第23話 異変の調査(2日目)。私、落ちる
「ねむ」
ダンジョン調査2日目。
昨日の夜の配信は概ね好評だった。
まだ商品自体発売してないのに、若干公式ホームページが重くなる事態が発生した。
「とはいえ、あれから仕事はなかったから、寝起きで眠いだけだけど」
ちなみに今は朝4時。昨日寝たのは深夜2時。
いや~2時間も寝れたよ。結構頭スッキリしたわ。
「とはいえ異変がどれほどのものかわからねぇから、いつもみたいに嘗めたことばっかは言えないな」
何が起きても良いように、ある程度の睡眠は取ったし、眠気も潜る頃には覚ましてる。
「体の調子はわりと良いしな」
やっぱ、昨日動いたから体が軽いぜ。
「まぁ、九尾の100倍は強くないと問題にはならないかな?」
あ~もちろん私一人ならの話だ。
流石に調査隊を気にすると私自身ができることに制限をかけられる、かつ調査隊を気にしないといけないから、せいぜい九尾の2倍までだ。
「玉座の魔法は規模が大きくてなぁ」
使い勝手良いからよく使うけど、あれの弱点規模がでかすぎて巻き込み事故が起きそうなんだよなぁ。
「うーん、武器もなぁ」
収納して持ち歩いている武器たちには当然、人に向けたらヤバいものがある。
洒落にならないレベルで、それこそ玉座よりもやべぇレベルの武器をいくつも所持している。
それを使えば楽なんだが、玉座同様に巻き込み事故があり得そうで使えん。
「やっぱなるべく、普通の魔法と武器で戦うしかねぇよな」
仕事である以上は手を抜かねぇが、面倒なことにかわりはない。
「宵闇さん。お待たせしました」
っと、調査隊の面々がきたか。
「ふゎぁ。よし、行くか」
欠伸をしながらも、しっかりとした足取りで私たちはダンジョンへと足を踏み入れた。
今日は、昨日到達した五十階の前、四十階程度までの調査は軽くするだけなので、サクッと殲滅して進み昨日の半分程度で四十階に到達していた。
「やっぱり、昨日の異変は九尾が原因でしたね」
調査が進むと、昨日の異常はやはり九尾が原因と、結論付けられた。
エンカウントに変化もなく、今日は普通にダンジョン攻略しているだけだ。
「……ん~」
と、言いたいところなんだがなぁ。
「どうしました?」
「いや、なんでもない」
今はまだ違和感程度だ。
昨日、九尾がいたことでエンカウントに変化が起きたと言ったが、本当にそうか?
確かに、九尾が原因と言うべき系統の魔物ばかりだった。
「それは確かだった」
だけど、なんか引っ掛かるんだよなぁ。
犬、猫、狐、そしてデーモン。
それらを使役していた?
いや、使役はされていない。
連鎖的イレギュラーとして発生しただけだ。
……いや、そうだよな。使役なんてしていなかったよな。
それどころか統率もしていなかった。
「なら何故デーモンは爆発した?」
勝手に九尾が使役して、私たちに差し向けたと思っていたけど、最初に遭遇したとき、何者だ?と九尾は聞いた。
爆発を仕込んで襲わせたやつが、何者か?なんて聞くか?侵入者~みたいに言わないか?
「整理するか」
道中、魔物の異常は九尾の出現による連鎖的イレギュラーだった。
それらは当然、九尾に近づくにつれて増えた。まぁ、四十以降は覇王で全部蹴散らしたからわかんねぇけど、下に潜るとき、大分増えたからそうだろう。
「だが、それらに統率とかはなく、ただ魔物として襲ってくるだけだった」
徒党は組んでなかった。加えて場所、数、種類、そのいずれもランダムだった。
使役していればどれかしらに統一性があるはずだ。
「そして、何故デーモンだけ爆発した?」
明確に私たちを狙った爆発だった。そしてそれは魔法による爆発で、明らかに指向性が付与されていた。だからあの時ケルベロスが候補から外れた。
そして九尾が現れた。九尾は魔法を使い、かつ炎の魔法を使った。
だから、それも九尾だと思っていた。
「いや、ちげぇ」
九尾が使ったのは炎だった。爆発や付与魔法じゃない。
「そうすると」
「宵闇さん?」
「九尾は、三体目じゃなくて、四体目だった?」
「えっ?」
そのときだっただろうか。
「っ」
「あ、足場がっ」
私たちが立っていた四十階の床一面が抜けた。
「ちぃ」
魔法とかじゃない、物理的なトラップ。それも、落とし穴のようなもの。
「だが、ここまで広いとは思わなかったなぁ」
だから私の探知に引っ掛からなかった。
「悠長にしていられんな」
私一人ならすぐに浮けるが、調査隊の四人も含めて、浮かせるにはちょいと時間が足らんな。
翔ならできるだろうが、私にはそこまで細かい芸はできない。
「としたら」
全員掴んで私は浮く。
「『巨人の手』」
その名の通りの岩でできた巨大な腕。それを私は操り、掌で調査隊を受け止める。
「『フライ』」
んで、私はその場で浮き、停止する。
腕は魔法なのでその場に、私の肩辺りから生えるような形で浮遊することで落下を阻止した。
「古典的だが、ここまで大規模だと引っ掛かるなぁ」
「れ、冷静なのはありがたいですが、どういう状況ですか?!」
説明を求められても困る。
「さぁ?ただ床が抜けたってだけだが」
普通に考えて、こりゃイレギュラーの仕業ってことだろうか。
「とりあえず、戻るか」
そのまま上昇して、戻れば良いだろう。
「あ、あの……落ちてきた穴がありません」
ん?
「あっ、ホントだな」
見上げると、落ちてきたはずの穴はない。
「というか、四十階の床が抜けたら下は四十一階じゃないんですか?」
「……どー見ても一階層分の高さじゃないわな」
わかんねぇなぁ。
「一先ず、足場のあるところを探すか」
状況の整理がしたいからな。
「近場の足場は……」
「あそこ、ですかね」
調査隊が指差す方向には、確かに足場になりそうな場所があった。
何かの入り口のような形をした、な。
「……行くか?」
「他にはありませんし、そうですね」
怪しいが、今のところ何も反応してない。
視認できる範囲でも何も映らない。
「じゃあ、行くか」
静かに、そしてゆっくりとそこへ近づく。
何があってもすぐに反応できるようにゆっくりと。
「……着いた」
「何もありませんね」
私がそこに降り立ち、しばらく経っても何も起こらない。
「一先ず大丈夫そうだな」
巨人の手でそっと地面の上に調査隊を下ろした。
「さってと、状況整理か」
「そうですね」
今の状況は、何者かの仕掛けによって私たちは四十階から落下。
咄嗟に落下を阻止するも、落ちてきた穴はなく、下は四十一階でもない。
「断層的な場所なのでしょうか?」
「いやぁ~どうだろ」
ダンジョンの床や壁は時間経過で元に戻る。
「床を壊すと、下の階層に。壁を壊すと、壁の向こうに。向こう側がなければまた壁が出るだけだ」
「そうなんですか?」
「おう」
昔ショートカットとして床をぶち抜いて行ったことがある。
結果は当然下の階層だったよ。
「そうすると、ここは何なのでしょうか」
その質問に対する答えを私は持ち合わせてはいない。
私だってそこそこ長いことダンジョンに潜ってるがこんな場所には来たことはない。
「専門家とベテランがわからないんだ。ここがどこ?なんてわかるかよ」
「そうですね」
さっきから探知を全開にして色々と探ってみているが、なんかゴールの形しか掴めないんだよなぁ。
「とりあえず、出口は見つけた」
「えぇ……」
「ま、この先なんだがな」
親指で入り口のような穴の先を指し示す。
当然、やはりか、なんて顔色を示す。
「進む前に、宵闇さん、落ちる前に言っていたイレギュラーの件も話していただけませんか?」
「ん?あぁそうだな」
私は先程考えていた、四体目のイレギュラーがいると思い立った経緯を説明した。
「なるほど。そうなると、九尾は三体目ではなく四体目、となるんですね」
「時系列はわからんから、何とも言い難いが四体目のイレギュラーがいるってのは間違いないだろうなって」
そいつは少なくとも、探りのために私たちに爆弾を送りつけてきたり、こんな大掛かりなことをして変な空間に落とすなど、普通じゃないことをする。
「知性は確実に持っている。九尾と同等かそれ以上の」
「だとしたら、出口の反応、というのも罠なのでは?」
それを言い出したらキリがないだろう。
「どうせ、今の私たちにはこの道しかないみたいだから、罠だろうがなんだろうが、行くしかねぇだろ?」
「それもそうですね」
となると……手持ちの確認とかしたほうがいいか?
「もしかしたら分断させられる可能性もあるし、長期戦になる可能性もある。だから最低限孤立しても良いようにしていてくれ」
私は問題ない。
食料も収納してあるし、長期戦になったとしても1年は問題なく過ごせる。
「大丈夫です。一応最低限の実力はあります。食料も……3日分は各自もっています」
それなら大丈夫か。
「うっし、じゃあ、進みますか」
「はい」
休憩も済んだし、確認も済んだ。
ならあとは進むだけだ。
私を先頭に、私たちはその入り口のような形をした物の先へ足を踏み入れた。
私たち全員が入ったところで、その空間は歪み、先程までの場所とは明らかに違う場所に立っていた。
「……」
「草原、でしょうか」
風景はその通りだ。
ダンジョンに風景はない。
基本的にはな。
「無機質な岩肌。ダンジョンにそれ以外の風景はありません」
「そうだなぁ」
だが、本当に下の方に行くとそれ以外があるんだが、ここはそういうことなのだろうか。
「そんなにここって、深いのかねぇ」
「「「「え?」」」」
えっ?
「何で深い、と?」
「だって、風景が変わるなんて、よほど下の階層じゃなきゃあり得ないからな」
「……貴女は一体どこまで下に潜ったことが……」
さぁ?そこまで数えたことねぇや。
それに、そのレベルまで潜っていたのはヤンチャ時代だ。そんな昔のこと、覚えちゃいない。
「しーらねぇ、よっ」
とか言いながら、さらっと私たちに襲いかかろうと、飛びかかってきた魔物を無手の拳で殴って爆散させた。
「……にしては弱いなぁ」
「そう、何ですね」
調査隊はそんな風に呟きながらドロップに姿を変えた魔物を爆散させた社長に少しの恐怖と大きな信頼感、そして呆れのような諦めのような感情の籠った眼差しで見つめるのだった。
・・・・・・・・・・
後書き
言った側から風邪引いた馬鹿です。
仕上がってた分は遅くなりましたが更新しました。
とりあえず少し休みまして、全快したらまた更新します。
改めまして、お体にはお気をつけて……あの暑さはなんじゃったんだってくらい寒いんで。
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