第19話 会食。
春也を守ろうとして私は光莉を怒鳴った。
後から友達を怒鳴った行為が怖くなったけど、間違っていないと思った。
春也は仕事で印刷業に関わった。
そして心身を壊してしまった。
だから光莉の家が印刷屋さんだと知っていたら近づけさせなかった。
それなのに春也は泣いた光莉の為に、前に一歩出て光莉を助けた。
その姿はいとこなのに格好よかった。
見惚れてしまった。
光莉の話を聞いたら春也はスーパーマンだと言う。光莉のお父さんなら夕方までかかる仕事を昼前に終わらせていた。
そして帰ってきた光莉のお父さん達の中にいたお姉さんの朱莉さん。
朱莉さんを見た時の光莉の顔を見てわかった。
エンジョイ公園で、壊れた春也が何故か撮った人物の写真はお姉さんの写真で、会わせたくなかった事もわかった。
光莉が怖い顔をした理由は、光莉のお母さんと話した時に知ることができた。
朱莉さんは病弱で検査入院をしたりすると、家族の人達は皆朱莉さん優先で行動をする。
光莉にもそれを求める。
でも朱莉さんは見ても話しても悪い人ではない。
それが光莉を困らせて拗らせたのだと私は思った。
今、何故か私と春也、光莉と光莉のお父さんの4人で近所の小料理屋さんにきている。
それは春也が御礼を断ったからで、春也がしてくれた事はそこまでだったらしい。
御礼をしないと気が済まないと言う光莉のお父さんと、断る春也の中間点でご飯屋さんになった。
春也は来た頃に比べたら食べられるようになったが、まだ食が細い。
見極め役とブレーキ役になるか怪しいが、私と光莉が同席する事になった。
光莉のお父さんはドラマで見るようなtheおじさんで、お店に入ると「太志さん、らっしゃい」と声をかけられる。
するとドヤ顔で「おう!」と返事をして座敷に行く姿は本当にtheおじさんで、着物姿の女の人から「娘さんを連れてくるなんて初めてじゃない」なんて言われて、満更ではない顔をしている。
そして案の定ダメだと言っているのに、春也にビールを勧めてくる。
私と光莉はジト目で睨んでしまう。
「え?本当に飲めないんですか?おいくつですか?」
「今は24で6月に25です」
なんとか共通点の欲しい光莉のお父さんは、「おお、朱莉の三つ上ですか」と言い、光莉が険しい顔をする。
春也は申し訳なさそうに「後、飲めないのはドクターストップです」と言うと、光莉のお父さんは「あ…、朝の訳ありですね」と言った。
春也は申し訳なさそうな顔のまま、私を見た後で光莉を見て、「2人は知ってくれてますから簡単にですが、俺は出版社に就職しました。そこで印刷業にも関わって心身を壊して休職に追い込まれるまで働きました。こっちに来てマシになりましたが、それまでは前後不覚に近い感じでした。またアレになると困るので飲めません」と言うと、「…それはすまない事をしました」と光莉のお父さんは謝ると食事が始まる。
「後は食事も昔ほど食べられないので、悪く思わないでください」
「本当にすまない事を…」
そんな会話をしながらつつがなく進む食事。
春也は「笑梨、手伝って」と言いながら焼き鳥や揚げ物やお刺身を食べる。
光莉は「美味しい」と言った後でお父さんの方を見て「お父さん、いつもこんなに美味しいの食べてるの?だから太るんだよ」と言っていた。
お酒の入って声が大きくなってきた光莉のお父さんは、光莉を見て「お前も大人になったな」と言うと、「これまでは何かに理由をつけて出歩くし、何がしたいかよくわからなかったが、本当に今日は助かった」と言った。
嫌そうな顔の光莉が強張った時、春也が「それは仕方ないですよ。何がしたいかわからなかったのは、考える時間をあげなかったからです」と言った。
「卯月さん?」
「光莉さんは本当に基本に忠実で、キチンと教えた事を学べる人です。でもいくら優秀でも、考える時間がないとダメです。失礼ですが、普段はあまり話をせずに、決まった事を急に伝えませんか?何かをしたいと聞く時も、今度聞くからそれまでに考えるように言ってあげましたか?」
光莉のお父さんはその言葉を聞いて、光莉を見ると「そうなのか?」と聞く。
光莉はずっと俯いていて、春也が「光莉さん、落ち着いて話してごらん。今ならお父さんは話を聞いてくれるよ。ゆっくりでいいから自分の言葉で話すんだ」と声をかけると、光莉は真っ赤な顔で「そうだよ」と小さく言った。
「姉さんが病気なのは仕方ないけど、私に話すときは全部決まっていて、それなのに急に「何がしたいんだ?」なんて言って、答えられなかったらクレジットカードを渡してきて、「これでいいだろ?」なんて言われたら何も言えなくなるよ」
光莉は言いながら最後には泣いていた。
学校でも泣かない光莉の涙。
困った光莉のお父さんは、光莉を抱き寄せて「わかってなかった。すまねえ」と謝る。
お父さんが生きていたらこうしてくれたかな?
それとも私とお父さんは喧嘩なんかしなかったかな?
光莉が落ち着くと、光莉のお父さんは春也を見て「はぁ」とため息をついて首を横に振る。
「お父さん?」
「あ?いや…な。母さんの抜糸まで、何日かに一度でいいから卯月さんに助っ人を頼めないかと思ったんだが、話を聞けば聞くほど頼めない。でも光莉をキチンと見てくださって、評価してくれる人なんてますますお願いしたくなる」
この話に、私はとんでもない事を言い出したぞと青くなるが、そこは光莉が「お父さん、ダメだよ。姉さんにやってもらいなよ」と言ってくれたが、「朱莉はもう3月になるから任せられないだろ?」と言う。
光莉も止めてくれた。
それが嬉しかった私だったが、次の瞬間耳を疑った。
困ったことになったと呟きながらも、「条件さえ飲んでもらえれば、僅かばかりのお手伝いをしますよ」と言う春也。
何を言い出したのかと睨む私に、「笑梨が食べすぎた分なら」と言う。
え?食べ過ぎたの?
うん。豚串さん美味しかったよ。あの締めの鶏飯も美味しかった。
食べ過ぎたの?
でも「さあ食べなさい」って言ってもらってたよ?
何も言えない私を見て笑った春也は、「毎日は来ません。スケジュールに合わせて、溜まったところで片付けます。残業はしません。4時半に笑梨が迎えに来るまでです。仕事が片付かない日は次の日も来ます。朝は10時頃でしょうか、その頃までに伺います。お金は受け取れませんし笑梨が沢山食べたので、その分だけ働きます」と言った。
春也の言葉に光莉が「いいの?春也さん」と聞き、春也は「うん。気晴らしにはなるしね」と答える。
このやり取りに救いを見た光莉のお父さんは、「本当かい?いいのかい?」と縋るように聞き、春也が「ええ、よろしくお願いします」と言う。
私は心配の余り「春也…」と言うと、春也は「帰りは笑梨がお迎えに来てくれるだろ?俺は没頭しちゃうと時間を忘れるタイプだからさ」と言うので、「勿論だよ!」と答えると解散になった。
家ではお母さんは「やっぱり」と言って少し嬉しそうに笑っていた。
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