第17話 異変の調査。私、何かを感じる!

 四日後、つまり、二度目のイレギュラーから一週間。

 ダンジョンの詳しい調査を行う日だ。


 私は会社の業務を完全に休み(ほとんどは四日間で終わらせてきた)、私はダンジョン前のビル、つまりは冒険者協会の建物に訪れた。

 目的は当然、異変の調査だ。


「なるだけ、危険は排除していく~のが普段だが、今回はそれらのエンカも調べるからなるべく見せた方が良いんだよな」

「はい、できれば。なるべく接敵するまでは手を出さないで、魔物と接敵してからしばらくは様子を見てもらえると」


 まぁ、そうだよな。

 面倒だが、ここのダンジョンは私の受け持ちだし、うちの子たちのホームグラウンドだ。

 だから手は抜けないし、面倒だなんて言ってられない。


「ちゃんと調べてもらって、さっさと潜らせてやるのが一番だもんな」


 それに、封鎖するにも色々とあって、これから封鎖が始まり、二日後には解除されてしまう。

 だから、んなことでグタグタ言ってられない。


「じゃ、行くぞ」


 私は調査隊を引き連れ、ダンジョンに潜った。




 調査隊は全4名。


 全員が一応冒険者ランク4ではあるが、あくまで研究職なので戦闘はそこまで得意ではない、下積みのランク4だ。

 それでも、一人で逃げ帰るくらいはできるので、こうしてイレギュラーの調査に参加できている。


「静かですね」

「そりゃ、人がいないダンジョンなんてこういうときくらいしかないからな」


 私は調査隊の会話には混ざらない。

 混ざれない。というか話しかけさせない。


 何せ、少し集中しているから、話しかけられると困るのだ。まぁ、実際は話すこともないから話しかけられると困るってことだがな。


「来るぞ」


 現在、私は全方位に結界を張り続けながら探知も行い、かつ自分の強さを全力で誤魔化して魔物たちには寄ってきてもらわないといけないのだ。

 何かの拍子で誤魔化しが失敗すると正確な調査ができなくなるのでできる限り喋りかけないで、と出発前に伝えていた。


「おい、記録だ。手早くしろ」


 私がなにも言わずとも流石に仕事はしっかりとしてくれる。

 こういうやつらをしっかりと寄越すように手配してくれた人には感謝するわ。


 ちょいと昔だが、仕事そっちのけで色々としてくる男がいた。

 そいつははしゃぎ回って、私の邪魔もして、記録もしなかった。

 結果、その次の調査の時にやられた。


 私の気を散らし、探知からすり抜け、勝手に結界外に出て、魔物にやられた。

 いや、私が気を抜いたのもあったとはいえ、それに懲りた協会はそういうやつを軒並み解雇したそうだ。


「終わりました!」

「宵闇さん、お願いします」

「はいよ」


 と、考えているうちに記録は終わったようで、私は無手の拳を放ち魔物を倒した。


「流石ですね。ありがとうございます」

「なんの、これが私の仕事ですので」

「そうですか。よし、先に進むぞ!記録もなるべく手早くだ!」




 それから、四時間ほど、こんな風に記録をしながら下っていった。

 後半、魔物の記録が早くなったため、予定より早く四十五階にたどり着いた。


「一旦休みましょう」


 ここから何が起きてもおかしくない。いや、ここもすでにそうだ。


 だから、休めるうちに休みたい。そういうことだろう。

 私に決定権はないので、大人しく調査隊の休憩に付き添う形で休憩を取った。

 もちろん、結界や探知、誤魔化しは継続しながら。


「今のうちに纏めましょう」

「どうだった?」

「出現する魔物に偏りが見られた。というか、本来の出現位置とは異なる場所で『フォックステール』や『ダークキャット』、『ファイアブル』が見られた」

「何だか動物系の魔物ばっかりですね」

「そうだな。とすると、三体目のイレギュラーがすでに発生しているかもしれません」


 だろうな。聞き耳をたててるわけじゃないが聞こえてしまうことだ。

 聞いている感じ、私も同じようなことを考えていた。


 理由はやはり、その一部の魔物の異常。

 そういうのはジェネラル的な魔物が発生すると起きる異常として有名だ。


 例えば、イレギュラーとしてオークジェネラルという魔物が発生したとき、本来二十階より下にしか発生しないオークが一階に大量発生し、ランクの低い冒険者たちを襲った事件があった。

 ジェネラル自体は三十五階に発生したが、そのダンジョンにいるその系譜の魔物に影響を与える事例。連鎖的イレギュラーと呼ばれるそれは、イレギュラーの出現を証明する材料の一つとしてあげられる。


 今回もそのパターンと考えられるのだ。


「『ケルベロス』辺りだろうか?」


 現状、確認されている魔物で近いのはそれだろう。

 私もそれには同意だ。


「だが、ブルだけじゃなくフォックスやキャットもいるのが気がかりだ」

「そうだな。ケルベロスが引き起こすにしてもくくりが広すぎる」


 それなんだよなぁ。

 ケルベロスはあくまで犬や悪魔とか、そっち系は操る力を持っていても狐や猫はなぁ……


「っ、言ってる側から、来るぞ!」

「今度はデーモン?とはいえ下級?」


 フヨフヨと弱々しい飛行を見せるデーモンと呼ばれる下級の魔物。

 ハッキリいってこのレベルは十階層にも満たないレベルだ。


「……っ」


 なぜここに?と、迷っていたとき、私は嫌な予感を感じ取った。


「ふんっ!」


 咄嗟に誤魔化しを止めて、結界の強度を強化した。


『ぁぁ』


 声のようなものが聞こえる距離、そこまで近づいてきたデーモンは、そこで


 ドッッカン


 爆発した。


「あっぶね……」


 間延びしない音は私が爆発を結界でしっかりと受けた証拠だ。

 だが、それだけじゃない。


「指向性のある爆発?」

「えっ?」


 調査隊の一人が呟いた通り、今の爆発は明らかに指向性が与えられていた。


 だから爆発の衝撃が私の結界の方へ100%きたために間延びした音がしなかった。


「つまり、これは」

「イレギュラーの仕業」

「魔法が使えるのか」


 そうなると完全にケルベロスの線は消えた。

 あれは魔法を使えない。

 使えても遠隔でどうのこうのできるほどではない。


「探知にも引っ掛からない」


 だから探知で近くを詳しく探しても何もいない。

 下を探知しても同様だ。


「宵闇さん?」

「少なくとも、ここにはいない。としたら下なんだがこっちも引っ掛からない。としたら……」

「かなり上位の魔法が使える魔物」


 そうなるな。


「とはいえ、所詮は魔物だ。私の探知から抜けられると思うなよ」


 一瞬だけ結界を解き、探知に力を入れた。


「このレベルの探知……凄まじい力ですね」

「そりゃ、どうも」


 よし、完了。


「結界を張り直してっと……結果だけ言うと、五十階にいた」

「えっ?見つけたんですか?」

「当たり前だろ。この程度の魔物の妨害でどうにかなるほどの力は持っちゃいねぇ」


 確かに色々と併用しているし、精度もそこまで高くない探知を使ってたとはいえ、それで調子に乗られたら困る。


「なぜイレギュラーが立て続けに発生するのか調べにきたらイレギュラーに出くわすとは……」

「丁度良かったろ?」

「そうですね」

「ランク6の宵闇さんがいれば大丈夫ですね」


 そのために私が護衛してんだから。


「ってわけだ!五十階を目指して、調査を進めるぞ!」

「「「了解!」」」


 さて、どうなることやら。




 そこからはまるで絶対に近づけさせないとでも言うように魔物の勢いが増していた。


「宵闇さん!ここからの調査は五十階にいるイレギュラーに絞ります!なので、一掃してしまって大丈夫です!」

「そりゃ助かる」


 それと同時に、私は力を見せつける。


「邪魔すんなよ。『覇王』!」


 魔力がズッシリと乗った威圧、それが五十階まで放たれた。


「っぅぅぅ」

「これが、ランク6。半端ない」


 周囲には気を遣って放ったとはいえ、感じるものは感じる。

 調査隊の皆皆さんは普通に震え上がって、私を苦笑いで見ていた。


「これで五十階まで鬱陶しいのは消えた。突っ切りますよ」


 魔物の勢いが増したのはかえって悪手になってしまったのは、もう、少し可哀想なものだ。




 五十階。

 ここ最近、ここには縁があるのかちょいちょい来るな。


「ここが五十階ですか」


 調査隊の皆さんは当然ここへ来るのは初めてだ。だからかかなり緊張しているように見える。


「さてさて……こりゃ手こずりそうな相手かもな」


 そんな調査隊を横目に私は目の前に佇むそれを見る。


 私の独り言に反応して、調査隊もその存在に気づく。


 人型、しかし人ではない。

 2メートルほどの身長に、怪しい空気を漂わせる、その姿は、まるで物語に出てくるような姿。

 頭の上には尖った耳?を生やし、着物のような衣服を見に纏い、九つの尻尾を持っている美女。

 それは、言ってしまえば、『九尾』と呼ばれる存在なのだろう。


「あれは……いや、あれがイレギュラー」

「なんて強大な魔力なんだ」


 確かに、魔力は凄まじい。

 だが、それをここの階層に入るまで感じさせなかった力、かなりの使い手だ。


「ふむ……姿自体も魔法か」

「えっ?」

「狐が化かしているのさ、本来は普通に獣の姿をした、妖怪九尾そのものの姿。それをあんな風に体の形状を変化させているんだな」


 なぜ人の形を選んだのかは知らんが、なかなかに強いじゃないか。


『何者だ』

「喋った?!」


 まぁ、こんだけの魔法が使えりゃ喋れもするよな。


『我は九尾。貴様らは何者だ』

「……」


 会話をして良いものか悩んでいるのだろう。

 いかんせん、前例が無さすぎる。


『特に、貴様だ、小さき者よ』

「おう、私のことだな」

『その力は、なんなのだ?』

「力?知らん。持ってるもんは持ってんだよ」

『そうか……貴様らは我を害するものか』

「まぁ、そっちが手下とかをけしかけて来てるんだからな?」


 もう、この時点で私も九尾も戦闘態勢に入っていた。


「やろうってのか?」

『無論、我を害するなら、我はそれを排除するまで』

「そうかい」


 まぁ、そうなるのはわかってたが……面倒だな、こいつとタイマンは不味い。


 さっきの系譜の魔物とかを使われたら、調査隊が危ない。正直、実力を計りかねているのはこいつだけじゃなくて私もだ。

 さっきこの程度の魔物とは言ったが、思ったよりもレベルは高いみたいだ。


 攻撃手段は魔法だけじゃないだろう、耐久力は高いだろう、攻撃力は不明。持久力もかなり高いと思う。

 知らない魔物との戦いはそういうことからだ。


「結界はフルパワーで張るか」


 それでどんだけ持つか、しばらくやってみて計るか。


「万に一つ、負けることはないけどよ」


 やることは決めた。あとはこいつを、倒すだけだ。



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