配信会社の社長は事故で人気が出てしまう
希華
一章:社長は社長。ただし最強
第1話 配信事故。私、映る
世の中には娯楽が足りない!
うん十年前からダンジョンやら何やらができて、動画配信者やら何やらがこぞってダンジョンに乗りだし、なんか気づけばダンジョン一筋!なんて言うやつが増えた。
そもそも、不安定になりがちな配信者なんかより死ぬリスクはあれど安定はするし、自分で働き方を選べるダンジョンの方が良くね?とかいう風潮のせいで娯楽を与えてくれる人が減ってしまった!
だから今の娯楽は以前よりもだいぶ廃れている、らしい。
「ならばどうするか?私が作れば良いんだよ!会社をよぉ!」
そうしてできたのが我が社であった。
まぁ、基本的なことを話していこう。
ダンジョンは謎の異世界である!
って言えばいいだろか。
そこで取れた石。なんてことのない石ですら、今は千円以上の価値がある。
何でも、ダンジョンはエネルギーを無限に生み出す場所らしい。あ、資源もか。
ゲームのようにダンジョン内部では魔物が現れ、倒すとなんか落ちる。
それが今の世の中を回す資源であったりエネルギーであったりする。
「そんな危険な場所に行くのもなんだけど、国が珍しく動いたからな」
そしてそれが落ちるとわかってからは、日本というお国は頭が固く、賃金もなかなか上がらない、そんな日本がなんと率先してダンジョンの資源買い取りを、しかも高額ですると言ったのだ。
そしてそれは実行され、今もなお、世界で一番ダンジョンで稼げる国として栄えているのだ。
もちろん、日本の政府さんだって考えあってのことだ。
実はこのダンジョン、世界で十一個しかないのだ。
そのうち、日本国内に存在するダンジョンは四つ。
さらに落ちる資源やエネルギー量はトップクラスが二つ。貴重な資源を落とすものまであり、世界の三割を気づけば補っている、なんて状況になり今や名実ともに大国だ。
だから高額で買い取っても余りあるのだ。
ちなみにそれを真似して儲けようとした国はあったらしいのだが、失敗。
買取価格は高く、もとより高い治安を維持した日本は結果的に、世界一のダンジョン大国となったのだ。
ちなみに何故か知らんが、ダンジョンが現れてから私たちには魔力なるものを得て、気づけば超人みたいなことができていたらしい。
だからもはやこの世界は異世界と言っても良い!
そしてそんな大国だからこそ、ダンジョンは稼げる一つの仕事として確立したわけだ。
命をかけてはいるし、何かと入りようになりはするが、安全マージン取って怪我なくやれば一月で百万程度稼げる。
そこから必要経費を落としたとしても五十万だ。
すげぇ世の中だろ?
んで、そんな職業ができたからこそ、他の職に着く人がどんどん減っていき、結果、最低限の職についても数十年前の倍は稼げるようになったのだ。
だから好きな人以外があまり配信者などの職にならない、もともとやってた人もそちらにシフトする、ということになったのだ。
そんななか現れたのが、我が社『Suma』である。
最初は小さかった規模。
だが、数年でトップ企業となり、動画娯楽の象徴的会社と成長したのだ!
「ワハハハ、凄いか?凄いだろ!」
「理由が不純すぎるだろ」
と、そんな話を私は社員である配信者「奴(やっこ)」に自慢げに話していた。
「だって、一時期動画配信サイトにインする人がほとんどいなくてさ。大人気の人たちが引退しよっかな…なんて言い始めるくらいだったんだから」
「まぁ、それが理由だとしても、国の娯楽というコンテンツを立ち直したあんたには流石に尊敬するよ」
素直に褒められて私も鼻が高い。
「それにしても、社長って社長としても優秀だけど、冒険者としても優秀だなんて」
「当然、流行りのものには全て手を出してるからね」
流行った頃には結構ヤンチャしてました。
けど、飽きて戻ってきたのだよ、自室に。
「さて、そろそろ時間だよ?私は私のやることあるから、配信終わった頃にまた顔出すよ」
「へぇ~い」
そうして私は奴と別れて、一人でダンジョンの奥深くへと歩いていくのだった。
「あれ?社長、一人にして、この奥に行かせても良かったのか?」
奴は静かにそして素早く消えてった小さな社長の影を見つめながらそんな風に思うのだった。
・・・
「こんやっこ!待たせたな、奴だ」
・
『こんやっこ!』
『待ってたよ姉御!』
『今日もかっこいいですわぁ~』
・
私は奴。
一年前からこのSumaに所属しているダンジョン系配信者だ。
赤い髪と男勝りな性格、そして大剣を背負った女性配信者。そんな特徴の私である。
今日は普段と変わらずダンジョン配信をしていく。
「おっし、じゃあ行くぜ」
・
『おう!』
『今日もかっこいいですぜ姉御!』
『お姉さま、今日も凛々しい』
・
私のファン層はわりと広いのだが、特徴なのは何故か女性が多いこと。
男勝りな性格か、それとも普段の言動か。気づけばこんな風に姉御と呼ばれたりお姉さまと呼ばれたりしていた。
「さて、今日は三十階層からだ。私は問題ないが、下手な実力者はこれない場所だ」
ダンジョンには底がない、と言われている。
と言うのも一番下まで行ける人間は未だいないからだ。
だが、わかっていることもある。
十階層毎に魔物の強さが上がるのだ。
だから危険度の基準として冒険者、私たちのようなダンジョンに潜る人間にはランク付けされている。
まずはランク1。戦う力があれば誰でも取れるランク。
ランク2。十階層を越えることのできる力が認められた冒険者。
認められたって言っても、実際に十階層より先に行かせるわけではなく、試験があり、それに合格すると資格が取れる。
ランク3以降はそれぞれ十階層毎にレベルが上がっていくのだがランク6からは話が変わってくる。
それを証明する手だてがないからだ。
ランク5までは計れるがそれ以降は実力に差がありすぎるのだ。
今現在、世界では攻略されたと記録されている最下層は六十八。つまり、それだけこの六十階層以降はレベルが違う。
だから、化け物と評される人間のことをランク6という。
んで、話を戻すと、私は今ランク4で、三十階層を探索するわけだが、これはかなり高い方で、今現在の日本のランク平均はランク2であり、ランク4は全体の二割前後と言ったところか。その上は一割ないのでやはり大半をランク1、2が占めている。
「おっと、敵のお出ましだ」
そんな説明をしながら私は歩いていると、丁度良いタイミングで魔物と出くわした。
「こいつはハイビーン。まぁ、蜂だな」
・
『まぁ、見た目は蜂』
『けど、大きさは通常の何十倍』
『俺、蜂トラウマだから吐きそう…オエッ』
『まだ序盤だぞ!死ぬな!』
・
ちなみにこいつは大きいだけの蜂ではなく
「おっと」
・
『はやっ!?』
『それを普通に避ける姉御パネェっす』
『大きくて速いとか、二十階層は優しかったって訳か』
・
そう、速いのだ。
名前のハイは速いの意味のハイだ。
普通にマッハとかでも良いと思うのだがもっと速いのがいるから、とのこと。
「そうだな、こいつは速いんだよ。それになんか遠距離攻撃手段まで持ってるんだぜ?」
・
『えっ?』
『針飛ばしてくんのかな?』
『いやいや、酸だろ』
『それは蟻』
『なら、蜂蜜!』
『んなわけあるか』
『わかんないから羽で』
『怖いわ。自立駆動で攻撃してくる羽なんて』
・
「おっ、正解がいたな。じゃあ、正解は見せてもらおうか」
丁度そのモーションに入るので、私は答え合わせをしてもらうため、倒さず受けの姿勢を取った。
針の部分をフンッっと付きだし何かを私に向けて発射した。
それを私は手で受け止める。
そしてそれをカメラに見せる。
「正解は、蜂蜜でした」
・
『えぇぇ』
『攻撃力よ』
『少なくとも画面の前で笑ってるから攻撃力はあったよ。私たちへのねww』
『ふざけて言ったのに当たったよ』
『マジそれw』
・
「ちなみにこれは毒性だ。私は効かないけど、蜂蜜だからって侮らないこと」
・
『笑いが止まりました』
『言われなきゃ絶対に舐めてた』
『そもそもそこまで行けない定期』
『でも前に売られてなかったっけ?』
『あぁ、それは加工済みのやつです』
・
「そうそう。売られてるやつは毒をちゃんと処理したやつだ。まぁ、売られてる蜂蜜って美味しいから私も知らなかったら舐めてたかもな」
昔、実際にただの蜂蜜だろって嘗めてかかって舐めたら、腹痛くてヤバかった。
耐性があったから良かったけど本当は泡吹いて倒れるレベルらしい。
「ってわけで、倒すか」
背中に背負った大剣を抜き、軽々振り回し、腰を落として切っ先をハイビーンに向けて水平に構える。
「行くぞ、やっ!」
すぐに私は踏み切り、爆発したかと勘違いするような音を響かせ肉薄した。
そのまま大剣を横に払い、叩き斬った。
「こんな感じかな」
・
『いつ見てもカッケェっす!』
『バスターソードなんて使える人ほぼいないのにそれを使いこなしてその上あの身体能力…やっぱりランク4の名は伊達じゃないな』
『キャ~お姉さまぁ!!格好いい!』
『ここまで綺麗に斬れるものなのか…』
・
指摘されている通り、斬られた蜂は綺麗な断面を作って落ちている。
もちろん、一太刀で斬ったのもあるが、それ以上にこうやって斬れるまでにだいぶかかったよ。
力だけじゃなく、技術を磨いてようやくランク4。
それだけランクシステムは厳しく、正確なのだ。
「さて、ここからは巻きで行くぞ。返信はぼちぼちだから、拾えなかった人はごめんな」
大剣を握り直し、私は先ほどの肉薄した速度よりも少し遅いくらいの速度でダンジョン内を走り出した。
二時間後。
「ふぅ。二時間。そろそろ終わりかな」
それから二時間ほど戦い続け、今は三十四階層だ。
特に苦戦もなく、怪我もなく、終わらせることができた。
「それじゃあ、おつや…っと!危ない」
配信を終わらせようとしたとき、丁度潜伏特化型の魔物が現れて咄嗟に飛び退き奇襲を回避した。
「所詮は力の足りない暗殺者だ。暗殺できなけりゃ、やられるだけだ!」
ブンッっと振り抜かれた大剣によってその襲ってきた魔物は倒れた。
「ふぅ。最後の最後でこれか。危ない危ない。さて帰るか」
大剣を仕舞い、私はそのまま帰路につこうとすると、携帯が鳴った。
『あ、もしもし?終わった?それともまだ?』
社長からだ。終わった頃に顔出すって言ってたっけ?
「終わりましたよ?今どこですか?」
『えっとね、五十くらいかな。すぐ戻るよ』
「……五十階?わかりました。じゃあ、ここで待ってますよ」
『いや、もう戻ってて良いよ。どうせ追い付くし』
「へ?まぁ、わかりました」
五十階層って……あの人、実はとんでもない人なんじゃぁ…
最低でもランク5。
いや、そもそも電話をする余裕もあって、二時間前別れてから二十階層分下へ行ったってわけだろ?
「いや、本当に、なんなんだあの人」
結局頭を抱えていた。
「それにしても、一年かぁ~」
色々とあったな。
「社長のスカウトで入って、才能を開花させて、こうやって人気になるなんて、人生わからねぇもんだなぁ」
「なにおじさんみたいなこと言ってるの?」
「へぁっ?!えっ?えっ!?社長…速くないですか?」
さっきまでずっとずっと下の階層にいたんじゃ…というかさっきのやつ聞かれた?!
「あの、それはですね」
「良いんじゃない?感慨に耽るくらい」
「うぁぁぁ!恥ずかしいぃ!」
慰めないでくださいよ!余計に傷つくじゃないですか!…いや、なに言っても傷口を開くのは間違いじゃありませんけど!なら、素直に慰めてくれた方が良いってことも!
「で?今日はどうだった?」
社長は私に優しい顔で問いかけた。
「楽しかったです。今日も、今までも」
「そう。じゃあ、だいたい一年記念にプレゼントでもあげよう」
「えっ?そんな、良いですって」
「いやいや、そのために今日は久しぶりにダンジョンなんて潜って来たんだから、もらいなさい」
命令、かな?それはズルいですよ。
というか、久しぶりで私より下に潜ったのかこの人…
「というかダンジョンに潜って私に渡すプレゼントとは?」
「はい、これ」
社長はどこからともなく取り出したいつも使ってる大剣に似た新しい大剣を私に差し出した。
「えっ?なにこれ?というか、どこから?」
「そういうのは気にしない。ほらもったもった」
ぐいぐい私に柄を押し付けないでください!というか片手で軽々持ってるけど、それ結構重いですよね?
とりあえず、このまま押し付けられ続けるのもあれなんで柄を握り、受け取った。
「うぉっ!」
片手で受け取って、社長が手を離した瞬間、私は思わず驚いた声を上げてしまった。
めちゃくちゃ重かった…。
慌ててもう片方の手も沿えてなんとか持てたが…今のものの3倍は重い。
今のでさえ、片手で振り回すのに結構なパワーアップを余儀なくされたのに、これは…
「あの、まだ私の身の丈には合わないみたいです」
「うん、だと思ってた」
「地味に酷い」
なら、何故私にプレゼントなんてしたんだ!嫌みか!当て付けか?!
「いや、こっちが本命。ほれ」
ヒョイっと私に投げつけられたブレスレット。私の腕のサイズに丁度合う。
「何です?これ」
「小型収納ブレスレット」
「………はい?」
今、収納ブレスレットって言いました?
なんか架空のアイテムボックスに近いアイテムで、武器やら携帯品やらを収納できて、中の時間は止まっており、なおかつ重さは何の変哲もないブレスレットと変わらないっていうアイテム。そうおっしゃいました?
ちなみに海外でこれと似たようなアイテムが出品されたとき、百億近い金額で落札されていた。
それだけ貴重なものだ。
「な、ななななんでこんなものののがが」
「大丈夫?採掘機でも持ってる?」
「んなわけあるか!じゃなくて!何でこんなものがここにあるんですか!?」
「えぇ?私が作ったから」
「……はい?」
え、あの作ったって言いました?
「だから、作った、私が、これを」
……えっ?
「ぇぇぇぇえええ!?」
「うるさっ!いや、喜んでくれたらよかったわ」
「いやいやいやいやいや」
そうじゃない!っていうか喜べるか!素直に喜べるか!急に百億ぽんって現物支給されて素直に喜べるわけあるか!
「これ、あの収納ブレスレットですよね!」
「うん。そう」
「あの、百億で売れたっていう!」
「そういやそうだったなぁ~こんな原価0円が百億になるんだってあん時は驚いたよ」
ん?原価?あん時?
えっ、まさかこの人
「あの、出品された収納ブレスレットの製作者って…」
「そそ、私」
「……」
もう言葉も出ませんよ。
「というか、収納系のアイテムは全て私の手作りなのよ」
「なにこの人、凄すぎ……」
もう、驚きは一周通り越して呆れになったよ。
「というわけだからそれに仕舞って、使えるときとか切り札が欲しいって時にでも使ってよ」
「あぁ~ありがとうございます?」
「どういたしまして。ってもこれも福利厚生ってやつなんだけど」
いや、そんなレベルじゃねぇ。
と、ツッコミを飲み込んだ。
「さて、渡すもん渡したことだし、早く帰るぞ~……ん?なんだ?電話…」
「あっ?もしもし?どったの?…おん、奴ちゃんと一緒だけど……カメラ?配信?…切り忘れてる?!」
えっ?!
バッっと、私と社長がそれぞれカメラと私を見た。
「あぁ!?切り忘れてるぅ!!?」
「マジで!?本気と書いてマジで!?ってことは今までの全部…」
流れてた……しかも、社長のところとか、ヤバい情報しかなかったよな……
「……コメ欄、あの、どこまで聞いてました?」
・
『全部』
『全部』
『最初から最後まで』
『速報! Suma社長とんでもねぇチートだった!』
『ちょっと変な笑い出てる。あぁ~腹痛』
『俺は何も聞いてない、ナニモキイテナイヨ』
『………(放心)』
・
「社長…」
「最悪だ……」
社長は私が声をかけるまでもなくその場に崩れ落ちていた。
・・・・・・・・・・
後書き
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更新頻度はとりあえず少しやってみてから決めます。
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