困ったことになった春也。

第11話 生徒。

困った事になった。

笑梨が自由登校になった日、朝は笑梨を連れて散歩に行き、ファミレスのモーニングをご馳走すると、「わぁ!春也大好き!ありがとう!」と飛びつかれて照れる。


照れると、笑梨から「この前までは平気だったのになんで?どうしたの?」と聞かれてしまい、笑梨に病気の話はしにくいので、「寝不足が解消されたら、笑梨が年頃なのを思い出したんだよ」と説明をする。


笑梨なのにデカくて柔らかい事に気付くと俺は慌てた。

この前まで平気って、確かに思い出してみると沢山抱きつかれていた気がする。


まあ紅一おじさんが亡くなって男親がいないから、笑梨も飛び付ける相手がいなくて寂しかったんだろう。


最近なのか、前からなのか、笑梨はスキンシップが増えてきた気がする。


「撮りたいのが見つかるまで」と言われて手を繋ぐ。

そして猫や花を見て写真を撮ると、「手」と言われてまた手を繋ぐ。


なんか不思議な感じで家路について昼を過ぎると、今度は光莉さんがやって来た。


「光莉?」

「や!笑梨」


笑梨の所に遊びに来たと思ったが全く違っていて、買ったカメラを肩から下げていて、「春也さん!先生になってください!」と言われてしまう。


俺と笑梨が「はぁぁぁ?」、「えぇ?光莉?」と聞き返すと、「説明書とか見たけど、意味わかりません!1人じゃ無理です!よろしくお願いします!」と熱心に頼まれてしまい困惑する。


困っていると、蒼子おばさんが玄関まで来て、「んー…、春也くんがダメと言った日はダメで、お昼ご飯の後…2時から夕方頃までかしら?」と言った後で、「お願いしていい?」と言われてしまうと、お世話になっている俺は「…わかりました」と言うしかなかった。


光莉さんにはヤル気はあった。

オート設定のある本体にしておいたので、「最初はオートで撮りたい物を撮ってみて」と指示を出すと、最初はそのまま撮るが「春也さんみたいに撮れません」と言いにきて設定の話になる。

最初はレンズやセンサーサイズの問題、機体本来の色味の話も出して、全く同じにならない事を受け入れさせる。


夕方とはいえ女の子の一人歩きに抵抗があったので、帰りは送りたかったが「逆にその帰りに迷子になると困りますから平気です!まだ人の多い時間です!帰ったらキチンと笑梨に連絡します!」と言ってウチの前で解散になる。


そうすると、今度は笑梨が「むぅ」と言ってから、「春也、散歩」と言って玄関に入ったのに、俺と外に出ると「手!」と言って手を繋いでコンビニを目指す。


毎日散歩していた俺が言うのもなんだが、なんで雪が降ったり積もったりする冬に、毎日外に出てるんだよ…。


3日経ってヘトヘトの俺を見て、「ごめんなさいね」と蒼子おばさんは謝ってくれながら、「笑梨はお兄ちゃんを取られてヤキモチで、光莉ちゃんは春也くんの写真に何かを得たのね。大変だけどこれからも頼んでいいかしら?」と言った。


「俺、24なんですけど、高校三年生と外出なんて…」

「ふふふ。良いじゃない。今の春也くんは活き活きしてるわ」


そう、確かに程よい疲れと充実感はあった。

これが6つも年下の子相手でなければ良かったのにと思ってしまった。


2週間が過ぎた頃、光莉さんが「くそー、カード残量が無い」と漏らす。


「え?家にパソコンとか無いの?」

「高校生になった時に学校で渡された奴ならあります」

「そこに入れて折角ならレタッチとか覚えたほうがいいよ」


俺は無意識に話して後悔した。

「すぐ戻ります!春也さんは一度帰ってください!」と言って、遠ざかる光莉さんをみて「やっちまった」と思っていると、案の定、40分して「パソコン持ってきました!教えてください!」と言って光莉さんが現れた。


俺は困って蒼子おばさんに「リビング、いいですか?」と聞いてから、光莉さんを秋田家にあげる。


無料で配布されている画像加工のソフトウェアを入れさせて説明すると、思いの外だが様になっている。


「今の学校ってそんな事まで教えてくれるの?」

「親が扱うんで、少しだけ馴染みがあるんです」


なら親に聞けばいいのにと思うと、笑梨がそのまま言葉を口にする。

「だったら春也じゃなくて家で聞けばいいのに」

光莉さんは食い気味に「無理、やだ」と言うと、「春也さんの教え方はとても上手いし、優しいし、ウチでだとバカだのなんだの言われて叩かれちゃうもん」と言うと、「春也さん、青みを抜いて赤くしてみますね!見ててください」と言って操作をしてみる。


この日から写真の撮り方の他に、画像加工まで教える羽目になってしまった。


更に1週間。

問題にぶつかる。


猫や花、物撮りはやれたが、人物は教えられない。

教えたくない。


だがそれを断るには、自分に何があったかをこの前以上に説明するしかない。

暗い話をしていい事は無い。笑梨に聞かれるのも憚れる。

意を決して簡単に教えようと思ったが、俺が教える時は光莉さんを被写体にすればまだなんとかなる。だが、光莉さんに教える時に俺を被写体にはしたくないしできない。


仕方ない。

光莉さんにも頼んでコンビニに行くと、コレでもかとスイーツを買い込み、「笑梨、頼む」、「笑梨!お願い!」と笑梨に被写体を頼む。


「えぇぇぇぇっ!?」と言って困惑する笑梨に、「人物撮影の勉強には人が必要なんだ」、「お願い!」と2人で頼み込むと、笑梨は真っ赤になって「あうあう」言っているが、手はスイーツに伸びていき、慌てて引っ込める。


少しすると「春也も撮るの?」と聞いてきたので、俺は「見本を見せる為に撮るぞ」と答える。


「可愛く撮ってくれる?」

「笑梨は可愛いから、カメラ任せでも可愛いが、もっと可愛く撮れるように頑張ろう」


笑梨は「こっちに来た頃に撮ってって言っても撮ってくれなかったのに」と言いながらも、「春也が撮ってくれるなら」と言って了承してくれた。


来た頃に頼まれた記憶がない。

俺は本当に睡眠不足はダメなんだなと痛感した。


人物撮影は動物に近いけど難しい。

だけど笑梨らしさは表現出来た気がする。

笑梨は「わぁ」と喜んでくれた。


なぜかそれを見て「春也さん!私も撮ってください!」と光莉さんに言われて撮ると、光莉さんらしい笑顔の可愛らしい写真が撮れた。


その写真を見ていると、少しだけ自信が戻ってきた気がした。



正直毎日2時間から教えると、教える事なんてあっという間に無くなってくる。

今は笑梨の写真のレタッチを教えていて、笑梨はパソコンの中に写る自分を真剣に見る光莉さんを見て、「うぅ…恥ずかしい」なんて言いながら横にいる。


「もう教えることもなくなってきたかな」と言うと、光莉さんは「えぇ!?」と言った後で、「最後にお願い聞いてください!」と言ったのは、足利のイルミネーションがもう終わるから行きたいことと、最後に夜の撮影を教えて欲しいと言うことだった。


まあイルミネーションももう終わるし、来年の冬に俺はここに居ない。

天気予報も晴れで問題はない。


俺が蒼子おばさんを見ると、蒼子おばさんは頷いてくれたので、「笑梨も来るだろ?流石に光莉さんと2人は職質怖いからよろしくな」と言ってから、光莉さんに「そうだね。最後にはちょうど良いよね。俺は春になったら東京に帰るから、最後に撮りに行こう」と言う。


笑梨も光莉さんも「帰る…」、「帰っちゃう」と言ってからイルミネーションに行く事には了承をしてきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る