第4話 会見。私、インタビュー
それから数日。
私はようやく仕事を落ち着けることに成功した。
疲れたよ。
そして、ここからは外部への諸々説明やら何やらしっかりとした場で行う必要がある。
配信では全部を受け答えられなかったからな。
っても私自身悪いことはしていないので、メディアへの説明は配信の時のもののリピートになるだろう。
ここで問題になり得るのは三つ。
一つは海外からの圧力。
今ですら手をつけられない規模になってきた日本に手をつけられない人が増えることは嫌な国はちょっかい出してくるだろうな。
二つ目は冒険者反対派のところから色々と言われそうだが、それに関しては別に今さらなのでまともに相手する必要はない。
三つ目、冒険者ギルド。
ギルドは冒険者が立ち上げた会社、個人事業主の会社と大して変わらない。
ちなみに総括的組織は冒険者協会ってのがある。そこは政府直轄だ。
私は配信会社を選んだだけで、冒険者を選んでいれば配信会社ではなく冒険者ギルドと言われていたってくらい差は大きくはない。
そんなギルドだが、権力的な力関係が存在し、それらはそこに在籍する人の力や財力からなる。
そんな常に相手を出し抜く機会を探っているような連中に、突然対抗馬になり得る存在が現れれば警戒し、場合によっては潰しにかかってくるだろう。
まぁ、潰しにきたところで返り討ちにしますが?というか私が何かする前に政府が動きそう。
あそこは私が動くことにビビってるからなぁ。あの時やり過ぎたのが悪いか。
あの頃はヤンチャだったなぁ。私も。
「いやそうじゃなくて、ってあれ?なに考えてたんだっけ?」
え~っと…そう、インタビュー。
その三つの問題に加えて色々な好奇の視線やら何やらがある以上、下手なことは言わないようにしないといけない。
悪いことはなくても私に視線が集められている状況下で下手にメディアを刺激することは好ましくない。
まぁそもそも私がランク6ってバレたことが発端だからなぁ。
っていうかそろそろ政府も頑張って海外とのやり取りを終わらせて欲しいもんだよねぇ。
ランク6ってのに害はない。が、間接的にならなくはない。
今現在各国は冷戦状態に近い均衡状態だ。
三つの国がにらみ合いをしていて、その三つの国に囲まれた国が日本だ。
基本的に中立の日本だが、それがいい意味にも悪い意味にも立ちはだかったのだ。
それぞれ、どの国も敵国に攻めいるためには日本を通るか遠回りをしないといけないのだが、距離や間の国の関係でやはり日本を通ることが最善なのだが、その日本は世界一のダンジョン大国、尚且つ化け物を多数抱えている。
それらの化け物と称される人は防波堤になり、その国々は日本を攻めることはない。
何せ、日本を落とすのに戦力の最低九割を割かなければ勝つことは不可能とまで考えられているからだ。
そんなの現実的じゃない。
不可能ではないが現実的じゃない、それが現状だ。
そこに、私という化け物が一人増えたとなれば、その現状は崩れかねない。
現実的に攻め落とすことができない、つまり攻められたら勝てない、そんな国になってしまえば、それぞれ手を組み日本を倒すことも視野にいれてくるだろう。
敵の敵は味方なんてよく言ったもんだが、その問題は常々言われてきたからこそ、今回はよりいっそう騒がれてしまったんだなぁ。
「それに私のことを秘匿にされたランク6なんて言われてたりしてたもんな」
これは私が悪い。
何せ私ってば昔取ってきたものって言ったからさ?何年も前に協会は私のことを把握していながら発表や情報の公開をしなかった。
その事に対しても追求されるんだろうなぁ。
「これでランク6でなく7って知れたらどうしようかねぇ」
それどころか表記できる限界だからってなけなしのランク7なんて知れたら……
「いや、そんときはもう振り切って力誇示しようか」
やはりパワーisジャスティス、力こそパワー。力は全てを解決する。
…いや、それはホントのホントの最終手段だからな。
「社長?」
「ん?」
とかなんとかやってたら他の人きた。
というか副社長の聡子だ。
「今の独り言は聞かなかったことにするので早く行ってください。政府の方々がそろそろ始めたそうにしてます」
聞かなかったことに?……あぁ~助かる。
「待たせるのも悪いしな。わかった、早く行くわ」
あっ、言い忘れてたが今から会見?です。
行ってくるぜ。
・・・
『えぇ~これより冒険者協会会長及びSuma社長の会見を行います』
フラッシュと共に協会長と社長は真ん中の席に座る。
方や胃が痛そうな顔、方やめんどそうな疲れた顔。
『まず、協会長より説明を行います』
「まず、今回の件について説明させていただきます。今回、こちらの宵闇さんのランク6についてですが、我々は確かに十年前に受理し、確認していました」
それを認めた瞬間パシャパシャとうるさいくらいにシャッター音が鳴る。
それに少し眩しそうにして悪人顔みたいになっている社長。
そんなことを気にせず、少し落ち着いたところで協会長は説明を続ける。
「この件を伏せていた理由ですが、本人が望まなかったことと、他国へ余計な力の公表をしないためです」
「本人のことについては後程本人に説明をしてもらうとして、外交関係についてですが、当時我が国のランク6は三人で、全世界で最も多く有していて、各国は我々日本に過度な警戒を向けられていました。そんな時期…あぁ~今もですが余計な力の公表は危険と判断し、政府と相談の上公表をしませんでした。この判断が我々は間違いだとは思いませんが、そのせいで多くの方に混乱を与えたことに対し、深くお詫びします」
頭を深々とはいかない程度に下げる。
シャッター音とフラッシュがうるさく、眩しい。今度は落ち着ききる前に言葉を続けた。
「この場をお借りして改めて発表いたします。冒険者協会は宵闇殿をランク6と認め、その力に敬意を評します」
この定型文は冒険者協会がランク6というのを証明するためのものである。
過去にランク詐欺があったのだが、ランク6だけはこの公表があったためにそれが起きることはなかった。
この発言は国が、その人の身元を保証したうえで他国への牽制として手を出すなというものとしての意味もある。
「さて、私からは以上です」
『続いて、宵闇様です』
「はい、私からは先程話題に上がりましたことを説明させていただきます」
「十年前、私はランク6の認定をもらいましたが、その時点で私はすでに冒険者を引退するつもりでした。
今ここに冒険者としてではなく、一会社の社長として座っていることから察していることとは思いますが、私は冒険者を辞め会社を立ち上げてそこの社長になろうと思っていました。そのため、引退するのに公表する必要もない、と判断し私は公表を辞退しランクを秘匿にさせていただきました。
しかし、協会側、政府側の意向により冒険者としての実績やランクは消さないで欲しいとのことで私は今副業という扱いで冒険者をやらせていただいており、時々ダンジョンに潜ったり、必要に応じて手伝いをさせてもらっています」
と、説明を終え社長は小さく会釈して、深く座りなおす。
まるで、ここからが本番だと言うように。
『それでは質問の時間です。一人一つ、五名ほど質問を受け付けます。質問のある方は挙手をお願いします』
一斉にばばっと手が上り、司会者が一人を指名する。
「AB社の伊藤です。宵闇さんの冒険者として残留することに対し協会側が進めたということでよろしいでしょうか?」
その質問は会長が答える。
「はい。一般人としてこちら側で管理できないよりかは冒険者としてある程度把握できるように、ということといざというときのために冒険者としておきたいという考えから我々側から宵闇さんに冒険者としていることをお願いしました」
メモメモして、ありがとうございますと会釈し着席した。
『次の方……どうぞ』
「はい、GA新聞の田中です。必要に応じて手伝いを、とのことでしたがこれまでも何かしらの手伝いをされていたのでしょうか?」
一瞬二人は見合せ、再び会長が説明をするためマイクを持つ。
「そうですね。宵闇さんにはこれまで可能な限りで手伝いをしてもらってました。強制的なものはなく、あくまで可能な限りで手伝いを仕事の依頼という形でさせていただきました。概要としてダンジョンの異変の調査でしたり、危険な魔物の駆除などをお願いしました」
先程同様の動作で会釈し着席した。
それから三人目も似たり寄ったりな質問を会長が受け答えし、四人目も社長の意思についてのことを聞かれたので社長は手間じゃないのでといったふうに答え、最後の一人となった。
「冒険者反対派組合の山田です」
その組合の名前でピクッっと二人は反応した。
ついでに司会者も少し汗を流していた。
「社長は副業で冒険者をやっているそうですが、大人しく社長をやれないのですか?」
その物言いに、ざわっっと他のメディアが驚きや困惑の声をあげる。
「はぁ。そうですね、大人しく社長ができるのならばやりたいですね」
相談もせず、比較的早い動きで社長はマイクを持ち返答した。
その隣であぁ~あなんて言いそうな表情を浮かべる会長。それに気づいた何人かは疑問符を浮かべている。
「でしたら冒険者を辞めて…」
「けどなぁ?辞めてもいいけど、それで被害を被るかもしれないのは知らない誰かなんですが?」
「はい?」
「私がやってることというのは代わりが三人しかいないってことですよ?わかりますか?」
日本には三人しかランク6はいない。社長を含めて四人。
他の国では一人、二人程度。三人以上は日本だけだ。
そして、一人もいない国ももちろんある。
しかし他の国はそれで困らない。
何故ならばダンジョンはあっても一つしかないからだ。
何かあっても一つ二つなら管理もしやすく、対処もしやすい。
だが、日本は四つだ。それもそこまで広くない領土で。
その異常をどうにかするために毎回ランク6なんて動かせるとも限らない。
さらには同時に起こることもありえるためいくらダンジョン大国といえども人材はカツカツだ。
そんななか、そのうちの一つを私が受け持っているようなものなのだ。
非常勤で基本的にダンジョンに近いところで働いていて、要請や依頼があればすぐに対処できる。
「そんな私が辞めた場合、貴方は私の代わりをやってくれますか?」
「それは…」
「代わりにやってくれるのは三人しかいない。そんな私に辞めろと?」
若干圧をかけるような物言いで言い寄る。
「それでも、ダンジョンは危険を産み冒険者は治安を悪化させる病原ですy」
「黙れよ小僧?」
山田が苦し紛れに吐いたそれに社長は怖いくらい低い声で睨んだ。
「危険?病原?綺麗事ぬかせるのはそれなり以上の力がある人だけだ。それにお前、その危険と病原に生かされて生活しているんだぜ?」
経済も、生活に必要なエネルギーも、今や大半をダンジョン関連で賄っている。
それこそ、今冒険者を廃止しすれば残るのは世紀末のような地獄か、攻め踏み潰される弱い国かの二択だ。
「綺麗事は結構、理想を語るのも好きにすればいい。けれどそれで被害を被るのはいつもなんの関係もない人たちなんだよ」
「ぅ…ありがとう、ございました」
返す言葉もなく、圧に当てられてその場に崩れるように座った。
そんな雰囲気のなか、会見は終了した。
・・・
それから連日、社長の会見が語られた。
野蛮だの、危険だの、素晴らしいだの、様々な言われ方をした。
しかし、視聴者たちに専門家などが解説をしていくうちに、理解し始めた視聴者は大抵正しいことを言ったと感じ始めていた。
感じ方はそれぞれだが、それが力を持ちながら普通に働く大人の言葉だからこそ響くものがあるという感じの評価に落ち着き、社長の人気は上がっていった。
本人は不服だが、それでも今まで気に食わない奴らだった反冒険者に一泡ふかせたことで冒険者間では好感度が高かった。
・・・
「さて、やることはやった。評価も落ち着いてきたな」
エゴサなんてしたの始めてだよ。
「ゲストとして行くからには、その子のことも考えないとな」
私が炎上していたら、その子の配信に行ったことで飛び火する可能性もあるので、その辺は抜かりないようにするためにエゴサなんてしたがするもんじゃねぇな。
「さて、面倒だが、行きますか」
その日の夜、奴のSNSにて一つの予定が公開され大きな盛り上りを見せた。その予定というのは『社長と翔さんと三人でダンジョン配信!』というものだった。
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