冬原プリントを手伝う春也。
第22話 冬原プリントの仕事。
冬原プリントの仕事を手伝う数日間が始まった。蒼子おばさんはお弁当を作ってくれて、「残していいからね」と言って渡してくれる。
俺が「ありがとうございます。頑張って食べます」と言うと、笑梨が後ろから「春也は頑張りすぎなんだから、頑張らないくらいがちょうどいいの」と言ってくる。
その顔は不貞腐れていて、自分の食べ過ぎが原因で何も言えない顔をしている。
まあそれは言い過ぎで、実際にはまた働きたい気持ちと、先生として生徒の光莉さんが困ることが嫌なだけだった。
「わかってる。とりあえず16時30分に迎えに来てくれよな」
俺は荷物を持って冬原プリントを目指すと、道の途中に光莉さんがいて、「おはようございます!春也さん!」と声をかけてきて俺の横にくる。
「迎えにきてくれたの?迷わないよ?」
「わからないじゃないですか!私がいる間はお迎えしますから、この道から来てくださいね」
俺は歩きながら「やること溜まってた?」と聞くと、「お父さんは「助かるな」、「でも悪いな」って言っていたから、沢山なんじゃないですか?」と光莉さんが返す。
俺は聞きながら怖い反面、楽しくなってきてしまう。
どんな仕事が待っているのだろうと気になっていると、光莉さんが「お昼ご飯、私が作りますね!」とニコニコ顔で言ってくれるが、俺は蒼子おばさんのお弁当があるので、「え?あ…ごめん。お弁当持ってきたんだ。社員さんが居たら、そうやってお昼を皆で食べないよね?その感覚なんだよ」と言って謝る。
「ええぇぇぇ!?お礼もできないのに?ご飯も出せないんですか?それに春也さんは社員さんじゃなくて家族同然です!お茶碗とお箸も買いますから!」
「それは悪いよ2週間で半分くらいしか働かないんだよ?」
つまらなそうに唇を尖らせて、「…もっと居て欲しいです」と言う光莉さんに、俺が「ありがとう。でも俺は冬の終わりと一緒に帰るからさ」と言うと、光莉さんは「この前は仕事があればって言ったのに」と言って拗ねる。
「冬原プリントの規模だと俺の場所はないよ」と言うと、「もうすぐ出来ますよ」と言われたが、意味はあんまり考えたくなかった。
仕事場には朱莉さんと光莉さんのお母さんが居て、「わざわざすみません」と挨拶をすると、「お願いしたい仕事の説明が私で、作業の説明が朱莉です」と言われる。
聞くと今日は名刺の仕事をメインで片付けて欲しくて、気晴らしに封筒と伝票の仕事をして欲しいとのことだった。
「件数は多いから無理しないでいいから。フォルダはそこ、前年のデータは日付が付いてそこ」
「ありがとうございます。朱莉さんも作業をされるんですか?」
俺はPCが一台しかないので気になって聞くと、朱莉さんは「いや、説明したら上に行くよ。困ったら呼んで。連絡係は光莉がやるってさ」と言って、光莉さんのお母さんと生活スペースに行った。
名刺はテンプレートデータがすでに用意されていて、文字データが届いていた。
見た感じそんなに問題ない。問題があるとしたら多人数用を意識していない点。元データを状況に併せて継ぎ足ししたせいで、ぐちゃぐちゃになっている点。
とりあえず原稿と去年のデータ達を見直してから作業の流れを決める。
「氏名…、ルビ付…、メアドパターンと無しパターン。役職はフルで四行…」と言っていると、光莉さんから「春也さん?大丈夫?」と声をかけられた。
やはり働くことになって光莉さんも責任を感じているんだと思う。
俺は気にしないでもらいたくて、「うん。平気だよ。困ったら声をかけるから、のんびりしててね」と言って画面に向かう。
「本当?無理してないですか?」
「うん。楽しいから平気」
俺はそのまま作業に戻り、画面と睨めっこしてテンプレートをゼロから作り直すことにする。
またファイル名には「卯」を付ける。
そしてざっと整理したテンプレートに、テキストデータを流して終わらせると、プリントアウト。
「光莉さん、終わったよ。文字校正はお母さんかな?朱莉さんかな?呼んで来てくれる?」
「え?お昼前ですよ?終わったの?」
「うん。呼んで来てくれる?」
光莉さんは「1人目かな?お父さんなら終わってない」とブツブツ言いながら生活スペースに行って朱莉さんを連れてくる。
朱莉さんは訝しげに現れると、「終わったって何が?」と質問をしてくる。
「入力です。セルフチェックもしましたけど、文字校正してくれません?」
「は?終わり?だって100人…」
俺が画面を見ながら「はい。108人ですね。テンプレートから作り直しましたから、効率的に処理しました」と言うと、朱莉さんは目を丸くして画面を覗き込んでくる。
「テンプレートの説明は後からしますよ」と言って先にプリントアウトを済ませた紙を渡すと、朱莉さんは「ごめん光莉、走れないからお母さんの所にお願い」と言ってプリントアウトした紙をそのまま光莉さんに渡す。
光莉さんが何か言いそうだったので、俺も「ごめんね」と言うと、光莉さんは「ううん」と言って紙を持っていく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます