第27話 助かった後。

意識を取り戻し、十分な休息を取り、落ち着いてから何があったか話を聞かれ、色々教えてもらった。

俺みたいな人間に説明していいのかわからなかったが、受け答えにはなっていたのだろう。

俺はとっくの昔に心を病んでいて、働いた時間も過労死ラインを超えていて、労災が認められた。


話を聞かれた時、「死んで…、責任を取る、と…。教わ…り…。ました」と言っていたらしい。


勿論上司は否定したが、ゴールデンウィーク直前の飲み会で、何人もが上司の言葉を聞いていて、更に誰かが撮ったムービーにその音声が紛れていて、社内でそれは「まだそんな前時代的な事を言ってる奴がいる」とネタになって、拡散されていて申し開きのしようもなかった事。


医師達から、優しくおかしいと思わなかったのかと聞かれた時、「思い…ました…。だか…ら……中学の…時の古い友達……。高松…香川……相談……、当た…り前……死んで…詫びろ…と…、社会……人…当たり…前だと…」と答えていて、母さんは2人の直接の連絡先を知らずに、2人の親に確認を取ると、高松と香川は俺の事を知らずに、笑いながら質問をした自身の親に向かって、「言った言った!すごい顔してた!」、「思い詰めるくらい働いてバカだなって思った!」と答える声が電話先から聞こえてきて、母は怒りを覚えて「あなた達の言葉に従って、春也は命を投げ出した」と言って電話を切って以後は着信拒否していた。


医者の判断で、間違っていた事を教えてあげた方が俺の為になるとの事で、これも母さんが「春也、高松くんと香川くんは遊び半分で言っていただけ。あの2人の言葉は嘘なのよ」と教えてくれた。



俺の話を聞いた朱莉さんは、「…それで終わり?それでこの街に来たの?」と聞いてくる。


「いえ、その後も大変だったらしいです。父さんが窓口になってくれたそうですが、上司は責任を取りたくない事と、俺に丸投げして仕事の進捗が全くわかっていない事で、俺が身投げして意識を取り戻してから3日も経たずに、「卯月はいつ出社できる?」と聞いてきたそうです。カメラマンも最初は俺が社員である事を理由に勝手にやった事だと言ったそうですが、スマホにメッセージの証拠は残っていましたから、結局はサボりすぎていて契約を外されたと聞きました。フリーランスなのに上司のおべんちゃらに載せられて、全部俺任せとか驚きました。あ、責任問題の方は副編集長が異動になったそうです」


俺の説明に食い入るように、朱莉さんは「そうじゃない。卯月さんの事を教えてよ」と聞いてくる。その目はとても真剣で、俺は見られているだけで緊張してしまう。


「俺ですか?労災と休職が認められて、性格なのか体質なのか、病院より外にいる方のが調子が良くて、家の周りを散歩してました。そうしたら昨年末に父が単身赴任先で大怪我をして、母が付き添う事になって、俺は母の双子の姉である蒼子おばさんの所でお世話になる事になりました」


「今は平気なの?」

「はい。なんでか朱莉さんと会って、風邪を引いた後からは、蒼子おばさんの話ではそれまでは前後不覚でした」


俺はそのまま「不思議なんですよ。朱莉さんの事は写真に撮れていたんですよね。それまでどれだけカメラを構えても、人の写真は撮れませんでした」と言って微笑むと、そこに光莉さんのお父さんが帰ってきて「すまない!…って、もしかして?」と聞いてくる。


俺が「はい。終わってます」と答えると、光莉さんのお父さんは「朱莉、本当か?」と確認をする。


朱莉さんは「本当」と答えてから、「疲れたから戻るね」と光莉さんのお父さんに言った後で、俺に「卯月さん。勉強になりました。仕事ぶりは本当に尊敬します。話もありがとうございました」と言った後で、小さく「でも私はあなたを認めません」と怖い顔で言って去っていってしまった。

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