第16話 初期メンバー集合。私、嫌な予感を対処する



 私はあの後事務所に直帰して仕事に手を掛ける。

 未だ、落ち着かない騒動。ついでに私が出る度に忙しくなる仕事。

 先程の配信の効果がかな~りきてる。


 ついさっきなのに、色々と電話が凄い。

 問い合わせが多いんだよ。それも全く関係ない業界からね。


 自称ファンとか言うのも押し掛けてくるし、そちらはしっかり警備員に押さえてもらった上で警察に引き渡して(威力業務妨害で行ってもらった)、私たち社員に実害はないが、出社中のみんなが私を凄い目で見るんだよ。


「いや、ホントすまん」


 地獄みてぇな仕事を終えた後これだもんな。いや、ホントすまん。


「まさか昔のことで今が酷いことになるとは」

「そういうのはいつものことですから、早く急ぎの業務を片付けてください」


 うん、わかってるよ。というか、やってるよ。

 とりあえずダンジョンに潜るという子たちの申請を通して、外部のコラボとの許諾やら何やら、色々と急ぎで承認したりしないといけないものは多い。


「……ん?あぁ~これは駄目ね」

「記入漏れですか?」

「いや、ここ今危ないから駄目」

「了解です」


 今落とした書類は翔と奴、そしてクスリという翔と同期、つまりは初期の子だ。その三人でダンジョンで色々とする、って動画のための申請だ。


 しかし、そこは四十階層。

 少し下で私がイレギュラー対処したばかりだ。

 その前の五十階でも翔たちとイレギュラーにあったばかりだ。

 流石にこれは承認しかねる。

 用心に越したことはない。


「説明は私がするから、断りいれといて」

「わかりました」


 さて、こっちは外部のVTuberの方のコラボか。

 企画自体は問題ないな。

 相手も過去何回もやってるところで信用はできる。

 まぁ、大分前、私の事故より前に申し入れあった子だからな。


「こっちはオッケーだ」

「はい」


 さてさて、次は……案件か。相手は装備とかを扱う大手か。


「ふむ……これは誰に対してだ?」

「ユッケさんと、紺金(こんこん)さんです」


 あの二人か。

 紺金は奴の一つ先輩、ランクは4だ。

 同じく奴の一つ先輩のユッケ。ランク3だが、つい最近ランク4に認定されているので実際はランク4だが、公表はもうちょい先なので今はランク3だ。


「じゃあ、あの防具か……」

「どうしました?」

「いや、一度間違えたのかよくわからない請求されたよなぁ~って」

「あ~二人がデビューしたての頃でしたね」


 まぁ、防具自体に問題はなく、ただの記入ミスってことだったけど……


「うーん。なんか嫌な予感がするんだよなぁ」

「ですが、日頃から扱っている店ですし」

「そうなんだよなぁ」


 だけど、私の予感は結構当たるんだよなぁ。


「……よし、手が空いてるダンジョン配信者、ランク4以上はいるか?」

「それは案件動画を取る日ですか?」

「あぁ」

「ちょうど、先程断りをいれたことで三人空きましたよ?」


 あ、ちょうどその日なのか。


「いいね。こういうときはクスリだ。断りついでに話を通しておくわ」

「では、クスリさんの許可取れ次第交渉してきます」


 頼むわ~

 できれば取り越し苦労であってくれよ。


「あとの急ぎはないかな」

「はい。それでは私はあがります」

「おう。お疲れ~」


 社長室から聡子は退出し、私は一人になって、ふか~くため息を吐く。


 そんでもって、パソコンを開く。


「一応調べとくか」


 嫌な予感は払拭しきって初めて拭き取れるものだ。

 だから嫌な予感はなるだけ拭き取る。それが私なら良いが、その予感はうちの子たちへだ。


「念には念を入れることに越したことはない」





 ・・・


 クルシュとの配信前、社長との話を終えて帰宅した後、翔は帰ってすぐに電話をしていた。

 同期組、つまり最初期からの付き合いである二人、クスリとユウナである。


「って訳だから、明日の朝、事務所に行くよ」

『ちょうど用があるので良いですよ』


 と、クスリ。というか、貴女と一緒の用件でさっき呼ばれたので知ってます。


『オーケー。遅刻すんなよ』


 ユウナ、何を言ってるんですか?


「私が誘ったんだから遅刻するわけないじゃん」

『貴女それで何回遅刻しましたっけ?』

「……と、とにかく、忘れないでね~」


 プツンっと何か言いたげな二人との電話を切った。

 痛いところを付いてくるなぁ。

 あの二人相手には分が悪いからさっさと逃げる。


「勝てない相手には立ち向かわない~」


 それはダンジョンでも地上でも同じだよ~。


「……とは言ったものの遅刻しないように今日は早めに寝ないとね」


 言った手前流石にね?

 というか、遅刻したらあの二人だけじゃなくて社長にも怒られるんだけど……それだけは勘弁してもらって。


「もう、これ以上は怒られないようにしないと……」


 怖いんだもん、長いんだもん、正座痺れるんだもん。



 とか言ってすぐ寝た。


 したら、案の定


「で?申し開きは?」

「すみませんありませんもうしわけございません」


 次の日しっかりと寝坊した。


「昨日の電話ではわたくしたちに遅刻するな、とか言ったくせに」

「やっぱり遅刻したな」

「うるせぇ!」

「お前は黙れ、しばらく正座してろ」

「うぅ……」


 いや、昨日早く寝たんですよ。

 したら早起きしすぎて、二度寝したら、三度寝して、そして遅刻した……


「だってここ最近だとこんなに寝たの久しぶりだったんだもん」

「だもんじゃねぇ。そういうのは私くらいになってから言いやがれ」

「それはそうですね」

「そうだな」


 いや、その通りだけどなんか可哀想じゃない?


「いや、そんなことないか」


 いつものことだ。最初期からずっと変わらないいつものことだ、うん。


「おい?」

「はい、すみません」


 ここ最近、もう、なんとなくわかってきたから流れるような謝罪をしてるような気がする。


「んで、今日呼んだのは、この企画書、あ~私のグッズに関してだ」

「社長、その前に一つ」

「あ、そうそう。私とクスリと奴ちゃんのあれ、なんで駄目なの?」

「そうなのか?二人から聞いてたが何の問題もないと思ってたんだが」


 あれ?ユウナに言ったっけ……言ったわ。

 というか、混ざろうとしてきて止めたんだったね。


「あ~」


 社長は少し口ごもって、まぁいっかって表情に変わって口を開く。


「実はあそこのダンジョンな、今少し変なんだ」

「変、とは?」


 あ~クスリって結構完璧主義的なところあるから、これ最後まで聞くやつだ。


「調査中、なんだけどよ、今あそこ立て続けにイレギュラーが出てんだよなぁ」

「なに?」

「なるほど。だから危険ですか」

「立て続けって、あれの後?」


 私が会った……変な人型の後?それとも前?


「あれの後、というか数日前だ。ちょうど御披露目用の撮影をした後だ」

「結構最近、というか一月に二回も」

「……わかりました。納得です」


 うん、それは私も納得。

 そんなことあったからには流石にね。


「だから、立て続けでは悪いが、しばらくは四十階未満で活動してくれ」

「それはアタシもか?」


 ユウナ、というか私たち三人は全員がランク5。自慢じゃないけど実力は私が一番。

 とはいえ、一対一戦ったら勝率は六割。

 それくらいの実力差だ。


「あぁ。それよりも上なら仮にイレギュラー出てもお前らなら大丈夫だろう」

「うーん、そうすっとしばらくの間はアタシは暇になるなぁ」


 そういえばしばらくは四十五階付近で暴れるって言ってたっけ?

 けどその申請が全部駄目になるってことだからね。


「ならユウナ、お前は奴に稽古つけてやれ」

「えぇ?なんでアタシが」

「そりゃ」

「貴女が奴さんと戦闘スタイルが近いこと、そして武器が一緒だからでしょう」

「そうだね~もともと今回の企画で呼ばなかったのはある程度鍛えてあげてからユウナに教えてもらうためだったんだから」


 ユウナは少し荒っぽいし、教え方も雑、ついでに模擬戦多めだし、流石に今の奴ちゃんじゃ危ないかなぁ~って。

 それで相談した結果私とクスリで先んじて鍛えてあげようってなったわけ。


「そうなのか?」

「私はそれを知らんが、奴ちゃんには私じゃ駄目だからな。ついでに私の作った大剣の使い勝手を見てきて欲しいってのもある」

「えっ?あれ使って良いの?じゃあやる!」


 あ~そういえばあの剣使ってみたいって言ってたね。

 正直色々と遊び心があるんだろうと予想はしているが未だにそれを見たことはない。

 説明書?を奴ちゃんに渡していたのは知っているが内容を知っているのは書いた社長ともらった奴ちゃんのみ。


 それを使いこなす姿を見たいとは思う。

 だからこそ一度どういう風に使えるのかユウナにやってもらうのが良さそうだ。


「よ~し、良いぜ」

「じゃあ、奴ちゃんを頼むわ」

「あっ、私からもお願いね」

「それではわたくしからも」

「まっかせとけ!」


 あ~張り切ってるなぁ~やり過ぎないと良いけど。


「さて、企画書の話に戻りましょうか」

「あっ、待った!もう一つ!」


 社長?まだ何かあるの?


「クスリ、一つ頼みたいんだ」

「?はい、なんでしょうか」


 クスリ指名かぁ~何かあるのかな?


 クスリはいつも冷静に仕事をこなしてくれるから、何だかんだで社長に色々なことを頼まれてきた。

 当然、そのほぼ全てで何かしらが起きる。

 だからそのお願いに対して、しっかりとした説明があればクスリは社長のお願いを聞き入れている。

 もちろん、社長が手が空いてる時以外は頼まないから、特に断る理由がない、というのもある。


「ユッケと紺金、二人の案件に少し混ざってくれ」

「……それは、いつもの嫌な予感ですか?」


 なお、社長の嫌な予感は大抵当たる。

 今まではなんでそんなに敏感なのか不思議だったけど、きっとランク7の第六感ってやつなんだと理解した。


「おう。何だか嫌な予感がしてる。だからもしもが起きたら対処できる人を混ぜることにした」

「わかりました。その頼み、引き受けました」

「助かる。後で資料とか、私が調べた情報を送るわ」

「帰り次第確認させていただきます」


 暇~。というかそろそろ私正座止めて良い?

 駄目?そうか~。


「よし、というわけで改めて、この企画書について一緒に考えようぜ」


 ・・・


 クルシュのところで一番信頼してる配信はいない、みんな等しく信頼してるとは言った。

 それに嘘はないが、私のなかでこの三人は共にこの会社を作り上げ、最初期の暗黒期を戦い抜いた戦友だ。

 だからこの三人は友だち、親友、そういう表現が近い。

 ただ社長としての立場の間は社長と社員の関係だ。だから配信者たちのなかで一番信用しているのはいない。


「よ~くわかってるよ、あいつらは」


 私の性格とか、好きなデザインとか。


 私は三人と話し合って決まってしまった企画書を眺めながら、小さな笑みを浮かべながらため息をつくのだった。

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