第10話 打ち上げじゃ~い。
時は翔が引きずり込まれる二時間前になる。
そのときにはすでに、私たち含め、全員が仕事を終わらせていた。
仕事も終わり私は寝ようとしたのだが、私は一つの予定を忘れていた。
というか忘れ去られていた。
私と聡子はそれを思い出したのがさっき。
その忘れ去られた内容ってのが
「VTuber計画?」
「はい。あの放送事故の時、翔さんとは別にもう一人、出演依頼、というかコラボの誘いがありました」
……あぁ~はいはい、そういやそうだった。
あの時は翔が好き勝手やったから後回しになってたが、実は承諾してはいたんだよな。
「確か、私のVRの体を作ってやるとかどうと、か……あ」
「はい、明日までに社長の体のデータを送って調節してもらわないと行けません」
「3Dのためのやつだったか……必要か?立ち絵だけで良いんだぞ?」
「自分でルール化してるんだから諦めてください」
うん、原則立ち絵と3Dモデルをしっかりと作ることがSuma所属VTuberへのデビューの時の最低限の決まりと私は定めていた。
そのため、SumaのVTuberはみな初回の配信で3Dモデルで得意なことを見せることが恒例だった。歌でも踊りでも、体操でもスポーツでも。そういった取り組みが親しみを生んだのだと、どこかの記事が推測していた。
私としてはなるべく好きなことをより鮮明に表現するため、という考えからこれを最低ラインとして定めたわけだが……まさかそれで首を絞めるとは。
「まぁ、いいか。今後も定期的に公式とかで使う予定だし」
諦めた。というか、別に体は持っても、別に配信を自分からするということではないので、この際受け入れた方が楽だ。
「では、計りますね?」
「うん」
身長、ウェスト、胸部、その辺を計るときにぎゅっと絞められてあの悲鳴が上がるに至ったわけだ。
ちなみに、復讐として聡子の分も計ってやった。同じようにきつ~くな?
そして二人分計り終えて、資料作成を終わらせて、今度こそ帰ろうとしたとき、計り忘れがあることに気づき、それを追加で計っていたときに翔が入ってきたわけだ。
「今の翔か」
「見られましたね」
「帰れると思うなよ?」
不可視の手でも伸ばした。
翔の肩を掴み、そのまま部屋の中に引きずり込んだ。
「ぁぁぁぁッ」
「よう?覗き見とは」
「良いご趣味をお持ちですね」
「あ、アハハ~」
それからは説教タイム。
ぐうたらこうたらと悲鳴をあげてたが許すわけなく、しばらく正座をさせて二人で説教を永遠と続けた。
あ、正座を和らげようと魔法を使おうとしたので罰としてグッズのサイン書きを決定した。直筆千枚。頑張れよ。
「うぅぅ」
「さて、おら、帰って良いぞ」
「はいー」
と、何だかんだしてたらすでに夜も遅くなってる。
「明日は休日にしとけ」
「最低限の社員を除いて皆さんに休暇を取らせました。希望日数をしっかり聞いてすでに許諾してます」
「そうだったな……え~っと、最長一週間か。意外と短いな」
今回ので言ったら全然二週間くらい取っても構わないんだが……もちろん、有給と同じ扱いで給金も出すつもりだ。
「世間的には大分長いですよ……」
「ま、それもそうか。それに結構好きでこの仕事やってるやつは多いからな」
「はい。田村さんとかは明日休んだらすぐに担当の冒険者の話し合いと手続きとかするらしいですし」
あ~あの人もともとそういう人だもんな。担当の冒険者、奴ちゃんと同期に当たる子なんだが、その子曰く田村さんは親戚のお兄ちゃんみたいでやりやすいんだと。
だからその関係は良好だ。
「あぁ~何で、そうすぐさま動けるかね」
「社長が言わないでください」
「私を何だと思ってるんだよ……」
「化け物?」
「酷いなぁおい!」
「それはともかく、暇ならお酒、奢ってください」
「おう、あぁ~ついでだし、他の奴らも誘って飲みに行くか」
「そうですね。起きてる人を誘って行きましょうか」
二人は着替えて、何人かの社員を誘い久しぶりの外の空気を吸い、深く息を吐いて、近場の常連の飲み屋に行き、乾杯した。
「ぷはぁっ」
「お疲れさまで~す!」
「乙です!」
「今回のは流石に堪えましたよ」
それでも、そこには怒りや何やらはなく、やりきった達成感を持っていた。
それは一重に社長という存在故だろう。
決して無理を強要させず、自分から色々と背負い込み、誰よりも頑張って仕事する。
そんな人だからこそ、社員たちは信用し付いていき、一緒に頑張る、そんな雰囲気が作れるのだ。
本人に自覚なんぞないが。
「そういえば次はVTuberの方に出るんでしたっけ?」
「そうなんですか?」
「おう。さっき、採寸を終わらせてデータを送ったから、完成次第、クルシュちゃんのところに行く予定だ」
「お~」
クルシュ。御霊(みたま) クルシュという芸名で活動するSumaのVTuber。
Sumaの看板VTuberで、その人気は世界に広がっており、登録者も160万を越え留まるところを知らない人気者だ。
ちなみに翔の登録者は500万、奴は75万だ。やはり言語が通じなくても分かりやすく面白いダンジョン配信は伸び方が半端じゃない。
「実は申し出自体はずっと昔から言ってたんですよ?」
「そうなんか?」
ちなみに今それを教えてくれたのは件のクルシュのマネちゃん社員だ。
「絶対凄いことになるから、ね?ってず~っと説得されてましたけど、流石にね?」
「止めててくれたのか、なんかすまんな」
「いえいえ。だから今回のはちょっぱやで企画書とか出したでしょ?」
「そうだな。そのお陰でスムーズに企画が進んでたもんな」
バレてすぐの段階の申請だったからギリギリ余裕があったので通したがその後すぐに忙しくなって、翔のアレコレがあった何だかんだ後回しになったが、しっかりやるということは確定させていた。
「大分嬉しそうでしたよ?」
「なんでまぁ、みんな私と何かをやりたがるのかね~」
「あはは。ご自身の魅力は自分ではあまりわかりにくいものですよ」
言うねぇ?確かに自分の良さなんてここ数年良くわからないからなぁ。強いことと社長という肩書きくらいだもんな、意識している良さなんて。
「それなら、その辺も意識して探すのも悪かねぇ」
「なら、ぜひ色んな子と遊んで行きましょう」
「それはいい。それ目的で色んなとこお邪魔しまするのもありだな!」
「おっ、でしたらぜひうちのユッケとも!」
「今は仕事の話は極力なしだぞ~?お前ら」
せっかくの飲み会に仕事の話ばっかりなんてつまらんだろ?
それに、今までは裏話とかだったから良いけど、この場で私の仕事を増やすなよ。
「手が空いたら回ってくから。せっかく自分探しの目的が生まれたわけだしな。その辺のうまを伝えといてくれ」
「それ社内連絡でするようなことだよ?」
「えっ?うち所属の子たちみんな私に遊びに来てほしいの?」
担当持ちの社員が揃って頷く。
そんな社員を持つ社長が頭を抱える。
「ま~じ?」
「マジです。だからこれからは業務を少し変更して行った方が良いですよ?」
「助言か嫌みか良くわからんな、それ」
どちらにしても聡子の言うようにそうした方が良さそうだな。
まっ、今はそんなことを気にせず、飲もうや。
「追加お願~い」
はいよ~という声が店の奥から聞こえて少して追加の飲み物が届いた。
「ま、改めてこれからのSumaの成長を願って、乾杯!」
・・・
「おっ、きたきた……」
身長150cm、いや148か。
胸は……平均くらいはあるのか。あの見た目で?
ウエスト、ほそっ!引き締まってるのかな?
「つり目で黒目黒髪。ショートヘアで少し癖っ毛で左に流れてる」
ふむ~特に弄らなくても十分なキャラなんだよなぁ。
でもこのまんまは違うよなぁ。
じゃっ、髪を伸ばして、結んであげて、左肩辺りに下ろして、眼鏡をつけてみよう。
「いぇ~い、可愛いっ!」
我ながら良きできなのでは?
このまま納品しても良いけど……もうちょっと良い感じにしたい。
「ここをもうちょっと……こっちを~」
これは一人のクリエイターの日常。その一コマ。しかし、その一コマは一人の社長の頭を悩ませることになったのだった。
・・・・・・・・・・
後書き
閑話みたいもんで少し短いです。
今さらですが、ノリときりの良いところまでで書いていたのであんまり一話につき平均とかはないです。
とか言いながら今回の短いと認識してる不思議よな。
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