第17話 再会。

見ていると嫌な気分になるがやるしかない。

PCを起動するとパスワードを求めてくるので、光莉さんのお父さんにパスワードを聞こうとして外に出た時、笑梨が「光莉!なんで!?許さない!春也にはやらせない!」と怒鳴り声をあげた。


涙を流して「ごめん笑梨。でも春也さんしか助けてくれる人が思いつかなかったの」と謝る光莉さん。


「お前さん」と声をかけてくる光莉さんの父親に、「訳アリですけど仕方ありません。とりあえずパスワードを教えてください」と言ってパスワードを聞き出すと「akari-hikari」だった。


俺が室内に戻ると、怖い顔をした笑梨が光莉さんを睨みつけている。

切れ長の目は怒るととても怖い。


「笑梨、紅一おじさんの言葉を忘れちゃダメだぞ。いつでも笑っていろ」

「春也…。でも辛いよね?」


恐らく笑梨は殆どの事を知っている、なら説明は不要だろう。俺は「なら笑梨に仕事だ。多分昼は過ぎるから昼飯の買い出し。好きなものを買ってきていいぞ。後は1時間に一度とか、俺を見ておかしかったら止めてくれ」と声をかけて財布を渡す。


「…おかしかったら?」

「ああ…自分じゃわからないからな」


笑梨が「…うん」と納得したので、俺は光莉さんに「電話番はよろしく。わかんない事とかあったら聞くからよろしくね」と声をかけて作業を開始した。



慣れた世界。

目の前に広がる写真データと白いページ。

修正指示に従って写真を直すとあっという間に終わる。


マスターページから行事ごとに呼んで、指示された写真をはめ込むが作りが甘い。後で作る事、作り直す事、そこら辺の意識が甘い。少し手直しをしてファイル名の後ろに卯月の「卯」を追加する。


子供達の写真を入れて位置を整えて、名前も難しい字を使っている子は個別で調整する。


プリンターは複合機があったので、全ページを出して照らし合わせると、光莉さんのお父さんかお母さんか知らないが結構間違いが多い。仕方ないので付箋を付けて直してしまう。


時計を見ると11時30分。

悪くないテンポで作業ができた。


「あー、楽しかった」と言って伸びをしながら横を見ると、ジト目をした笑梨が居た。


「笑梨?どうした?」

「どうしたじゃないよ。ただいまって言っても反応しないし、顔を近付けても無反応だしさ。お昼は光莉と作ってる所。春也は終わったの?」


「うん。一通りね。後は光莉さんに頼んでコレを送ってもらって確認してもらったらあそこの印刷機から3部作って終わりだよ」

「じゃあ光莉を呼んでくる」

立ち去ろうとする笑梨に「笑梨」と声をかけると、笑梨は「なに?」と言って振り返る。


「怒ってくれてありがとう。俺の事を知っていたんだな。それでも普通にしてくれてありがとう。あの日俺は1人だったし、味方もいなかったけど、今日は笑梨がいてくれて怒ってくれた。嬉しかった。ありがとう」


笑梨は顔を赤くして「春也は家族だもん。当たり前だよ」と言ってから、光莉さんを呼びにいく。

その背中に「今日のことで、これ以上光莉さんを怒っちゃダメだぞ」と言うと、「わかってる。春也が普通なら怒らないよ」と返ってきた。


部屋に入ってきた光莉さんは「終わった?お父さんは終わらないのに?」と言うが、やった資料の山を見せると「終わってる…」と言って、俺の指示に合わせて写真を撮って説明を付けて父親の所に送る。

すぐに電話がかかってきて、「すまねえ!本当に助かった。卯月さん。ありがとう!病院が長引いていてまだ戻れねえんだ」と言うので、「別にいいですよ。3部出しておきますから、焦らないで帰ってきてください」と言って電話を切る。

光莉さんは俺を見ていて「どうかした?」と聞くと、「春也さんって卯月さんなんだ。秋田さんだと思ってた」と言った。


「あれ?病院に行った時は卯月で呼ばれてたよ?それよりも光莉さんは冬原さんなんだね。冬原さんで呼ぶ?」

「嫌。私と春也さんは「光莉」と「春也」です」

「敬称は付けようね」

「…はい」


お昼ご飯はカレーだった。

理由は簡単で、光莉さんのお母さんが怪我をしたので夕飯もカレーにしてしまうらしい。


俺と言えばまだ少し壊れていたのだろう。

かつてを思い出して食事をかき込んで仕事に戻ろうとしたら、笑梨から超特大のカミナリを落とされて1時間半も休まされてしまう。


まあ実際は他に仕事がなければ、出力をして出来を見て持って行く用意をすれば終わるので休んでも問題ないし、出力中ものんびり出来るのだが笑梨には通じずに大人しくしてしまった。


光莉さんの父親は3時前に戻ってきた。

焦る必要はないと言ったのだが、汗をかきながら戻ってくると、「すまない助かったよ卯月さん!」と言う。

光莉さんの父親の後ろには腕を包帯で巻かれた母親と、髪の長い女の人が居た。


その時俺は二つのことに気付いた。

朝泣いた光莉さんは父親に「姉さん」と言っていた。ひとりっ子ではなく姉がいるのだろう。

これまでの会話から存在は感じなかった。


そしてその髪の長い女を俺は知っている。

前に風邪を引いた日、エンジョイ公園で出会った人だった。


何も知らない光莉さんの父親は、「こっちが女房で、こっちが上の娘の朱莉あかりです。ご挨拶をしろ」と言うと、光莉さんの母親は「光莉の母です。この度はご迷惑をおかけしました」と頭を下げてきて、光莉さんの姉…朱莉さんは俺を見ると驚いた顔の後で、「えっと…、はじめまして?かな。冬原朱莉です。私の事、覚えてます?同業者だったんだね」と言った。


俺と朱莉さんが顔見知りだった事に笑梨や光莉さんの両親は驚いていたが、光莉さんは忌々しそうな顔で小さく舌打ちをしていた。

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