第18話 九尾戦。私に敵うと思うな?



 先手を決めたのは私、挨拶程度に軽くジャブをいれてみる。


 まぁ、当然近づくまでもなく、炎?で阻まれ後退。


「魔法か」


 後退した私を確認してすぐに九尾は魔法を発動。

 紫色の炎が蛇のようにうねうねと蛇行しながら近づいてくる。


「アクアスラッシュ」


 腕に簡易的に水の刃を纏わせて、その腕を勢い良く振り抜く。


 通常よりも早いが若干拡散し鋭さは失くした水の刃は炎を消し、そのまま九尾へと向かう。


『むっ』


 これもまた、新たに生み出された炎で阻まれ届くことはなかった。


「……使えるのは、技術と炎の二種類で良さそうだな」


 土とかは使えないのは確定だ。使えるなら今のを炎で防ぐ必要はないからな。

 これでブラフならこいつは相当だが、私相手にそんなことができるほど強くはないはずだ。


「『ストームバレット』」

『はぁっ』


 様子を見つつ続いてストームバレット、風の弾丸を放つ。

 それを炎で形成された金槌のようなもので弾き、弾いたあと私を狙って振り下ろした。


「んなもん」


 無手の拳を放ち、霧散させた。


「まだ優勢だが、初見で怪我する可能性もあるよな」


 としたら、様子見のしすぎも良くないか。

 とはいえ、後ろの調査隊に気を配りながらだと、どうしても大技を使いづらい。


「『フレイムバーン』」

『無駄だ』


 炎の小さな塊で触れると爆発する。そんな魔法を放つ。


 が、あとから繰り出された大きな炎に飲まれて、爆発は虚しくも炎を揺らした程度だった。


『貴様の実力がこの程度ならば、我を害するなど不可能』

「調子乗んな」


 ヒュンっと音を立てて社長は姿を消した。


『なっ』

「おらよ」

『かはっ』


 姿を消したことに一瞬の怯みを見せたところは逃さず、顔面ストレートを決め、続けて右回し蹴り、左踵落とし、ゼロ距離無手の拳を放ち、九尾を壁際まで吹っ飛ばした。


「どうした?この程度で私に勝てるつもりだったのか?」

『ぐっ、なめるな、小さき者よ』

「ふん」


 そこからは先程同様に高速で動き、ひたすらに殴る蹴る、無手の拳を撃ち込んでいく。


「なかなかタフだなぁ」


 30秒経たないうちに100近い攻撃は撃ち込んだつもりだが、倒れる気配はない。


『ぐ、ぅっ』

「なら、威力あげてこうかねぇ」


 カタをつけるためにさらに威力とスピードをあげて叩く。


『か、ぁぁっ!?』

「ほれほれどうした?てめぇはこの程度か!」


 大きく蹴り飛ばし、剣を取り出しそれで飛ばした先に先回りして剣を振り抜く。


『はぁぁっ!』

「っ?ふん……それっ!」


 炎が剣と九尾の間に発生し、一瞬剣が止まる、がそれを一息で押しきり、剣を胴体に届かせた。


「ありゃ」


 はずだったが、剣はすり抜け、空を切った。


『かぁっ!』

「……化けるのを止めたか」


 九尾はその姿を人型から獣の姿に変えた、いや、戻した、か。


「結構でかいな」


 人型の倍はでかくなった。横25mくらいで縦が4m程度だ。

 四足歩行の九つの尾を持った狐。


「さて、ここからどうなるか」

『はぁっ!』

「っ」


 1本の尾を振り抜き、それと同時に竜巻のような強い風が起き、私を巻き込んだ。


「なにっ」


 巻き込まれて、飛ばないように踏ん張りながら守りを固めているところに、体ごと突っ込んできて、尾を振り抜く。

 次は風は起きず、先程よりも強い炎が私の目の前から放たれた。


「……ちぃ」


 それを防ぐにも、手が空いてないため、無手の拳を乱雑に放ち、多少の炎を散らす。

 あとは体で防いだ。


「ふぅ」


 多少効果が弱まったところで右手を勢い良く振り抜き、風を払いのけた。


『まだだ』


 尾を振りながら、その巨体で飛びかかる。


「力比べか?」


 それを正面から受けようと、両手を前につきだす。

 が、その巨体は私の両手に捕まる前に姿を消した。


「はぁっ!?」

『ぐらぁっ』

「うしろぉっ!?」


 動揺したのも束の間、背後からその巨体が襲いかかり、私はそのまま押し倒され、踏み潰された。


「重いわ!」


 まぁ、効かんけど。

 その巨体を難なく持ち上げて投げ返した。


「今のは……」


 高速移動じゃねぇ。あいつは足を地面から離してから消えた。

 それに高速移動なら私が見えないはずがねぇ。


「テレポート系って考えとくか」

『がぁっ!』

「また、風か」


 再び巨大な風を起こし、私に襲いかからせた。

 だが、二度目は食らわんと、大剣を取り出し縦に叩き切り風の流れを乱し、霧散した。


「ついでにそらよっ」

『コーン!』


 そのまま大剣片手に九尾に切りかかる。

 んだが、狐らしく咆哮を上げた途端に、切りかかるために振り抜いた剣が九尾の体にカーンッっと鋼でも叩いたときのような音を立て弾かれた。


「んな固いわけねぇだろ」


 硬化の魔法か。


「って、いくつ能力持ってんだよ!」


 狐に戻った途端、風、炎、テレポート、硬化って!さっきまで炎しか使わなかったくせに!


「ひょっとして、尾の数だけ能力が使えるってんじゃねぇだろうな」


 だとしたらだるいな。

 だが、それならそれでやりやすい部分もある。

 攻撃手段を読みやすくなる。


「ここまでで四つ、んであと五つ」


 だが、これまでで確認した、あのデーモンを爆発させたのもこいつならあとわからないのは四つ。いや、姿を変化させていたのもあったな、ってわけだからあと三つか。


「出させるか?それとも出させずやるか?」


 ……当然、出させずやるだろ!


「『オーシャンウェーブ!』」


 巨大な海の波の如く、力強く波打つ膨大な水を叩きつける魔法。

 それをノータイムでぶっぱなした。


『コーン!』


 硬化じゃ耐えられない威力のある魔法を選んだつもりだ。

 大質量の水は叩きつければコンクリより固くなるんだよ。水圧の力を思い知れ!


「ん?」


 魔法は九尾に命中した……んだが、私の魔法がなんかおかしな挙動をし始めた。


「これ、は~~跳~ね返ってきてね!?」

『これはお返しします』

「反射持ちかよぉぉぉ!」


 やべぇっ!私は良いけど、これ後ろの調査隊の人たち流されるかも。いや、それ以前にこれ叩きつけられたら死ぬかも。結界あるけど、私の魔法だから貫通しちゃうんだよねぇ。

 としたらこれを下手に処理できない。


 ……閃いた!


「『エレキフィールド』『サンダーウォール』『サンダーブラスト』!」


 雷系統三種の魔法を同時発動。

 電気で空間一体を包むエレキフィールド。某モンスターのと違って威力は上がらないが、持続ダメージ的な効果だ。

 あとの二つは文字通りの魔法だ。


「おらぁぁっ!」


 出力をひたすらあげながら、その水を受ける。その大量の水は電気の壁に触れると蒸発するように消えていく。


 普通に防ぐだけなら起こらない現象だ。


「電気分解、ってやつだな」


 水は電気で水素と酸素に分解できるらしい。


「量と力があるだけに普通に受けるだけだとキツいかなって思ったからな」


 少しそういうのを使わせてもらった。

 まぁ、それを実現するためにかな~り出力をあげたり受ける前にサンダーブラスト撃ち込んだりしたんだが、上手く行ったな。


『あれも防ぐと言うのですか!?』

「ほんでもって」

『っ?!』


 一瞬の隙を見つけて、肉薄からの掌サイズに圧縮し、超高温となった炎の魔法を九尾の腹辺りに押し付けて後ろに全力で飛び退いた。


 チュッドゴォォォォン!


 カッっと白く光る爆発が五十階層を揺らし、空間全体を凄まじい衝撃が襲った。


 私は、それをやってすぐに調査隊たちに張ってある結界内に逃げ込み、かつその結界に魔力を継ぎ足しさらに強固にして、その衝撃を受けきった。


「うはぁ……」


 まさか、ここまでとはね。


 電気分解で分解された水は酸素と水素を作り出した、違うか、その二つに分解された。つまり、密閉された空間に大量に、それも短期間で発生した酸素と水素は炎に反応し引火。結果、特大爆発を引き起こしたのだ。


「いや~すっげ」


 やってみたけど、ここまで上手く行くとは思ってなかった。

 というかあんなの食らったらさすがに私だってダメージ受けるよ。


「そんなもんを至近距離で受けたんだ。流石に生きてねぇだろ」


 少しずつ煙が晴れていき、九尾の生死を確認する。

 探知では動いてないくらいしかわからないからな。


『か、あぁぁぁぁ!』

「耐えてるー」


 マジかよ。立ってる、だと?

 硬化とか使ったとしてもだ。


「頑丈だなぁ」


 だが、瀕死も瀕死。

 次小突けば倒れるだろう。


『……我の全てをかけて、必ず、葬る!』

「……へぇ」


 九本全ての尾が光を、口先に魔力が集約されていく。


「文字通り、最後の一撃かい」


 集約された力は白い光の塊となり、私を焼き殺さんと収縮し巨大化し凄まじいほどの力を放っている。


「だが、これならやりやすい『キングコマンド』」


 右手に魔力の棒のようなものが生み出される。


「『クイーンコマンド』」


 その棒を宙に投げると頭上で静止し、整形されて剣のような形になり、研がれるように回転する。


「『玉座粛清の剣』」


 その剣は明確に1本の巨大な剣とかし、九尾の身の丈よりも巨大な剣は私の頭上で剣は振り上がった。


「行くぜっ」

『死ぬがいい!ガァァァァッ!』

「ぶった切れ!パニッシャーァァぁぁっ!」


 そしてその咆哮と剣は同時に放たれた。


 咆哮と剣はぶつかり合い、火花を散らし、光は周りに弾け、剣はギリギリッと競り合う。


『負けるものかぁ!』

「……やめろよ、九尾。こうなった以上、お前が私に勝てるわけ、ないだろうが」


 クイッっと、指を上から下へ振り下ろす動作をした瞬間、さっきまで競っていたのが嘘のように一瞬で真っ二つに切り裂かれ、そのまま玉座粛清の剣は振り下ろされた。


『ガァぁぁアア!?!?』


 ズドンッっと、地面についた音と共に剣は消え去った。



 剣が消えたその場には人型の姿で倒れる九尾の姿が残っていた。



「……おや、避けられたか」


 玉座粛清の剣が命中する寸前に、いや、あの最後の攻撃が切られた瞬間、人型になることで避けたわけか。あくまであの巨体目掛けてだったからなぁ。


 まぁ、九尾は虫の息、大きい獣の姿から人の姿になったから差分で落下し、満身創痍の九尾はそれで倒れたわけか。


「ん~」


 このまま倒しても良いが……

 私は背後にいる調査隊に話しかける。


「一度地上に戻っても良いか?」

「えっ?……えぇ構いませんが」

「こいつ、連れて帰ろうぜ?」

「ぇ、えぇぇえぇ?!?」





 調査隊の皆さんは私が説得し、九尾は地上に持ち帰ることにした。もちろん、安全は確約しているし、地上でも暴れさせない。


「というか、色々と加減してたら手こずっただけで加減しなくて良いなら、一発だぞ?」

「そう、何ですか」


 おい、化け物を見るような目で見るな。


 苦笑い気味の調査隊を尻目に九尾を担ぎ、来たとき同様に結界やら何やらを張りながら上っていき、地上へと戻った。



 ・・・


 ……なぜ我はこの者に担がれているのだろうか。


 あの剣によって殺されたかと思った。だが咄嗟に人の姿になることで躱せたのだが、その剣が叩きつけられた衝撃と風圧で我は立つのも、意識を保つのもできなくなり、眠ったはずだ。


 だから、その時点で死んだと思っていたのだが……なぜ生きていて、我は殺しに来ていた者に担がれているのだろうか。


 逃げ出そうとも考えたが、この者の……仲間?の人間からはヨイヤミさんと呼ばれる彼女は私の意識が戻ったことに気づいている。

 だが、そのことを仲間に伝えることはしない。

 それどころか、釘を刺すことも、我を拘束することもない。ただ担いでる運んでいるだけだ。


 いや、正直、このヨイヤミさんには勝てる気がしない。

 あの戦いだって、かなり手を抜かれてあのざまだ。

 戦うだけ無駄と言うものだろう。そもそも今の我は、戦えるほどの力は回復していない。警戒するだけ無駄と言うものだ。


「それで、宵闇さん。この九尾をどうするんですか?」

「ん?」


 我のことを話しているな。

 ヨイヤミさんが我をどうするかはもちろん気になるので聞き耳をたてる。


「可能なら働いてもらおうかなって」

「働いて?……えっ?」


 働く?ど、どういうことだ?

 というか、ヨイヤミさん、貴様我に意識があることを知っていてそれを言っているのだろう?

 ブラフか?


「今うちの会社、手が足らねぇんだよ。信用できる新人をいれたいんだが、今から募集したら余計に仕事が増えちまう。だから、一人で3、4人分くらい働けるこいつを雇おうかなって?」

「いやいやいや!相手は魔物ですよ!」

「知ってるが?だからなんだ。少なくとも、私がいればこいつくらい容易く抑え込める」


 いや、うん。この仲間の反応通り、このヨイヤミさんはとんでもない人間なのだな。

 まぁ、我としては生きることができれば良いので、今の話が本当ならありがたいのだが。


「ですが!」

「それに、こいつは意思があって話せるみたいだから。私たちが知りたいこととか知れるかもしれないし、お前ら協会としても私以外に強い調査員になり得る存在は欲しいんじゃないか?」

「……そうですね。確かに情報を持っているかもしれないなら、持ち帰る意味はありますし、味方になってくれるなら我々としてもありがたい限りですが」

「じゃあ、決まりだな」


 決まってしまった。

 我、これからどうなるんだろ……

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