第34話 GW明け。

もうゴールデンウィークは明けた。

俺は自分の道を考えて4月を生きた。

敢えて蒼子おばさん達に朱莉さんの事は聞かなかった。


あの帰った3月14日。夕方には怒り狂った笑梨から電話が来て、「なんで!?なんで何も言わずに帰るの!?」と怒鳴られた。

スピーカーにしていないのに声が漏れていて、母さんがクスクスと笑っている。


俺は帰宅してまだ1時間しか経っていない。

約3ヶ月もあけていた自宅は埃まみれで、先に帰ってきた母さんが掃除を終わらせた所に栃木から冬物が届き、それを片付けると俺が帰ってきて、「お帰りなさい」と優しい言葉をかけてくれたが、直後に「全部やらせるなんて何様かしら」と文句を言われた。


蒼子おばさんに似た顔で言われるとギャップが酷い。


そして部屋に荷物を置いてお茶を飲んだところで笑梨からの着信。

考えてみたら3か月の間に笑梨と通話をした事がなかった。


それは命を投げ出した日に、スマホに鬼のような着信があったせいで、俺が電話に対して恐怖心を抱いていた事を知ってくれていたからだろう。



笑梨は怒り狂っていたが、最後には「5月に行くからね!」と言って電話を終えていた。

それを聞いていた母さんは、「あらあら。笑梨ちゃんのお茶碗買っておかなきゃ。お布団は干しておくわね。場所は春也の部屋でいいかしら?」なんて言っていて俺は勘弁してくれと言って頭を抱える。


「それにしても笑梨ちゃんももっと怒ると思ったのに、案外あっさりね」と母さんが言っていて、それは俺の手紙が効果を示しただけだと思う。



[笑梨へ。一度キチンと帰る。その間に俺と離れても本気なのか、大学に入って新生活に慣れても気持ちがあるのか見極めて、その気があれば5月に顔を出してくれ]


この文面は光莉さんにも出した。

文体は流石に違うが、[光莉さんへ、約2か月はとても楽しかったです。ありがとうございます。この2か月は人生の宝で、きっと老人になっても忘れない事でしょう。今更ですが光莉さんが向けてくれていた気持ちには気付いていました。ですが俺は初雪と共に来て春と共に去る人間で、6つも年上です。あえて気付かないふりをして帰ろうと思っていました。ですが栃木での日々、皆との出会いで変わりましたので、ここに書かせてください。帰った後、数日は寂しいと思いますが、落ち着いた後、新学期を迎えて新生活に慣れた後でも今の気持ちがあれば、5月に会いましょう]と書いた。


山田が読んだら弄んでいると怒られそうだが、選べないし決められない。

まずは5月に会うか決めて貰いたかった。


光莉さんからは夜、落ち着いた頃に電話が来た。


見知らぬ電話番号だったが、光莉さんだと思い取ると、「光莉です」と聞こえてきて俺は「こんばんは」と挨拶をした。


「あの、写真貰いました。すごく綺麗で何ショットもあったのに、全部綺麗で…一枚お父さんに取られちゃいました」

「あれ?そうなの?元データあげようか?…あ、PODを使わせて貰ったから、マシンの中にデータ残ってるよ」


「あ、…はい。わかりました。それと…ホワイトデーありがとうございます。凄く嬉しいです。大切にします」

「使い潰していいからね。大切にして使わないのは勿体無いよ」


「カメラストラップ、とても可愛いです」

「うん。俺は男だからそう言う部分でオシャレはしないけど、光莉さんは女の子だからね」


俺は光莉さんへのホワイトデーにカメラストラップを渡した。可愛い水色のストラップは光莉さんによく似合っているだろう。つけたところを見ないでもわかる気がする。


一瞬の間の後で「…あの」と言う光莉さん。

俺が「どうしたの?」と聞くと光莉さんは「手紙、ありがとうございます。私の気持ち…気付いてくれていたんですね」と嬉しそうな寂しそうな声で言った。


「うん。カメラを習いにきた頃にね」

「それなのに気付かないふりをして酷いです」


俺は電話先の光莉さんに「ごめんね」と謝ると、光莉さんは「いえ。私も気付かないふりしました。お姉ちゃん…、春也さんの事好きになってたんですね。予感はしたのに気付かないフリをしていました」


朱莉さんの名前が出た事で、俺は少しだけ慌ててしまうが「良いんです。姉妹ですから似てしまいます。お姉ちゃんの気持ちに少しだけ応えてくれてありがとうございます。…お母さん、春也さんにお姉ちゃんのことを話したって…」と言われて、「うん。聞いたよ」と返すと、「普通にしてるのにある日突然調子が悪くなって、起きられなくなるなんて…なんかドラマみたい」と言って声が涙ぐむ。


「うん。本当だね」

「お姉ちゃんとも約束したんですね」

「うん。春を越えて5月になったら会う話をしたよ」


「春也さんは5月に約束ばかりですね」と笑った光莉さんは、「キチンと気持ちを考えます。それで5月になって私が行ったらキチンと私の事を考えてくださいね」と言った。


「うん。それまでは笑梨とも光莉さんとも連絡を取らないよ」

「はい。お姉ちゃんの事も内緒にしますね」


「うん。そうしたい」と言うと「じゃあ5月に」という流れで通話が終わる。

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