第24話 感動する仕事内容。
卯月春也さんの仕事を見て感動した。
彼が帰った後で文字校正が終わったデータの手直しをすると、間違いなんてほぼなくて原稿のミスを見つけて直してあげている余裕まで残されていた。
色々な事を教わりたくて、お父さんに明日出来るだけ仕事スペースに居たいと言った。
勿論もう3月が近いから認められないと言われたが、私は来年の為を強調してなんとか許された。
この段階で妹の光莉は不満タラタラで機嫌は悪い。
それでもお昼ご飯を作り、夕飯は後片付けを手伝ってくれた。
卯月さんのおかげなのは一目瞭然で感謝しかない。
卯月さんはどうか知らないが、光莉が見せる6つの年の差を気にしない本気ぶりが嬉しかった。
今も甲斐甲斐しく水仕事を行う光莉。
光莉に嫌われて何年だろう。
嫌われて仕方のない事をしている姉の自覚はある。
毎日私の部屋でワンワン泣いてくれて、一緒に眠った妹は共に眠らなくなって泣かなくなった。
その頃から逆転するように私が長髪になって、光莉が短髪になった。
明日も卯月さんがくる事、自分が学校に行く事、日中私が付き添う事の、全てが気に食わない光莉は不機嫌で、私が「早く帰ってくればいいんだよ。おかしくなるってどういう時か教えてくれたら、それを気にするからさ」と言うと、「お姉ちゃんには関係ない…」と言った後で、「没頭し過ぎると周りが見えなくなって、ご飯も味わって食べなくなって、黙々と食べて仕事に戻るって聞いてる」と教えてくれた。
機嫌が本当に悪い時は「姉さん」になるので、今はまだマシみたいだ。
「わかった。気をつけてみるね。教えてくれてありがとう」
「いいよ。それよりお姉ちゃんも気をつけなよ」
驚いた。
言い訳以外で心配された。
私はつい嬉しくて、微笑みながら「うん。気をつけるね」と言うと、光莉は「っ!?」と言って、昔見せた泣きそうな顔でお風呂に行ってしまった。
翌朝きた卯月さんに、1日手伝わせてくれと言うと、困り笑顔で「お目付け役ですか?すみません」と謝ってから、「でもマシンは一台しかないし…」と言うと、「朱莉さん、飛び込みの名刺以外だと何があるんです?」と聞いてきた。
私はパソコンと原稿が置かれた場所を見ながら、「え?新年度に向けた挨拶状とか、後は伝票に、幼稚園で使う年間予定表とかが一緒になった冊子。入園式で配る奴」と説明をすると、卯月さんは「それ、いつやるつもりだったんです?」と聞いてくる。
私が「元々は明日卯月さんに頼むつもりだったけど、名刺があるから今晩お父さんで、明日は私かな」と答えると、卯月さんは「それなら」と言って、鞄からノートパソコンを取り出した。
卯月さんが「名刺はこっちでやります。朱莉さんはどうぞそっちでやってください。名刺が終わったらそっちに行きます」と言うまさかの展開に、「えぇ?環境とかは?」と聞く私に、卯月さんは慣れた顔で「元々レンタルの仕事ですし、書体が無ければ「入力のみ済、書体無し、確認してません」で投げ返します」と言いながら、届いたメールを自分のパソコンに転送してしまう。
届いた名刺データを見ていると、ウチのマシンには書体無しで、卯月さんのマシンには書体ありで「丁度良い」と卯月さんは嬉しそうにしていた。
ほぼ無言の仕事時間。
カタカタというキーボードの音とカチカチというマウスの音ばかりが聞こえてくる中、卯月さんは「くそー、テンプレートが汚いし役立たない。渡す事とか考えてないか」と小さく漏らすと、気付かない間にテンプレートから組み直してしまい、「朱莉さん、お時間あります?こっちのソフトで流し込み用のレイアウトを組みましたよ。原理は昨日と同じです」と言って私を誘う。
画面を見てみると名刺データが20個連続して1ファイルになっていて、「これ、元々は一枚ずつで名前をつけろって言われてた」と聞くと、「はい。それは最後にオートでやらせます。まあファイル容量が増えるのであんまりな手段ですけど効率的です」と言ってテキストデータを流し込むと、「別名保存。ファイル形式を変えて一枚ずつで吐き出させます」と言って書き出させると、今度は一つずつ開いて「元のファイル形式に戻してファイル名を指定のあった部署と名前にする。元の形式で個別書き出しもあるんですけど、プレビューもおかしくなるし、なんか信用していないんです」と言って、あっという間に20人を片付けてしまう。
「後はこれを9回やれば終わりです」と言って微笑む卯月さんは、雲の上の人みたいだった。
思わず「そんなにヤレるのはどうして?」と聞くと、困り顔の卯月さんは「やるしかなくて」と答える。
「午後…、少し話をさせてくれないかな?」
「いいですよ」
その会話の後は会話らしい会話もなく、卯月さんはひたすら名刺を作り続けて、午後2時にひと通り用意ができて夕方お父さんに引き継げば終わりになった。
「朱莉さんの方はどうですか?」
「うん。一通り形になった。でも今度卯月さんのチェックを受けた方が、このデータ達も活かされるかも」
「持ち上げすぎです」と言って笑う卯月さんにお茶を用意してから、「少し話そうよ」と誘った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます