第19話 社員ゲットぉ!私、沼に沈める
地上に戻ってきた私たちはすぐに協会のビルに入り、報告と説明を始めた。
「ダンジョンの異変については、まだ調査が足りてないので断定はできませんが、やはりイレギュラーが短期間に三体も出現していることから、何かが起きていることはまず間違いないです」
「わかった。それで、三体目のイレギュラーというのが」
お偉いさんの目線は当然私が抱える九尾へと向かう。
「これだ」
「で、そのイレギュラーを宵闇さんは連れ帰り、かつ宵闇さんの会社の社員にしたいと」
「イエス!構わんだろ?」
「いや、それに関しては前例がないので協会会長に問い合わせないと、なんとも……」
「あ?」
「いえ、すぐに問い合わせます」
脅したわけじゃないよ?少し凄みをつけて睨んだだけ。
それに協会会長?会長なら私の提案を呑むだろう。
こいつ自身、もう敵意はないし、そこまで悪いやつじゃなさそうだから、その辺を証明できれば問題なく承諾してくれるだろう。
悪意がない、というか悪いやつじゃないのは戦っていたときからそうだった。
戦っている最中、最後の最後まで、系譜の魔物を使って調査隊を襲わなかったし、私とのタイマンを最後まで突き通してくれた。
あんだけ知能があるのなら、私が後ろを気にしていたこともわかっていただろうし、後ろを襲うこともできたはずだ。
それこそテレポートなんて、始めから私の背後じゃなくて調査隊を狙えば良かったんだから。
そうすれば、少なくとも私に極小だがダメージを与えることもできただろう。
それをしなかった辺り、そこまで悪いやつじゃないのは間違いない。
「それに、社員になり得る人材をここでみすみす逃すなんてことをすれば、辛くなるのは私たちだッ」
「ひ、必死ですね……」
呆れているな?だが、こちとら死活問題やぞ!戦力一人でどれだけ世界が変わることか!それも体力もすでにSuma社員の平均以上だ!そんな即戦力、欲しいに決まっている!
「社長には社長の苦労があるんだよ」
「なら、私の苦労もわかってくださいぃ」
あ、お偉いさん、胃が痛そうだねぇ。
会長さんも胃を痛くしてそうだし、特製の胃薬でもあげようかな?
「苦労はわかるけど、その苦労は貴方のものだよ♪」
「宵闇さんの悪魔め」
「フフフ……貴方たちのせいで未だに忙しい私の身になってから言いやがれ」
「誠に申し訳ありません」
半強制的に冒険者継続させた上に、色々と仕事を頼んだり、仕事の遅いそちらのせいで、今、私や翔などに色々と面倒なことが来て処理しているのも私たち。
その二つがなくなればそれなりに余裕は生まれるのだがねぇ?
「うぅぅ」
「よ、宵闇さん、ストップ!支部長の胃に穴が空いちゃう!」
「そんなときには、これ1本!グビッと飲めばアラ不思議、胃の痛みが消え去って気持ちスッキリ!」
「ただの胃薬みたいだけど言ってることは薬中みたいだなぁ!?」
失礼だな。依存性なんてないぞ!
違法なものもいれてない、とても効き目の良い胃薬なんだぞ!
聡子とかは愛用しているぞ!
もちろん私もね!
「貰ってもよろしいですか」
「どうぞどうぞ」
胸ポケットに常に三人分くらいいれてあるよ!
「どうよ?」
「あっ……ホントに良く効きますね」
「どうしよう!どうしても危ない薬にしか見えねぇよぉ!」
さっきまで冷静でしっかりした調査をしていた人なのに、地上に出てからツッコミ役になってるな。
他三人はもう、苦笑いでとなりと目配せしてるよな。
「あっ、会長から、宵闇さんがしっかりと手綱を握るならオッケーだそうです」
「よっしゃ!流石会長!わかってるぅ」
もう長い付き合いですから!
それくらい信用と信頼があるのはでかいですねぇ!
「では、一度解散ってことで、明日も調査は続けるので、それまで各自休んでください」
「じゃ、また明日なぁ~」
九尾を担いで、良い笑顔でビルから出て会社へ走るのだった。
・・・
冒険者協会とやらで、色々と話を聞いていると、このヨイヤミさんは本当に何者なのだろうと謎は深まる。
というか、なにやら必死になって我をヨイヤミさんの会社という組織にいれたいらしい。
そこまでして何をしているのだろう。
この異次元の化け物のような力を持つヨイヤミさんが率いる組織だ。
きっと凄まじく規模が大きいヤバい場所に違いない。
「起きてんのは知ってる」
『っ!』
「話は後でだ。だが、私はお前を悪く扱ったり、悪事に加担させることも、仕事を強制させるつもりもない。当然働けばその分報酬を出すし、住む場所も食うものも用意しよう」
凄まじいまでの好条件!
こいつとは殺しあった仲だが、少なくとも、嘘をつくような人間ではないことはわかった。
いや、これまでの会話を聞いてきて、こいつはその程度のことに対してわざわざ嘘をついたりする必要がない。
それだけの力がこの人にはある。
「だから、私のもとに就け、良いな?」
生かされた命だ。
ここで断る理由は、ない。
それに、我はただ生きたかった。
生きて、それで何かに夢中になれるものが欲しかった。きっと、魔物としての本能的欲求なのだろう。何かが欲しい、それだけのこと。
それが見つかる、それが得られる、そんな気がした。
だから私は、無言でヨイヤミさんの手を握った。
「フッ……可愛いじゃねぇか」
・・・
「帰ったぞ~聡子ぉ!」
「はい、何でしょう、か……新入社員?」
流石、私が担いでいるってだけで良くわかったな。
無言でサムズアップした。
そして、同じようにサムズアップが帰ってきた。
「書類はこちらに」
「用意が良くて助かるよ、まぁ、身元の保証人とかは私がやるからその辺の手続きは良いとして」
あれはこれ、これはこれで、住所は、私の家で良い。んで、携帯の番号はこれからだから良いとして、名前とかどうしよっかな……。
「…………九重(ここのえ)。宵闇 九重で良いかな」
「宵闇って、親戚ですか?」
「養子にするから良いかなって」
「養子って……最高の戦力アップですね」
だろう?私が養子にする人材やぞ?それだけでこいつ、九重がどれだけつよつよな戦力か察したみたいだな。
「って、わけだ。ちょっとこいつと話してくるから、色々と準備よろしく」
「わかりました。お任せください」
やることやって、指示だけだして、社長室に担ぎ込んだ。
一応外に聞こえないように遮音しとくか。
……これで良し。
「よし、ここなら良いかな」
『……』
「じゃあ改めて、私は宵闇 霧江だ。九尾、いや、その人の時は九重って名乗れ」
『命令……まぁ、良いか』
「あと、このテレパス的な話し方止めろ。ちょっとうざい」
『………』
「これで、良いか?」
「そうそう。じゃあ、話を進めるぞ」
「わかった」
「まずは、さっきも言った通り、お前を私が引き取る。衣食住も身の安全もこちらが保証しよう」
というか、今のところ最高クラスの保証になるんだよなぁ。
金は腐るほどあるし、住まいも私がほとんど使ってないだけで最高クラスのものだし、食べる物も毎日好きなもの食っても問題ない。
まぁ、そのどれも私には関係ないけどネェ~。忙しすぎてそんなものあってないようなものだけどねぇ。
「お前に危害が及ばないように私がいるわけだし……」
「確かに、あれだけの力があれば、な」
戦ったお前はその辺が良くわかってるな。
反対に、私に逆らえないってのもな。
「でだ、それらを提供する変わりに、私の会社で働け」
「それは構いませんが、何をするんですか?暗殺ですか?」
「何でそんな怖い方向に行くんだよ」
「違うのですか?」
「あぁ~、よし、今から私たちがする仕事についてしっかり教えないとな」
沼に沈めてやる。
私たちが作り出す、人間の娯楽の沼に。
コンコン
「入れ」
「失礼します、社長、書類を……」
「おぉっ!」
入ってきた聡子はすぐにその姿を見つけたろう。
画面を食い入るように見つめながら、はしゃぐ大きな子供を。
「アハハ!なるほど、この者のはこれが苦手なのか……頑張れ~」
「……社長、沈めましたね?」
「あぁ。ライバー沼に沈めた」
やはり、言葉で説明してもわからないだろう。
だから、作った完成品を見せたわけだ。
「この調子なら、良い社員になりますね」
「あぁ。ついでに、こいつ強いからダンジョン配信の護衛もできるぞ」
「あぁ、これまで以上に承認を出しやすくなりますね」
「フォォォ!」
……それにしても、この反応大丈夫か?なんか折角の美人な顔がヲタク顔で台無しなんだが?
「とりあえず、ほい、記入と承認は済んだから、これで九重は正式にここの社員だ」
「む?そうか。では、ヨイヤミさん、これからよろしく頼むぞ」
「おう。これからこき使ってやるからな」
「では、しばらくこれは借りるぞ」
あっ、私のスマホ……いや、まぁ、今日くらいはいいか。
「今日のうちに九重の携帯を契約してくる」
「わかりました。では、今のうちに私は業務の説明も含めて、社内見学させておきます。社員への紹介も含めて」
「頼むわ。じゃあ、携帯ショップに行ってくるわ」
私は社長室から出て、携帯ショップへ走った。
・・・・・・・・・・
後書き
九尾改め九重ちゃんに教えるべきことがパッと思い付かなかったんで、今日はここまでにしました。
具体的にやらせたいことが固まってないので、明日の更新遅れます。
あ、あとスッゴい下だけど週間総合ランキングに乗ったのと、ジャンル別週間100位割ったのめっちゃ嬉しい。
見てくれている皆さま、ありがとうございます。
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