第28話 休息日の過ごし方。

光莉と急いで学校を出ても5時になってしまう。

「あれ?笑梨も光莉さんも急いでくれたの?連絡くれれば待ったし先に帰ったよ?」と言って出迎えてきた春也は、仕事のし過ぎか少しおかしかった。

それは光莉もわかっていて、2人で頷き合って後で連絡をしあうと言って帰る。

光莉のお父さんは今日の仕事について聞いても、助かったばかりで話にならない。

次は翌週の月曜日。おかしくなるなら正直もう働かせたくない。


帰りながら春也に「名刺の仕事ってそんなに大変なの?」と聞いてみたら、「いや、2時には終わってたよ」と返ってくる。


「ならやり過ぎたんだ。顔が怖いよ」

「そうかな?じゃあそれは違う奴だ」


私が何があったかを聞くと、春也はお姉さんの朱莉さんと話をしていて、病気について聞いて考え込んでいた。


それを光莉に伝えると、すぐに[わかった]と返事が来る。

私が歩きスマホをした事で、春也が心配そうに「なにやってんの?」と聞いてくる。


私が「春也の顔が怖いから光莉も心配してたの。だから理由を送ったの」と説明をすると、春也は光莉が朱莉さんに何か言ったら良くないと心配したが、「今は春也だよ」と言って黙らせると、春也は笑顔で「今は笑梨だよ」と言って遠回りした散歩のフリをして、ドーナツ屋に向かって歩いていた。


「夕飯が近いから食べすぎるなよ」

「デザートにしてもいい?」


春也は「そう来たか」と言うと、「好きにしていいよ」と言ってくれたので、「ありがとう春也!大好き!」と言って飛びつくと、春也は赤い顔で「やめろって」と照れる。


「なんで?」

「笑梨が子供じゃない事がわかったから照れるんだ」


「えぇ〜。じゃあ私が春也をお婿さんにしてあげるよ」

「はぁ?」


私はドーナツを持って帰りながら、「だって〜、お母さんは春也にこのままウチの子になれって言ってたし、それなら私が春也をお婿さんにしてあげたら解決だし、飛び付けるし、ほら、藍子おばさんと私なら仲良しだし」と言って説明すると、春也は「お前…6つも年上の俺に変な事を言うな」と呆れていた。


結婚とかは意味分かんないけど、この生活なら続けたいんだけどなぁ。



夜に光莉から電話が来た。

メッセージじゃなくて電話なのが珍しい。

春也の件だろう。


私が部屋で電話を取って、「もしもし?」と言うと、「ごめんね。マジ最悪。春也さんは大丈夫?」と光莉が少し不機嫌な声で聞いてきた。


光莉の話だと、夕飯時に光莉のお父さんはずっと春也に感謝をしていて、一緒に仕事をしてみた朱莉さんに勉強になったかを聞く。


朱莉さんは「なったよ」と答えたがその顔は不機嫌で、光莉が「春也さん、おかしくなってた。笑梨が聞いてくれたけど、お姉ちゃんと話したからだって。何を話したの?」と聞くと、「お互いの病気の事。別にそれ以外は何もないよ。言えるのはそれだけ。あの人は本当に凄いよ。でも私は好きじゃない」と言ってお風呂に入って眠りについてしまったという。


「もっと問い詰めたかったけどごめん」

「ううん。きっと春也なら明日には元気だから大丈夫だよ」


私は光莉にありがとうを告げてから春也の部屋に行く。

春也は写真をいじっていて、拡大していたからなんの写真かわからない。


「笑梨?どうした?お腹空いたか?」

「空かないよ。光莉から電話が来たの。春也が心配だって言ってたから元気だよって言っちゃったって話」

「ああ、気にしてくれていたんだな。ありがとうって送っておいてくれるか?」

「その為に来たの。はいピース」


春也は「えぇ?」と言いながらもピース写真を撮らせてくれて、光莉に「ありがとうだって」と送ると「良かった」と返ってきた。



翌朝、春也は「んー…わからん」と言って、「ちょっと買い物がしたいので東京まで」と言い出して私が着いていく事にした。


春也は嫌がらずに「お昼何がいいか考えておきなよ」と言ってくれて、電車の中でも仲良くしていると「兄妹に見えてるよな?職質はゴメンだ」と焦る春也が面白い。

私がニヤニヤと「「夫婦です」とか言う?」と聞くと、肩を落として「見えないだろ?」と返す春也。

見えてもいいのに。


春也の目的地は秋葉原だった。

カメラの道具を何個か買うと、「買い物終わり。栃木はどこにお店があるのかわからなくてさ」と言って照れ笑いする。


お昼はパスタのお店にしてくれた。


わざとなのか、春也は「ひと口だけ食べたいんだよな」と言って、ピザもデザートもひと口食べると「笑梨、任せた」と渡してくる。


「太るよぉ」

「なら残すか?」

「それはダメ」

「すまんが頼む」


私は食べてムチムチになったら抱き付いてやると誓って美味しく平らげる。

うん。シーフードピザさんはなんでこんなに美味しいの?


土曜日は心配で来てくれた光莉と一緒に東照宮まで観光に行く。

家を出たのも遅めだったり、人が多くて疲れたが、春也はたくさん写真を撮って楽しそうだったし、3人でたくさん笑顔だったと思う。


光莉がお参りの時に「春也さんが栃木に住んでくれますように」と言うと、春也は慌てて「えぇ?」と聞き返す。その顔が面白くて、私も「春也が帰りませんように」とお参りしておいた。


帰りの電車で「光莉さん。気を使わせてゴメンね」と謝る春也に、「いえ、お姉ちゃんが悪いんです」と返す光莉。


「ううん。あれから考えてるけど、朱莉さんは間違ってないよ。多分命を軽んじた俺が許せないんだと思う。今度会えたら謝るよ」

「えぇ?いいですよ別に。お姉ちゃんは周りからチヤホヤされて、勘違いしてるんです」


春也が「間に挟まれて嫌な思いしたよね。ごめんね」と光莉に謝るので、ここで私が「春也。そこはさ、ありがとうじゃない?なんで謝るかな?」と口を挟むと、ハッとした顔で、「確かに。ありがとう光莉さん」と春也が言い、光莉は「私こそありがとうございます。春也さんのお陰でお母さんも治療と青色申告に集中できましたし、お父さんも普段より休めていて、家の中が穏やかです。私も家での役割が見つかりました」とお礼を返す。


家での役割か…。

きっとそれがわからなかったから、光莉は色々辛かったのだろう。

山田くんはだからこそ夜に会えていたんだろうけど、もうそれもないなと私は思った。


思ったからか駅で山田くんに会った。

山田くんは電気屋さんの大きな袋を持っていて、「あ!お前また!?」と春也を見て、光莉からは「何その袋」と言われている。


「この前の話の通り、大学の入学祝いでカメラを買ってもらったんだ」と言う山田くんを見て、光莉は電車の中で迷惑な乗客を見かけた時のような顔で、「うわ」と返し、春也は「へぇ、頑張れよな」と言っていた。

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