第25話 天空の地の戦い。私、本気を出したい


 天空の地。

 今の私たちの足場は雲である。

 眩しすぎる日の光、一面の青空。


「そして、見上げれば宇宙ではなく」

「天空の城」

「バルス!」

「ふざけてる場合ですか」


 いや、天空城見つけたらこれを皆言うよな?

 私だけか?いや、絶対にそんなことはない!


「落ちてこないかなぁ~って」

「来たら死ぬからやめて」

「大丈夫。私の頭上で粉々になるだけだから」

「地上の被害を考えてください!」


 いやいや、文字通り粉砕だから軽く小石の雨が振る程度だ。氷が振るのと大差ないわ。


「と、冗談は言ってみたが……なんなのかねぇ」


 一応心当たりはあるが、そことは違うだろう。


「あそこを調べる、のでしょうか?」

「知るかよ。ただでさえ、探知が効きにくくてイライラすんのに」


 結構本気でやってるんだが、周囲の情報しか拾えない。

 これ以上の出力は危ないからできないし、なんかイライラすんだよなぁ。


「私の探知を妨害する感覚がギリギリ届かない背中の痒みみてぇでな」


 うざったいたらありゃしない。

 それに加えて、なんか見下されるような雰囲気すら感じる。


「本気であの城破壊して良い?」

「それは最終手段で……」

「いいや、やるね!」

「えぇぇっ!?」


 どうせあん中に引きこもってるのはわかってるんだ。

 安全のためでもあるし、わざわざ敵の待ち構える城に乗り込んでやる意味などない。


「やられたらやり返す、やられてなくてもうざけりゃやる。私をそんな傲慢な態度で見下すなら、なおのことやる!」

「あ~これがヤンチャ時代なんですね~」


 悟った調査隊は私との口論を諦めた。


 短絡的に見えるが、調べる場所はあそこだけで、帰るための扉があったとしても、この感じだと、扉や穴が残ってなくても作用するようにできていることを通るときに確認した。


 ならば、それが壊れても問題なく、かつ、わざわざ危険を犯す必要もないし、相手のフィールドで、かつ戦いにくい室内でやる意味もない。


「なら、壊すのが最適解なんだよなぁ」


 それに、上は空だ。

 ならば手加減もいらないから楽で良い。


「『キングコマンド』」


 両掌を打ち合わせて、パンッっという音と共にキングコマンドを唱える。

 掌を開き、魔力のような、エネルギーの集合球体が生まれ、ポワッっと浮かび上がる。


「『クイーンコマンド』」


 その球体は、まるでわたあめを作る機械のように、虹色の魔力を絡めとりながら回転していき、その球体を大きくしていく。


「『玉座壊滅の礫』」


 その名を口にすると共に、球体は一気に収縮、ある程度の大きさになると途端に弾け無数の礫(つぶて)となりて城へと放たれた。


 その礫一発一発は、山に大穴を空けるだけの威力を持つ。


「貫け」


 ヒュンヒュンと矢でも放つような音とは相反し、ドゴン、ドガンと激しい音をたてて天空の城に次々と穴を空けていく。


「あぁ、可哀想に」


 哀れみの声が聞こえたな。あんな城に住みながらこっちを見下すような態度を見せるようなやつには、こんなんで良いんだよ。


「あの、ついでに質問ですが、あれなんですか?」


 あれな?


「玉座壊滅の礫はな、ただの礫じゃなくて命中した場所を追加で空間圧縮させて粉々にするのさ」


 見つめる先の城は激しい音と共に貫かれた部分から空間の捻れが発生、捻れと共に文字通りそこにあった瓦礫や城の中にあったものまで巻き込んで消え去っていた。


「ウヘヘへ、ほぉ~ら、早く出てきて止めてみろよぉ」

「これじゃ、どっちが悪役かわかりませんね」


 うるさい!私は悪役ではない!


「さて、そろそろかな」


 冗談はさておき、私は準備運動がてら少しその場でジャンプしたり足や腕を伸ばしたりして、それが来るのを待っていた。


『人間ッ!』

「ようやく来たな?」


 城があった(もうない)付近から一人の男?が怒りの形相で降りてきた。

 見た目はオールバックでムキムキなジジイだな。


「遅いぞ?ざぁ~こ」

『よくも我の城をっ!粉々にしてくれる!』

「あら、短絡的ね」


 そんな短いやり取りが、私とそいつとの戦いの始まりだった。




『ふんっ!』

「おっとぉ」


 振るわれた拳。それが当たるわけではないが、私は体を反らして回避姿勢を見せる。


「風かな?」


 サイクロンみたいな風が放たれ、それを避けるための回避だったが、クンッって回って私を追ってきた。


「なら、斬るかな」


 収納から剣を取り出して、その風を横切り払いで斬った。


「じゃっ、行くかっ」


 剣を構えて、切り払ったと同時に肉薄すべく、力強く跳んだ。


『ぬんっ』


 右腕で私の胴を掴むように振るう。

 ので、その腕をサクッと斬りそのまま構わず肉薄。


『無駄だ!』

「はやっ」


 したまでは良かったが、懐に入った時には斬られた腕は繋がっていて、まんまと胸と腕に挟まれた私を抱き寄せる。

 しかもしっかりホールドされて逃げられない。


『死ぬぇい!』

「キモい!離せ!」


 口を大きく開けると、そこに魔力が集まっていく。

 絶対に口からビーム的な何かが出るのは間違いないので、抜けたいが


「(存外力強いなぁ)」


 少し抵抗するが片腕なのに抜け出せない。


 顔との距離はキスするような距離だ。

 その距離でこの出力のなにかをぶつけられるのは嫌だ!


「おらっ!」


 足を振り上げて、股の間を蹴り上げる。


「お前、そこねぇのか?」

『カァッ!』

「やべっ」


 ふざけている場合じゃない。

 抜けられずにそのまま光が私に放たれる。


「『コットンガード』」


 フワフワモコモコな雲のような盾。

 見た目にそぐわない硬い防御魔法である。

 それを男の口の目の前に作って、口を塞いだ。


 キィィィンと金属音のような音が鳴り響き、光がコットンガードから漏れだし、その威力が凄まじいことが伺える。


「速くしねぇと」


 当然、このままだとコットンガードは持たずに貫通して直撃は避けられない。

 これはただの時間稼ぎだ。


 防げてる間に抜け出さねぇと。


「……『ウィンドブレード』」


 風の剣を男の腕の上に出現させて振り落として切り落としてホールドから脱出。

 男の胸板を足場に全力で後ろに跳び退く。


「『フレイムバースト』!」

『がぁっ!』


 コットンガードが突破される寸前、ギリギリでフレイムバーストを顔面へ直撃させ、ビームを口のなかで爆発させた。


「あぶねぇ」

『かふぅ……やるではないか』

「あ~頭のなかスッキリした感じ?」


 イライラしてたのに、急に冷静になるやないか。

 イライラしててくれた方が色々とやりやすかったのに……。


「さて、挨拶とかせずに始めたな。私は宵闇。お前は?」

『ほう?我に名を名乗らせるか。我はゼウス。神だ』

「ゼウスって」


 ……女癖の悪いくそ野郎な全能の神の名前じゃなかったか?


『まぁ、この体は下界で遊ぶためのものだがな』

「遊ぶって……」


 いや、聞かなきゃ良かったかも。


「じゃあ、私たちをここに招いたのは?」

『我ではないぞ?』


 あ~めんどくせぇ。

 こいつが元凶じゃないのなら、ここで終わらない可能性が高い。


「じゃあ、もうお前に用はない!」

『ふむ、我にはあるぞ?』

「は?」

『久しぶりに可愛い女が来たからな』


 私……じゃ、ねぇな。

 目線は当然私の後ろの調査隊の女性。


「下衆が」

『我は全能の神なるぞ?我が何を望もうが勝手だ』


 こいつは敵か否かの問題ではなく、殺さなくては。

 こいつを地上に下ろすのは不味い!

 特に、家の子たちは皆美人だ!こいつの標的になる可能性が高い!


「ぜってぇ、殺す」

『やってみろ、幼子』

「わたしゃ、大人だぁ!」

『ほっ?……お主も結構』


 やめろやめろ!私の胸辺りに視線をずらすな!目の色変えるな!


「それ以上考えたらぜってぇ殺す!」

『では、お主を地に伏せてから考えよう』


 こいつ、許さん!特に、私をそういう目で見たことを絶対に、な!


「『アクアブレイク』!」


 水の塊を魔力で固めて、叩きつける。

 オーシャンウェーブの打撃に強化した魔法。

 それをゼウス目掛けて叩きつける。


『効かんぞ!』


 ……胸板で防ぎやがった。

 どんな体してやがる。


「『サンダーブレイク』」


 だが、水はたっぷりかぶっている。

 雷系統の魔法で痺れろ。


『HA・HA・HA!肩凝りが治って良い心地だぞ!』

「ふざけろ」

『どれ、今度は我が見せてやろう。『ケラウノス』!』


 手を天に掲げる。

 すると、空に暗雲が集まっていく。


「雲の上に雲。ありえねぇなぁ」

『それ、降り注げ』

「ちっ」


 範囲が広すぎる。

 私だけじゃなくて、調査隊の方も守らねぇと。


 そう判断し、すぐに調査隊の近くまで下がり魔法を発動させる。


「『コットンガード』、『フレイムシールド』」


 発動させ、それを傘のように展開させた。

 そして、雷が雨のように無数に降り注いだ。


「ひゃ~」


 雷の落ちる音で耳がいてぇ。


「あのジジイ、なかなか面倒だな」


 これだけの雷を操れるんだ。

 普通の魔法の押し合いじゃ負けるな。


「なら、今のうちに一発お見舞いするか『キングコマンド』『クイーンコマンド』」


 手を空へ掲げて、キングコマンドで棒状の魔力を形成し、クイーンコマンドでその棒を一つの巨大な剣へと変える。


「『玉座粛清の剣』」


 掲げた手を振り下ろすと共に剣も暗雲を切り裂きながらゼウスへと振り下ろされた。


『……これは』

「切り裂け!」

『素晴らしい!だがっ!』


 バンッっと音がした。


「……うせやろ」


 普通じゃありえない音だ。

 叩きつけた音でも、斬った音でも、盾や結界で受けた音でもない。


『フハハハ!良い魔法だな!宵闇よ!』

「馬鹿じゃねぇの」


 素手で剣を止めた音だった。


 私の振り下ろした刃は白羽取りで掴まれていた。

 それどころかそのまま横に捻って折られそうなんだが?


「玉座が防がれるなんて、何時ぶりだ?」


 少なくとも社長になってからはねぇよな。

 じゃあ十年近くか。


「これじゃ、少し本気出さねぇと駄目だな」


 今の私はこれ以上の出力は使えない。

 いや、正確には使えないようにしている。巻き込み事故が怖いのと、これ以上の出力、使う機会がなかったからだ。


「とはいえ、私には後ろがいるんだよなぁ」


 チラッと振り返り、調査隊を見る。

 逃げ出す場所も、力もないかな。


 結界で守ってるが、下手したらそれごと吹き飛ばすからなぁ……。


「となると、本気を出すわけにはいかねぇかぁ」

『作戦は決まったかの?』

「待っててくれてるわけか?」

『その通り!』


 パキッンっとその言葉を証明するように、玉座の剣は白羽取りから横に捻り折られた。


「ちぇっ。手詰まりかぁ」


 正直、玉座の魔法を当ててダメージが入るような相手だ。

 だが、他の魔法と違いノータイムで撃てるわけじゃない玉座を連発することはできない。


「耐久力も持久力もくっそたけぇし」


 そんな防御力を持ってるのに、息一つあがってねぇ。

 息があがってないのは私もだが、このままジリ貧になるのは避けたい。

 かといって有効打点を持ってない以上どうすることもできない。


「さて、どうしたもんかねぇ」

「何を悩んでいるのだ?」

「いや~本気だしたいんだけど、周りがな~」


 ……あれ?


「誰……」

「九重だぞ?」

「えぇぇ」


 なんでいるのさ。


 誰と話しているのかと振り向いてみたら、そこにはここにいるはずのない九重の姿があった。


「どうしたのだ?」


 うん、それは私の台詞。

 だが、これは好機かも。


「どうやってここに?」

「そんなの、空が騒がしくて、そのせいで動画が上手く見れなくて、どうせヨイヤミさんだろうと思って見に来たのだ」

「いや、だからどうやって?」

「そんなもの、我のワープの魔法で一発だ!」


 ワープ?……あぁ、あの時の。


「えっ?マジ?それってあと何回使える?」

「何回でも」

「よっしゃっ!」


 これで勝つる!


「この勝負貰ったわ。勝ち確です。誠にありがとうございました!」

「ど、どうしたのだ?」

「おい!九重!今すぐ、こいつら連れて帰ってろ。あ~見たかったら戻ってきても良いぞ」


 九重なら巻き込んでも死なんだろ。


「動画が見れるようになるには、そこの男?いや、なんだ?まぁ、そいつを倒さないといけないのだろう?なら、暇だし見ていこう」

「そうか。なら、速くしてくれ」

「うむ」


 返事のあと、ホントにすぐに調査隊をパッと消した。


「これで事務所に送ったぞ」

「お前のそれ、本人がついてかなくても良いパターンなのね」

「送るときは近くにいなきゃいけないがそれ以外は特にないぞ」


 なんだその便利すぎる能力はっ!

 それなら、これから行きの目的地までは九重に送って貰おうかな?その方が時短で安全だし。


「ってそうじゃない」

『ふむ、あの女は消えたが代わりに新しい女が来たのぉ。それも魔物の女か。だが、あれはあれで……』

「あちらさんはまだ余裕のつもりかね」


 というか、九重までそんな下衆な目で見るんじゃない!見境なしか。確かに九重も美人で狐耳で可愛ぇけどよ!


「我はどうする?」

「この結界のなかで守りでも固めておけ」

「は~い」


 さてと。


 本気なんて何時ぶりだ。


「楽しくなってきたな」


 そこには何時ものように疲れていたり、どこかテキトーにやっているような姿はなく、狂喜染みた笑みとこれから遊園地にでも行く子供のような表情をした姿があった。



・・・・・・・・・・

後書き


少し気に入らない部分があって、わりと最初の方から手直ししてたら時間食って駄目だった。

ホントはこの倍くらい書いて投稿するつもりだったが、直してたらキリがなくなったのでここで切って投稿となりました。

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