第2話 トレンド一位。私、バズる?


 あれから急いで配信を切り、人が集まる前に私たちは会社に急いで戻ってきていた。


「はぁ~」


 面倒なことになった。


「あの、社長、すみません、私のせいで」

「いや、確認不足だった私が悪い。第一カメラがまだしまってない時点で気づくべきだった」


 本当に浮かれてた。

 久しぶりのダンジョンで高揚してたのは確かにある。

 あるとはいえ、まさかそんなミスを犯してその上色々と世間には話せない情報を流してしまったぁ~だなんて。


 何がやべぇのかって、あの収納ブレスレットを競りに出したとき、えげつないほどの詮索を食らって、なんとか身バレせず出せたからよかったけど、それがバレた、しかも手作りってのも知られた……。


 このままでは悠々自適な遊んで暮らすはずの私の計画がぁ


「……うぉ」

「どうしたの奴ちゃん」

「トレンド一位、というか首位独占してます」

「だろ~なぁ~」


 こんな面白ワード逃してはくれないよなぁ~しかも放送事故っていう面白いとこからだからなぁ。


「くそぉ~ほとぼりが覚めるの待つか…」

「社長!」

「ノックせず入ってくんな!」


 と、今叱りつけたのは私の秘書兼副社長である司馬(しま) 聡子(さとこ)だ。


「ですが、あの、電話が止まりません」

「うん、聞こえてる」


 さっきから数台程度しかない電話がひっきりなしになってるもんな。


「その影響で一部業務が滞っています」

「知ってる……はぁ、とりあえず必要なやり取りは私か聡子の電話からするようにして」

「わかりました。で、この事態どうします?」


 そうなんだよなぁ~

 一度私が会見にでも出れば良いのか?

 いや、そんな時間ねぇ。

 このままじゃ明日以降の、というか今週一週間はまともに業務ができねぇぞ。


「まだ会社凸してきてないだけましだが」

「それも時間の問題だな」


 そーなんだよぉ。

 うーん……


「では、配信しましょうか」

「……あっ、そっか」


 生配信で説明といくつか質問を受けりゃ良いんだ!それでしばらくは落ち着くはず!


「いや、しばらくは落ち着かないと思いますよ」

「うん、私もそう思うよ」


 うん、だよね。


「最低限業務に支障が出ないようにするための策ってことにしておこうか」

「アァァ~私の仕事は増えますけどねぇぇ」


 本来なかったはずのインタビューとか色々しないと行けないんだろうなぁ!

 普段は宣伝してくれて助かるメディアもこうやって矛先が向くとめんどくさいな。


「最悪、政府の方に動いてもらおうか」

「「えっ?」」


 一応繋がりはある。

 やろうと思えばいくらでもできるぜ。ま、介入があると、バレたときまた騒がれるからホントに困ったときの最終手段だね。


「あぁ~めんどくせぇ」

「ちなみに今までは一度もバレなかったんですか?」

「おう。色々と手を回してたからな」


 今回の事故に関しては予想外で準備もなく、聞かれちゃ不味いことを全て言ってしまった。それも生放送で。だからごまかせねぇ。


「嘘でした~はできませしね」

「現物渡しちゃったし」

「あ」


 いや、気にしなくてもえぇよ?

 どちらにせよあげたものを取り上げるようなことはしないから。


「いや、そうじゃなくてですね……これ」

「これ?」


 奴ちゃんが、スマホの画面を私に見せる。

 そこには


『社長に聞いてみた!』


 と、うちの配信者の一人が配信予定をSNSに発信していた。


「ちなみに、誰?」

「翔さん」

「だろうな…」


 翔とは、うちの会社の一番最初のダンジョン配信者の一人で翔という芸名で活動している子だ。

 なお、奴ちゃんよりも上のランク、つまりはランク5とかなりつよつよな子だ。


「しかも一時間後って…」

「いや、よかったじゃないですか」

「まぁ、有無を言わさず来る姿勢は置いといて、誰の配信で~とか何時~とか省けたのは助かるが、相談の一つくらいしにこいよ…」

「まぁ、身内にしかそんなことしませんから」

「外でやってたらクビだよ!」


 そんなことして、後処理に回るのは私なの!

 それにうちは最低限のモラルやルールを守るなら自由にして良いって言ってるから、その最低限も守れないやつはいらないよ!

 まぁ、一応今のところはクビにしたやつはいないけど。あっ、本採用前に切ったことはある。


「とりあえず連絡して」

「はい、翔さんに電話をかけますね」

「うん。とりあえず、今すぐ私の前に来なさいとでも言っといて」

「了解しました」


 はぁ~、まぁなんとかなるか。



 三十分後。


 奴ちゃんは明日の予定があるので一先ず帰らせた。

 応接室には今のところ私だけだ。


 そんな応接室に、ノックが鳴る。


「失礼します!」

「まだなにも言ってねぇのに入んな」


 黒髪ロングで、少し子供っぽさを残した女性。今のこれでわかる通りの奔放さ。

 こいつが翔。本名は中村 翔美(しょうみ)という。


「急ぎでって言ったの社長でしょ?」

「そうだったなぁ…いや、そうだな。とりあえず、配信について話せ」

「はいはい。とりあえず、社長が何かしら話す場を作ろうとしてるって思ったからいっそのこと私のところでやろうかなって。話題の人なんだから視聴者たくさん稼げるも思うし!」


 優しいのか、強欲なのかハッキリしろ。

 いや、私に対する優しさは欠片もねぇな。


「んで?」

「私の配信で、社長に質問するよ。ある程度はまとめてあるし、質問時間は一時間を予定してるよ。メディアに対しては社長にやってもらうしかないけど、これで世間は落ち着くと思う」


 …ホントに?むしろ答えたら答えただけ白熱しそうだが?


「あとはしばらく社長が表に出ておけば時間経過で落ち着きますよ」

「まぁ、どうせやらないといけないんだからやるし、もう翔がやるって言った以上やるしかないんだが」


 憂鬱だ。

 というか、私は人が苦手なタイプだ。知らない人が多い場所ではかなり緊張する。例えカメラの向こう側だとしても。

 まぁ、もともと陰キャしてたんだからその辺は当たり前なんだけど。


「ってわけで、絶対に聞く質問は渡しとくから、不都合がありそうだったら考えといてね」

「いや、聞かないんじゃないのかよ」

「聞かなくてもどうせ聞かれるし」


 そうだったな。


 とりあえず、ランクやら何やら、冒険者についてのことや、どうやって作ったのかとかは聞かれるみたいだな。


「強さに関しては口で言ってもわからねぇだろ」

「なら、明日別枠でダンジョン行って戦えば良いよ」

「えぇぇ」


 嫌だよ。というかそれやったらまた面倒なことになるだろ…


 それに私の力そこそこチートだから、見せたくねぇな。


「ま、やりたくないならいいですけど」

「おう、ただでさえ残業確定なのに朝はダンジョンに強制とか嫌だわ」

「なら、しっかり答えてくださいね~」



 そうして打ち合わせは行われ、配信予定の時間となった。



 ・・・


「こんにちは!いや、こんばんわ!翔ちゃんです!」


 ・

『待ってました!』

『社長いる?逃げてない?』

『社長のことが気になりすぎて飛んできた』

 ・


 案の定、私というよりかは社長が目当てですね。

 私のリスナーはもちろん、Sumaリスナーやどこで聞き付けたか海外の人、ネットでバズったからそこから流れてる人もたくさん。


 同時接続視聴者人数、既に十万くらいいます。


「ちょっと、想像の倍くらい関心が寄せられてることに驚いてます」


 ・

『当たり前なんだよなぁ』

『社長兼冒険者ってだけでも面白いのに、さらにあの伝説の製作者なんだよなぁ』

『そんな人がまさかの配信会社の社長w』

 ・


「さて、社長も忙しいのでね。さっさと行きましょう。社長~」


 画面外に待機している社長を呼び、画面に入る。


 社長は既に二十代後半くらいの年なはずなのですが、見た目がその、ちっこいです。可愛い系の見た目にその小ささ、つり目じゃなければ幼女なんて言ってましたね。

 まぁ、そんな見た目だからあんまりその姿を見せたことはありません。

 ので、謎の社長なんて呼ばれてました。


 それが事故で世の中に広まってしまったのはちょっと笑い物ですね。


「はい、件の社長です。まぁ、改めてSuma社長の宵闇(よいやみ) 霧江(きりえ)です 」


 ・

『こうして、自己紹介されると本当に社長なんだな』

『ちっこい、可愛い』

『ほんで不貞腐れてる態度がなんかいい』

『社長?二代目ですか?』

『子供?いや、そんなわけ…』

『こんな可愛い子が』

 ・


「誰が子供じゃい!私はもう、二十代後半じゃい!」

「プハッw」


 ・

『!?』

『ゑ!?』

『まさかの合法ロリww』

『初めて自分で二十代後半なんて言う人見たわ』

『まさかの同じくらいでビビった』

『社長、合法ロリ属性追加』

 ・


「ったく、だから表には出てなかったんだろうが」

「そういえば未だに補導されるんでしたっけ?」

「あぁ、最近も…ってなに言わせんじゃ!」


 ・

『子供と間違われて補導される二十代後半』

『なにもしてなくても補導される社長』

『ちょっと、性癖に刺さってヤバい』

『変態か?』

『やめとけ、ババァやぞ』

『違うだろ、これこそが永遠の17歳やぞ』

 ・


「色々と酷い言われようですね、社長?」

「てめぇもな?」


 笑顔で、頭をナデナデしてるだけですよ?


 ・

『完全に子供扱いで草』

『一応、貴女の上司ですよ』

 ・


「冗談と自己紹介はこの辺にして、では早速質問していきましょう」


 ちなみに、打ち合わせはしたが答えは聞いてない。

 加えて私も社長の実力やら何やらは知らない。配信事故で初めて冒険者だってことを知ったくらいだ。

 まぁ、噂には聞いてました。何人かは社長がダンジョンに潜っていったり、一緒に潜ったり、稽古をつけてくれたりと。実際はわかりませんが、口止めされてはいたのでしょう。

 奴ちゃんも恐らく帰ってから口止めする予定だったんでしょうが……。


「ではでは、早速。まず社長は冒険者ですか?」

「いや、冒険者じゃねぇとあの場にいねぇだろ」

「ってことは副業ですか?」

「そうなるな。ってもダンジョンに潜ったのは一年ぶりくらいだから、資格だけ持ってるようなもんだ」


 一年ぶりで奴ちゃんよりも下の階層、というか私がいつも潜ってるような場所に?

 私でも一ヶ月潜らないと鈍って危ないのに。


 コメントも私の考えてることと同じようなことを呟いてる。


「ちなみに何階層に潜ってたんですか?」

「ん?言ってなかったか?五十階層だ」


 ・

『一年ぶりに潜って五十階層って』

『あの、冗談ですよね?』

『これが冗談言ってる顔か?』

『すんません。可愛いです』

『何に謝ってんのw』

『いや、あんな可愛い人が嘘ついてるようには見えなくてですね…』

『こんな雰囲気だが、言ってることは結構ヤバいのな』

『なんか何でもないように言ってるけど、言ってることヤバいからな?』

 ・


「えっ」


 せいぜい四十階だなんて考えてた私はついつい呆けてしまった。

 というか、この人私と同等かそれ以上に強いの?マジで?


「あの、社長って冒険者ランクはいくつなの?」

「ランク?あぁ~いくつだったっけか」


 ・

『いや、忘れんなよw』

『忘れてんのに、五十階層って、あれ?実はランク4以下だとヤバいんじゃ』

『いや、物的証拠はないから問題はない』

『ランク忘れてんのに五十階層に潜るって…』

 ・


「あぁ~めんどくせ。カードがあったよな。身分証明書になるから持ってたんだよなぁ」

「身分証明書がわりに冒険者のカードを見せないでください」


 冒険者のカードは実力やら何やら詳細に書かれているので、人に見せるのはあまり推奨されてない。

 ただ本人が持ってるときのみ表記されるのであながち身分証明書と言っても過言ではないんですが、普通に免許証とか保険証とかで良いので実際にそれを身分証明書として使うのはそれらを忘れたときくらいなのだ。

 …いや、社長の場合、偽造はよくないよって言われたとき用に持ってるんだね。うん、ごめん。


「あったあった、ほれ」


 鞄を漁り、カードを見つけて私に投げつける。

 慌ててそれを受け取る。


「いや、社長が持ってないと駄目でしょ」

「あぁ、そういやそうだったな。ほれ」


 カードに社長が触り、カードに社長のデータが映し出される。

 カメラにはまだ映してない。


「………ファッ!?」


 そしてそこに書かれた情報がヤバすぎた。

 普段あげないような声をあげたくらいだから。


 ・

『どったん?ニヤニヤ』

『まさか、まさかの?』

『いや、ランク5の翔ちゃんが驚くってことは…』

『えっ?それってまさか…』

 ・


 えっと……どうしようかな。

 私の見たデータ。内容が馬鹿だった。私の予想してた以上に。


『宵闇 霧江

 冒険者ランク7

「error(エラー)」』


 どういうこと?これ


「ん~?……あぁ~」

「社長?これ、どうします?」

「えぇ~……普通に言っていいよ」


 チョンチョン

 と、背中辺りを社長が小突いたような感覚があり、声や動きを極力見せないように視線だけ下に向けた。

 こういうサインって基本的に聞かれたくないもの以外はない。なのですぐに気づいた。


 下に視線を向けると、カメラに映らない位置にたった今書いたような字でこう書いてあった。


『ランク7ってこととerrorについてはふせろ』


 そう書いてあった。


 私もそれくらいは理解していたのですぐにそれを伝える。


「あ、あのですね?社長、ランク6、でした」


 なるべく自然な感じで言えたと思う。


 ・

『ファッーー!?』

『マジもんの化け物だった件について』

『マ・ジ・か』

『そんな人が何故社長しているんだ……普通に冒険者で食っていけるだろうに…』

『そのお陰でワイらはこうやって配信を見れてるんや!社長を選んでくれてありがとう!』

『それもそうやな。社長!感謝するでごじゃる』

 ・


 問題はなさそうだね。


 というか、コメ欄に書いてある通り、ホントになんで社長やってんのかっていうレベル何ですよね。


「ホント、どうしたらこうなりますかね」

「さぁ?気づいたらこうなってたってだけ」

「才能が羨ましい」

「いやいや、私だって才能だよりってわけないだろ?」


 そうなんだ。その辺少し気になるな。


「なら、尚更今度一緒に潜りましょうね」

「けっ、今回の件で色々と後処理があるからその辺が落ち着いたらな」


 ふんっってそっぽ向いて、画面から視線を外した瞬間ため息が出ていた。


「これから地獄の仕事三昧が始まるんだよぉぉぉ…今回の件で仕事が増えてしんどいんだよぉ」

「お疲れ様です」


 ・

『お疲れっす!』

『おつです!』

『仲間ですね(遠い目)』

『さすがに同情する』

『うっ、頭がっ』

『仕事行かなきゃ……』

 ・


 発作起きてる人多いなぁ。

 って、流れでいい感じに誤魔化せてるから今はこの流れに乗ろう。


「ちなみに私は動画撮影、編集、サイン書き等が全然終わってないのでこの後やらないと行けません」

「おっ?変わるか?」

「嫌です♪」


 仕事とは言え書類仕事とかで机とにらめっこするのは社長の仕事!

 私はやりたくな~い。


「はぁ。さて、もういいか?」

「だめです。質問コーナーだよ」

「あぁ、忘れてた。おい、質問あるか?ねぇよな?」


 ・

『大ありです』

『帰りたい気持ちはわかるけど駄目です』

『今日は夜までな?』

『みんな恐喝してるみたいなん草』

 ・


「だそうです」

「はいはい。時間もあるから三つだ!翔、選ぶのは任せた」

「はいは~い。ではでは質問を打ち込んでね!」


 ・

『年収』

『冒険者時代の話』

『次回配信予定』

『推しは誰?』

『普段何してる?(仕事以外)』

『伝説の製作者の秘話』

 etc.

 ・


 結構色々あるけど…まずはこれかな


「色々と作ってきたけど、何で作ったの?とかそれに伴った製作秘話みたいの教えて」


 とりあえずこれは絶対かな。

 ホントは私が聞こうとしてたけど、話の流れで忘れてたやつ。

 質問1個つぶれたから忘れてたことは許してね?


「それな。逆に何を聞きたい?」

「何、って?」

「いや、それこそ色々作ってきたからさ、どれの話とか指定してくれないと」


 あぁ…その場合はやっぱり


「なら、やっぱり収納ブレスレットで」

「オーケー。なら、どうするか、どこから話すか…」

「キッカケからで」

「おう。キッカケな~」


 少し思い出すような素振りを取って、しばらく沈黙して、思い出したのかポンッと手を叩いて話し出した。


「キッカケはな、ヤンチャしてた頃に戻るんだがな?」

「ヤンチャしてた頃?」


 ・

『ちょっと気になる』

『この人がヤンチャ……なんかいい』

『今は落ち着いたって言いたいのかな?』

『まだ子供やってるくせにぃ~』

 ・


 いや、社長一応大人だし、頼れる人だし、見た目以外は立派な大人だよ?

 まぁ、言動とか態度とか子供っぽいから私も結構そう扱うけど……


「あぁ、冒険者ちゃんとやってた頃かな」

「へぇ~、それは後で聞きたいかも」

「聞いても面白いことはねぇぞ」


「って、そうじゃない、製作秘話だろ?」

「そうでした。どうぞ続けてください」

「おう。ヤンチャしてた頃はソロで暴れてたんだよな」


 ソロで暴れてた…いや、今もソロで暴れてません?


「んで、その頃ふと思ったんだよ」

「なんて?」

「ドロップ品持ちきれねぇなって」


 あら?思ったよりも普通な感想。

 というか、みんな思ってるやつですよ、それ。


「いや、一つ一つが奴ちゃんの持ってる剣くらい大きかったんだよね」

「え?それって…」


 いや、やめよう。それ以上はヤバそうだ。


「で、それら一つ一つウン十万超えだ。勿体ねぇってな?」

「うん、どんなことしたらそんなことになるかは聞かないとして、確かに勿体ないですよね?」


 十万を捨てるなんてね?私だってできない。


「んで、それなら素材をその場で加工して使ってしまおうってな」

「…へっ?」


 あれ?そこで、「よし、収納ブレスレット作ろう」ってなるんじゃないの?


「んで、加工したところで持って帰れるのも限りがあるし、あんまり露骨なもんは駄目だよな」


 さすがに明らかに持ってなかったはずの武器を大量に抱えて出てくれば怪しまれるよね。


「で、それらを隠すための手段として、アイテムボックスを作ろうって思ったんだよ」

「……あれ?アイテムボックス?」

「おう、アイテムボックス。まぁ、当然のごとく上手く行くわけなかったが、練習も試行錯誤もいくらでもできたからな」


 普段は絶対できない良質な素材を使った練習がな?

 と、付け足し、それにリスナーと共に苦笑いを漏らした。


「その過程でアイテムボックス…とはいかないが完成したのが収納ブレスレットだ」

「そうなんだ~」

「まぁ、そこから改良して行って今の形に落ち着いたんだよ。できればアイテムボックスを作りたかったが無理だった」

「いや、充分だよ」


 ちなみにアイテムボックスは未だ完成していない伝説のアイテムであり、収納ブレスレットの完全上位互換である。

 容量無限の異空間収納で指輪から好きなものを自分の周囲に取り出したり収納したりできる。

 そんな代物だと伝説の製作者、つまり社長は定義していたというわけだ。


「収納ブレスレットでもいくらか流通が変わったってのに、その上位互換なんて世の中がどうなるかわかったもんじゃないよね?」

「そうか?流通系統の常識を覆すんならそれこそ異空間ワープシステムとかがヤバイだろ」

「な・に・そ・れ」


 明らかにヤバそうな名称がでてきましたけど?何があるんですかねぇ、それ。

 というか、何でそんな世の中で知られてなさそうなものを知ってるんですかねぇ?


「聞くか?」

「いえ、止めときます」

「そうかい。…って、やべっ!長く話しすぎた!悪いな、私はもう戻る!」


 時計を見た社長が予定時間を超えていることに気付き慌てて配信をしていた部屋から飛び出していった。

 私が引き留める声をあげることもできずに、さっさか行ってしまった。


「あぁ~……終わるか」


 ・

『忙しい人だったな。色んな意味で』

『そうだね。まだ聞きたいことはあったけど正直お腹いっぱい』

『これ、ダンジョン配信なんてしたらどれだけヤバイもんでてくるんだろうな、あの人』

『面白い人だったよ。色々とね……』

『She was crazy Woman!』

『おう、ホントにクレイジーだったよ』

 ・


「ホントにね。なんか何時もより疲れたよ。じゃあ、バイバイ」



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