに送りつけたと。


「だって、あの化け物!俺が見てるとちょくちょく目を合わせて来るんですもん!」

「情けない、と言いたいが、気持ちは分かる」


 あれが男ならば我もそうなってただろう。


「もう、あの化け物が寿命で死ぬまでは下界は覗けません。って、わけで」

「まぁ、待て。ついでじゃ、弄った内容も教えろ。今度アテナに詫びを届けさせるから、その時についでにそれも詫びたいからな」

「……はい」



 ・・・



 ゼウスを倒すと、周りの風景は歪み、私たちは見慣れたダンジョンの内部に立っていた。


「戻ってきたわね……あ~ひょっとして四十階かしら」


 それだと手間が省けて嬉しいのだけど。


「まぁ、最悪九重がいるから大丈夫ね」

「その、ヨイヤミさん?」

「なに?」

「その姿、戻らないのか?」


 この姿についての質問はないのね。


「いつもの私が良いの?」

「いやぁ……さっきまでの見てたら、ちょっと怖いかなぁって」


 ……それもそうね。

 けど残念。


「私、もうしばらくはこのままなのよね」

「むっ?何故だ」

「力が多すぎて、少しずつしかもとに戻らないのよね。見た目は一番最後の変化だから、全部もとに戻るまでは、このまま」


 ざっと10日間くらいかな。


「そうか」

「あとは良い?」


 特に何も言わずに頷いたので、問題はないわね。


「じゃあ、帰りましょう」

「ワープするか?」

「いえ、ここが何階か知りたいし、歩いて行きましょう。大丈夫、3分もかからないわ」


 九重に近づいて、素早くお姫様抱っこする。


「えっ?」

「行くわよ」

「まっ」


 ギュン


 1,2,3,4,5……


 言った通り、上った回数を数えながら、私は高速でダンジョンを駆け上がり、宣言通り3分未満で地上へと脱出するのだった。




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